パンダとそらまめ

ヴァイオリン弾きのパンダと環境系法律屋さんのそらまめによる不思議なコラボブログです。
(「初めに」をご一読ください)

京都議定書3条9と9条

2005-12-02 23:39:27 | 環境ネタ
 先日ちらと触れましたが、モントリオールで開催中のCOP11・COP/MOP1で、京都議定書以降(2013年以後)の削減義務についての議論が始まっています。ちらと議事概要を覗いてみると、ENB 12月1日木曜日(日本語仮訳)、おおっ、提案が出揃って活発(そう)な議論ではないですか。

 京都議定書3条9項 (将来約束): G-77/中国、EU、日本が作成した3つの提出文書が提起された。
ベルリン・マンデートを想起しつつ、G-77/中国の提案は無期限でアドホック・グループを設け、COP/MOP 4での成果文書の採択を目指して附属書I国による将来約束を検討するべきだと要請した。EU提案では、特に、京都議定書9条(京都議定書の検討)について想起しつつ、京都議定書3条9項に従って、附属書I国の約束に関する検討開始を決定し、締約国に対してはSB 24でさらに検討するための提出文書作成を求めた。日本は、同じく9条を想起しつつ、京都議定書は第一歩にすぎないことを認識し、非附属書I 国の排出量が急増していることに触れ、次の提案を行った。附属書I国の約束について踏み込んだ検討の開始、9条に基づいた検討に向けた準備、COP12で全ての締約国が参加できる実効性のある枠組みづくりに向けたUNFCCCによる検討の開始。
 この問題は京都議定書の正当性(legitimacy)のために重要であり、明確な期限を設定してプロセスを開始する必要があるということで締約国が合意した。G-77/中国はかれらの提案を交渉の叩き台とするよう要請したが、EUと日本がこれに反対した。共同議長により土曜のコンタクトグループ会合用の文書がまとめられる。


これが正しいとしてちょっと解説めいた随筆を。そもそも、今モントリオールでこういう議論をしているのは、京都議定書3条9に以下のような規定があるからです。

Article 3. 9. Commitments for subsequent periods for Parties included in Annex I shall be established in amendments to Annex B to this Protocol, which shall be adopted in accordance with the provisions of Article 21, paragraph 7. The Conference of the Parties serving as the meeting of the Parties to this Protocol shall initiate the consideration of such commitments at least seven years before the end of the first commitment period referred to in paragraph 1 above.
第三条9 附属書Ⅰに掲げる締約国のその後の期間に係る約束については、第二十一条7の規定に従って採択される附属書Bの改正において決定する。この議定書の締約国の会合としての役割を果たす締約国会議は、1に定める一回目の約束期間が満了する少なくとも七年前に当該約束の検討を開始する。


第一約束期間の満了する7年前=2012-7=2005=今年!ってことです。いやぁ、めでたく将来の話ができるのね、これでアメリカも途上国も参加する枠組の議論が始まるね、万歳、というのはあまりに早計です。
 よく上記の条文を読むと、"Commitments for subsequent periods"に、"for Parties included in Annex I"という重大な限定があります。Parties included in Annex Iというのは、気候変動枠組条約の附属書Ⅰに掲げられた国(いわゆる附属書I国)で、途上国は含まれません(「非附属書I国」と呼ばれます)。しかも、The Conference of the Parties serving as the meeting of the Parties to this Protocol=COP/moP=京都議定書締結国会合では、当然ながら議定書未締結国は投票権はありませんので、アメリカも関係なくなってしまいます。(ちなみに、京都議定書附属書Bというのは、日本94、ロシア100、アメリカ93という数字の羅列で、要するにここで「6%削減」と書いているということなんですね。)
 あぁ~何てことだぁ~、一向に一部の先進国だけの取組から拡大しそうもないのねと絶望するのはこれまた早計です。というのも京都議定書には、別に包括的な見直し規定を9条に定めているからです。

Article 9
1. The Conference of the Parties serving as the meeting of the Parties to this Protocol shall periodically review this Protocol in the light of the best available scientific information and assessments on climate change and its impacts, as well as relevant technical, social and economic information. Such reviews shall be coordinated with pertinent reviews under the Convention, in particular those required by Article 4, paragraph 2(d), and Article 7, paragraph 2(a), of the Convention. Based on these reviews, the Conference of the Parties serving as the meeting of the Parties to this Protocol shall take appropriate action.
2. The first review shall take place at the second session of the Conference of the Parties serving as the meeting of the Parties to this Protocol. Further reviews shall take place at regular intervals and in a timely manner.
第九条1 この議定書の締約国の会合としての役割を果たす締約国会議は、気候変動及びその影響に関する入手可能な最良の科学的情報及び評価並びに関連する技術上、社会上及び経済上の情報に照らして、この議定書を定期的に検討する。その検討は、条約に基づく関連する検討(特に条約第四条2(d)及び第七条2(a)の規定によって必要とされる検討)と調整する。この議定書の締約国の会合としての役割を果たす締約国会議は、その検討に基づいて適当な措置をとる。
2 一回目の検討は、この議定書の締約国の会合としての役割を果たす締約国会議の第二回会合において行う。その後の検討は、一定の間隔でかつ適切な時期に行う。


