循環型社会って何!

国の廃棄物政策やごみ処理新技術の危うさを考えるブログ-津川敬

テレビの凋落

2008年04月25日 | 廃棄物政策
昨夜(4月24日)、「プラスチック焼却問題」(NEWS23)を観ました。番組は約10分。大まかにいって三つのパートで構成されています。①東京23区が35年ぶりにプラスチックを可燃ごみにした、②なぜ新ルールが導入されたか、③環境への影響はないのか、の三つです。

◆二項対立の図式
 まず東京23区から出るごみは全国の7%であり、35年経って分別の方法が変わったとのナレーションがありました。しかし35年前に何があったのかについては一切触れず、区によって分別のやり方がバラバラだという、いかにもテレビ好みのテーマに話題が移ります。たとえば新宿区はプラスチックを①容器包装プラスチック、②その他プラスチック(ビデオテープ、カップ、CD、マジックインクなど)の二種類に分け、住民はひとつひとつのプラスチック分別に四苦八苦している様が映像で示されています。そのあと中防(処分場)風景が映し出され、「プラスチックは燃えないごみとして埋め立てられてきたが、このままでは30年で満杯になる」とのアナウンスが流れます。そこで次の選択はリサイクルですが、新宿区と対極にあるのが板橋区です。つまり容器包装プラスチックも含めて全部燃えるごみにしていると紹介し、住民の声をそこにかぶせます。いわく、「分別の心配がなくなってラクになった」「ほんとにそれでいいのかな」という二つの意見に続き、渡辺千鶴さんという方の「(廃プラを)燃やすことに抵抗がありますが、区は『いい焼却炉だから燃やしても大丈夫』というだけです」と不安の声を収録しています。
 なぜ区ごとに対応が分かれたか、テレビ制作者の興味はもっぱらそこにあったようで、新宿のように資源ごみにする区が11、板橋のようにプラスチックを可燃ごみに廻す区が12、という数字を出しています。ただし資源ごみにした場合、新宿区の試算では年間4億円かかる、逆に板橋区のように清掃工場に全部投入すれば年間10億円が節約できるという試算になり、ここで「環境」VS「経費」の二項対立という図式が出来上がります。これも分かりやすさを身上とするテレビお得意の手法です。

◆なぜ新ルールが導入されたか
 ではなぜ新ルールが導入されたのか。ここで練馬区議の池尻成二さんが登場します。
池尻さんは「(東京二十三区清掃一部事務組合に)燃やすごみを増やしたいという事情があったのではないか」と核心をついたコメントを提起します。テレビ側もそれを受け、「その指摘は外れてはいない」とした上で「リサイクル意識の高まりでごみは年々減少の一途。清掃工場の焼却率も下がっている」とグラフなどでそれを実証します。池尻さんがそれにつづけて「ごみの量が少ないのなら工場を減らしてもいいのではないか」とのコメントをしています。
 当然マスコミの常として反論というか、見解を求めます。そこで登場するのは一組の伊東和憲・総務部長です。
伊東部長は「当面、工場の数を減らす考えはない」を繰り返したのち、「今後ごみが増えても困らないように実際のごみ量に合わせて整備計画を立ててゆきたい」と本音を漏らしました。しかしバブル時代が再現するはずもなく、毎年日本全体で世田谷区1区の人口が減っている中で、あきらかに清掃工場はつくりすぎだったのです。

◆環境への影響はないのか
 伊東部長がつづけます。「その分(廃プラを燃やすことで)炭酸ガスは増えるでしょう」と認めた上で「清掃工場の性能がよくなり、公害防止技術も向上している」と強調します。
しかし清掃工場の性能がどのようによくなったかの検証はなく、話をCO2に限定し、重金属類、ダイオキシン類についてTBSは一切触れていません。この点、10年前のテレ朝事件(久米宏のニュースステーションで学識経験者のコメントが裁判沙汰に)で痛い目に会ったテレビ業界全体のトラウマなのでしょう。
いま地球温暖化は最も国策的な話題ですから「プラスチックを燃やすことで、増えるCO2は年に16.6万トン、レジ袋に(約10g)にして53万枚分」などというナレーションを生き生きと流しています。その一方で処分場のガス抜きパイプからメタンが出ている様子を映し出し、「メタンはCO2の20倍に及ぶ温室効果がある。それが(廃プラを焼却することで)削減されるのでは」と一組をヨイショするようなことをいったのですが、さすがに伊東部長は「いや少しは(CO2も)増えると思いますが」と苦笑していました。
そしてNEWS23は「35年ぶりにルールが変わった。環境か経費の安さか、新しい分別方法を検討しつつ、ごみを減らす意識を高めなくてはならない」とやや高みから啓発的なコメントで締めくくっています。

以上、昨夜の番組をみていない人のために(恩着せがましいか)、要点を書いてみました。ここからは小生のコメントです。まず処分場(中防外側と新海面)の寿命があと30年とは誰の計算なのか。小生の試算では少なく見積もっても70年はあります。今回の「新ルール」は一に清掃工場のつくりすぎであり、処分場の延命はとってつけた理屈に過ぎません。さらに「清掃工場の性能は向上した」といいますが、では日常的にどれだけのトラブルや事故が工場内で起こり、プラスチックを焼却することでどれだけの負荷がプラントにかかるのか、その検証がまったく行なわれていません。
それよりも35年前、なんでプラスチック(皮革、ゴムも含む)を分別ごみにしたのか、その歴史的経緯がスッポリ抜けています。美濃部亮吉知事は当時のゴミ戦争を背景に「焼却の危険と排出者責任」を突き出していたのです。
全国どこの都市をみても分別を崩したらごみの出し方はルーズになり、ごみの量は確実に増えるのです。もっともそれが一組の狙いでしょうが。
むろん10分程度でそんなテーマを突き出すわけにもいかなかったと思いますが、
残念ながら筑紫哲也氏の息はまったくかかっていませんでした。


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