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弁護士法人四谷麹町法律事務所のブログ

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契約期間が満了したのに契約が終了していないと言い張る。

2013-09-13 | 日記
契約期間が満了したのに契約が終了していないと言い張る。

(1) 労契法19条
 有期労働契約は,契約期間が満了すれば,契約は当然に終了するのが原則です。
 しかし,労契法19条の要件を満たす場合は,使用者は,従前の有期労働契約の内容である労働条件と同一の労働条件で有期労働契約者からの有期労働契約の更新の申込み又は有期労働契約の締結の申込み当該申込みを承諾したものとみなされるため,雇止めをしても労働契約を終了させることはできません。

(有期労働契約の更新等)
 19条 有期労働契約であって次の各号のいずれかに該当するものの契約期間が満了する日までの間に労働者が当該有期労働契約の更新の申込みをした場合又は当該契約期間の満了後遅滞なく有期労働契約の締結の申込みをした場合であって,使用者が当該申込みを拒絶することが,客観的に合理的な理由を欠き,社会通念上相当であると認められないときは,使用者は,従前の有期労働契約の内容である労働条件と同一の労働条件で当該申込みを承諾したものとみなす。
 一 当該有期労働契約が過去に反復して更新されたことがあるものであって,その契約期間の満了時に当該有期労働契約を更新しないことにより当該有期労働契約を終了させることが,期間の定めのない労働契約を締結している労働者に解雇の意思表示をすることにより当該期間の定めのない労働契約を終了させることと社会通念上同視できると認められること。
 二 当該労働者において当該有期労働契約の契約期間の満了時に当該有期労働契約が更新されるものと期待することについて合理的な理由があるものであると認められること。

(2) 労契法19条の趣旨
 労契法19条は,東芝柳町工場事件最高裁第一小法廷昭和49年7月22日判決,日立メディコ事件最高裁第一小法廷昭和61年12月4日判決等の最高裁判決で確立している雇止め法理を制定法化して明確化を図り,認識可能性の高いルールとすることにより,紛争を防止する趣旨の条文とされています。
 基発0810第2号平成24年8月10日「労働契約法の施行について」では,「法第19条は,次に掲げる最高裁判所判決で確立している雇止めに関する判例法理(いわゆる雇止め法理)の内容や適用範囲を変更することなく規定したものであること。」とされていますが,従来の雇止め法理では解雇権濫用法理の類推適用(濫用論)で処理されていたのに対し,本条は使用者の承諾みなしを規定したものであり,本条の構造は従来の雇止め法理とは異なっています。
 もっとも,雇止め法理を制定法化して明確化を図るという立法趣旨からすれば,本条の解釈にあたっては従来の雇止め法理が参考にされるものと考えられます。

(3) 更新に対する合理的期待の判断時期が「当該有期労働契約の契約期間の満了時」とされたことの意味
 本条2号では,更新に対する合理的期待の判断時期が「当該有期労働契約の契約期間の満了時」であると規定されているが,これは従来の雇止め法理では明示されていなかったものです。
 基発0810第2号平成24年8月10日「労働契約法の施行について」では,「なお,法第19条第2号の『満了時に』は,雇止めに関する裁判例における判断と同様,『満了時』における合理的期待の有無は,最初の有期労働契約の締結時から雇止めされた有期労働契約の満了時までの間におけるあらゆる事情が総合的に勘案されることを明らかにするために規定したものであること。したがって,いったん,労働者が雇用継続への合理的な期待を抱いていたにもかかわらず,当該有期労働契約の契約期間の満了前に使用者が更新年数や更新回数の上限などを一方的に宣言したとしても,そのことのみをもって直ちに同号の該当性が否定されることにはならないと解されるものであること。」とされています。

(4) 有期契約労働者による有期労働契約の更新または締結の申込み
 従来の雇止め法理では,解雇権濫用法理の類推適用(濫用論)で処理されていたこともあり,有期契約労働者による有期労働契約の更新または締結の申込みは要件とはされていませんでした。
 これに対し,本条は有期労働契約の申込みに対する使用者の承諾を擬制することにより有期労働契約の更新または成立を認めるもののため,有期労働契約者による有期労働契約の更新または締結の申込みが新たに要件として規定されています。
 基発0810第2号平成24年8月10日「労働契約法の施行について」では,「法第19条の『更新の申込み』及び『締結の申込み』は,要式行為ではなく,使用者による雇止めの意思表示に対して,労働者による何らかの反対の意思表示が使用者に伝わるものでもよいこと。」「また,雇止めの効力について紛争となった場合における法第19条の『更新の申込み』又は『締結の申込み』をしたことの主張・立証については,労働者が雇止めに異議があることが,例えば,訴訟の提起,紛争調整機関への申立て,団体交渉等によって使用者に直接又は間接に伝えられたことを概括的に主張立証すればよいと解されるものであること。」とされています。

(5) 「当該契約期間の満了後遅滞なく」の意味
 有期労働契約者による有期労働契約の締結の申込みは,当該契約期間満了後遅滞なくなされる必要があります。
 この要件が加えられることにより,使用者が契約期間終了後長期間不安定な法的状態に置かれ続けることを防止することができ,法的安定性に資することになります。
 もっとも,「当該契約期間の満了後遅滞なく」という要件は,必ずしも法律に詳しいわけではない労働者側に要求される要件であることを考慮すれば,比較的緩やかに解釈されることが予想されます。
 基発0810第2号平成24年8月10日「労働契約法の施行について」においても,「法第19条の『遅滞なく』は,有期労働契約の契約期間の満了後であっても,正当な又は合理的な理由による申込みの遅滞は許容される意味であること。」とされています。

(6) 労契法19条の効果
 使用者は,従前の有期労働契約の労働条件と同一の労働条件(契約期間を含む。)で,労働者からの有期労働契約の更新または締結の申込みを承諾したものとみなされます。
 これは,有期労働契約の更新または締結の申込みに対する使用者の承諾を擬制することにより有期労働契約の更新または締結を認めるものであり,従来の雇止め法理が解雇権濫用法理の類推適用(濫用論)で処理していたのとは効果が異なります。
 また,本条では,契約期間についても,従前の有期労働契約の労働条件と同一であることが明確にされています。

(7) 有期労働契約の類型
 「有期労働契約の反復更新に関する調査研究会」(山川隆一座長)は38件にも及ぶ雇止めに関する裁判例を分析し,平成12年9月11日に「有期労働契約の反復更新に関する調査研究会報告」を発表しました。
 同報告では,有期労働契約の類型について,以下のような分析がなされています。

1 原則どおり契約期間の満了によって当然に契約関係が終了するタイプ
 [純粋有期契約タイプ]
 事案の特徴:・ 業務内容の臨時性が認められるものがあるほか,契約上の地位が臨時的なものが多い。
       ・ 契約当事者が有期契約であることを明確に認識しているものが多い。
       ・ 更新の手続が厳格に行われているものが多い。
       ・ 同様の地位にある労働者について過去に雇止めの例があるものが多い。
 雇止めの可否: 雇止めはその事実を確認的に通知するものに過ぎない。
2 契約関係の終了に制約を加えているタイプ
 1に該当しない事案については,期間の定めのない契約の解雇に関する法理の類推適用等により,雇止めの可否を判断している(ただし,解雇に関する法理の類推適用等の際の具体的な判断基準について,解雇の場合とは一定の差異があることは裁判所も容認)。
 本タイプは,当該契約関係の状況につき裁判所が判断している記述により次の3タイプに細分でき,それぞれに次のような傾向が概ね認められる。
(1) 期間の定めのない契約と実質的に異ならない状態に至っている契約であると認められたもの
 [実質無期契約タイプ]
 事案の特徴: 業務内容が恒常的,更新手続が形式的であるものが多い。雇用継続を期待させる使用者の言動がみられるもの,同様の地位にある労働者に雇止めの例がほとんどないものが多い。
 雇止めの可否: ほとんどの事案で雇止めは認められていない。
(2) 雇用継続への合理的な期待は認められる契約であるとされ,その理由として相当程度の反復更新の実態が挙げられているもの
 [期待保護(反復更新)タイプ]
 事案の特徴: 更新回数は多いが,業務内容が正社員と同一でないものも多く,同種の労働者に対する雇止めの例もある。
 雇止めの可否: 経済的事情による雇止めについて,正社員の整理解雇とは判断基準が異なるとの理由で,当該雇止めを認めた事案がかなりみられる。
(3) 雇用継続への合理的な期待が,当初の契約締結時等から生じていると認められる契約であるとされたもの
 [期待保護(継続特約)タイプ]
 事案の特徴: 更新回数は概して少なく,契約締結の経緯等が特殊な事案が多い。
 雇止めの可否: 当該契約に特殊な事情等の存在を理由として雇止めを認めない事案が多い。

(8) 有期労働契約の実態を検討する際の考慮要素
 「有期労働契約の反復更新に関する調査研究会報告」によれば,裁判例における判断の過程をみると,主に次の6項目に関して,当該契約関係の実態に評価を加えているものとされています。
  ① 業務の客観的内容
    従事する仕事の種類・内容・勤務の形態(業務内容の恒常性・臨時性,業務内容についての正社員との同一性の有無等)
  ② 契約上の地位の性格
    契約上の地位の基幹性・臨時性(例えば,嘱託,非常勤講師等は地位の臨時性が認められる。),労働条件についての正社員との同一性の有無等
  ③ 当事者の主観的態様
    継続雇用を期待させる当事者の言動・認識の有無・程度等(採用に際しての雇用契約の期間や,更新ないし継続雇用の見込み等についての雇主側からの説明等)
  ④ 更新の手続・実態
    契約更新の状況(反復更新の有無・回数,勤続年数等),契約更新時における手続の厳格性の程度(更新手続の有無・時期・方法,更新の可否の判断方法等)
  ⑤ 他の労働者の更新状況
    同様の地位にある他の労働者の雇止めの有無等
  ⑥ その他
    有期労働契約を締結した経緯,勤続年数・年齢等の上限の設定等

(9) 労契法19条が適用された場合と正社員の解雇の差異
 有期労働契約者の雇止めに解雇権濫用法理が類推適用された場合であっても,雇止めは正社員の解雇よりも緩やかな基準で認められており,雇止めに労契法19条が適用される場合についても,正社員の解雇よりも緩やかな基準で雇止めが認められるものと考えられます。
 例えば,日立メディコ事件最高裁第一小法廷昭和61年12月4日判決は,業績悪化を理由として人員削減目的の雇止めがなされた事案に関し,「右臨時員の雇用関係は比較的簡易な採用手続で締結された短期的有期契約を前提とするものである以上,雇止めの効力を判断すべき基準は,いわゆる終身雇用の期待の下に期間の定めのない労働契約を締結しているいわゆる本工を解雇する場合とはおのずから合理的な差異があるべきである。」とした上で,「独立採算制がとられているYのP工場において,事業上やむを得ない理由により人員削減をする必要があり,その余剰人員を他の事業部門へ配置転換する余地もなく,臨時員全員の雇止めが必要であると判断される場合には,これに先立ち,期間の定めなく雇用されている従業員につき希望退職者募集の方法による人員削減を図らなかつたとしても,それをもつて不当・不合理であるということはできず,右希望退職者の募集に先立ち臨時員の雇止めが行われてもやむを得ないというべきである。」と判断しています。
 また,日本航空事件東京地裁平成23年10月31日判決は,「解雇権濫用法理が類推適用されると,一般的にいえば,雇止めが,客観的に合理的な理由を欠き,社会通念上相当であると認められない場合には権利の濫用として無効となることになる(労働契約法16条)が,雇止めの場合において,雇用契約の内容としては,契約期間が定められ,その期間が経過することにより雇用契約が(ママ)終了が合意されている事案ということができるから,雇止めが『客観的に合理的な理由を欠き,社会通念上相当であると認められない』かどうかの判断に当たっては,解雇権濫用法理が当然に適用される期間の定めのない雇用契約の場合と同一とはいえず,当該雇用契約の性質,内容を十分に考慮した上での判断が求められるというべきである。」と判示しています。