という訳で、9条は議定書そのものの検討を幅広く行う規定であり、しかも気候変動枠組条約4条2や7条と調整して行うことになっています(京都議定書を作ろう!ということになった親条文です)。なので、非附属書I国や議定書非締結国の将来約束の検討をしたければ、議定書9条と条約4条2・7条に基づいた検討を行うことが必要です。この違いは重要で、アメリカは「気候変動枠組条約」の重要性を否定したことは一度もないはずです。

 G77/China(途上国グループ)が言及していない議定書9条にEUや日本が言及しているのはそのためです。この辺りの違いが広く認識されているのかどうか実は怪しい(さすが気候ネットさんは十分意識している「モントリオール会議に期待すること」)のですが、モントリオールでの検討開始を期待しすぎると、結局現在の一部だけが努力している状況を固定化しかねません。他方で、9条に基づくとしても、議定書9条2に規定するようにCOP/MOP2では必ず検討を開始する必要があります。

 京都議定書の複雑な仕組みは脇において、「一部の人が頑張っている仕組み」を進化させるとすると「頑張る人を増やす」&「もっと頑張る」という方向性しかないハズです(アンドです!)。とすると、
・途上国:ベルリンマンデート(途上国には一切追加義務なし)をリファーしたり、「頑張る人を増やす」という側面が一切ないので論外
・EU:9条に言及しつつも、結局今回始める検討は、議定書3条9に従った検討のみであって、「頑張る人を増やす」側面が含まれない
・日本:「もっと頑張る」交渉開始決定と、「頑張る人を増やす」交渉を次回開始
という訳で、(贔屓目を抜きに考えても)日本提案が実は一番すばらしいと思います。

 ただ、日本の提案の弱いところは、「頑張る人を増やす」主張をなぜ今行うのか、もっと言うと、議定書9条、ましてや条約に基づいたレビューの議論は、「京都議定書3条9の議題のもとで行う議論ではない」と反論されたときにぐうの音もでないのではないか、ということです。「いやぁ、途上国の排出量も増えてるじゃないですかぁ~」だけでは「そもそも汚染したのは先進国だろう」と神経を逆なでするだけでまるで調子が出ないでしょうし、「いや議定書はそもそも条約の究極目的のための手段のはずだ」とか、「条約4条2の十分性の検討は結局やってないでしょ」とか何とか苦しい議論を展開するのかなぁ~。非常に悲しいことですが、日本単独で途上国とEUを説得するのは、いかに正論であろうと困難でしょうね。
 
 煮詰まってくると、例えば、 「まず3条9に基づく議論を始めることにして、COP/MOP2で議定書9条に則った検討をする、その際条約4条2と7条の検討と調整する」 なんて所が落としどころになるかもしれません。いや、議定書の規定そのままなのですが、要するに、ます「もっと頑張る」交渉開始は決定して、「頑張る人を増やす」という交渉を開始するかどうかの決定は、次回に先送りということで。EUの立場はこういうものかもしれませんね。
 こうなったとしても、次回のCOP12・COP/MOP2で本気の勝負を行うこととして、それまで「もっと頑張る」交渉はボチボチやるとすれば、「もっと頑張る」も「頑張る人を増やす」ことも両方追求する日本提案と変わらない意味を持つことになり得ます。ただこの場合、途上国と議定書非締結国の約束についてCOP12で交渉入りできないリスクを背負ってしまうことになります。これをどう判断するか、例えばコンセンサスをブロックしてても、包括的な議論にこだわるべきか、1年だけの違いでもあり、3条9の議論を先行させることもやむなしとするかは高いレベルの判断になるでしょうね。
 
 アメリカは条約にはコミットし続けていますし、「条約」の下での交渉を拒むのはブッシュ政権の立場と整合しないはずなのですが。中国の次期5ヵ年計画のトッププライオリティーは省エネですし、議定書条文の根拠のある来年は、交渉入りは「絶対に不可能」とは言えないハズなんですけどねぇ~。ただ、仮に「頑張る人を増やす」ことを確実にしようとするあまり、一見後ろ向きな態度を日本が取ってしまったとしても、それを批判するのは筋違いで、堂々と正論を主張した代表団は思い切り胸を張るべきだと思います。また、「頑張る人を増やす」交渉開始に仮に言及できなかったとしても、これを叱責するような批判が出てくるとすれば、それはそもそも議定書3条9と9条の理解を欠いたものということになるでしょう。

※長文すみません。概要掲載機能もあるようですが、使い方よく分からないし