循環型社会って何!

国の廃棄物政策やごみ処理新技術の危うさを考えるブログ-津川敬

企業の社会的「無」責任

2009年10月21日 | 廃棄物政策
リサイクル法の乱立
 去年から今年にかけ、リサイクル資源の価格は市況に翻弄(ほんろう)されっぱなしだった。まず昨年、北京オリンピックが常軌を逸する資源特需を日本にもたらし、自動車、電機業界は過去最大の利益を計上した。だが副産物として鉄・非鉄金属が異常に値上がりし、ガードレールやマンホールまで盗まれるという事件が全国に頻発した。
 一方、原油の大幅な高騰で廃プラや木くずが払底し、中国のバイヤーが(指定法人ルートを介すべき)容リ法プラまで買い漁った。彼らが通った跡はペンペン草も生えぬといわれ、全国のリサイクル工場が深刻な経営不振に見舞われた。だがオリンピックが終り、特需はあっという間に雲散霧消。鉄の価格は7分の1にまで下落した。
リサイクル法の不備を悪用したケースもある。使用済み家電の回収責任を負うべき量販店が法をタテに集めたテレビ等を海外へ横流しした事件だ。
もともと排出者責任を厳しく問わない国のリサイクル政策が問題だったのである。90年代半ばから2000年初頭まで、各業種ごとに個別リサイクル法が相次いで制定された。  
容器包装リサイクル法(1995年施行)
  家電リサイクル法(1998年制定)
  食品リサイクル法(2000年制定)
  建設リサイクル法(2000年制定)
  自動車リサイクル法(2002年制定)
 この分だとほかの業種にも波及しそうだが、そうなった原因は現行廃棄物処理法が排出事業者による処理責任を明確にしていないことにある。当然そこから生じる矛盾(不法投棄や不適正処理等)は年々激化する一方だった。
 それを回避する手段として排出事業者に「一定のコスト負担」を求めざるを得なくなり、各業種ごとにリサイクル法をつくるという異常事態を招いたのである。

◆幸先よかった?自動車リサイクル法
 乱立したこれらリサイクル法の中で比較的成功したケースは自動車リサイクル法だという。同法が施行された当時、熊本大学法学部外川健一教授(経済地理学、環境政策)が次のようにコメントしていた。
「(自動車リサイクル法が)無事にスタートできた背景には幸運な要因がいくつか重なっている。まず挙げられるのは、世界的な素材市況の好況であり、日本のメーカー各社が大きな社会システムを動かすために資金・人材を投入したことだ」(自動車リサイクラーズ国際会議2007レポートより)。
 だがそれにつづけて外川氏は「ただしBRICs諸国が牽引してきた現在の景気が失速し、その影響で自動車メーカーが経営に行き詰まったらこれほど順調に行ったとは思えない」とも付け加えた。その予感が当った。
 一昨年からのサブプライムローン破綻による世界恐慌で、外需依存の自動車、電機業界は一転、派遣労働者切りに象徴される経営不振に見舞われたのである。
 まず自動車リサイクル法の骨子を紹介しておく。
(1)自動車の所有者がリサイクル料金を支払い、使用済となった自動車を引取業者に引き渡す。料金はメーカー、車種、エアバッグ等の装備状況によって1台ごとに異なり、一般車両で約7,000円~18,000円程度。支払い時期は原則として、①購入時→ 新車販売店等へ、 ②車検前に廃車する車:廃車時に引取業者へ。一つの車に対し一回支払いが原則。
(2)自動車の所有者が支払ったリサイクル料金は、シュレッダーダスト、エアバッグ類のリサイクル、フロン類の破壊に使われ、処理は自動車メーカーが行う。
 
