山川草一郎ブログ

保守系無党派・山川草一郎の時事評論です。主に日本外交論、二大政党制論、メディア論などを扱ってます。

小泉とブッシュ―慈悲なき秩序体系

2003年09月29日 | 政局ウォッチ
小泉再改造内閣が国会での所信表明演説で本格始動した。安倍晋三氏の党幹事長への抜擢など「驚天動地」の人事は、選挙で勝つことを目的にした戦闘態勢と言われる。小泉氏自身、選挙で勝つための選択肢として自民党総裁に再選された。10月の衆院解散、11月の総選挙で敗退すれば、総裁辞任、内閣総辞職は間違いない。それだけに必死というわけだ。

青木幹雄参院幹事長らが「選挙で勝つため」を理由に、小泉氏の再選を支持したことについて、野中広務氏や亀井静香氏らは「政策が異なるのに、政権維持のために支持するのはおかしい」と批判した。しかし、この10年間、政権維持のために、それこそ何でもやってきたのが自由民主党ではなかったか。

与党復帰のために社会党委員長を首相に担いだり、衆院での過半数獲得のため、かつて「悪魔」とまで呼んだ政敵と手を組んだり・・・。小泉流の「禁じ手」を、これまで最も連発してきたのが、野中氏や亀井氏ら自身だったのだ。

それにしても、小泉流人事は冷徹な論功行賞だった。「村岡幹事長」「平沼政調会長」「堀内財務相」・・・。周辺が事前にリークした観測をすべて裏切り、敵対勢力を完全に干し上げる徹底ぶり。

かつて森政権末期、次期総裁選への出馬に意欲を示した小泉氏を、誰より熱心に慰留したのは森氏だった。その理由は角福戦争時代の熾烈な人事制裁を知っているから。森氏は小泉氏に「負ければ、派閥全体が数年間、冷や飯を食う。その覚悟があるのか」と迫ったという。

小泉氏の返答は「それは覚悟の上だ」。心配する森氏に、彼は「かくすれば、かくなるものと知りながら、やむにやまれぬ大和魂」と歌を詠み、森氏も「そこまでの覚悟なら」と出馬を了承したとされる。

戦に負ければ冷や飯を食うのは当たり前。その潔いまでの割り切りと覚悟は、勝ち組に回った瞬間、冷酷無比なまでの制裁人事となって現れた。

「昔に比べれば今の権力闘争はどういうことはない。戦国時代は負ければ命を取られた」。小泉首相は総裁選に先立ち、記者団にこう語った。彼は今回の総裁選で、森・山崎・旧加藤の主流3派を「御三家」とする、党内「幕藩体制」を築き上げた。

小泉氏の財政政策を批判して総裁選に立候補した高村正彦氏。ひそかに外相就任を期待し、「小泉外交」に関してだけは批判をひかえた高村氏だったが、しかしながら総裁選後の人事では無役に終わった。派閥からの入閣者もゼロ。将軍に歯向かった家臣は、その家来ともども「お家お取り壊し」にするのが小泉氏の流儀なのだ。

この明確すぎるほどの信賞必罰主義は、米国のブッシュ大統領と奇妙なほどに一致する。

イラク戦争を支持するのか、しないのか。その判断が世界を2分した。ブッシュ氏は、明確に支持した日英豪3国を「御三家」として厚遇する一方、開戦に抵抗した仏独露3国には、大人げないほど冷たい態度を取り続けた。

最近になって、イラクの戦後統治に苦しむブッシュ政権は、仏独露3国を、「外様大名」としてしぶしぶながら迎え入れる決心を固めた模様だ。しかし、これら3国に比べ、開戦後、真っ先に支持を表明した小泉氏は、今でも忠臣の中の忠臣であることに変わりない。

小泉首相とブッシュ大統領。二人の蜜月関係は、「力」への信仰に基づく、慈悲なき秩序システムを共通基盤として成り立っている。 (了)


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