東京国立博物館 平成館 2009年11月12日(木)-11月29日(日) *会期終了
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1期に続き、何とか2期も観てきた。2期の会期はとても短い、とわかっていながら気付けば閉会間近。インフルエンザも流行っているし、人ごみは極力避けたいところだが、観たいものは観たい。チラ観でもいいや、と開場に向かったはずなのに、実際目の前に『春日権現験記絵』が現れたらやはり列の最後尾に並び、ケースに貼りつく私。懲りません。
構成は以下の通り:
第1章 古の美 考古遺物・法隆寺献納宝物・正倉院宝物
第2章 古筆と絵巻の競演
第3章 中世から近世の宮廷美 宸翰と京都御所のしつらえ
第4章 皇室に伝わる名刀
では順番に行きます:
第1章 古の美 考古遺物・法隆寺献納宝物・正倉院宝物
『聖徳太子像』(法隆寺献納宝物) (奈良時代 8世紀)
聖徳太子の像としては最古のもの。教科書でお馴染みのこの絵の実物を初めて観ることができた。両脇の童子の着物はもともと鮮やかな緑青が使われていたそうで、なるほど緑の断片がところどころ残る。この色が完璧にし残っていたら、さぞやきれいだったことでしょう。それにしても聖徳太子の唇は赤い。
『法華義疏(ほっけぎしょ)』 聖徳太子筆 (飛鳥時代 7世紀)
聖徳太子の直筆の書が現存しているということに単純に驚嘆する。わが国最古の肉筆遺品、だそうである。私は書のことはよくわからないが、自体はチマチマとしていて「これが聖徳太子の字かぁ」となんとなく親しみが湧いた。
『螺鈿紫檀阮咸(らでんしたんのげんかん)』 (奈良時代 8世紀)
恐らく本展のハイライトの一つ。チラシにも大きくその背面部分が使われているが、阮咸とは4弦の楽器。これは聖武天皇(701-756)遺愛の品で、正倉院宝物の中でも名宝として名高い品。1m足らずの楽器だが、この装飾美はウットリ見詰める以外何ができましょう?裏面の、宝綬をくわえて舞う鸚鵡の幻想的な図柄も素晴らしいが、表の意匠もなかなか。ヘッド、フレット、ペグ、ブリッジと全ての部位がかっこよく装飾されている。
第2章 古筆と絵巻の競演
『春日権現験絵(かすがごんげんげんきえ)』 高階隆兼 (鎌倉時代 延慶2年(1309)頃)
ここでの、というか、私にとって本展のプライオリティ No.1である絵巻。NHK教育テレビの日曜美術館で詳細に紹介されているのを観て、どうしてもこの目で観たい、と馳せ参じたのは私だけではあるまい。案の定凄い人だかりで、その手前に展示されていた『絵師草紙』(これも結構おもしろい絵巻だった)から連なる列の最後尾に加わり、後ろからも横からも押されながら遅々として進まぬ状態にくじけそうになりながらも最後まで最前列で観切った。
この作品は、「藤原氏一門のこれまでの繁栄に感謝し、また以後の繁栄をも願って制作された」もので、遺例の少ない絹本。想像以上に縦幅があり(3巻それぞれ40~42cm)、本来なら押し合いへし合いなどせず、1場面1場面をゆっくりと鑑賞したい見応えのある絵巻。人物の豊かな表情、活き活きした描写はとりわけ印象的。
通常平成館は涼しいのに、この時ばかりは汗ばむ熱気。最後の雪山の情景に至った時は、丸く連なる森の木々がアイスクリームに観えてしまった。
『蒙古襲来絵詞(もうこしゅうらいえことば)』 (鎌倉時代 13世紀)
これも小学校の教科書を思い出す。そうそう、この弓を張る蒙古軍兵士たちの身体のしなり具合。実物はこんなに色鮮やかなのか、と初めて実物を観られたことが嬉しい。
この章では貴重な書も沢山並んでいた。書はたいていスルーだが、これだけの名前が揃っているとそうもいかない。わからないながらもお気に入りは以下の通り:
『恩命帖(おんみょうじょう)』 藤原佐理 (平安時代 天元5年(982))
藤原佐理(ふじわらのさり)は平安時代中期の公卿で、小野道風(おのとうふう)、藤原行成(ふじわらこうぜい)とともに三跡の一人だそうだ。字体の独特の角度、リズムがなんとなく枯れ枝の風情を思わせた。
『本阿弥切本古今和歌集(ほんあみぎれぼんこきんわかしゅう)』 伝小野道風 (平安時代 12世紀)
丸みを帯びてくるんくるんと流れる小さめの文字の連なりが、なんだか金細工の鎖のようにも観えた。