(10) 事前の対応
 「実質無期契約タイプ」と評価されないためにも,最低限,契約更新手続を形骸化させず,更新ごとに更新手続を行う必要があります。
 契約更新を拒絶する可能性があることを労働条件通知書等に明記してよく説明するとともに,不必要に雇用継続を期待させるような言動は慎んで下さい。
 有期契約労働者については,身元保証人の要否,担当業務の内容,責任の程度等に関し,正社員と明確に区別した労務管理を行うべきです。

(11) 雇止めが認められないリスクが高い事案の対応
 雇止めが制限されるリスクが高い事案においては,合意により退職する形にすべきでしょう。
 上乗せ金の支払や年休の買い上げも検討せざるを得ません。
 年休を消化させたり,年休買い上げの合意を盛り込んだりしておくと,退職合意の有効性が認められやすくなります。

(12) 適性把握目的の有期労働契約の雇止め
 神戸弘陵学園事件最高裁第三小法廷平成2年6月5日判決は,労働者の適性を評価・判断する目的で労働契約に期間を設けた場合は,期間の満了により労働契約が当然に終了する旨の明確な合意が当事者間に成立しているなどの特段の事情が認められる場合を除き,契約期間は契約の存続期間ではなく,試用期間であるとしています。
 同最高裁判決の判断内容には疑問があり,単に雇止め制限(労契法19条)の問題として処理すれば足りるのではないかと考えられますが,労働者の適性を評価・判断する目的の契約期間満了による雇止めが本採用拒否(解雇)と評価され,解約権留保の趣旨・目的に照らして,客観的に合理的な理由があり社会通念上相当として是認される場合でないと退職させられなくなる可能性があることは理解しておく必要があります。
 期間満了で労働契約を確実に終了させられるようにしておきたいのであれば,当初の労働契約書において,期間満了により労働契約が当然に終了する旨の明確な合意をしておくとともに,期間満了により当初の労働契約は現実に終了させ,その後も正社員として勤務させる場合には,通常の正社員採用の際と同様,労働条件通知書を交付する等の採用手続を改めて行うといった対応をしておくべきでしょう。

弁護士法人四谷麹町法律事務所
弁護士 藤田 進太郎

採用内定取消に応じない。

2013-09-13 | 日記
採用内定取消に応じない。

 採用内定の法的性格は一様ではありませんが,採用内定により(始期付解約権留保付)労働契約が成立することが多いものと思われます。
 採用内定により労働契約が成立している以上,採用内定取消の法的性質は解雇であり,解雇権濫用法理が適用されるため,新たに採用を行う場面とは異なり,採用内定取消を行うことができる場面は限定されます。
 
 採用内定を出した応募者を雇用するのが難しくなった場合は,一方的に内定を取り消すのではなく,話し合いにより内定を辞退してもらうよう努力すべきです。
 十分な内定取消の理由がない場合は,事情をよく説明し,補償金の支払いを約束するなどして,内定者の理解を得るよう最大限努力する必要があります。
 
 内定取消はできるだけ早い時期に行った方が内定者のダメージが小さく,紛争になりにくい傾向にあります。
 内定取消が避けられない場合は,いつまでもずるずる決断を先延ばしにするのではなく,速やかに内定辞退についての話し合いに入り,内定者が就職活動を早期に再開できるよう配慮して下さい。
 
 採用内定の取消事由は,採用内定当時知ることができず,また知ることが期待できないような事実であって,これを理由として採用内定を取り消すことが解約権留保の趣旨,目的に照らして客観的に合理的と認められ社会通念上相当として是認することができるものに限られます。
 採用内定当時知ることができた問題点については,採用を躊躇するようなものであれば採用内定は出してはいけません。
 取りあえず採用内定を出してみて,問題が改善されるかどうか様子を見るというやり方はできません。

 企業が経営の悪化等を理由に留保解約権の行使(採用内定取消)をする場合には,いわゆる整理解雇の有効性の判断に関する①人員削減の必要性,②人員削減の手段として整理解雇することの必要性,③被解雇者選定の合理性,④手続の妥当性という四要素を総合考慮のうえ,解約留保権の趣旨,目的に照らして客観的に合理的と認められ,社会通念上相当と是認することができるかどうかを判断すべきとする裁判例があります。
 新規学卒者の採用内定を取り消す場合は,予め公共職業安定所長又は学校長等関係施設の長にその旨を通知する必要があり,一定の場合は,厚生労働大臣により企業名等が公表されることもあります。

弁護士法人四谷麹町法律事務所
弁護士 藤田 進太郎

試用期間中の社員なのに本採用拒否を争う。

2013-09-13 | 日記
試用期間中の社員なのに本採用拒否を争う。

(1) 試用期間とは
 試用期間には法律上の定義がなく,様々な意味に用いられますが,一般的には,正社員として採用された者の人間性や能力等を調査評価し,正社員としての適格性を判断するための期間をいいます。

(2) 試用期間の法的性格
 試用期間には様々なものがあり,その法的性格は一様ではありません。
三菱樹脂事件最高裁大法廷昭和48年12月12日判決(労判189号16頁)は,「試用契約の性質をどう判断するかについては,就業規則の規定の文言のみならず,当該企業内において試用契約の下に雇用された者に対する処遇の実情,とくに本採用との関係における取扱についての事実上の慣行のいかんをも重視すべきものである」と判示していますので,試用期間の法的性格については,「試用契約の下に雇用された者に対する処遇の実情,とくに本採用との関係における取扱についての事実上の慣行のいかん」等を重視して個別に判断していくことになります。
 同事件原判決が,「上告人の就業規則である見習試用取扱規則の各規定のほか,上告人において,大学卒業の新規採用者を試用期間終了後に本採用しなかった事例はかつてなく,雇入れについて別段契約書の作成をすることもなく,ただ,本採用にあたり当人の氏名,職名,配属部署を記載した辞令を交付するにとどめていたこと等の過去における慣行的実態に関して適法に確定した事実に基づいて,」「右雇用契約を解約権留保付の雇用契約と認め,右の本採用拒否は雇入れ後における解雇にあたる」と判断したことを同最高裁判決は「是認し得ないものではない。」とした上で,「被上告人に対する本採用の拒否は留保解約権の行使,すなわち雇入れ後における解雇にあたり,これを通常の雇入れの拒否の場合と同視することはできない。」と判断していますので,三菱樹脂事件と同様の事案における試用期間においては,解約権留保付の雇用契約が既に成立しており,本採用拒否は留保解約権の行使(解雇)と考えるべきことになります。
 一概には言えませんが,多くの企業における試用期間は解約権留保付の雇用契約が既に成立しており,本採用拒否は留保解約権の行使(解雇)に当たると考えられるものと思われます。

(3) 本採用拒否(解雇)の有効性の判断基準
 試用期間中の社員の本採用拒否は,本採用後の解雇と比べて,使用者が持つ裁量の範囲は広いと考えられており,三菱樹脂事件最高裁大法廷昭和48年12月12日判決も,試用期間における留保解約権に基づく解雇(本採用拒否)は,通常の解雇と全く同一に論じることはできず,通常の解雇の場合よりも広い範囲における解雇の自由が認められてしかるべきものと判示しています。
 しかし,最高裁は,他方で,試用者の本採用拒否は,「解約権留保の趣旨,目的に照らして,客観的に合理的な理由が存し社会通念上相当として是認されうる場合にのみ許される」とも判示しており,客観的に合理的な理由がなければ本採用拒否ができないことは通常の解雇と変わりはありませんので,本採用拒否されてもやむを得ない事情を証拠により立証できなければ本採用拒否(解雇)することはできないことに変わりありません。
 
(4) 「解約権留保の趣旨,目的に照らして,客観的に合理的な理由が存し社会通念上相当として是認されうる場合」とはどのような場合か
 三菱樹脂事件最高裁大法廷判決は,「解約権留保の趣旨,目的に照らして,客観的に合理的な理由が存し社会通念上相当として是認されうる場合」を以下のように言い換えて説明しています。
 「換言すれば,企業者が,採用決定後における調査の結果により,または試用中の勤務状態等により,当初知ることができず,また知ることが期待できないような事実を知るに至った場合において,そのような事実に照らしその者を引き続き当該企業に雇傭しておくのが適当でないと判断することが,上記解約権留保の趣旨,目的に徴して,客観的に相当であると認められる場合には,さきに留保した解約権を行使することができるが,その程度に至らない場合には,これを行使することはできないと解すべきである。」
 緩やかな基準で認められる試用期間中の本採用拒否(解雇)は,「当初知ることができず,また知ることが期待できないような事実」を理由とする本採用拒否(解雇)に限られます。
 採用当初から知り得た事実を理由とする解雇は,解約権留保の趣旨,目的の範囲外ですので,留保された解約権の行使としては認められません。
 したがって,採用面接時に知り得た事実を理由とする本採用拒否(解雇)は緩やかな基準では判断されず,通常の基準で判断されることになります。

(5) 本採用拒否(解雇)の難易度  
 長期雇用を予定した新卒社員については,採用後に教育していくことが予定されていますので,余程のことがない限り,能力不足を理由とした本採用拒否(解雇)は難しい傾向になります。
 高い能力があることを前提に高給で中途採用された社員や,地位が特定され高給で中途採用された社員の場合は,比較的本採用拒否(解雇)が有効となりやすい傾向にあります。 
 中途採用者あっても,高い能があることを前提としておらず,地位を特定されて採用されたわけでもなく,賃金が高額なわけでもないような場合は,能力不足を理由とした本採用拒否(解雇)は必ずしも容易ではありません。

(6) 試用期間満了前の本採用拒否(解雇)
 試用期間満了前であっても,社員として不適格であることが判明し,解約権留保の趣旨,目的に照らして,客観的に合理的な理由が存し社会通念上相当として是認されうる場合であれば,本採用拒否(解雇)することができます。
 試用期間中に社員として不適格と判断された社員が,試用期間満了時までに社員としての適格性を有するようになることは稀ですから,使用者としては早々に見切りをつけたいところかもしれません。
 しかし,試用期間満了前に本採用拒否(解雇)することを正当化するだけの客観的に合理的な理由を立証することができるかどうかについての判断が甘いケースが目立ちますので,客観的合理性の有無については,証拠に照らして慎重に判断する必要がありますし,本採用拒否(解雇)を試用期間満了前に行うことが社会通念上相当として是認されるかどうかについてもよく検討する必要があります。
 また,試用期間中の社員の中には,少なくとも試用期間中は雇用を継続してもらえると期待している者も多く,試用期間満了前の本採用拒否(解雇)には紛争を誘発しやすいという事実上の問題もあります。
 したがって,試用期間満了前の本採用拒否(解雇)は慎重に行うべきであり,十分に話し合って退職届を提出してもらえるよう努力するか,試用期間満了日での本採用拒否(解雇)とすることをお勧めします。

(7) 解雇予告制度(労基法20条)
 解雇予告制度(労基法20条)の適用がないのは,就労開始から14日目までであり,14日を超えて就労した場合は,試用期間中であっても,解雇予告又は解雇予告手当の支払が必要となります(労基法21条但書)。
 試用期間の残存期間が30日を切ってから本採用拒否(解雇)を通知する場合は,所定の解雇予告手当を支払う等する必要があります。
 試用期間満了ぎりぎりで本採用拒否(解雇)し,解雇予告手当も支払わないでいると,解雇の効力が生じるのはその30日後になってしまうため,試用期間中の解雇(本採用拒否)ではなく,試用期間経過後の通常の解雇と評価されるリスクが生じます。

