パンダとそらまめ

ヴァイオリン弾きのパンダと環境系法律屋さんのそらまめによる不思議なコラボブログです。
(「初めに」をご一読ください)

道路特定財源の見直し~参照点はどこ?

2006-12-09 23:38:49 | Weblog
 ごちゃごちゃしてた道路特定財源見直しの件が合意に至ったんですね。
  道路特定財源の見直しに関する具体策(12月8日官邸HP) 
まぁ、今シーズンはこれで合意、来シーズン詳細詰めますってことみたいですが(良く言うと方針決定、悪く言うと先送り、何だか国際交渉みたい)、本件どうも政治のごちゃごちゃを抜きにした議論が活発なように思えないというか、いや議論はいっぱいあるんですが、どうも噛み合っているように思えないんです。なぜかというと、議論の際の参照点(議論の出発点)が人によって、あるいは同じ人でも場面によって変わってるように思えるから。具体的に言うと現状なのかと暫定税率のない本則の状態なのかということ。参照点によって損失なのか利得なのか見え方というか価値判断が変わるし、損失か利得かで同量でも違って評価されることが通例なので(endowment effect、同じものでも既得のものを手放す方が(WTA)、新たに入手するとき(WTP)よりも価値が大きく感じる)、この差は重要です。

 そもそもですが、道路特定財源は揮発油税、自動車重量税、軽油引取税、自動車取得税etc.からなっていて、「道路整備に充当するという約束で、本則税率の約2倍の税率を定め、自動車利用者に特別な負担を頂いている」(国交省道路局HP)と説明されてきてます。※※まぁ「暫定税率」そのものを定めている租税特別措置法(や地方税法附則)に「道路整備に充当するという約束」が書いてあるハズもないのですが、税目全体を道路整備に充てろと違うところ(道路整備費財源特例法や地方税法)で書いてるので合わせ読むと条文の文言解釈としても納得いくところだし、何より道路五ヵ年計画の財源が足りないと言って増やしたという暫定税率当初(74年)の経緯からして明らかですね。
んで、なんで見直しが必要かという背景は昨年末決定してた基本方針の前文に端的に示されています。
 道路特定財源は、長年にわたり、立ち遅れた我が国の道路の整備状況に鑑み、自動車利用者の負担により、緊急かつ計画的に道路を整備するための財源としての使命を担ってきた。
 しかしながら、その後、道路の整備水準の向上する中、近年の公共投資全体の抑制などを背景とする道路歳出の抑制等により、平成19年度には特定財源税収が歳出を大幅に上回ることが見込まれるに至っている。このため、現時点において、改めて、今後、真に必要となる道路整備のあり方について見極めるとともに、特定財源のあり方について、納税者の理解を得て、抜本的な見直しを行うことが喫緊の課題となっている。
 その際、現下の危機的な財政事情に鑑みれば、見直しによって国の財政の悪化を招かないよう十分に配慮し、また、特定財源の使途のあり方について、納税者の理解の得られるよう、以下を基本方針として見直す。
要するに、従来のままだと多額の剰余金が出る、他方で財政は厳しい、さて(納税者の皆様)どうしよう、ってことですね。具体的に言うと本四公団の債務処理分5000億円程が余りますよ、と。決まってた基本方針では
1.道路整備に対するニーズを踏まえ、その必要性を具体的に見極めつつ、真に必要な道路は計画的に整備を進める。その際、道路歳出は財源に関わらず厳格な事業評価や徹底したコスト縮減を行い、引き続き、重点化、効率化を図る。
2.厳しい財政事情の下、環境面への影響にも配慮し、暫定税率による上乗せ分を含め、現行の税率水準を維持する。
3.特定財源制度については、一般財源化を図ることを前提とし、来年の歳出・歳入一体改革の議論の中で、納税者に対して十分な説明を行い、その理解を得つつ、具体案を得る。
んで、これを受け継いで、安倍首相の所信表明演説では
特別会計の大幅な見直しを実行に移すとともに、道路特定財源については、①現行の税率を維持しつつ、②一般財源化を前提に見直しを行い、③納税者の理解を得ながら、④年内に具体案を取りまとめます。
としてたわけですね(注:番号付けそらまめ)。①の言いっぷりから明らかなように、ここでは参照点はあくまで現行の税率ってことですね。何事も現状からの改変っていう意味ではある意味当たり前かも。

