モラロジー（道徳科学）と文部科学省の道徳教育

柏市の広池学園（モラロジー研究所・麗澤大学）の庭にある「偕の樹」
（中国山東省にある大聖孔子の墳墓の傍らにある名木の種子を寄贈され、
　 ここに移植したもの。昭和１１年、と記してある。)


「モラロジー」とは「道徳科学」とか「道徳学」のことであるという。
英語で表すと「モラル・サイエンス」ということになるが、日本語で
「道徳科学」というときの「科学」は、「サイエンス」という意味より
も、「学」的な感じではないかと思われる。

そこで、「モラル（moral）」と「学（logy）」を足して「moralogy」と
いう合成学術語をつくり、英米と違う使い方をしていると聞いた。

＜道徳＞
道徳という言葉を聞かなくなってから久しい。それは、昔、当然の
こととして行っていた礼儀作法とか道徳的行為が、現代では否定さ
れ、いつの間にか消えてなくなってしまった、と感じて久しいとい
う意味であるが、終戦とともに、過去の良い伝統や、良い人間的感
覚や思想までも否定された時代があった。

それは、労働運動が過激になり、学生運動が無法化した時代と重な
るが、さらに、急激な経済成長によって金権主義が蔓延し、「金」の
力によって何でも実現するという風潮が生まれた時代と重なる。

その後、「道徳」とか「礼儀作法」とか「倫理」という言葉は、「反動」
とか「権威主義」といって批判されるだけでなく、「非民主主義」と
非難されるような時世となった。戦前の思想が全て「非民主主義」で、
戦後の思想が全て「民主主義」と断定するような風潮もあった。


ー法律とは異なる社会的規範ー
道徳は、確かにそれぞれの時代の社会体制や思想や宗教や
生活や習慣の中から生まれて、それが一つの「規範」として通用す
るようになったものであるから、普遍的であるとは決していえないし、
異なる社会体制では通用しないことも当然である。

＜日本の道徳＞
わが国の道徳は、一般的には、中国で生まれた儒教の一つである
朱子学を中心に仏教や神道などが影響しあって形成されたといわ
れているが、その中でも有名なのは、君に忠、親に孝といった儒
教の精神を基本とした「武士道」であろう。「忠臣蔵」がこれでもか
これでもかと、人気があるのは、忠とか、孝とか、努力とか、忍耐
というような伝統的な道徳観に、現代の私たちも影響されていること
の証明かもしれない。

ー制度の処理と精神面の対応ー
明治政府は天皇制を支柱にした道徳教育を広めたが、その象徴で
ある「教育勅語」は終戦とともに廃止された。しかしそれは、制度
として廃止したということであって、精神的にどのように処理され
たのかということは、本人自身でも気がついていないかもしれない
のである。


＜現代における道徳＞
戦後、英米風の民主主義を中心に、一挙に新しいモラルを形成
しようとした勢力と、戦前からの伝統的な道徳感を復活させよう
とする勢力と、その中間で、民主主義と戦前の伝統的な道徳の融
和を図ろうとする勢力との激しいせめぎ合いがあったように見受
けられる。

そして平成の現代はどうなっているのかというと、私などにはその
流れが混沌としていて、判別できないでいる。若者は、金儲け至上
主義で、ルールとか、礼儀とか、調和とか全く関係ない、自分だけ
が良ければ他人はどうなろうと関係ない、という「ライブドア」の
元社長の青年や、「村上ファンド」のようなやり方に共感している
ことは事実である。かといって、中高年や老年の世代の人間はどう
か、というと、この世代も確かなものを持っているとは言いがたい。

＜モラロジーと麗澤大学（広池学園）＞
モラロジー（道徳科学）という言葉を使って、全国的に道徳思想を
広めているのは、柏市の広池学園（財団法人モラロジー研究所、「麗
澤大学」）である。

「麗澤」は「れいたく」と読むのだが、中国の古典「易経」の、

「象曰、麗澤兌。君子以朋友講習」
（象に曰く、麗ける澤は兌びなり、君子以て朋友と講習す）

という言葉からとったものだ、という。要旨は以下のとおりである。

　並んでいる澤が、お互いに潤し合い、周囲の草木もその澤の水の
　お陰によって、青々と生い茂っている。この様子はまことに喜ば
　しい限りである。これと同様、立派な人間になろうとする者は、
　優れた師のもとで、志を同じくする友と切磋琢磨し、人格の完成
　を目指すと同時に、周囲の人々にすばらしい影響を与えてゆくよ
　う努力すべきである。


　　　　　＜瀟洒なキャンパスプラザ（ホテル）＞


＜学校教育における道徳教育＞
興味が出てきて調べたら、今、学校における道徳教育が猛烈な勢い
で進められている、ということが分かった。戦前の学校教育は「修身」
といって、７０代から上の人は「修身」を習ったと思われるが、終戦と
ともに廃止された。アイデンティティーを失い、新たな心の支えが確立
されないまま、失われた「過去」を背負った若者たちの目の前で、
日教組と文部省（旧）との激しい闘争が繰り広げられた。

ー「心のノート」ー
あれから半世紀以上たった現在、文部科学省が進めている「道徳教
育」は、分かりやすく云うと、「心のノート」という教材をを活用した
道徳教育である。「心のノート」には、「活用資料」と「実践事例集」と
いうものがある。

「心のノート」の「活用資料」には、例えば、「郷土を水害から救った人
ー中山龍次ー」（新潟県）といったものがある。「実践事例集」には、
例えば「ありがとうをさがそう」（新潟県）といったテーマで集められた
文集がある。このような資料や事例集が、各県ごとに、また学年ごとに
あるのだが、この話はまた別の機会に譲ることとしたい。


＜モラロジー研究所の教育者研修と文部科学省＞
現在の教育としての道徳教育は文部科学省が中心になって行っているが、
道徳教育に関連する組織や団体もいろいろあるようだ。学会は日本道徳
教育学会ほか、いくつかあり、組織・団体なども、財団法人モラロジー
研究所を筆頭にいくつかある。

ー教育者研修、全国73ヵ所ー
そのうち、モラロジー研究所は組織だった啓蒙活動を行っている。特に
教育者に対する道徳研修は、夏季約１ヶ月半くらいの間に、全国７３ヵ所
で開催することになっており、今年は４３回目だというから昭和３８年ごろ
から継続している計算になる。

しかも、全国にあるモラロジー協議会が窓口になって開催するのだが、
後援と共催は、文部科学省と各地の教育委員会である。

ー「道徳教育を柱に教育再生を」ー
教育者研修では、「道徳教育を柱に教育再生をー慈悲の心を育てるー」を
共通のテーマとし、講師はいろいろいるが、モラロジー研究所の関係者と
各地の大学の先生が一番多い。

このように見てくると、教育者に対するモラロジー研究所の道徳研修は、
文部科学省と表裏一体であるということが分かる。

＜育てよう、三つの心＞
モラロジーを実践してゆく中で、大切な三つの心は、以下の三つである
と説く。

　　・感謝　　
　　・思いやり
　　・自立

　詳細な解説は省くが、「自立」の解説を読んでみる。
「夢や志に向かって、主体性を持って生きようとする自立の心は、家庭人、
社会人、また国民としての責任感や使命感をはぐくみます。そして地域や
国際社会に目を向けていくたくましさを育てます。」



　　　　＜廣池学園・麗澤大学の中庭＞
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