(8) 有期契約労働者の試用期間
 有期労働契約の中途解除を規定した民法628条は「やむを得ない事由」があるときに契約期間中の解除を認めていますが,労契法17条1項は,使用者は,有期労働契約について,やむを得ない事由がある場合でなければ,使用者は契約期間満了までの間に労働者を解雇できない旨規定されています。
 労契法17条1項は強行法規ですから,有期労働契約の当事者が民法628条の「やむを得ない事由」がない場合であっても契約期間満了までの間に労働者を解雇できる旨合意したり,就業規則に規定して周知させたとしても,同条項に違反するため無効となり,使用者は民法628条の「やむを得ない事由」がなければ契約期間中に解雇することができません。
 このため,例えば,契約期間1年の有期労働契約者について3か月の試用期間を設けた場合,試用期間中であっても「やむを得ない事由」がなければ本採用拒否(解雇)できないものと考えられます。
 3か月の試用期間を設けることにより,「やむを得ない事由」の解釈がやや緩やかになる可能性はないわけではありませんが,大幅に緩やかに解釈してもらうことは期待できないものと思われます。
 したがって,有期契約労働者についても試用期間を設けることはできるものの,その法的効果は極めて限定されると考えるべきことになります。
 では,どうすればいいのかという話になりますが,有期契約労働者には試用期間を設けず,例えば,最初の契約期間を3か月に設定するなどして対処すれば足ります。
 このようなシンプルな対応ができるにもかかわらず,有期契約労働者にまで試用期間を設けるのは,あまりセンスのいいやり方とは言えないのではないでしょうか。
 正社員とは明確に区別された雇用管理を行うという観点からも,有期契約労働者にまで試用期間を設けることはお勧めしません。

(9) 本採用拒否(解雇)でトラブルにならないようにするための準備
 試用期間における本採用拒否(解雇)は必ずしも容易ではなく,緩やかな基準で認められる試用期間中の本採用拒否(解雇)は,「当初知ることができず,また知ることが期待できないような事実」を理由とする本採用拒否(解雇)に限られることを念頭に置いて慎重に選考採用を行うことが最も重要です。
 とりあえず採用してみて,駄目だったら試用期間中に本採用拒否(解雇)すればいいといった発想では,トラブルはなくなりません。
 採用が決まったら,本採用されるために必要な能力等を書面で明示しておくことが望ましいところです。
 就労開始から14日目までなら自由に解雇できると思い込んでいる方もいますが,就労開始から14日以内の試用期間中の者に解雇予告制度の適用がないこと(労基法21条)を誤解したのではないかと思います。
 むしろ,勤務開始間もない時期の本採用拒否(解雇)は,「解約権留保の趣旨,目的に照らして,客観的に合理的な理由が存し社会通念上相当として是認されうる場合」であることを証明するに足りるだけの証拠が不十分なことが多いため,解雇権を濫用したものとして無効となる可能性が高いというのが実情です。
 訴訟や労働審判で本採用拒否(解雇)の効力を争われた場合には,「解約権留保の趣旨,目的に照らして,客観的に合理的な理由が存し社会通念上相当として是認されうる場合」であるといえるだけの事実を証明するための客観的証拠の有無が問題となります。
 抽象的に勤務態度が悪いとか,能力が低いとか言ってみたところで,意味がありません。
 具体的に,何月何日に,どこで,誰が,どのように,何をしたのかといった事実を客観的証拠により認定できるようにしておく必要があります。
 例えば,試用期間中の社員は,毎日,日報に反省点等を記載させることとし,指導担当者がコメントする等といった方法も考えられます。
 本採用拒否に十分な理由がある場合であっても,まずは自主退職を促し,拒否された場合に本採用拒否(解雇)を行うことをお勧めします。

弁護士法人四谷麹町法律事務所
弁護士 藤田 進太郎 

試用期間中の社員なのに本採用拒否を争う。

2013-09-13 | 日記
試用期間中の社員なのに本採用拒否を争う。

(1) 試用期間とは
 試用期間には法律上の定義がなく,様々な意味に用いられますが,一般的には,正社員として採用された者の人間性や能力等を調査評価し,正社員としての適格性を判断するための期間をいいます。

(2) 試用期間の法的性格
 試用期間には様々なものがあり,その法的性格は一様ではありません。
三菱樹脂事件最高裁大法廷昭和48年12月12日判決(労判189号16頁)は,「試用契約の性質をどう判断するかについては,就業規則の規定の文言のみならず,当該企業内において試用契約の下に雇用された者に対する処遇の実情,とくに本採用との関係における取扱についての事実上の慣行のいかんをも重視すべきものである」と判示していますので,試用期間の法的性格については,「試用契約の下に雇用された者に対する処遇の実情,とくに本採用との関係における取扱についての事実上の慣行のいかん」等を重視して個別に判断していくことになります。
 同事件原判決が,「上告人の就業規則である見習試用取扱規則の各規定のほか,上告人において,大学卒業の新規採用者を試用期間終了後に本採用しなかった事例はかつてなく,雇入れについて別段契約書の作成をすることもなく,ただ,本採用にあたり当人の氏名,職名,配属部署を記載した辞令を交付するにとどめていたこと等の過去における慣行的実態に関して適法に確定した事実に基づいて,」「右雇用契約を解約権留保付の雇用契約と認め,右の本採用拒否は雇入れ後における解雇にあたる」と判断したことを同最高裁判決は「是認し得ないものではない。」とした上で,「被上告人に対する本採用の拒否は留保解約権の行使,すなわち雇入れ後における解雇にあたり,これを通常の雇入れの拒否の場合と同視することはできない。」と判断していますので,三菱樹脂事件と同様の事案における試用期間においては,解約権留保付の雇用契約が既に成立しており,本採用拒否は留保解約権の行使(解雇)と考えるべきことになります。
 一概には言えませんが,多くの企業における試用期間は解約権留保付の雇用契約が既に成立しており,本採用拒否は留保解約権の行使(解雇)に当たると考えられるものと思われます。

(3) 本採用拒否(解雇)の有効性の判断基準
 試用期間中の社員の本採用拒否は,本採用後の解雇と比べて,使用者が持つ裁量の範囲は広いと考えられており,三菱樹脂事件最高裁大法廷昭和48年12月12日判決も,試用期間における留保解約権に基づく解雇(本採用拒否)は,通常の解雇と全く同一に論じることはできず,通常の解雇の場合よりも広い範囲における解雇の自由が認められてしかるべきものと判示しています。
 しかし,最高裁は,他方で,試用者の本採用拒否は,「解約権留保の趣旨,目的に照らして,客観的に合理的な理由が存し社会通念上相当として是認されうる場合にのみ許される」とも判示しており,客観的に合理的な理由がなければ本採用拒否ができないことは通常の解雇と変わりはありませんので,本採用拒否されてもやむを得ない事情を証拠により立証できなければ本採用拒否(解雇)することはできないことに変わりありません。
 
(4) 「解約権留保の趣旨,目的に照らして,客観的に合理的な理由が存し社会通念上相当として是認されうる場合」とはどのような場合か
 三菱樹脂事件最高裁大法廷判決は,「解約権留保の趣旨,目的に照らして,客観的に合理的な理由が存し社会通念上相当として是認されうる場合」を以下のように言い換えて説明しています。
 「換言すれば,企業者が,採用決定後における調査の結果により,または試用中の勤務状態等により,当初知ることができず,また知ることが期待できないような事実を知るに至った場合において,そのような事実に照らしその者を引き続き当該企業に雇傭しておくのが適当でないと判断することが,上記解約権留保の趣旨,目的に徴して,客観的に相当であると認められる場合には,さきに留保した解約権を行使することができるが,その程度に至らない場合には,これを行使することはできないと解すべきである。」
 緩やかな基準で認められる試用期間中の本採用拒否(解雇)は,「当初知ることができず,また知ることが期待できないような事実」を理由とする本採用拒否(解雇)に限られます。
 採用当初から知り得た事実を理由とする解雇は,解約権留保の趣旨,目的の範囲外ですので,留保された解約権の行使としては認められません。
 したがって,採用面接時に知り得た事実を理由とする本採用拒否(解雇)は緩やかな基準では判断されず,通常の基準で判断されることになります。

(5) 本採用拒否(解雇)の難易度  
 長期雇用を予定した新卒社員については,採用後に教育していくことが予定されていますので,余程のことがない限り,能力不足を理由とした本採用拒否(解雇)は難しい傾向になります。
 高い能力があることを前提に高給で中途採用された社員や,地位が特定され高給で中途採用された社員の場合は,比較的本採用拒否(解雇)が有効となりやすい傾向にあります。 
 中途採用者あっても,高い能があることを前提としておらず,地位を特定されて採用されたわけでもなく,賃金が高額なわけでもないような場合は,能力不足を理由とした本採用拒否(解雇)は必ずしも容易ではありません。

(6) 試用期間満了前の本採用拒否(解雇)
 試用期間満了前であっても,社員として不適格であることが判明し,解約権留保の趣旨,目的に照らして,客観的に合理的な理由が存し社会通念上相当として是認されうる場合であれば,本採用拒否(解雇)することができます。
 試用期間中に社員として不適格と判断された社員が,試用期間満了時までに社員としての適格性を有するようになることは稀ですから,使用者としては早々に見切りをつけたいところかもしれません。
 しかし,試用期間満了前に本採用拒否(解雇)することを正当化するだけの客観的に合理的な理由を立証することができるかどうかについての判断が甘いケースが目立ちますので,客観的合理性の有無については,証拠に照らして慎重に判断する必要がありますし,本採用拒否(解雇)を試用期間満了前に行うことが社会通念上相当として是認されるかどうかについてもよく検討する必要があります。
 また,試用期間中の社員の中には,少なくとも試用期間中は雇用を継続してもらえると期待している者も多く,試用期間満了前の本採用拒否(解雇)には紛争を誘発しやすいという事実上の問題もあります。
 したがって,試用期間満了前の本採用拒否(解雇)は慎重に行うべきであり,十分に話し合って退職届を提出してもらえるよう努力するか,試用期間満了日での本採用拒否(解雇)とすることをお勧めします。

(7) 解雇予告制度(労基法20条)
 解雇予告制度(労基法20条)の適用がないのは,就労開始から14日目までであり,14日を超えて就労した場合は,試用期間中であっても,解雇予告又は解雇予告手当の支払が必要となります(労基法21条但書)。
 試用期間の残存期間が30日を切ってから本採用拒否(解雇)を通知する場合は,所定の解雇予告手当を支払う等する必要があります。
 試用期間満了ぎりぎりで本採用拒否(解雇)し,解雇予告手当も支払わないでいると,解雇の効力が生じるのはその30日後になってしまうため,試用期間中の解雇(本採用拒否)ではなく,試用期間経過後の通常の解雇と評価されるリスクが生じます。

(8) 有期契約労働者の試用期間
 有期労働契約の中途解除を規定した民法628条は「やむを得ない事由」があるときに契約期間中の解除を認めていますが,労契法17条1項は,使用者は,有期労働契約について,やむを得ない事由がある場合でなければ,使用者は契約期間満了までの間に労働者を解雇できない旨規定されています。
 労契法17条1項は強行法規ですから,有期労働契約の当事者が民法628条の「やむを得ない事由」がない場合であっても契約期間満了までの間に労働者を解雇できる旨合意したり,就業規則に規定して周知させたとしても,同条項に違反するため無効となり,使用者は民法628条の「やむを得ない事由」がなければ契約期間中に解雇することができません。
 このため,例えば,契約期間1年の有期労働契約者について3か月の試用期間を設けた場合,試用期間中であっても「やむを得ない事由」がなければ本採用拒否(解雇)できないものと考えられます。
 3か月の試用期間を設けることにより,「やむを得ない事由」の解釈がやや緩やかになる可能性はないわけではありませんが,大幅に緩やかに解釈してもらうことは期待できないものと思われます。
 したがって,有期契約労働者についても試用期間を設けることはできるものの,その法的効果は極めて限定されると考えるべきことになります。
 では,どうすればいいのかという話になりますが,有期契約労働者には試用期間を設けず,例えば,最初の契約期間を3か月に設定するなどして対処すれば足ります。
 このようなシンプルな対応ができるにもかかわらず,有期契約労働者にまで試用期間を設けるのは,あまりセンスのいいやり方とは言えないのではないでしょうか。
 正社員とは明確に区別された雇用管理を行うという観点からも,有期契約労働者にまで試用期間を設けることはお勧めしません。

