悠々time・・・はなしの海     

大学院であまり役に立ちそうもない勉強をしたり、陶芸、歌舞伎・能、カメラ、ときどき八ヶ岳で畑仕事、60代最後半です。

人形作家、与 勇輝の心の風景<松屋銀座展覧会>

2006-04-24 01:39:11 | 文化・文明


3月に、「与(あたえ)勇輝 人形芸術の世界」と銘打った展覧会が松屋銀座
で行われた。私はこの展覧会を観るまで、「与(あたえ)」という珍しい名前
の人形作家を知らなかった。

この展覧会は、新聞やテレビでも前宣伝が高かったので評判を呼び、展覧
会は盛況だった。特に中高年の女性の来場が多く、日によっては8階から
1階まで、階段に行列ができるほどであった。4月26日から横浜高島屋で
開催されるが、順に、名古屋、大阪、神戸と巡回し、来年は京都、静岡、再
来年は浜松と書いてあった。


与(あたえ)勇輝の人形の世界は、日本人の心の原風景を彷彿とさせるもの
である。人形には、懐かしさと、温かさと、優しさと、情愛の機微がさりげなく、
ごく自然に滲み出ている。

顔の表情、指先のしぐさ、目の方向、姿かたちの優しさ、すべてが観る者の
心を揺さぶるものがある。少女が水桶を右手に持っている姿、表情、左手の
指先のしぐさ、おでこから、目、鼻にかけて少ししゃくれた、かわいらしい顔
の表情は、涙が出るほどいじらしく、可愛らしく、なぜか心懐かしい情景だ。

現物を鑑賞した方は必ず微笑み、懐かしみ、こころに、グッとくるものを感ず
る筈だ。心優しい日本人の、心の原風景をこれほどまでに表現できる人形
作家は稀有な存在と思われる。


今日は、何もいわずに、鑑賞してください。




   童話の世界の可愛らしい妖精たち

    「木の葉の精」(1986)

     


    河童の「宴」(1992)

19匹(?)の河童たちの、それぞれの表情は驚くほど精巧で、
それぞれの河童たちの「宴」の心の動きを見事に表している。

現物を見ると、ふっと笑いがこみ上げてくる。







ーーー古きよき時代の日本人の心の原風景ーーー

私たちが子供のころは、大正時代から、戦前の昭和時代にかけての
生活と心の在りようが、そのまま戦後の昭和時代に引き継がれていた。

美しい山、たわわに実る一面の田んぼ、川のせせらぎの音はあくまでも
澄んでいて、田んぼや小川には蛍が住み、野にはたくさんのトンボが飛
び交い、少女たちの屈託のない笑い声と、親の仕事を素直に喜んで手伝
う子供たちの純真さ、年寄りは幾つになっても、娘や息子を心配し、大き
くなった子供たちも親を気遣い、貧しくても一生懸命生きてきた。そんな
生き方、生活の中に、古きよき時代の心の原風景を見る思いだ。

      「小春」(1987)

      


   「夕飼のしたく」

      



   映画監督・小津安二郎の東京物語
        「もう帰ろうか」





今回の展覧会の見学者は、美術学校で勉強しているような感じの
若い女性もいたが、圧倒的に多かったのは中高年の女性たちであ
った。松屋銀座の8階から1階までの階段上の待ち行列の中に
ポツンと中高年の男性が挟まっている姿は少し異様な光景だった
かもしれない。それほど、中高年の女性たちの大群が見に来ていた。

自分たちが生まれ育った時代の思い出に耽っていたのかもしれない。

実はこの頁のカテゴリーを「文学・文芸・芸術」ではなく「文化・文明」
のカテゴリーとしたのだが、それは、与 勇輝の人形展を、芸術を超
えて、心の原風景、すなわち「文化・文明」と私が感じたからである。


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