『堤中納言集断簡(名家家集切)』 伝紀貫之 (平安時代 11世紀)
まるで細いペンで書いたような、太さ(というより細さ?)が均等な文字が、さらさらとどこまでも流れていくような書。実に繊細。
『書状』 西行 (平安時代 12世紀)
催促のお手紙だそうだが、紙のほぼ左半分しか使われていない。しかも紙の中央あたりに行間のスペースを取りながら大きい字で書き始め、あとはその周囲に集落のごとく数行ずつの文章を書き足している(解説によると全部で8ヶ所から成る)。しかも最後は紙を90度右に倒して書き足し。文字の大きさも文章の向きもバラバラなこんなお手紙、初めて観た。芸術的ではあるけど、実際受け取ったら読みにくそう。
第3章 中世から近世の宮廷美 宸翰と京都御所のしつらえ
宸翰(しんかん)とは天皇の書いた文章。伏見天皇、花園天皇、と続いていく様々な書の作品を人波の肩越しに覗き観しながら、江戸時代の屏風絵へGO!
『扇面散屏風(せんめんちらしびょうぶ)』 俵屋宗達 (江戸時代 17世紀)
部分
8曲1双の画面に、「保元物語」「平治物語」「伊勢物語」などの物語からのシーンや草花の絵を描き込んだ扇子が並ぶ、装飾性に凝った華やかな屏風。1曲につき扇子が三つずつ、右向き、左向き、時に折り重なるようにして縦に並ぶ。テレビで観た時は何だか安直な作品に思えたが、実物はやはり違う。離れて観ると、左隻、右隻合わせて16曲を覆う扇子の配置が絶妙。
『井出玉川(いでのたまがわ)・大井川図屏風』 狩野探幽 (江戸時代 17世紀)
右隻は、装束の裾をたくし上げて川の中で戯れる宮廷人たちののどかな春の風景。左隻は、紅葉した木々が枝を伸ばし、その赤く色づいた葉を散らす川で、いかだを操る村人たちの様子を川辺ではやし立てる宮廷人たちの楽しげな姿。この左隻に描かれた2艘のいかだがおもしろい。人が一人乗れるくらいの板が4枚ないし5枚ほど縦に連結していて、それぞれの連結部分がゆるい蛇腹のように曲がって川に浮いている。4枚続きのいかだには3人、5枚続きの方には4人が間を置いて乗り、それぞれ長い棒で必死にバランスを取っている風。3人乗りの方の一人は、棒を置いて何やら連結部分の調子を見ているようだ。これは何かゲーム用のいかだでしょうか?
『糸桜図屏風』 狩野常信 (江戸時代 17世紀)
(部分)
6曲1双の屏風だが、右隻、左隻それぞれ両端の2枚を除いた真ん中の4枚の屏風の中央に大きな簾がはめ込まれている。やや濃い目な茶色の、密に編まれた簾の上の部分にも画面上の絵が断絶せず描き込まれ、白く可憐な花をつけてしなだれる桜の枝ぶりが映える。このような屏風は初めて観た。
第4章 皇室に伝わる名刀
充実していた3章の展示作品の間に間借りのごとく展示されていた名刀10点、すみませんがスルーしてしまいました。
尚、「特別展関連展示 正倉院宝物の模造制作活動 伝統技術の継承と保護」ということで、1Fには正倉院宝物のレプリカが18点ほど展示されていた。本格的な模造が制作されるのは明治時代の初めからだそうで、齢1200歳以上になる(!)オリジナル作品の復元修理のためにも大変重要な意義を持つとのこと。日曜美術館でも、『春日権現験記絵』の表紙裂、巻紐、軸首を制作されたそれぞれの専門家の方々の制作場面が紹介されたが、その時に映し出された作品もここで拝見することができた。
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1期に続き、何とか2期も観てきた。2期の会期はとても短い、とわかっていながら気付けば閉会間近。インフルエンザも流行っているし、人ごみは極力避けたいところだが、観たいものは観たい。チラ観でもいいや、と開場に向かったはずなのに、実際目の前に『春日権現験記絵』が現れたらやはり列の最後尾に並び、ケースに貼りつく私。懲りません。
構成は以下の通り:
第1章 古の美 考古遺物・法隆寺献納宝物・正倉院宝物
第2章 古筆と絵巻の競演
第3章 中世から近世の宮廷美 宸翰と京都御所のしつらえ
第4章 皇室に伝わる名刀
では順番に行きます:
第1章 古の美 考古遺物・法隆寺献納宝物・正倉院宝物
『聖徳太子像』(法隆寺献納宝物) (奈良時代 8世紀)
