和田浦海岸

家からは海は見えませんが、波が荒いときなどは、打ち寄せる波の音がきこえます。夏は潮風と蝉の声。

調(ととの)えられ。

2009-10-07 | 短文紹介
現在はkhipeという名称となっているreview japanに本の感想を書き込みはじめたのが2002年ごろでした。忘れていたのですが、その2002年11月に徳岡孝夫氏についての書き込みをしていたのが検索したらでてきました。以下その箇所。


ところで、曽野綾子さんといえば、現在産経新聞に「透明な歳月の光」を毎週金曜日に連載しており。同じ紙面で産経抄とのやりとりが最近ありました。
「11月5日付けの『産経抄』欄で、私も深く尊敬している徳岡孝夫氏が、片方の視力を失われたことについて、アメリカの医師がそれでも完全に視力を失うよりいい、と言われたこと、江戸時代の儒者・佐藤一斎が『一燈を掲げて闇夜を行く。闇夜を憂うる勿(なか)れ。ただ、一燈を頼め』と言ったことなどを教えられた。・・・」(11月8日)と始まり、ご自身の視力障害の手術を語り、コート・ジボアールでの日本人の修道女の話で終っていました。
(そういえば、メアリー=ポピンズはあっというまに世界を旅する羅針盤を持っていました。)
次の日の産経抄がそれへの返事のコラムになっており。
産経抄→曽野綾子→産経抄。ひとつひとつが最近印象に残りました。
最初の産経抄は、こうはじまっていました。
「・・左目は失明、右目はかろうじて薄明の状態だという。・・日本の病院を渡り歩きアメリカの病院にまで行ったが、『視力回復の見込みはない』と診断された。徳岡さんは絶望し、うめくように眼科医へ問いかけた。『すると私はこのか細いロウソク一つで闇の中を歩いていかねばならないのですか』」また、佐藤一斎の言葉は、『言志四録(げんししろく)』からの引用とあります。

以上の文は、曽野綾子訳「メアリー・ポピンズ」について書いた文の一部でした。
さてっと、
今なら、徳岡孝夫氏のアメリカの病院でのいきさつを、ご自身の徳岡氏の文章から引用できます。

徳岡孝夫著「薄明の淵に落ちて」(新潮社)のp75


「それから少し間をおいて、博士は言った。『一人でサンフランシスコまで来られたのだ。社会人としての能力がゼロになったわけではない。
One candle is better than total darkness では幸福を祈る』
握手し、ウィルソン博士を部屋に残して私は外に出た。長い廊下に午後の陽が射している。そうか、一本のロウソクは完全な暗闇よりましなのか。うまいこと言ったなあ・・・自分は、これから一本のロウソクをともし、孤灯を掲げつつ残る人生を歩こう。・・・」


この徳岡孝夫氏の文には、『言志四録(げんししろく)』についての言及がありません。
ということで、せっかくですから、言志四録をあたってみました。
文庫で四冊。こりゃ、簡単には探せないかなあ。
と思ってパラリとひらいたら、意外とすぐに見つかりました。
ということで、その箇所も丁寧に引用しておきます。

講談社学術文庫「言志四録(三)」(佐藤一斎著・川上正光全訳注)のp23~25.

「 一燈を提げて暗夜を行く。暗夜を憂うること勿れ。只だ一燈を頼め。
【訳文】暗い夜路を行く場合、一張の提灯をさげて行くならば、如何に暗くとも心配するな。ただその一つの提灯を頼んで行けばよいのだ。

【付記】ここで暗夜というのはお先き真暗な人生行路をいっているのであり、一燈とは自己の堅忍不抜の向上心ではなかろうか。次に関連する話題を提供しておこう。
≪その一≫釈尊の最後の近いことを知らされて、侍者の阿難尊者は悲しみながら『わが師よ、師のなき後、われわれは何を頼りにしたら宜しいのでしょうか』とお伺いした。それに答えて釈尊はこう教えられたのであった。『アーナンダよ、汝自らを燈火(ともしび)とし、汝自らを依り所とせよ。他を依り所とするな。真理を燈火とし、真理を依り所とせよ。他を依り所とするな』
このことを法句経(160)は次のように歌っている。

    おのれこそ おのれのよるべ
    他の誰に 頼られようぞ
    よく調(ととの)えられし おのれこそ
    まこと得難き よるべなれ


   ・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・

≪その三≫もう一つ痛烈なことばを挙げておこう。
   『人、城を頼らば、城、人を捨てん。」織田信長
まことに、信長らしく、勇ましい。                     」


改めて、曽野綾子氏の「私も深く尊敬している徳岡孝夫氏」という言葉が印象に残ります。
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