山川草一郎ブログ

保守系無党派・山川草一郎の時事評論です。主に日本外交論、二大政党制論、メディア論などを扱ってます。

4割の岩盤

2005年08月03日 | 政局ウォッチ
民主党・桜井充議員 「郵政民営化は米国の意向を受けての改革ではないか」

小泉純一郎首相 「それはね、桜井さんね、思い過ごし」

2日の参院郵政特別委員会で、こんなやりとりがあったという。首相にしてみれば「バカなこと聞くなよ」という思いだろうが、「郵政民営化は米国の陰謀」という説は、首相が思っている以上に世間で広く信じられている。

なぜ信じられているかと言えば、米国の要求事項と小泉内閣の市場開放方針が酷似しており、かつ、そうした指摘に対して政府がまともに反論してこなかったことが大きい。

首相の言うとおり「思い過ごし」かどうか、本当のところは分からない。ただ、郵政民営化が小泉氏がまだ若手議員として衆院大蔵委員会に所属していた頃からの持論であることは確かだ。少なくとも日米貿易摩擦よりずっと昔から、彼は郵政民営化を主張していたのだ。

小泉首相が、野党の言うように「米国の命令」に従って郵政民営化を言い出したとはとても思えないが、この問題で小泉政権と米国の利害が一致していることは客観的事実だろう。

とはいえ、「国内の改革」が「外国の利害」と一致することは、別におかしなことではない。たとえば記者クラブ問題。仮に民主党が政権をとって、日本各地の記者クラブを廃止し、外国報道機関に開放する方針を打ち出したとしよう。それは、かねてEUが日本に求めてきた「改革」と一致する。

これに対し、記者クラブ廃止に反対する勢力が「民主党政権はEUの圧力に負けて、記者クラブを廃止しようとしている」と主張したとしても、あまり説得力はない。

確かに、外国の報道機関にとって記者クラブは事実上の非関税障壁として機能してきた。かつて「世論の輸出という概念」で書いたように、その壁は、日本に関する情報がAPやロイター、CNNといった欧米メディアの視点で切り取られ、世界に発信されるのを防ぐ「防波堤」の役割も果たしてきた。

もちろん、閉鎖的な記者クラブ制度は弊害が多く、改革されるべきだと思うが、それは日本国民のための改革であって、EUから言われてやることではない。

同じように、郵貯や簡保が「国民の虎の子」として重要な役割を果たしてきたのは事実だろう。かく言う私も、民間より格安な「かんぽの宿」には随分お世話になった。一方で、そうした制度が疲労し、時代に合わなくなっていると言われれば「そうかも知れない」とも思う。

郵政民営化が、金融市場の開放を求める米国の利害と一致していようがいまいが、それが国民にとって必要な改革であるかどうかとは、少なくとも別の問題だろう。

それにしても「小泉政権は対米従属だ」という批判は根強い。しかも、そうした印象は国民の間に浸透している。確かに、自衛隊のイラク派遣などにはそうした側面もあったと思うが、米軍再編に伴う日米同盟の変質などは、誰が首相でも、ポスト冷戦時代の日本にとって避けて通れない課題だったと思う。

「何をすべきかは自分で考える。米国はあまり、ああしろ、こうしろと言わないでほしい」。9・11テロの後、「旗幟鮮明にせよ」と迫る米国に対して、小泉首相がそう言い続けたことは、今ではかなり知られている。

ブッシュ大統領に笑顔で歩み寄り、握手を求める小泉首相の映像は、野党の「対米従属」批判に十分な説得力を与えた。しかし、よくよく思い起こせば小泉氏が相手国の首脳に笑顔で歩み寄る姿はフランスでも、韓国でも、中国でも見られた光景だ。

冷静に考えると「対米従属」は“印象”に過ぎないのだが、その印象は国民の間に浸透し、ジワリ、ジワリと小泉政権にダメージを与えてきた。4年4カ月が経過した政権としては異例の高さとは言え、内閣支持率は今も少しずつ下がり続けている。

権力や権威を批判するのは簡単である。批判者は、ただ相手のイメージを悪化させる言説を振り撒けばいい。相手が権力や権威ならば責任を問われる心配はない。意図的に誇張したり、思い込みに過ぎない想像を流布しても「事実と違うと言うならどうぞ証明してください」というのが、彼らの言い分だ。

批判された側も、あまりに馬鹿げた噂にはまともに反論もしないから、「郵政民営化は米国の陰謀」「小泉首相はレイプ前科者」といった、いかがわしい噂ほど国民の深層心理に浸透してしまう。

「まさか」と思いつつ、明確な否定を耳にしないから「ひょっとしたら」という思いも、静かにくすぶり続けるのだ。時の政権にとって、そうした噂の放置はジャブとなって、徐々に効いてくることが多い。「権力者がその気になれば、揉み消しなど簡単」という、もっともらしい講釈もマユツバ情報に説得力を与えてしまうから厄介だ。

マスコミ批判にも似たようなところがある。記者クラブにまつわる様々な批判には、明らかに誇張されたものが含まれている。「警察の裏金で宴会している」とか「政治家から餞別をもらっている」とか、想像で脚色された遠い昔の記憶や伝聞情報を、あたかも事実で、かつ現在の問題のように吹聴する記者OBらは少なくない。

新潟中越地震では、被災者に支給される弁当を盗むといった「マスゴミ」の悪行がインターネット上で広く信じられたが、「GripBlog」の現地取材ではそうした事実を確認できなかったようだ。(余談だが、このような予断にとらわれない根気強い検証作業こそが、GripBlogの本来の持ち味だったように思う)

政権批判も、マスコミ批判も、実際は「タメにする議論」であることが多い。ある思惑をもった人たちが、相手の評判を落とす目的で、もっともらしい事実や憶測を流し、善意の第三者を巧みに誘導する。

そうした情報の裏に潜む「意図」を読み取るのは簡単ではないし、時には真実を含んでいることもあるから、情報のハンドリングは難しい。

インターネットの普及は、怪しげな情報の流通を急速に拡大させ、情報のハンドリングに不慣れな層を一時的に惑わせた。しかし、玉石混交の情報の海に晒されたネットユーザーたちは、徐々にではあるが、情報の持つ「いかがわしさ」を嗅ぎ分けるカンのようなものを身に付けつつあると思う。

共同通信社が3月に実施した世論調査によると、小泉内閣に対する支持率は43・8%。郵政民営化に「賛成」は52・9%で、「反対」は32・7%、「分からない・無回答」が14・4%だった。様々な批判にさらされながらも、小泉政権への国民の支持は、意外と硬い。

小泉政権を支える「4割」の岩盤が、ネット時代の「成熟」を代表していると言ったら、やはり言いすぎだろうか。(了)


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1 コメント

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そろそろ結論を出す頃かも (山川草一郎)
2005-08-09 23:28:00
「サヨナラ小泉政権」企画として、今回の「郵政解散」から過去の民主党幹部の「予言」を振り返って採点すると



(1)小泉首相は衆院解散などできない(菅直人氏)・・・△(解散を煽るための発言の可能性)



(2)小泉首相は自民党の抵抗勢力と対立しているフリをして国民をだましてきた。すべて茶番劇だ。(菅直人氏ほか)・・・×(実は意外とガチンコだった)



(3)小泉氏が自民党総裁である限り、改革は出来ない。なぜなら自民党自体が既得権益の上に成り立っているから(小沢一郎氏)・・・◎



(4)小泉氏は自民党にとっての徳川慶喜、ゴルバチョフになる(複数)・・・?



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