聖徳太子の像としては最古のもの。教科書でお馴染みのこの絵の実物を初めて観ることができた。両脇の童子の着物はもともと鮮やかな緑青が使われていたそうで、なるほど緑の断片がところどころ残る。この色が完璧にし残っていたら、さぞやきれいだったことでしょう。それにしても聖徳太子の唇は赤い。
『法華義疏(ほっけぎしょ)』 聖徳太子筆 (飛鳥時代 7世紀)
聖徳太子の直筆の書が現存しているということに単純に驚嘆する。わが国最古の肉筆遺品、だそうである。私は書のことはよくわからないが、自体はチマチマとしていて「これが聖徳太子の字かぁ」となんとなく親しみが湧いた。
『螺鈿紫檀阮咸(らでんしたんのげんかん)』 (奈良時代 8世紀)
恐らく本展のハイライトの一つ。チラシにも大きくその背面部分が使われているが、阮咸とは4弦の楽器。これは聖武天皇(701-756)遺愛の品で、正倉院宝物の中でも名宝として名高い品。1m足らずの楽器だが、この装飾美はウットリ見詰める以外何ができましょう?裏面の、宝綬をくわえて舞う鸚鵡の幻想的な図柄も素晴らしいが、表の意匠もなかなか。ヘッド、フレット、ペグ、ブリッジと全ての部位がかっこよく装飾されている。
第2章 古筆と絵巻の競演
『春日権現験絵(かすがごんげんげんきえ)』 高階隆兼 (鎌倉時代 延慶2年(1309)頃)
ここでの、というか、私にとって本展のプライオリティ No.1である絵巻。NHK教育テレビの日曜美術館で詳細に紹介されているのを観て、どうしてもこの目で観たい、と馳せ参じたのは私だけではあるまい。案の定凄い人だかりで、その手前に展示されていた『絵師草紙』(これも結構おもしろい絵巻だった)から連なる列の最後尾に加わり、後ろからも横からも押されながら遅々として進まぬ状態にくじけそうになりながらも最後まで最前列で観切った。
この作品は、「藤原氏一門のこれまでの繁栄に感謝し、また以後の繁栄をも願って制作された」もので、遺例の少ない絹本。想像以上に縦幅があり(3巻それぞれ40~42cm)、本来なら押し合いへし合いなどせず、1場面1場面をゆっくりと鑑賞したい見応えのある絵巻。人物の豊かな表情、活き活きした描写はとりわけ印象的。
通常平成館は涼しいのに、この時ばかりは汗ばむ熱気。最後の雪山の情景に至った時は、丸く連なる森の木々がアイスクリームに観えてしまった。
『蒙古襲来絵詞(もうこしゅうらいえことば)』 (鎌倉時代 13世紀)
これも小学校の教科書を思い出す。そうそう、この弓を張る蒙古軍兵士たちの身体のしなり具合。実物はこんなに色鮮やかなのか、と初めて実物を観られたことが嬉しい。
この章では貴重な書も沢山並んでいた。書はたいていスルーだが、これだけの名前が揃っているとそうもいかない。わからないながらもお気に入りは以下の通り:
『恩命帖(おんみょうじょう)』 藤原佐理 (平安時代 天元5年(982))
藤原佐理(ふじわらのさり)は平安時代中期の公卿で、小野道風(おのとうふう)、藤原行成(ふじわらこうぜい)とともに三跡の一人だそうだ。字体の独特の角度、リズムがなんとなく枯れ枝の風情を思わせた。
『本阿弥切本古今和歌集(ほんあみぎれぼんこきんわかしゅう)』 伝小野道風 (平安時代 12世紀)
丸みを帯びてくるんくるんと流れる小さめの文字の連なりが、なんだか金細工の鎖のようにも観えた。
『堤中納言集断簡(名家家集切)』 伝紀貫之 (平安時代 11世紀)
まるで細いペンで書いたような、太さ(というより細さ?)が均等な文字が、さらさらとどこまでも流れていくような書。実に繊細。
『書状』 西行 (平安時代 12世紀)
催促のお手紙だそうだが、紙のほぼ左半分しか使われていない。しかも紙の中央あたりに行間のスペースを取りながら大きい字で書き始め、あとはその周囲に集落のごとく数行ずつの文章を書き足している(解説によると全部で8ヶ所から成る)。しかも最後は紙を90度右に倒して書き足し。文字の大きさも文章の向きもバラバラなこんなお手紙、初めて観た。芸術的ではあるけど、実際受け取ったら読みにくそう。
第3章 中世から近世の宮廷美 宸翰と京都御所のしつらえ
宸翰(しんかん)とは天皇の書いた文章。伏見天皇、花園天皇、と続いていく様々な書の作品を人波の肩越しに覗き観しながら、江戸時代の屏風絵へGO!
