大野晋氏の死亡記事と関連コラムを見ていたら。文藝春秋6月号に鼎談が載っていたと書かれておりました。それでもって、その雑誌を開いてみたわけです。大野晋・丸谷才一・井上ひさし。その三人のお話が聞けるのでした。
そこで、大野氏が「・・今、『KY』という言葉が流行しているようですが、僕は『KY』を『空気が読めない』とは、どうしても読むことができません。こうした言葉が生れて、大勢が使っているような社会は、言葉にとって危機的な状況だと思います。・・・」
こうして大野氏の状況判断が示されてからのやりとりが楽しいのでした。
丸谷・井上ときて、大野晋氏がこうかたるのでした。
「ここにあるホテルのパンフレットを見ても『マイレージポイントについては、コンシェルジュデスクにお尋ねください』とあって、もはや語る側が日本語を使うことを放棄しているように感じられます。僕は、マイレージポイントにも、コンシェルジュデスクにも馴染みがない。物事をきちんと見たうえで、いわゆるぼかし言葉を使わずに『はっきり言う』ことが大事だとつねづね考えてきましたが、カタカナ言葉は、その対極にあります。」
ここから具体的な指摘が面白かったのです。
【丸谷】カタカナ言葉や略語を、限られた社会での符丁や隠語として使うという考えは、日本でも以前からありました。
【井上】もう十年以上前ですが、同窓会で会ったスチュワーデスの女性が、仲間内で使う『UUU(ユーユーユー)』という言葉を教えてくれました。『うるさい、うるさい、うるさい』の略だそうです(笑)。お客さまに聞えるところで『うるさい客』とは言えないので、『あのお客、UUUよ、気をつけましょう』などというそうです。これはなるほどと思ったのですが。
【丸谷】僕が聞いた話では、ある患者が病院で自分のカルテを見たら、下の方に『UB』と書いてあったそうです。何かわからなくて徹底的に調べたところ『うるさいばばあ』の略語だった。
さまざまな面白い鼎談を、一箇所だけすくい上げるのは残念ですが、せめてもう一箇所。大野晋氏の言葉を
「『後期高齢者』という言葉が批判されると、すぐに今度は『長寿』という言葉に置き換えようとしました。上っ面だけで処理しようとしています。これはすべて、『物事をきちんと見る』ことを日本人がおろそかにしてきた結果だと思います。今の日本では、見ることと言葉を発することがばらばらになってしまっています。物事をきちんと見ていないので、きちんと語れないわけです。」
鼎談のはじめのころ、こう大野氏が語っておりました。
そして、もう終るというところで
「・・今の日本人が、どこかで物事をきちんと見ることを覚えない限り、明るい光は差してこないでしょう。それが一番初歩的なことであり、一番大切なことですから。最近の日本を見ていると、88歳まで生きてきて、少し長生きをしすぎたと感じることもあります。」
このあと、丸谷氏、井上氏と一言ずつ語って終るのですが。
いきがかりから、そこも引用しておかないと片手落ちになりますね。
【丸谷】いや、大野先生は88歳まで生きたからこそ、あれだけ立派な研究ができた。日本語のためにもっと力を貸していただきたいですね。日本語を巡る現状は確かに暗いけれども、少しでも希望をもちたいと思います。
【井上】・・・政治家を含めたみんなが日本語で先を切り拓いて行こうと強く思うこと以外に、道はないのかもしれません。
こうして、先生を囲んで二人の言葉で締めくくられておりました。
おそらく、大野先生にとって、これが人生最後の鼎談だったのでしょうね。
その肉声を活字をとおして伺ったょうな気分になれました。
そこで、大野氏が「・・今、『KY』という言葉が流行しているようですが、僕は『KY』を『空気が読めない』とは、どうしても読むことができません。こうした言葉が生れて、大勢が使っているような社会は、言葉にとって危機的な状況だと思います。・・・」
こうして大野氏の状況判断が示されてからのやりとりが楽しいのでした。
丸谷・井上ときて、大野晋氏がこうかたるのでした。
「ここにあるホテルのパンフレットを見ても『マイレージポイントについては、コンシェルジュデスクにお尋ねください』とあって、もはや語る側が日本語を使うことを放棄しているように感じられます。僕は、マイレージポイントにも、コンシェルジュデスクにも馴染みがない。物事をきちんと見たうえで、いわゆるぼかし言葉を使わずに『はっきり言う』ことが大事だとつねづね考えてきましたが、カタカナ言葉は、その対極にあります。」
ここから具体的な指摘が面白かったのです。
【丸谷】カタカナ言葉や略語を、限られた社会での符丁や隠語として使うという考えは、日本でも以前からありました。
【井上】もう十年以上前ですが、同窓会で会ったスチュワーデスの女性が、仲間内で使う『UUU(ユーユーユー)』という言葉を教えてくれました。『うるさい、うるさい、うるさい』の略だそうです(笑)。お客さまに聞えるところで『うるさい客』とは言えないので、『あのお客、UUUよ、気をつけましょう』などというそうです。これはなるほどと思ったのですが。
【丸谷】僕が聞いた話では、ある患者が病院で自分のカルテを見たら、下の方に『UB』と書いてあったそうです。何かわからなくて徹底的に調べたところ『うるさいばばあ』の略語だった。
さまざまな面白い鼎談を、一箇所だけすくい上げるのは残念ですが、せめてもう一箇所。大野晋氏の言葉を
「『後期高齢者』という言葉が批判されると、すぐに今度は『長寿』という言葉に置き換えようとしました。上っ面だけで処理しようとしています。これはすべて、『物事をきちんと見る』ことを日本人がおろそかにしてきた結果だと思います。今の日本では、見ることと言葉を発することがばらばらになってしまっています。物事をきちんと見ていないので、きちんと語れないわけです。」
鼎談のはじめのころ、こう大野氏が語っておりました。
そして、もう終るというところで
「・・今の日本人が、どこかで物事をきちんと見ることを覚えない限り、明るい光は差してこないでしょう。それが一番初歩的なことであり、一番大切なことですから。最近の日本を見ていると、88歳まで生きてきて、少し長生きをしすぎたと感じることもあります。」
このあと、丸谷氏、井上氏と一言ずつ語って終るのですが。
いきがかりから、そこも引用しておかないと片手落ちになりますね。
【丸谷】いや、大野先生は88歳まで生きたからこそ、あれだけ立派な研究ができた。日本語のためにもっと力を貸していただきたいですね。日本語を巡る現状は確かに暗いけれども、少しでも希望をもちたいと思います。
【井上】・・・政治家を含めたみんなが日本語で先を切り拓いて行こうと強く思うこと以外に、道はないのかもしれません。
こうして、先生を囲んで二人の言葉で締めくくられておりました。
おそらく、大野先生にとって、これが人生最後の鼎談だったのでしょうね。
その肉声を活字をとおして伺ったょうな気分になれました。