 んでコレに対する典型的な批判が、道路に使うから暫定税率で2倍にしてるんだろう、道路に使わないんだったら本則税率に戻せ、というもの。自工会やJAFやらで作る自動車税制改革フォーラムが1,000万人の署名(!)を集めた「道路のために払っているクルマの税金の一般財源化には反対です!! 道路整備以外に使うのであれば本来の税率に戻すべきです。」の主張もそんな感じ↓
1.道路特定財源(自動車重量税等)は、受益者負担の考えから、道路整備のために創設されたものです。一般財源化や道路整備以外への転用には到底納得できません。
2.これらの税金は、早急な道路整備の必要性から、本則税率を大幅に上回る暫定割増税率が30年以上続いています。道路整備に使わないのであれば本来の税率に戻すべきです。
ここでは参照点は本則の税率ですよね。多分「暫定税率」というネーミングがイケテルというか、参照点は租特の税率じゃないよ、っていう気にさせてくれるというか。(数ある租税特別措置の中でコレぐらいじゃないか、「暫定税率」の名称がこんなに広まってるのは。住宅ローン減税の名前が「住宅ローン暫定減税」だったら縮小じゃなくて廃止されてるんじゃなかろうか)
 
 じゃぁ、参照点を租税特別措置法抜きの税率で考えた場合に、基本に戻って、1)必要性 2)担税力(税金の負担に耐える力) 3)受益ー負担関係 を考えながら多額の剰余金&厳しい財政をどうするか考えてみましょう、って議論に発展するかというと、なぜかそうならなくって、「道路に使わないなら廃止しろ」という議論で終わっているように見える。道路を作らない?ならば、税を廃止せよ!(ライブドアPJ)とか、漂流する道路特定財源 税率温存『詐欺行為だ』(東京新聞ー最後の論壇メモのオチつき)とか。後者は財政再建が必要なら「財政再建のための財源は別途、議論をすべきではないのか」と言ってますが、仮に現行税率程度なら担税力があって、受益ー負担関係もあまりに遠すぎはしないと国会で新たに判断して立法するならそれはそれで別途議論したことになる。
 
 んで、見直しを進めたい側も、既に基本方針で決めちゃったものだから(小泉前総理の執念とでも言うべきか)、参照点は現行税率から全く動いてこないわけで、違う参照点どうしの泥仕合になってたわけですね。片方は増税だと思い、片方はそんな意識は微塵もないんだから議論が噛み合うわけはないか。参照点が本則の税率だとすると、現行税率維持は±ゼロではなくて、価値剥奪なので(WTAが高いが故に)反対が強くなることはそれなりに合理的なハズ(「族議員の聖域」と切って捨てる(産経社説)のは乱暴だと思う)。他方で仮に参照点を本則だとしてもその先の議論が必要で、担税力がないならないでなぜ現行税率程度であっても(もはや)担税力がないのか示さなきゃいけないし、受益と負担の関係にしても「財政再建と自動車ユーザーは関係ありません」というのも無責任過ぎるというか、じゃぁタバコや酒の税収は喫煙者や飲酒者のために使われなきゃいけないのか、固定資産税は不動産所有者に使われなきゃいけないのか、なぜ自動車関係税制が道路整備のみに使われなければいけないのか(経緯論以外で)キチンと議論しなきゃいけないハズ。
 
 今回決まった「具体案」の多分最大の発明は「道路歳出を上回る税収は一般財源」ってことなんでしょう。具体案と言ってもその実昨年の基本方針をちょいと膨らませた程度でしかありませんが(といっても道路整備費特定財源法をいじるのねとか条文イメージがわく程度に具体的ではありますが)、また来年までごちゃごちゃすれ違いの議論をするんですかねぇ~。結局政治の力で決めるって何だか不幸というか、リソースの無駄遣いっていうか、折角「具体案」が決まったんだから前向きな議論をしてほしいという気がします。