(9) 本採用拒否(解雇)でトラブルにならないようにするための準備
 試用期間における本採用拒否(解雇)は必ずしも容易ではなく,緩やかな基準で認められる試用期間中の本採用拒否(解雇)は,「当初知ることができず,また知ることが期待できないような事実」を理由とする本採用拒否(解雇)に限られることを念頭に置いて慎重に選考採用を行うことが最も重要です。
 とりあえず採用してみて,駄目だったら試用期間中に本採用拒否(解雇)すればいいといった発想では,トラブルはなくなりません。
 採用が決まったら,本採用されるために必要な能力等を書面で明示しておくことが望ましいところです。
 就労開始から14日目までなら自由に解雇できると思い込んでいる方もいますが,就労開始から14日以内の試用期間中の者に解雇予告制度の適用がないこと(労基法21条)を誤解したのではないかと思います。
 むしろ,勤務開始間もない時期の本採用拒否(解雇)は,「解約権留保の趣旨,目的に照らして,客観的に合理的な理由が存し社会通念上相当として是認されうる場合」であることを証明するに足りるだけの証拠が不十分なことが多いため,解雇権を濫用したものとして無効となる可能性が高いというのが実情です。
 訴訟や労働審判で本採用拒否(解雇)の効力を争われた場合には,「解約権留保の趣旨,目的に照らして,客観的に合理的な理由が存し社会通念上相当として是認されうる場合」であるといえるだけの事実を証明するための客観的証拠の有無が問題となります。
 抽象的に勤務態度が悪いとか,能力が低いとか言ってみたところで,意味がありません。
 具体的に,何月何日に,どこで,誰が,どのように,何をしたのかといった事実を客観的証拠により認定できるようにしておく必要があります。
 例えば,試用期間中の社員は,毎日,日報に反省点等を記載させることとし,指導担当者がコメントする等といった方法も考えられます。
 本採用拒否に十分な理由がある場合であっても,まずは自主退職を促し,拒否された場合に本採用拒否(解雇)を行うことをお勧めします。

弁護士法人四谷麹町法律事務所
弁護士 藤田 進太郎 

退職勧奨したところ解雇してくれと言い出す。

2013-09-13 | 日記
退職勧奨したところ解雇してくれと言い出す。

(1) 対処方法
 退職勧奨した社員から解雇してくれと言われたからといって,安易に解雇すべきではありません。
 後日,解雇が無効であることを前提として,多額の賃金請求を受けるリスクがあります。
 当該社員が退職することに同意しているのであれば,解雇するのではなく,退職届か合意退職書に署名押印してもらうべきです。

(2) 解雇予告手当の請求
 即時解雇した場合,解雇予告手当の請求を受けることがありますが,解雇予告手当は平均賃金の30日分を支払えば足りるので(労基法20条1項),その金額はたかが知れています。
 また,解雇予告手当の請求は,解雇の効力を争わないことを前提とした請求なので,解雇予告手当の請求を受けた場合は,むしろ運がよかったと考えられます。

(3) 解雇無効を前提とした賃金請求
 解雇の無効を前提として,解雇日以降の賃金請求がなされた場合に会社が負担する可能性がある金額は,高額になることがあります。
 単純化して説明すると,月給30万の社員を解雇したところ,解雇の効力が争われ,2年後に判決で解雇が無効と判断された場合は,既発生の未払賃金元本だけで,30万円×24か月=720万円の支払義務を負うことになります。
 解雇が無効と判断された場合,実際には全く仕事をしていない社員に対し,毎月の賃金を支払わなければならないことを理解しておく必要があります。

(4) 近年の傾向
 最近では,経営者を挑発して解雇させ,多額の金銭を獲得してから転職しようと考える社員が増えています。
 解雇するようしきりに催促し,解雇理由証明書を交付するよう要求してきたら要注意です。

(5) 無断録音
 退職勧奨,解雇のやり取りは,無断録音されていることが多く,録音記録が訴訟で証拠として提出された場合は,証拠として認められてしまいます。
 退職勧奨,解雇を行う場合は,感情的にならないよう普段以上に心掛け,無断録音されていても不都合がないようにして下さい。
 退職勧奨は,やり過ぎると不法行為になることがありますが,自分の発言が無断録音されて上司や社長や裁判官や弁護士に聞かれることになっても構わないといった覚悟で行えば,不法行為が成立するような発言をすることは滅多にありません。

(6) 解雇の効力が争われた場合の対処
 解雇してくれと言われて解雇したところ,解雇の効力が争われ,解雇が無効と判断されるリスクが高いような場合は,解雇を撤回し,就労を命じる必要がある場合もあります。
 この場合,概ね,解雇日の翌日から解雇撤回後に就労を命じた初日の前日までの解雇期間に対する賃金の支払義務を負うことになりますが,出社を命じた初日以降に出社しない場合には賃金支払義務を負わないのが原則です。

(7) 解雇を撤回して就労を命じた場合に実際に戻ってくる社員の割合
 解雇を撤回して就労を命じた場合,実際に戻ってくるのは4人~5人に1人程度という印象です。
 解雇期間中の賃金請求をする目的で形式的に復職を求める体裁を取り繕う社員が多いですが,要望どおり解雇を撤回して就労命令を出してみると,いろいろ理由を付けて,実際には復職してこないことが多いというのが実情です。
 労働組合の支援があるような場合でない限り,復職は難しいケースが多いのではないかと思います。

(8) ありのままの解雇理由を伝えることの重要性
 勤務態度が悪い社員,能力が著しく低い社員を退職勧奨したところ,解雇して欲しいと言われ,本当の理由を告げて解雇すると本人が傷つくからといった理由で,解雇理由を「事業の縮小その他やむを得ない事由」等による会社都合の解雇(整理解雇)とする事案が散見されます。
 このような事案で解雇の効力が争われた場合,整理解雇の有効要件を満たさないのが通常であり,ほぼ間違いなく整理解雇は無効と判断されることになります。
 解雇が避けられないような場合は,ありのままの解雇理由を伝えるようにして下さい。
 無用の気遣いをして,ありのままの解雇理由を伝えられないと,裏目の結果となることが多くなります。

(9) 退職勧奨と失業手当
 「事業主から退職するよう勧奨を受けたこと。」(雇用保険法施行規則36条9号)は,「特定受給資格者」(雇用保険法23条1項)に該当するため(雇用保険法23条2項2号),退職勧奨による退職は会社都合の解雇等の場合と同様の扱いとなり,失業手当の待機期間や給付制限に関し労働者が不利益を受けることにはなりません。
 つまり,失業手当の受給条件を良くするために解雇する必要はないのです。
 退職届を出してしまうと,失業手当の受給条件が不利になると誤解されている場合には,丁寧に説明し,誤解を解くよう努力して下さい。
 助成金との関係でも,会社都合の解雇をしたのと同様の取り扱いとなることには注意が必要です。

(10) 解雇が無効と判断された場合に,解雇期間中の賃金として使用者が負担しなければならない金額
 解雇が無効と判断された場合に,解雇期間中の賃金として使用者が負担しなければならない金額は,当該社員が解雇されなかったならば労働契約上確実に支給されたであろう賃金の合計額です。
 解雇当時の基本給等を基礎に算定されますが,各種手当,賞与を含めるか,解雇期間中の中間収入を控除するか,所得税等を控除するか等が問題となります。

(11) 解雇期間中の通勤手当
 通勤手当が実費保障的な性質を有する場合は,通勤手当について負担する必要はありません。

(12) 解雇期間中の残業代
 残業代は,時間外・休日・深夜に勤務して初めて発生するものであることから,通常は負担する必要がありません。
 ただし,一定の残業代が確実に支給されたと考えられる場合には,残業代についても支払を命じられる可能性があります。

(13) 解雇期間中の賞与
 賞与の支給金額が確定できない場合は,解雇が無効と判断されても,支払を命じられませんが,支給金額が確定できる場合は,賞与についても支払が命じられることがあります。

(14) 解雇期間中の中間収入
 解雇された社員に解雇期間中の中間収入(他の事業上で働いて得た収入)がある場合は,その収入があったのと同時期の解雇期間中の賃金のうち,同時期の平均賃金の6割(労基法26条)を超える部分についてのみ控除の対象となります(米軍山田部隊事件最高裁第二小法廷昭和37年7月20日判決,あけぼのタクシー事件最高裁第一小法廷昭和62年4月2日判決)。
 中間収入の額が平均賃金額の4割を超える場合には、更に平均賃金算定の基礎に算入されない賃金(賞与等)の全額を対象として利益額を控除することが許されます(あけぼのタクシー事件最高裁第一小法廷昭和62年4月2日判決,いずみ福祉会事件最高裁第三小法廷平成18年3月28日判決)。

(15) 賃金から源泉徴収すべき所得税,控除すべき社会保険料
 賃金から源泉徴収すべき所得税,控除すべき社会保険料については,これらを控除する前の賃金額の支払が命じられ,実際の賃金支払の際,所得税等を控除することになります。

(16) 仮払金の処理
 仮処分で賃金相当額の仮払いが命じられ,仮払いをしていたとしても,判決では仮払金を差し引いてもらえません。
 賃金の支払を命じる判決が確定した場合は,労働者代理人と連絡を取って,既払の仮払金の充当について調整する必要があります。
 他方,賃金請求が認められなかった場合は,仮払金の返還を求めることになりますが,労働者が無資力となっていて,回収が困難なケースもあります。

弁護士法人四谷麹町法律事務所
弁護士 藤田 進太郎

退職勧奨しても退職しない。

2013-09-13 | 日記
退職勧奨しても退職しない。

 退職勧奨の法的性格については様々な見解がありますが,裁判実務においては,使用者が労働者に対し合意退職の申込みを促す行為(申込みの誘引)と評価されるのが通常です。
 したがって,労働者が退職勧奨に応じて退職を申し込み,使用者が労働者の退職を承諾した時点で退職の合意が成立することになります。

 退職勧奨を行うにあたっては,担当者の選定が極めて重要となります。
 退職勧奨が紛争の契機となることが多いこともあり,相手の気持ちを理解する能力を持っている,コミュニケーション能力の高い社員に退職勧奨を担当させるのが望ましいところです。
 退職勧奨を受ける社員と仲の悪い上司が退職勧奨を行うとトラブルが多いので,できるだけ避けて下さい。
 同じようなケースであっても,退職勧奨の担当者が誰かにより,紛争が全く起きなかったり,紛争が多発したりします。

 解雇の要件を充たしていなくても退職勧奨を行うことができますが,有効に解雇できる可能性が高い事案であればあるほど,退職勧奨に応じてもらえる可能性が高くなります。
 原則として,退職勧奨に先立ち,問題点を記録に残し,十分な注意指導,教育を行い,懲戒処分を積み重ねるなどして,解雇する際と同じような準備をしておくべきでしょう。
 退職勧奨のやり取りは,無断録音されていることが多く,録音記録が訴訟で証拠として提出された場合は,証拠として認められてしまいますので,退職勧奨を行う場合は,感情的にならないよう普段以上に心掛け,無断録音されていても不都合がないようにして下さい。

 「事業主から退職するよう勧奨を受けたこと。」(雇用保険法施行規則36条9号)は,「特定受給資格者」(雇用保険法23条1項)に該当するため(雇用保険法23条2項2号),退職勧奨による退職は会社都合の解雇等の場合と同様の扱いとなり,失業手当の待機期間や給付制限等の点で労働者が不利益を受けることにはなりません。
 失業手当の受給条件を良くするために解雇する必要はありません。
 退職届を出してしまうと失業手当の受給条件が不利になると誤解されていることがありますので,丁寧に説明し,誤解を解くよう努力して下さい。
 助成金との関係でも,会社都合の解雇をしたのと同様の取り扱いとなることには注意が必要です。