『扇面散屏風(せんめんちらしびょうぶ)』 俵屋宗達 (江戸時代 17世紀)
部分
8曲1双の画面に、「保元物語」「平治物語」「伊勢物語」などの物語からのシーンや草花の絵を描き込んだ扇子が並ぶ、装飾性に凝った華やかな屏風。1曲につき扇子が三つずつ、右向き、左向き、時に折り重なるようにして縦に並ぶ。テレビで観た時は何だか安直な作品に思えたが、実物はやはり違う。離れて観ると、左隻、右隻合わせて16曲を覆う扇子の配置が絶妙。
『井出玉川(いでのたまがわ)・大井川図屏風』 狩野探幽 (江戸時代 17世紀)
右隻は、装束の裾をたくし上げて川の中で戯れる宮廷人たちののどかな春の風景。左隻は、紅葉した木々が枝を伸ばし、その赤く色づいた葉を散らす川で、いかだを操る村人たちの様子を川辺ではやし立てる宮廷人たちの楽しげな姿。この左隻に描かれた2艘のいかだがおもしろい。人が一人乗れるくらいの板が4枚ないし5枚ほど縦に連結していて、それぞれの連結部分がゆるい蛇腹のように曲がって川に浮いている。4枚続きのいかだには3人、5枚続きの方には4人が間を置いて乗り、それぞれ長い棒で必死にバランスを取っている風。3人乗りの方の一人は、棒を置いて何やら連結部分の調子を見ているようだ。これは何かゲーム用のいかだでしょうか?
『糸桜図屏風』 狩野常信 (江戸時代 17世紀)
(部分)
6曲1双の屏風だが、右隻、左隻それぞれ両端の2枚を除いた真ん中の4枚の屏風の中央に大きな簾がはめ込まれている。やや濃い目な茶色の、密に編まれた簾の上の部分にも画面上の絵が断絶せず描き込まれ、白く可憐な花をつけてしなだれる桜の枝ぶりが映える。このような屏風は初めて観た。
第4章 皇室に伝わる名刀
充実していた3章の展示作品の間に間借りのごとく展示されていた名刀10点、すみませんがスルーしてしまいました。
尚、「特別展関連展示 正倉院宝物の模造制作活動 伝統技術の継承と保護」ということで、1Fには正倉院宝物のレプリカが18点ほど展示されていた。本格的な模造が制作されるのは明治時代の初めからだそうで、齢1200歳以上になる(!)オリジナル作品の復元修理のためにも大変重要な意義を持つとのこと。日曜美術館でも、『春日権現験記絵』の表紙裂、巻紐、軸首を制作されたそれぞれの専門家の方々の制作場面が紹介されたが、その時に映し出された作品もここで拝見することができた。
春日権現験絵のラストの雪山のシーン。現代的でしびれました。
私の一押しは、あのチラシの螺鈿のオウムの楽器でした。
こんばんは。
あの聖徳太子の作品、そうなんですか。小学校の頃からずっとあの人が聖徳太子だと習っていたので、もし今違う人の名前が出たらちょっとガッカリです。もっとも写真などはないから、結局どんな風貌だったのか想像の域は出ませけど。
チラシの楽器、本当に圧倒的な美しさで一つの小宇宙のようでしたね。貝殻の螺鈿細工は幻想的です。