l'esquisse

アート鑑賞の感想を中心に、日々思ったことをつらつらと。

AC/DC 来日公演

2010-03-17 | その他
AC/DC さいたまスーパーアリーナ 2010年3月12日(金)

LPジャケットの内側は見開きでこんな感じ

久々にロック・コンサートに足を運んだ。AC/DC、祝来日!!

などと冷静に書けるバンドではない。実は1982年、中学生の時に彼らの武道館公演のチケットを買っていたにも関わらず、学校のキャンプが入ってしまって行けなかった不運な私は、その19年後の2001年の来日公演を観る機会も逸し、およそ30年の時を経て、やっと、やっと彼らの生ライヴを観ることができたのだから。

一応、現メンバーを書いておこう:

アンガス・ヤング(b.1955) - リードギター
マルコム・ヤング(b. 1953) - リズムギター
ブライアン・ジョンソン(b.1947) - ヴォーカル
フィル・ラッド(b.1954) - ドラム
クリフ・ウィリアムズ(b.1949) - ベース

セットリストは以下の通り(ソニーのオフィシャルサイト参照):

1. Rock N' Roll Train
2. Hell Ain't a Bad Place To Be
3. Back In Black
4. Big Jack
5. Dirty Deeds Done Dirt Cheap
6. Shot Down In Flames
7. Thunderstruck
8. Black Ice
9. The Jack
10. Hells Bells
11. Shoot to Thrill
12. War Machine
13. High Voltage
14. You Shook Me All Night Long
15. T.N.T.
16. Whole Lotta Rosie
17. Let There Be Rock
(アンコール)
18. Highway To Hell
19. For Those About To Rock (We Salute You)

さて、冒頭に書いた理由により、2階席からまだ主役の登場していないステージを見降ろしつつ、私の心はこの30年間を行きつ戻りつしながら万感の思いに囚われていた。洋楽のロックを聴き始め、初めてエレキギターを手にした中学生時代の、呑気で屈託のない日々。英語を一生懸命勉強して(お陰さまで英語だけは学年1位の成績でした)、AC/DCの「悪魔の招待状」を飽くことなく聴いていた。その頃中野サンプラザで、ヘヴィ・メタルのPVを観るという今では牧歌的にすら思えるイベントも開催され、アンガス・ヤングのそっくりさん大会なんてのも行われたのを覚えている。彼のストリップを真似て、本当にお尻を出した人もいた。みんなアンガス・ヤングが大好きだった。

「お待たせしました―」という開演を告げるアナウンスと、湧きあがる2万人の大歓声で我に返る。

何故だろう、開演時間を10分ほど押してやっとステージの幕が切って落とされ、巨大なスクリーンに映し出された、メンバーがコミカルに登場するアニメーションに興奮を煽られたところまでは覚えているのに、メンバーが姿を現した瞬間がストンと記憶から欠落している。

気づいたら、お馴染みのハンチング帽を被ったブライアンがあの金切り声でシャウトしていて、夢にまで見たスクール・ボーイ姿の我がギター・ヒーロー、アンガスが頭を振りながらSGをかき鳴らしていた。右足と左足を2回ずつ交互に踏む、あの独特のステップを踏みながら。

ねえアンガス、嬉しくて涙が出るよ。

アンガスは身長が160cmに満たないと聞いている。しかし、ステージでは何と大きく感じることだろう。ネクタイにブレザー、半ズボンという色モノともいえる姿で何十年も世界中のステージに立ち続け、ファンにエネルギーを注ぎ続けてきた小さな巨人。演奏中、彼が右腕を上げて人差指で天を指す度に、まるで放電が起こったかのように熱いものが私の身体を駆け巡る。

ギター・ソロでのお約束のストリップでエンターテイナー振りを発揮した後は、上着とシャツを剥いだ半ズボン姿で演奏を続ける。タトゥーの全く入っていない、引き締まった上半身。その姿を観ながら私は、黙々とロックし続けることによってロック・ミュージシャンとしての本分を貫いてきた彼の姿勢を思わずにいられなかった。激しく動き回る彼のステップを支える軸足のように、自分のしたいことに全くブレがないのだ、きっと。25歳のときも、55歳の今も。え、55歳?

今年63歳のブライアンを最年長に、メンバーの平均年齢はほぼ60歳に届こうとしている。なのに、2時間ヴォルテージが下がることなく、というより、クライマックスに向けてどんどんエネルギッシュになっていくようにも感じる彼らのパフォーマンスはまさに驚異的。アンガスも、髪がちょっと寂しくなったとはいえ、ヘッドバンギングをしながら喘ぐように口を開けたあの表情は、20代の頃と全く同じじゃないか。

今回チケットが12000円もするのにはちょっと驚いたが、ステージセットに5億円かかっていると聞けば納得するし、たった3回の公演のためによく極東の島まで持ってきたと思う。実際ステージ上では曲に合わせて随所で趣向を凝らした演出が繰り出され、目を楽しませてくれた。しかし2階からステージを見下ろしていて改めて気付かされたのが、マルコム、クリフ、フィルのリズム隊の素晴らしさ。

リズム・ギターのマルコムは弟のアンガス同様とても小柄な人で、身体でリズムを取っているとはいえ足を開いてほぼ仁王立ちのような動きの少ない人。ベースのクリフもドラムのフィルも目立つような大きなアクションはなく、3人はひたすらリフやリズムを刻み続ける。前方で暴れるブライアンとアンガスの後ろでパフォーマンスの屋台骨を支える彼らのタイトな演奏は、難攻不落の城塞のようでもあった。

実際この3人は不可分とでもいうように、マルコムとクリフはフィルの座るドラム台の横にピッタリと寄り添うように立って演奏しているが(向かって左側にマルコム、右側にクリフ)、コーラスの時だけ前方に設置されたマイクスタンドに歩み寄る。そしてコーラス部分が終わるや否や、二人ともすぐ元のドラム台横の定位置に引き下がる。ほとんど無表情にどの曲でも繰り返される彼らのこのパフォーマンスが、何とも言えずかっこよかった。

実は、彼らの新譜はおろか、私は彼らの作品はほとんど80年代のものまでしか聴いていない。でも今回それは何の懸念にもならなかった。なぜならAC/DCだから。彼らならではの(彼らにしか出せない)AC/DCの音やリズムの普遍的魅力は、初めて耳にする曲だとしても聴き手の身体を自然に動かしてしまう。今回も然りだった。

最後の最後、6基の砲台が姿を現した。ついにこの時が来た。『For Those About To Rock (We Salute You)』。28年間聴き続けた我々のアンセム。ブライアンのFire!やShoot!というシャウトに合わせてドカン!と何度も炸裂する大砲。バンドからファンへの意思表明であり、それに応えるファンからAC/DCへの、歓喜の祝砲でもある。

WE SALUTE YOU - リスペクトと感謝をこめて。