 退職届等の客観的証拠がないと,口頭での合意退職が成立したと会社が主張しても認められず,解雇したと認定されたり,職場復帰の受入れを余儀なくされたりすることがあります。
 退職の申出があった場合は漫然と放置せず,退職届を提出させて証拠を残しておく必要があります。
 印鑑を持ち合わせていない場合は,差し当たり,署名したものを提出させ,押印は,後から印鑑を持参させて面前でさせれば足ります。

 退職勧奨を受けた労働者が退職届を提出して合意退職を申し込んだとしても,社員の退職に関する決裁権限のある人事部長や経営者が退職を承諾するまでの間は退職の合意が成立しておらず,労働者は信義則に反するような特段の事情がない限り合意退職の申込みを撤回することができることになります。
 退職勧奨に応じた労働者から退職届の提出があったら,退職を承認する権限のある上司が速やかに退職承認通知書を作成して当該労働者に交付して下さい。
 退職承認通知書は事前に写しを取って保管しておくとよいでしょう。

 後日,錯誤(民法95条),強迫(民法96条)等を理由として,合意退職の効力が争われることがありますが,退職届が提出されていれば,合意退職の効力が否定されるケースはそれほど多くはありません。
 錯誤,強迫の主張が認められ,退職の効力が否定される典型的事例は,「このままだと懲戒解雇は避けられず,懲戒解雇だと退職金は出ない。ただ,退職届を提出するのであれば,温情で受理し,退職金も支給する。」等と社員に告知して退職届を提出させたところ,実際には懲戒解雇できる事案であることを主張立証できなかったケースです。
 有効に解雇ができるだけの証拠がそろっている事案でない限り,退職勧奨するにあたり「解雇」という言葉は使うべきではありません。

 退職勧奨を行うことは,不当労働行為に該当する場合や,不当な差別に該当する場合などを除き,労働者の任意の意思を尊重し,社会通念上相当と認められる範囲内で行われる限りにおいて違法性を有するものではありませんが,その説得のための手段,方法がその範囲を逸脱するような場合には違法性を有し,使用者は当該労働者に対し,不法行為等に基づく損害賠償義務を負うことになります。

弁護士法人四谷麹町法律事務所
弁護士 藤田 進太郎

退職届を提出したのに退職を撤回する。

2013-09-13 | 日記
退職届を提出したのに退職を撤回する。

 退職届の提出は,通常は合意退職の申込みと評価することができます。
 合意は申込みに対する相手方の承諾により成立しますので,社員の退職に関する決裁権限のある人事部長や経営者が承諾の意思表示をするまでは,信義則に反するような特段の事情がない限り,退職届を提出した社員は退職を撤回することができることになります。
 退職を早期に確定したい場合は,退職を承諾する旨の意思表示を早期に行う必要があります。
 退職を認める旨の決済が内部的になされただけで,退職届を提出した社員に通知していない場合には,承諾の意思表示がなされていないと評価される事案がほとんどと考えられますので,退職届の提出を撤回されてしまう可能性があります。

 退職届を提出した社員から,心裡留保(民法93条),錯誤(民法95条),強迫(民法96条)等が主張されることもあるが,なかなか認められません。
 退職するつもりはないのに,反省していることを示す意図で退職届を提出したことを会社側が知ることができたような場合は,心裡留保(民法93条)により,退職は無効となります。
 錯誤,強迫が認められる典型的事例は,「このままだと懲戒解雇は避けられず,懲戒解雇だと退職金は出ない。ただ,退職届を提出するのであれば,温情で受理し,退職金も支給する。」等と社員に告知して退職届を提出させたところ,実際には懲戒解雇できるような事案ではなかったことが後から判明したようなケースです。
 現実に懲戒解雇できる事案でないのであれば,懲戒解雇の威嚇の下,自主退職に追い込んだと評価されないようにする必要があります。
 解雇できるような事案でない限り,退職勧奨を行うにあたって「解雇」という言葉は使わないことをお勧めします。

 退職自体は有効であっても,退職勧奨のやり方次第では,慰謝料の支払を命じられることがあります。
 退職勧奨のやり取りは,無断録音されていることが多く,訴訟や労働審判で録音記録や反訳文が証拠として提出された場合は,証拠として認められてしまいます。
 退職勧奨を行う場合は,無断録音されていても不都合がないよう気をつけて下さい。

 退職届等の客観的証拠がないと,口頭での合意退職が成立したと会社が主張しても認められず,解雇したと認定されたり,退職の効果が生じていないと認定されたりすることがあります。
 退職の申出があった場合は漫然と放置せず,退職届を提出させて証拠を残しておく必要があります。
 印鑑を持ち合わせていない場合は,差し当たり,署名したものを提出させ,押印は,後から印鑑を持参させて面前でさせれば足ります。

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弁護士 藤田 進太郎

社員を引き抜いて同業他社に転職する。

2013-09-13 | 日記
社員を引き抜いて同業他社に転職する。

 在職中は,労働契約上の誠実義務として,同業他社に勤務したり,自ら同業他社を経営したりすることは当然禁止されますが,退職後は,競業避止特約がある場合に限り,合理的な範囲内においてのみ競業が禁止されることになります。
 特約がない場合であっても,労働契約継続中に獲得した取引の相手方に関する知識を利用して,使用者が取引継続中のものに働きかけをして競業を行うことは許されず,そのような働きかけをした場合には,労働契約上の債務不履行となるとする裁判例(チェスコム秘書センター事件東京地裁平成5年1月28日判決)もありますが,競業自体というより,取引先への働きかけが問題とされているように思えます。

 社員が退職後の競業避止義務を定めた誓約書を提出したとしても,競業の制限が合理的範囲を超え,職業選択の自由,営業の自由を不当に制限するものである場合は,公序良俗に反し無効となります。
 退職後の競業の制限が合理的範囲を超えるか否かは,「制限の期間,場所的範囲,制限の対象となる職種の範囲,代償の有無等について,債権者の利益(企業秘密の保護),債務者の不利益(転職,再就職の不自由)及び社会的利害(独占集中の虞れ,それに伴う一般消費者の利害)の三つの視点に立って慎重に検討していくことを要する」(フォセコ・ジャパン・リミテッド事件奈良地裁昭和45年10月23日判決)と考えるのが一般的です。
 個別の同意がない場合であっても,退職後の競業避止義務を就業規則に定めれば,その内容が合理的なものである限り,退職後の競業避止義務を課すことができます。
 就業規則の服務規律に在職中の引き抜き行為を禁止する旨定め,在職中の引き抜き行為を懲戒解雇事由として規定しておくとよいでしょう。

 退職金の不支給・減額・返還事由として,退職後の競業避止義務に違反した場合や懲戒解雇事由に該当する場合を規定しておけば,退職金不支給・減額の合理性がある場合には,退職金を不支給または減額したり,支給した退職金の全部または一部の返還を請求したりすることができます。
 退職金の不支給・減額・返還の合理性の有無は,
 ① 退職金の性格の中に功労報奨金的要素の占める度合いがどの程度か
 ② 会社の損害,額の大きさ,会社において営業努力により回避できるか,不可避なものか
 ③ 労働者の背信性の存否等
等を考慮して判断されます。

 競業避止義務に違反したというだけでは,会社の損害の有無,損害との間の因果関係の立証が困難なことが多く,損害賠償請求は必ずしも容易ではありません。
 従業員の引抜行為のうち単なる転職の勧誘に留まるものは違法とはいえず,転職の勧誘が引き抜かれる側の会社の幹部従業員によって行われたとしても,直ちに雇用契約上の誠実義務に違反した行為と評価することはできません。
 ただし,退職時期を考慮し,あるいは事前の予告を行う等,会社の正当な利益を侵害しないよう配慮すべきであり,会社に内密に移籍の計画を立て一斉,かつ,大量に授業員を引き抜く等,その引抜きが単なる転職の勧誘の域を越え,社会的相当性を逸脱し極めて背信的方法で行われた場合には,それを実行した会社の幹部従業員は雇用契約上の誠実義務に違反したものとして,債務不履行あるいは不法行為責任を負うことになります。
 社会的相当性を逸脱した引抜行為であるか否かは,転職する従業員のその会社に占める地位,会社内部における待遇及び人数,従業員の転職が会社に及ぼす影響,転職の勧誘に用いた方法(退職時期の予告の有無,秘密性,計画性等)等諸般の事情を総合考慮して判断されます。
 転職の多い業界,代替人材の確保が容易な業界における引き抜きについては,会社の主張する損害の一部しか引き抜き行為との間の相当因果関係を認めてもらえないことが多い傾向にあります。

 社員には退職・転職の自由が認められているため,社員の自由な意思による退職・転職に伴って会社に発生する損害については,原則として損害賠償請求することはできません。
 ある企業が競争企業の従業員に自社への転職を勧誘する場合,単なる転職の勧誘を越えて社会的相当性を逸脱した方法で従業員を引き抜いた場合には,その企業は雇用契約上の債権を侵害したものとして,不法行為として引抜行為によって競争企業が受けた損害を賠償する責任を負うことがあります。

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弁護士 藤田 進太郎

社宅に家財道具等を残したまま行方不明になる。

2013-09-13 | 日記
社宅に家財道具等を残したまま行方不明になる。

(1) 社員の行方を捜す努力
 まずは,電話,電子メール,社宅訪問,家族・身元保証人等への問い合わせ等により,社員の行方を捜す努力をして下さい。
 行方不明者発見活動に関する規則6条(平成22年4月1日施行,平成二十一年十二月十一日国家公安委員会規則第十三号)では,行方不明者が行方不明となった時におけるその住所又は居所を管轄する警察署長は,親族からの行方不明者届のみならず,「雇主その他の当該行方不明者と社会生活において密接な関係を有する者」からの行方不明者届もまた,受理するものとされています。
 親族から行方不明者届を提出するのが通常と思われるが,勤務先からの行方不明者届も受理される扱いとなっていることは理解しておくべきでしょう。
 それなりの期間努力しても社員の行方が分からないときは,退職扱いにし,社宅から出て行ってもらわざるを得ないが,
 ① 労働契約を終了させる方法
 ② 社宅利用契約を終了させる方法
 ③ 社宅に残された私物の運び出し方法
等が問題となります。

(2) 行方不明になった社員の退職・解雇
 行方不明になった社員の退職手続としては,解雇で対処するのではなく,就業規則に無断欠勤が一定期間(30日~50日程度)続き,会社に行方が知れないときには当然に退職する旨の規定を置き,適用することにより対処するのが一般的です。
 当然退職事由が発生した場合,社員への意思表示なくして退職の効力が生じることになります。
 他方,解雇の意思表示は,解雇通知が相手方に到達して初めてその効力を生じるため(民法97条1項),有効無効以前の問題として,解雇通知が行方不明の社員に到達しなければ解雇の意思表示は効力を生じません。
 社員が社宅で生活しており,単に出社拒否をしているに過ぎないような事案であれば,社宅の当該社員の部屋に解雇通知が届けば,実際に社員が解雇通知書を読んでいなくても,解雇の意思表示が到達したことになりますが,本当の意味での行方不明で,社宅にも戻っていない場合は,社宅の部屋に解雇通知が到達したとしても,解雇の意思表示が社員に到達したことにはならず,解雇の意思表示は効力を生じません。
 電子メールによる解雇通知は,行方不明の社員から返信があれば,通常は解雇の意思表示が当該社員に到達し,解雇の効力が生じていると考えることができるでしょう。
 ただし,電子メールに返信があるような事案の場合,そもそも行方不明と言えるのか問題となる余地がありますので,解雇権を濫用したものとして無効(労働契約法16条)とされないよう,解雇に先立ち,行方不明の社員と連絡を取る努力を尽くす必要があります。
 行方不明の社員からメール返信がない場合は,解雇の意思表示が到達したと考えることにはリスクが伴いますが,連絡を取る努力を尽くした上で,リスク覚悟で退職処理してしまうということも考えられます。
 行方不明者の家族や身元保証人に対し,行方不明の社員を解雇する旨の解雇通知を送付しても,解雇の意思表示が到達したとは評価することができず,解雇の効力は生じません。
 ただし,リスク覚悟の上で退職処理することはあり得るかもしれません。
 兵庫県社土木事務所事件最高裁第一小法廷平成11年7月15日判決では,行方不明の職員と同居していた家族に対し人事発令通知書を交付するとともにその内容を兵庫県公報に掲載するという方法でなされた懲戒免職処分の効力の発生を認めていますが,特殊な事案であり,射程を広く考えることはできません。
 例えば,家族に解雇通知書を交付し,社内報に掲載したといった程度では,通常は解雇の意思表示の効力は生じません。
 完全に行方不明の社員に対し,解雇通知する場合は,公示による意思表示(民法98条)によることになりますが,手続が煩雑です。
 行方不明の社員を退職扱いとした場合であっても,後日,連絡があり,行方不明であったことについてやむを得ない理由があったことが判明した場合は,その時点で復職の可否を検討しても良いかもしれません。