◆これ以上はご免だ
自動車リサイクル法も見直しの時期を迎え、経済産業省と環境省は大忙しだ。
では直近の審議会でどんな論議が行われていたのか。専門家からの聞き書きを含め、以下内容を要約してみよう。なお審議会名は「産業構造審議会環境部会廃棄物・リサイクル小委員会自動車リサイクルWG、中央環境審議会廃棄物・リサイクル部会自動車リサイクル専門委員会第26回合同会議 」という寿限無のような長ったらしいもので、第26回は2009年年8月6日に行われた。
(1)会議では従来の3品目(フロン、エアバッグ、シュレッダーダスト)に加えて不法投棄の多いタイヤ、バッテリー、廃油・廃液、発炎筒、LPGタンクやガラス、バンパー等の回収処理を求める意見も出たという。だがメーカー側は個別に対応済みとして必要性を認めなかった。
(2)ハイブリッド車の普及や07年以降顕著となった鉄スクラップやレアメタルなど埋蔵資源の価格高騰を受けて、触媒用白金族の回収だけでなく、各種レアメタル・レアアース部品の国内回収が新たな観点として浮上した。確実にメーカーに戻るために家電のようなシステムも悪くないという議論もあった。
注1.白金族金属にはプラチナ、パラジウム、ロジウム、イリジウム、ルテニウムなどがあり、優れた耐熱性・耐食性、高い触媒特性と特異な磁気特性などを有することから、化学工業や自動車排ガスの触媒、ガラス製造用炉、電子部品、磁気記録の材料として幅広い分野で使用され、需要は根強い。
注2.レア・アースは希土類とも呼ばれ、スカンジウム、イットリウムと、ランタンからルテチウムまでの17元素の総称。ハイブリッドカーにもたくさん使われている。
注3.廃家電の総重量のうち、一定重量以上の部品や材料を分離し、新たに製造する製品の部品や原材料として自ら利用するか、部品や原材料として他社に売却・譲渡できる状態にすること。
(3)路上放棄車両に関して、メーカー側はもう協力金は出さないと宣言した。路放協問題でひとつ見逃せないポイントがある。自治体にとって放置自動車が一般廃棄物になっていることはたしかに不当だが、現行法では市町村が放棄した者を突き止め、警察とタッグを組んで処理することになっている。だが実態はそれを面倒がり、路放協に協力金を出させて一件落着だという。
注)自動車メーカーはに1991年に路上放棄車処理協会(路放協)を結成し、自治体の申請に基づいて「放棄車処理に見合う費用」を支出してきた(05年からはリサイクル料金相当額)。なお路放協の構成団体は(社)日本自動車工業会、(社)日本自動車販売協会連合会、(社)全国軽自動車協会連合会及び日本自動車輸入組合である。
(4)またメーカー側は電子マニフェストの構築・維持管理(人件費・物品費)に多額の費用負担を求められている点についても不満らしい。またTH、ART、の2チーム併存を(競争原理導入の原則の下に)義務つけた関係から二重の管理・運営(費用負担)が発生している。このため運営の簡素化、システムの柔軟性、とくにメーカーの費用負担の軽減を求める意見も出ている。
注)自動車メーカーは自動車リサイクル法の発足にあわせ、トヨタ・ホンダなどがTHチーム、日産・マツダなどがARTチームというグループを結成。ASR(シュレッダーダスト)等のリサイクルを行う体制を固めた。折りしも小泉ドクトリンで、競争原理という用語が大手を振っていた時代である。

◆企業の社会的「無」責任
 景気がよければリサイクルにも協力する。だが業績低迷の今日、これ以上のお付き合いは勘弁してもらいたい。これが日本を代表する基幹産業の本音である。リサイクルも環境保全を考えてのことではない。むろんこれは自動車業界に限った話ではなく、産業界全体の姿勢というべきだろう。
 思い返せば「企業の社会的責任」なんて用語が流行ったのはトヨタの絶頂期だった。いまはなりふり構わぬ派遣切りと内部留保でどこの企業も目の色を変えている。
いまから20年ほど前、メルセデス・ベンツ東京支社を取材したことがある。使用済みのクルマ3台で1台のクルマをつくるという伝説があるほど企業による回収責任は徹底していた。
 これに対し日本では前述したように路上放置車を一般廃棄物に区分し、処理責任を市町村に押し付けてきた。メーカー側はドイツを見習えという声のあまりの大きさに「路放協」をつくり、市町村に協力金を寄付する、という形で世論を静めたのである。寄付というコンセプトは処理困難物の多い廃家電も同じであり、プラスチック処理促進協会も石油化学業界が世論の風を防ぐ防波堤として設立した団体である。
 だがその責めを産業界だけに負わすわけにはいかない。1990年から91年にかけて行なわれた旧厚生省の廃棄物処理法の改正作業にそのヒントがある。世に「幻のごみ処理法案」と呼ばれるものだが、その経緯について「いんだすと」という雑誌の11月号に書いた。詳細は同誌の発行後に載せるが、すでにその原案には「企業による回収責任」が謳われていたのである。

      








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