l'esquisse

アート鑑賞の感想を中心に、日々思ったことをつらつらと。

映画 『クリスマス・キャロル』

2009-12-04 | その他
12月といえばクリスマス。といえば私にとって、イギリス人の文豪チャールズ・ディケンズ(1812-1870)の小説の映画である。

年の瀬になると、毎年のようにNHKがディケンズの作品の映画を放映してくれる。『オリヴァー・トゥイスト』とか『ディヴィッド・コッパーフィールド』とか。そして私は毎回飽くことなくそれらを観て、恐らく1年中で一番イギリスが恋しくなる。

モミの木を担いで(イギリスでは八百屋で売っているそうな)、お父さんたちが坂道をヨタヨタと登っていく光景が目に浮かび、通りに面した出窓の内側で色とりどりの暖かい光を放つクリスマス・ツリーが週末ごとに増えていくロンドンの12月の宵。

ということで、たまには映画の話題でも。

封切前から話題になっていたディズニー映画「クリスマス・キャロル」。言わずと知れたディケンズの名作を元に映画化されたもので、普段ディズニー映画とかハリウッド映画には余り縁のない私も今回ばかりは観に行かずにはいられなかった。しかも私にしては珍しく手間暇かけた映画鑑賞となった。

この映画はどうしても字幕の3Dで観たい。そう思って検索をしていたのだが、私が見つけられたのは日本全国、IMAX 箕輪・川崎・菖蒲の3ヶ所だけ。あとは全て普通の字幕か、3Dであれば日本語吹替のみ。

箕輪は大阪だから、埼玉在住の私にとってチョイスは川崎と菖蒲の2ヶ所。同じ埼玉県内といえど菖蒲ってどこ?と調べると、最寄りはJR久喜駅で、しかも映画館は駅からかなり遠そう。電車代も川崎とほぼ同じだし、これは川崎の方が出やすいかな、と川崎に気持ちが傾きかけたところ、久喜には友だちがいることにハタと気がついた。

その友人に声をかけてみると、映画に付き合ってくれるばかりか、車で久喜駅と映画館の間の送迎をしてくれるという何ともラヴリーなお返事。持つべきものは友だちですね!というわけで、親の実家から届いたリンゴと樽柿をお土産に初めて久喜駅に向かった。

さて、念願かなって3D眼鏡をかけて観たこの映画の感想だが、まずは画像も音も確かにすごい迫力だった。実写とアニメの中間のような不思議な映像は「パフォーマンス・キャプチャー」という技術が使われているそうで、どんな技術かというと(以下映画のオフィシャル・サイトから引用)、「俳優の表情や動きを連続してデジタルに取り込み、それをスクリーンに再現するテクノロジー。そして、俳優の演技を、全周囲360度からコンピュータ・カメラでデジタル的に捉える」もの。

主役のエベニザー・スクルージを演じたジム・キャリーが一人で7役もこなしていると話題だが、スクルージをはじめどの役も本人の容姿の原形をとどめているとは言い難い。ただし、元となった顔の表情や身体の動き、声の演出などは素晴らしい演技であるし、私がかろうじて知っているイギリスの俳優陣の演技もとても良かったと思う。スクルージの甥役のコリン・ファースはすぐに本人とわかる容姿で登場したが、何といってもゲイリー・オールドマン。最初に登場する幽霊である、スクルージのかつての仕事のパートナーで今は亡きマーレイの鬼気迫る演技は、その登場のし方からしてホラー映画の苦手な私を震え上がらせた。

また、登場人物の肌の描写など立体的すぎるほど克明で、毛穴が汚く開いた主役の守銭奴エベニザー・スクルージや不潔っぽい葬儀屋夫婦などをじっと見ていると、ちょっと気持ち悪くなるほど。スクルージの寝室を訪れた幽霊のマーレイが、去り際に窓を開けてスクルージに見せる、責め具に苦しみながら空に浮遊する無数の亡霊たちの映像は幻想的で美しいと思ったけれど。

この映画では、マーレイの幽霊の出現に続いてクリスマスの過去・現在・未来の亡霊が順に登場して話が進んでいくが、最初の「過去の亡霊」が寝室からスクルージをしょっぴいてビュ~ン!と過去への旅に出てから、観ている側もずっとジェット・コースターに乗りっぱなしのような、息をもつかせぬ展開で進んでいく。勿論静的な場面もあるのだが、「現在の亡霊」の豪快な声と場面展開、「最後の亡霊」が現れてからの逃走シーンまで、レッドゾーンに針が振り切っている時間が圧倒的に長く感じられた。監督のロバート・ゼメキスは、「テクノロジーは物語を語るための道具であり、その逆であってはならない」と言っているが、確かに原作に忠実ではあり、ちょっとじんわりくるシーンもあるにはったが、私にはやや「映像ありき」の感が否めず。というより、私が映画に求めるものがそもそも違っていたのだろう。

本編が終わり、ふう、と思っているところにクレジット・ロールが流れ出すと、今度はオペラ歌手アンドレア・ボチェッリが朗々と歌い上げるテーマ・ソング。その大きな音量を聴きながら、あまりイギリスが恋しいという余韻には浸れなかった。

とはいえ、よく出来た映画には違いないので、3Dの画像世界で師走の気忙しさをしばし忘れるのもいいと思います。

下の画像は映画館でもらったスクルージ人形。友人は要らないと言うので、2個ゲット。今にもHumbug!(くだらない!)と毒づきそう。



ついでに、今年の国立西洋美術館の中庭のクリスマス・イルミネーション。ツリーの後ろはロダンの『地獄の門』。スクルージにピッタリ?



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