(3) 行方不明となった社員の社宅明渡し
 福利厚生施設としての社宅の法律関係は,社宅利用規程によって規律され,社宅の明渡しを請求できるかどうかは,社宅利用規程の明渡事由に該当するかどうかにより決せられ,通常は借地借家法は適用されません。
 社宅利用料が高額であるなどの理由から,社宅契約が借地借家法の予定する賃貸借契約と認定された場合は,契約の解約には6か月前の解約申入れが必要であり(借地借家法27条),解約には正当の事由が必要となります(借地借家法28条)。
 トラブルを避けるためにも,福利厚生施設としての役割に反しない金額の利用料設定にすべきでしょう。
 行方不明の社員が退職扱いとなり,社宅利用契約が終了したとしても,実際にどうやって部屋の明渡し作業を行うかは別途問題となります。
 行方不明の社員を相手に訴訟を提起し,公示送達(民事訴訟法110条)の方法により訴状を送達し,勝訴判決を得て強制執行するというのが,法律論的には本筋かもしれませんが,時間,費用,手間がかかります。
 かといって,勝手に荷物を運び出して処分してしまうわけにもいきません。
 実務上は,行方不明の社員の両親等の協力を得て,明渡しに立ち会ってもらい,荷物を引き取って保管してもらうことが多いのではないでしょうか。
 完全に適法なやり方と言えるかどうかは微妙なところであり,ある程度のリスクを覚悟した上で行うことになりますが,両親等の協力があれば,トラブルに発展するケースはそれほど多くはありません。

弁護士法人四谷麹町法律事務所
弁護士 藤田 進太郎

退職届提出と同時に年休取得を申請し引継ぎをしない。

2013-09-13 | 日記
退職届提出と同時に年休取得を申請し引継ぎをしない。

 労働者がその有する休暇日数の範囲内で,具体的な休暇の始期と終期を特定して時季指定をしたときは,適法な時季変更権の行使がない限り,年次有給休暇が成立し,当該労働日における就労義務が消滅します。
 年休取得に使用者の承認は不要です。
 使用者が,社員の年休取得を拒むことができるというためには,時季変更権(労基法39条5項)を行使できる場面でなければなりませんが,時季変更権の行使は,「請求された時季に有給休暇を与えることが事業の正常な運営を妨げる場合においては,他の時季にこれを与えることができる。」(労基法39条5項)とするものに過ぎず,年休を取得する権利自体を奪うことはできません。
 退職後に年休を与えることはできませんので,退職までの全労働日の年休取得を申請された場合,使用者は時季変更権の行使ができず,退職日までの年休取得を拒絶することはできないものと考えられます。
 昭和49年1月11日基収5554号も,「年次有給休暇の権利が労働基準法に基づくものである限り,当該労働者の解雇予定日をこえての時季変更は行えないものと解する。」としています。
 引継ぎをしてもらわなければ業務に支障が生じることもあるが,法的にはやむを得ません。
 退職する社員とよく話し合って,年休買い上げの合意をするか,退職日を先に延ばす合意をするなどして,引継ぎをするよう説得するほかありません。

弁護士法人四谷麹町法律事務所
弁護士 藤田 進太郎

精神疾患の発症を長時間労働や上司のパワハラ・セクハラのせいにする。

2013-09-13 | 日記
精神疾患の発症を長時間労働や上司のパワハラ・セクハラのせいにする。

(1) 基本的な対処方法
 長時間労働や上司のパワハラ・セクハラが原因となって労働者が精神疾患を発症した場合,使用者は安全配慮義務違反(労契法5条,民法415条)又は使用者責任(民法715条)を問われ,損害賠償義務を負うことがあります。
 過去の裁判例,心理的負荷による精神障害の労災請求事案において労業務上外を判断する際に用いられる「心理的負荷による精神障害の認定基準(平成23年12月26日基発1226第1号)」(認定基準)等を参考にして,損害賠償義務の有無,賠償額等について検討するとよいでしょう。
 認定基準は,心理的負荷による精神障害の労災請求事案について,行政機関が業務上外の判断に用いる内部基準に過ぎず,裁判所を拘束するものではありませんし,労災認定における相当因果関係や安全配慮義務違反等を理由とした民事損害賠償請求における相当因果関係と同じものではありませんが,認定基準は,最新の臨床経験上の知見を踏まえて作成されたものであり,労災認定における相当因果関係や安全配慮義務違反等を理由とした民事損害賠償請求における相当因果関係の判断に当たり,認定基準を参考にすることには一定の合理性があるものと考えられます。
 訴訟や労働審判になっていない場合は,労災申請を促して労基署の判断を仰ぎ,審査の結果,労災として認められれば労災として扱い,労災として認められなければ私傷病として扱うこととすれば足りることが多いところです。
 労災保険給付がなされた場合,使用者は,同一の事由については,その価額の限度において民法の損害賠償の責を免れることになりますが(労基法84条2項類推),労災保険給付は,慰謝料は対象としておらず,休業損害や逸失利益の全額を補償するものではないため,労災保険給付がなされている場合であっても,使用者は,労働者から,慰謝料,休業損害や逸失利益で補償されなかった金額について,損害賠償義務を負担する可能性があります。
 精神疾患の発症が労災として認められた場合,業務と疾病等との間に法的にみて労災補償を認めるのを相当とする関係(相当因果関係)が認められたことになります。
 業務と疾病等との間に法的にみて労災補償を認めるのを相当とする関係(相当因果関係)があるにもかかわらず,民事損害賠償請求における相当因果関係,結果の予見可能性・回避可能性がない事例や,使用者が結果を回避しないことが違法と評価できないような事例は,それほど多くはありません。
 したがって,業務起因性が肯定されて労災保険給付が行われた場合は,使用者は民事損害賠償請求においても,安全配慮義務違反や使用者責任を問われて損害賠償義務を負う可能性が高くなります。

(2) 長時間労働と損害賠償責任
 電通事件最高裁第二小法廷平成12年3月24日判決は,「労働者が労働日に長時間にわたり業務に従事する状況が継続するなどして,疲労や心理的負荷等が過度に蓄積すると,労働者の心身の健康を損なう危険のあることは,周知のところである。」としており,長時間労働により疲労や心理的負荷等が過度に蓄積した場合において労働者の心身の健康を損なうことを通常損害と捉えていると考えられます。
 とすると,長時間労働により疲労や心理的負荷等が過度に蓄積した事実が認められれば,通常は労働者の心身の健康を損なうことの一態様であるうつ病等の精神疾患発症との間に相当因果関係が認められることになる可能性が高いものと思われます。
 認定基準では,長時間労働との関係では,
 ① 発病日直前の1か月におおむね160時間を超えるような,またはこれに満たない期間にこれと同程度の(例えば3週間におおむね120時間以上の)時間外労働(週40時間を超える労働時間数)を行った場合(休憩時間は少ないが手待ち時間が多い場合等,労働密度が特に低い場合を除く。)
 ② 発病直前の連続した2か月間に,1月当たりおおむね120時間以上の時間外労働を行い,その業務内容が通常その程度の労働時間を要するものであった場合
 ③ 発病直前の連続した3か月間に,1月当たりおおむね100時間以上の時間外労働を行い,その業務内容が通常その程度の労働時間を要するものであった場合
 ④ 具体的出来事の心理的負荷の強度が労働時間を加味せずに「中」程度と評価される場合であって,出来事の後に恒常的な長時間労働(月100時間程度となる時間外労働)が認められる場合
 ⑤ 具体的出来事の心理的負荷の強度が労働時間を加味せずに「中」程度と評価される場合であって,出来事の前に恒常的な長時間労働(月100時間程度となる時間外労働)が認められ,出来事後すぐに(出来事後おおむね10日以内に)発病に至っている場合,又は,出来事後すぐに発病には至っていないが事後対応に多大な労力を費しその後発病した場合 
 ⑥ 具体的出来事の心理的負荷の強度が,労働時間を加味せずに「弱」程度と評価される場合であって,出来事の前及び後にそれぞれ恒常的な長時間労働(月100時間程度となる時間外労働)が認められる場合
等が客観的に対象疾病を発病させるおそれのある強い心理的負荷であるとされています。

(3) セクハラと損害賠償責任
 男女雇用機会均等法11条は,第1項において,「事業主は,職場において行われる性的な言動に対するその雇用する労働者の対応により当該労働者がその労働条件につき不利益を受け,又は当該性的な言動により当該労働者の就業環境が害されることのないよう,当該労働者からの相談に応じ,適切に対応するために必要な体制の整備その他の雇用管理上必要な措置を講じなければならない。」と定め,第2項において,「厚生労働大臣は,前項の規定に基づき事業主が講ずべき措置に関して,その適切かつ有効な実施を図るために必要な指針(次項において「指針」という。)を定めるものとする。」と定めています。
 第2項を受けて定められた指針が,「事業主が職場における性的な言動に起因する問題に関して雇用管理上講ずべき措置についての指針(平成18年厚生労働省告示第615号)」(セクハラ指針)です。
 セクハラ指針は,行政指導の根拠規定であって,直ちに安全配慮義務違反の有無を判断する際の基準となるわけではありませんが,使用者にはセクハラ指針が定める措置を講じる義務がありますし,その内容にも一定の合理性が認められますので,安全配慮義務違反の有無を判断する際にも参考にされるものと考えられます。
 認定基準では,セクハラとの関係では,
 ① 強姦や,本人の意思を抑圧して行われたわいせつ行為などのセクシュアルハラスメントを受けた場合
 ② 胸や腰等への身体接触を含むセクシュアルハラスメントであって,継続して行われた場合
 ③ 胸や腰等への身体接触を含むセクシュアルハラスメントであって,行為は継続していないが,会社に相談しても適切な対応がなく,改善されなかった又は会社への相談等の後に職場の人間関係が悪化した場合
 ④ 身体接触のない性的な発言のみのセクシュアルハラスメントであって,発言の中に人格を否定するようなものを含み,かつ継続してなされた場合
 ⑤ 身体接触のない性的な発言のみのセクシュアルハラスメントであって,性的な発言が継続してなされ,かつ会社がセクシュアルハラスメントがあると把握していても適切な対応がなく,改善がなされなかった場合
等が客観的に対象疾病を発病させるおそれのある強い心理的負荷であるとされています。
 認定基準では,「② いじめやセクシュアルハラスメントのように,出来事が繰り返されるものについては,発病の6か月よりも前にそれが開始されている場合でも,発病前6か月以内の期間にも継続しているときは,開始時からのすべての行為を評価の対象とすること。」とされています。
 認定基準では,以下のような留意事項が定められています。
 ① セクシュアルハラスメントを受けた者(以下「被害者」という。)は,勤務を継続したいとか,セクシュアルハラスメントを行った者(以下「行為者」という。)からのセクシュアルハラスメントの被害をできるだけ軽くしたいとの心理などから,やむを得ず行為者に迎合するようなメール等を送ることや,行為者の誘いを受け入れることがあるが,これらの事実がセクシュアルハラスメントを受けたことを単純に否定する理由にはならないこと。
 ② 被害者は,被害を受けてからすぐに相談行動をとらないことがあるが,この事実が心理的負荷が弱いと単純に判断する理由にはならないこと。
 ③ 被害者は,医療機関でもセクシュアルハラスメントを受けたということをすぐに話せないこともあるが,初診時にセクシュアルハラスメントの事実を申し立てていないことが心理的負荷が弱いと単純に判断する理由にはならないこと。
 ④ 行為者が上司であり被害者が部下である場合,行為者が正規職員であり被害者が非正規労働者である場合等,行為者が雇用関係上被害者に対して優越的な立場にある事実は心理的負荷を強める要素となり得ること。

(4) パワハラと心理的負荷
 違法なパワハラに該当するかどうかは,行為のなされた状況,行為者の意図・目的,行為の態様,侵害された権利・利益の内容,程度,行為者の職務上の地位,権限,両者のそれまでの関係,反復・継続性の有無,程度等の要素を総合考慮し,社会通念上,許容される範囲を超えているかどうかにより判断されることになります。
 平均的な心理的耐性を有する者に心理的負荷を過度に蓄積させると客観的に評価されるような行為は,原則として違法となるが,その行為が合理的理由に基づいて,一般的に妥当な方法と程度で行われた場合には,正当な職務行為として違法性が阻却される場合があるとする裁判例もあります。
 認定基準は,パワハラとの関係では,
 ① 部下に対する上司の言動が,業務指導の範囲を逸脱しており,その中に人格や人間性を否定するような言動が含まれ,かつ,これが執拗に行われた場合
 ② 同僚等による多人数が結託しての人格や人間性を否定するような言動が執拗に行われた場合
 ③ 業務をめぐる方針等において,周囲からも客観的に認識されるような大きな対立が上司との間に生じ,その後の業務に大きな支障を来した場合
 ④ 業務をめぐる方針等において,周囲からも客観的に認識されるような大きな対立が多数の同僚との間に生じ,その後の業務に大きな支障を来した場合
 ⑤ 業務をめぐる方針等において,周囲からも客観的に認識されるような大きな対立が多数の部下との間に生じ,その後の業務に大きな支障を来した場合
等が客観的に対象疾病を発病させるおそれのある強い心理的負荷であるとされています。

弁護士法人四谷麹町法律事務所
弁護士 藤田 進太郎

精神疾患を発症して欠勤や休職を繰り返す。

2013-09-13 | 日記
精神疾患を発症して欠勤や休職を繰り返す。

(1) 業務による精神疾患悪化の防止
 業務により精神障害が悪化することがないよう配慮することが何よりも重要です。
 精神疾患を発症していることを知りながらそのまま勤務を継続させ,その結果,業務に起因して症状を悪化させた場合は,会社が安全配慮義務違反を問われて損害賠償義務を負うことになりかねません。
 社員が病気であることが分かったら,それに応じた対応が必要であり,本人が就労を希望していたとしても,漫然と放置してはいけません。

(2) 所定労働時間内の通常業務であれば問題なく行える程度の症状である場合
 所定労働時間内の通常業務であれば問題なく行える程度の症状である場合は,時間外労働や出張等,負担の重い業務を免除する等して対処すれば足ります。

(3) 長期間にわたって所定労働時間の勤務さえできない場合
 長期間にわたって所定労働時間の勤務さえできない場合は,原則として,私傷病に関する休職制度がある場合は休職を検討し,私傷病に関する休職制度がない場合は普通解雇を検討することになります。

(4) 精神疾患を発症した社員が出社してきた場合の対応
 精神疾患を発症した社員が出社してきた場合であっても,労働契約の債務の本旨に従った労務提供ができない場合は,就労を拒絶して帰宅させ,欠勤扱いにすれば足ります。

(5) 労働契約の債務の本旨に従った労務提供ができるかどうかを判断する際の職種や業務内容の範囲
 労働契約の債務の本旨に従った労務提供ができるかどうかは,職種や業務内容を特定して労働契約が締結された場合は当該職種等についてのみ検討すれば足りるケースが多いですが,職種や業務内容を特定せずに労働契約が締結されている場合は,現に就業を命じた業務について労務の提供が十分にできないとしても,当該社員が配置される現実的可能性があると認められる他の業務について労務の提供ができ,かつ,本人がその労務の提供を申し出ているのであれば,債務の本旨に従った履行の提供があると評価されるため(片山組事件最高裁第一小法廷平成10年4月9日判決),他の業務についても検討する必要があります。

(6) 専門医の助言の重要性
 労働契約の債務の本旨に従った労務提供があるかどうかを判断するにあたっては,専門医の助言を参考にする必要があります。
 本人が提出した主治医の診断書の内容に疑問があるような場合であっても,専門医の診断を軽視することはできません。
 主治医への面談を求めて診断内容の信用性をチェックしたり,精神疾患に関し専門的知識経験を有する産業医等への診断を求めたりして,病状を確認して下さい。

(7) 指定医への受診を拒絶した場合の対応
 主治医の診断に疑問がある場合に,会社が医師を指定して受診を命じたところ,本人が指定医への受診を拒絶した場合は,労働契約の債務の本旨に従った労務提供がないものとして労務の提供を拒絶し,欠勤扱いとすることができる可能性がありますが,慎重に検討する必要があります。

(8) 私傷病に関する休職制度の趣旨
 私傷病に関する休職制度は,普通解雇を猶予する趣旨の制度であり,必ずしも就業規則に規定しなければならない制度ではない。
 休職制度を設けずに,私傷病に罹患して働けなくなった社員にはいったん退職してもらい,私傷病が治癒したら再就職を認めるといった運用も考えられる。

(9) 本人が精神疾患の発症や休職事由の存在を否定し,専門医による診断を拒絶する場合の対応
 明らかに精神疾患を発症しているにもかかわらず,本人が精神疾患の発症や休職事由の存在を否定し,専門医による診断を拒絶することがありますが,精神疾患等の私傷病を発症しておらず健康であるにもかかわらず,労働契約の債務の本旨に従った労務を提供することができていないとすれば,通常は普通解雇事由に該当することになります。
 本人の言っていることが事実だとすれば,普通解雇を検討せざるを得ない旨伝えた上で,専門医による診断を促すのが適切なケースもあります。

(10) 精神障害を発症した社員が出社と欠勤を繰り返したような場合に備えた就業規則
 精神障害を発症した社員が出社と欠勤を繰り返したような場合であっても休職させることができるようにしておく必要があります。
 例えば,一定期間の欠勤を休職の要件としつつ,「欠勤の中断期間が30日未満の場合は,前後の欠勤期間を通算し,連続しているものとみなす。」等の通算規定を置くことになります。
 もしくは,「精神の疾患により,労務の提供が困難なとき。」等を休職事由として,一定期間の欠勤を休職の要件から外す規定も考えられます。
 再度,長期間の欠勤が必要とするような規定にしてはいけません。

(11) 休職させずに直ちに解雇した場合のリスク
 私傷病に関する休職制度があるにもかかわらず,精神疾患を発症したため労働契約の債務の本旨に従った労務提供ができないことを理由としていきなり普通解雇するのは,解雇権を濫用(労契法16条)したものとして解雇が無効と判断されるリスクが高いと思われます。
 解雇が有効と認められるのは,休職させても回復の見込みが客観的に乏しい場合に限られるでしょう。
 医学的根拠もなく,主観的に休職させても回復しないだろうと思い込み,精神疾患に罹患した社員を休職させずに解雇した場合,解雇が無効と判断されるリスクが高いと言わざるを得ません。

(12) 本人が休職を希望している場合の対応
 本人が休職を希望している場合は,休職申請書を提出させてから,休職命令を出して下さい。
 休職申請書を提出させることにより,休職命令の有効性が争われるリスクが低くなります。
 「合意」により休職させる場合は,休職期間(どれだけの期間が経過すれば退職扱いになるのか。)についても合意しておいて下さい。
 通常,就業規則に規定されている休職期間は,休職命令による休職に関する規定であり,合意休職に関する規定ではないため,合意により休職させた場合,何年の何月何日に休職期間が満了するのか争いになることがあります。
 原則どおり,本人から休職申請書を提出させた上で,休職「命令」を出すのが簡明なのではないでしょうか。

(13) 休職期間満了日の通知
 精神疾患が治癒しないまま休職期間が満了すると退職という重大な法的効果が発生することになりますので,休職命令発令時に,何年の何月何日までに精神疾患が治癒せず,労務提供ができなければ退職扱いとなるのか通知するとともに,休職期間満了前の時期にも,再度,休職期間満了時期や精神疾患が治癒しないまま休職期間が満了すれば退職扱いとなる旨通知すべきです。

(14) 欠勤日・休職期間を無給とすることの重要性
 欠勤と休職を繰り返されても,真面目に働いている社員が不公平感を抱いたり,会社の負担が重くなったりしないようにするために最も重要なことは,欠勤日,休職期間を無給とすることだと思います。
 欠勤日や休職期間中も有給とした場合,会社の活力が失われてしまいかねません。
 無休とした上で,傷病手当金支給申請に協力すれば十分です。

(15) 休職と復職を繰り返されないようにするための就業規則
 復職後間もない時期(復職後6か月以内等)に休職した場合には,休職期間を通算する(休職期間を残存期間とする)等の規定を置くことをお勧めします。
 そのような規定がない場合は,普通解雇を検討せざるを得ないですが,有効性が争われるリスクが高くなります。

(16) 復職の可否の判断基準
 復職の可否は,休職期間満了時までに治癒したか(休職事由が消滅したか)否かにより判断されるのが原則です。
 職種や業務内容を特定せずに労働契約が締結されている場合は,現に就業を命じた業務について労務の提供が十分にできないとしても,当該社員が配置される現実的可能性があると認められる他の業務について労務の提供ができ,かつ,本人がその労務の提供を申し出ているのであれば,債務の本旨に従った履行の提供があると評価されるため(片山組事件最高裁第一小法廷平成10年4月9日判決),他の業務についても労働契約の債務の本旨に従った労務提供ができるかどうかについても検討する必要があります。

(17) 休職期間満了時までに精神疾患が治癒せず,休職期間満了時には不完全な労務提供しかできなかったとしても,直ちに退職扱いにすることができないとする裁判例
 例えば,エール・フランス事件東京地裁昭和59年1月27日判決は,「傷病が治癒していないことをもって復職を容認しえない旨を主張する場合にあっては,単に傷病が完治していないこと,あるいは従前の職務を従前どおりに行えないことを主張立証すれば足りるのではなく,治癒の程度が不完全なために労務の提供が不完全であり,かつ,その程度が,今後の完治の見込みや,復職が予定される職場の諸般の事情等を考慮して,解雇を正当視しうるほどのものであることまでをも主張立証することを要するものと思料する。」と判示しています。
 休職期間満了時までに精神疾患が治癒せず,休職期間満了時には不完全な労務提供しかできなかったとしても,直ちに退職扱いにすることができないとしたのでは,休職期間を明確に定めた意味がなくなってしまい,使用者の予測可能性・法的安定性が害され妥当ではないと考えますが,反対の立場を取るにせよ,このような裁判例が存在することを理解した上で対応を検討していく必要があります。

(18) 復職の可否を判断する上でも専門医の助言はやはり重要
 復職の可否を判断するにあたっては,専門医の助言を参考にする必要があります。
 本人が提出した主治医の診断書の内容に疑問があるような場合であっても,専門医の診断を軽視することはできません。
 主治医への面談を求めて診断内容の信用性をチェックしたり,精神疾患に関し専門的知識経験を有する産業医等への診断を求めたりして,病状を確認して下さい。

(19) 指定医への受診を拒絶した場合の対応
 主治医の診断に疑問がある場合に,会社が医師を指定して受診を命じたところ,本人が指定医への受診を拒絶した場合は,休職期間満了時までに治癒していない(休職事由が消滅していない)ものとして取り扱って復職を認めず,退職扱いとすることができる可能性があります。

(20) 休職制度の公平・平等な運用
 休職制度の運用は公平・平等に行って下さい。
 勤続年数等により異なる扱いをする場合は,予め就業規則に規定しておく必要があります。
 休職命令の発令,休職期間の延長等に関し,同じような立場にある社員の扱いを異にした場合,紛争になりやすく,敗訴リスクも高まります。

(21) 精神疾患の発症と労災
 精神疾患の発症の原因が,長時間労働,セクハラ,パワハラによるものだから労災だとの主張がなされることがあります。
 精神疾患の発症が労災か私傷病かは,行政レベルでは『心理的負荷による精神障害の認定基準』(基発1226第1号平成23年12月26日)により判断されますので,同認定基準を参考にして検討することはできますが,その判断は必ずしも容易ではありません。
 実務的には,労災申請を促して労基署の判断を仰ぎ,審査の結果,労災として認められれば労災として扱い,労災として認められなければ私傷病として扱うこととすれば足りることが多いと思われます。

(22) 労災だった場合の民事上のリスク
 精神疾患の発症が労災の場合,療養するため休業する期間及びその後30日間は原則として解雇することができません(労基法19条1項)。
 労基法19条1項は休職期間満了による退職にも類推適用され,退職の効果も発生しないと考えるのが一般的です。
 欠勤が続いている社員を解雇しようとしたり,休職期間満了で退職扱いにしたりしようとした際,精神疾患の発症は業務に起因しており労災なのだから解雇,退職は無効だと主張されることがあります。
 精神疾患の発症が労災として認められた場合,業務と精神疾患の発症との間に,法的にみて労災補償を認めるのを相当とする関係(相当因果関係)が認められたことになるため,労災保険給付でカバーできない損害(慰謝料等)について損害賠償請求を受けるリスクも高くなります。

弁護士法人四谷麹町法律事務所
弁護士 藤田 進太郎

管理職なのに部下を管理できない。

2013-09-13 | 日記
管理職なのに部下を管理できない。

 まずは,自分で仕事をこなす能力と,部下を管理する能力は,別の能力であることをよく理解した上で,人員の配置を行う必要があります。
 自分で仕事をこなす能力が高い社員であっても,部下を管理する能力は低いということは,珍しくありません。

 部下を管理できない理由が,単なる経験不足によるものである場合は,部下の管理方法について指導しながら経験を積ませたり,研修を受けさせたりして教育することにより,管理職としての育成を図ることになります。
 当該社員が管理職としての適性がないことが原因で部下を管理できない場合は,当該社員の能力でも対応できるレベルの管理職に降格させるか,管理職から外して対応するのが原則です。

 人事権の行使としての降格処分は,就業規則等の根拠規定がなくても会社の裁量的判断により行うことができるのが原則です。
 ただし,その裁量も無限定のものではなく,相当な理由がないのに労働者に大きな不利益を課したような場合には,人事権の濫用により無効と判断されることがあります。
 賃金減額を伴う降格処分も行うことができますが,賃金の減額を伴う場合は,降格の効力を争われるリスクが高まります。
 賃金減額の程度は,人事権の濫用の有無を判断する際に考慮され,賃金減額の程度が大きい場合は人事権の濫用と判断されやすくなります。
 降格を行う必要性と賃金減額の相当性について,説明できるようにしておく必要があります。
 可能であれば,賃金減額を伴う降格に同意する旨の書面を取ってから降格させることが望ましいところです。

 新卒採用されて管理職に昇格した社員や,地位を特定しないで中途採用された社員については,部下を管理する能力に欠けていたとしても,平社員として最低限の勤務をする能力がない場合でない限り,解雇することはできません。
 初めから地位を特定して管理職として中途採用した社員については降格が予定されていないため,本人の同意を得ずに降格処分を行うことはできません。
 地位特定者については,原則として,降格ではなく解雇を検討することになります。
 部下に問題があるために上司が部下を管理できていない場合は,上司に任せきりにせず,組織として対応する必要があります。
 問題行動が多い部下がいることを役員等が知りながら,本腰で対策を練らずにそのまま放置した結果,問題をこじらせるケースが多い印象があります。
 問題から逃げずに正面から向き合い,組織として対応すれば,余程難易度の高い事案でない限り,問題は解決に向かうのが通常です。

弁護士法人四谷麹町法律事務所
弁護士 藤田 進太郎

仕事の能力が低い。

2013-09-13 | 日記
仕事の能力が低い。

 仕事の能力が低い社員を減らす一番の方法は,採用活動を慎重に行い,応募者の適性・能力等を十分に審査して基準を満たした者のみを採用することです。
 採用活動の段階で手抜きをして,十分な審査をせずに採用していったのでは,教育制度がよほど整備されているような会社でない限り,仕事の能力が低い社員を減らすことはできないでしょう。

 採用後の社員の能力が低くて困っている場合は,注意指導,教育して能力の育成を図ることになります。
 注意指導,教育して必要な能力を身につけさせたり,異なる部署への配転をしたりして,能力を発揮できるよう最大限努力して下さい。
 ただし,特定の能力があることを前提として高給で採用された社員,地位を特定して高給で採用された社員に契約で想定されている能力がないことが判明した場合は,教育や配転ではなく,直ちに解雇を検討するのが原則となります。

 能力不足を理由とした解雇が認められるかどうかは,労働契約で求められている能力が欠如しているかどうかによります。
 単に思ったほど能力がなく,見込み違いであったというだけでは,解雇は認められません。
 長期雇用を予定した新卒採用者については,社内教育等により社員の能力を向上させていくことが予定されているのですから,能力不足を理由とした解雇は,例外的な場合でない限り,認められません。
 一般的には,勤続年数が長い社員,賃金が低い社員は,能力不足を理由とした解雇が認められにくい傾向にあります。
 採用募集広告に,「経験不問」と記載して採用した場合は,一定の経験がなければ有していないような能力を採用当初から有していることを要求することはできません。

 特定の能力を有することが労働契約の条件として明示されて高給で採用された社員,地位を特定して高給で採用された社員に労働契約で予定された能力がなかった場合には,解雇が認められやすい傾向にあります。
 ただし,解雇が比較的緩やかに認められる前提として,当該当該契約で求められている能力の内容を主張立証する必要がありますので,労働契約書等の書面に明示しておいて下さい。
 労働契約書等に明示されていないと,当該当該契約で求められている能力の内容の主張立証が困難となることがあります。

 能力不足を理由とした解雇が有効と判断されるようにするためには,能力不足を示す「具体的事実」を立証できるようにしておく必要があります。
 抽象的に「能力不足」と言ってみても,裁判官を説得することはできません。
 営業成績のように数字に残るものがある業務に従事している社員については比較的立証しやすいですが,そうでない業務に従事している社員については,何月何日に能力不足を示すどのような具体的事実があったのか,記録に残しておく必要があります。
 「彼(女)の能力が低いことは,周りの社員も,取引先もみんな知っている。」というだけでは足りません。
 解雇に踏み切る可能性が高い場合は,解雇に先立ち,一定の目標を達成できない場合は解雇する旨,警告しておくことが望ましいところです。

弁護士法人四谷麹町法律事務所
弁護士 藤田 進太郎

就業時間外に社外で飲酒運転・痴漢・傷害事件等の刑事事件を起こす。

2013-09-13 | 日記
就業時間外に社外で飲酒運転・痴漢・傷害事件等の刑事事件を起こす。

 就業時間外に社外で社員が刑事事件を起こしたとしても,それだけでは直ちに懲戒処分に処することができるわけではありません。
 まずは,本人の言い分をよく聞き,記録に残しておく必要があります。
 本人が犯行を否認しており,犯罪が行われたかどうかが明らかではない場合は,犯行があったことを前提に懲戒処分をすることはリスクが高いので,懲戒処分は慎重に行う必要があります。

 逮捕勾留されたことにより,社員本人と連絡が取れなくなり,無断欠勤が続くこともあり得るが,まずは家族等を通じて,連絡を取る努力をして下さい。
 家族等から,欠勤の連絡等が入ることがありますが,懲戒解雇等の処分を恐れて,犯罪行為により逮捕勾留されていることまでは報告を受けられない場合もあります。
 痴漢,傷害事件等,被害者のある刑事事件における弁護人の起訴前弁護の主な活動内容は,早期に被害者と示談して不起訴処分を勝ち取ることです。
 不起訴処分が決まれば,逮捕勾留は解かれ,出社できる状態となります。
 刑事事件を犯したことを会社に知られずに出社できた場合は,弁護人としていい仕事をしたことになります。

 年休取得の申請があった場合は,年休扱いにするのが原則です。
 年休取得を認めずに欠勤扱いとした場合,欠勤を理由とした解雇等の処分が無効となるリスクが生じますので,年休を使い切らせてから対応を検討した方がリスクは小さくなります。

 起訴休職制度を設けると,有罪判決が確定するまで解雇することができないと解釈されるおそれがありますので,起訴休職制度は設けず,個別に対応するという選択肢もあり得るところです。
 従業員が起訴された事実のみで,形式的に起訴休職の規定の適用が認められるとは限らず,休職命令が無効と判断されることもありますので,休職命令を出す際は,その必要性,相当性について検討してからにする必要があります。

 懲戒解雇は紛争になりやすく,懲戒解雇が無効と判断されるリスクもそれなりにありますので,慎重に検討する必要があります。
 会社の社会的評価を若干低下させたという程度では,懲戒解雇の理由としては不十分です。
 日本鋼管事件最高裁第二小法廷昭和49年3月15日判決は,「就業時間外に社外で行われた刑事事件が会社の社会的評価に重大な悪影響を与えたこと」を理由とする懲戒解雇の可否の判断にあたり,「当該行為の性質,情状のほか,会社の事業の種類・態様・規模,会社の経済界に占める地位,経営方針及びその従業員の会社における地位・職種等諸般の事情から綜合的に判断して,右行為により会社の社会的評価に及ぼす悪影響が相当重大であると客観的に評価される場合」に該当するかどうかを検討しています。

 タクシーやバスの運転業務に従事している社員が飲酒運転した場合は,比較的懲戒解雇が有効とされやすい傾向にあります。
 ただし,「酒気帯び状態であれば,仮にそのまま運転していれば道路交通法違反で検挙されることになりかねない程度の非違行為があったものとして解雇に値することが明らかだが,そこまでの断定ができない者についても当然に解雇とすることが社会一般の常識であると評価することには躊躇を感じる」として,バス運転手の飲酒運転を理由とした諭旨解雇を無効とした裁判例(京阪バス事件京都地裁平成22年12月15日判決)もあり,事案ごとの判断が必要となります。
 電鉄会社社員等,痴漢を防止すべき立場にある者が痴漢した場合も,比較的懲戒解雇が認められやすいところです。

 懲戒解雇が無効とされるリスクがある事案については,より軽い懲戒処分にとどめた方が無難なことも多いところです。
 結果として,社員が自主退職することもあります。
 最初に刑事事件を起こした際に,懲戒解雇を回避してより軽い懲戒処分をする場合は,書面で,次に痴漢等の刑事事件を起こしたら懲戒解雇する旨の警告をするか,次に痴漢等の刑事事件を起こしたら懲戒解雇されても異存ない旨記載された始末書を取っておくことをお勧めします。
 これがあれば万全というわけではありませんが,同種事犯を犯した場合の懲戒解雇が有効となりやすくなります。

 懲戒解雇事由に該当する場合を退職金の不支給・減額・返還事由として規定しておけば,懲戒解雇事由がある場合で,当該個別事案において,退職金不支給・減額の合理性がある場合には,退職金を不支給または減額したり,支給した退職金の全部または一部の返還を請求したりすることができます。
 退職金の不支給・減額事由の合理性の有無は,労働者のそれまでの勤続の功を抹消(全額不支給の場合)又は減殺(一部不支給の場合)するほどの著しい背信行為があるかどうかにより判断されます。
 懲戒解雇が有効な場合であっても,労働者のそれまでの勤続の功を抹消するほどの著しい背信行為はない場合は,例えば,本来の退職金の支給額の30%とか50%とかいった金額の支払が命じられることがあります。

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弁護士 藤田 進太郎