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国の廃棄物政策やごみ処理新技術の危うさを考えるブログ-津川敬

毎日の記事について

2008年04月07日 | 廃棄物政策
◆補助金で釣った
 話は少し古くなるが今年3月31日の毎日新聞が珍しく清掃施設の話を朝刊一面トップに据えていた。この政治一色の季節に、である。いや政治そのものに少し食傷ぎみなのか。
 内容はごみ固形燃料(RDF)施設が焼却施設(通常の清掃工場)の2倍も維持管理コストを要し、「国民負担が200億円も増えた」というものである。
同紙によれば処理費用とは人件費・光熱水費などいわゆるランニングコストと施設建設時に自治体が発行した起債の償還費の合計である。
 現在RDF施設は全国で53ヶ所稼動中だが、毎日はその全部からアンケートをとった。なんとその回収率98%。つまり未回答が1件という好成績だ。内訳の一部をみると処理費用3万円未満(ごみ1トンあたり)が8ヶ所、3万~5万円台が27ヶ所、6万円以上が17ヶ所で、平均5万2,887円。費用のバラツキは施設の故障頻度や規模などによると分析している。
 一般的な焼却施設の処理費用はごみ1トンあたり2万~3万円前後(と毎日は簡単に書いているが状況認識が少し違う。検討は後段に譲る)。
 RDFが高コストになる理由は、①各施設の工程が複雑で機械設備も多く、燃料費、光熱水費、修繕費が高い、②生産されたRDFを燃した場合、石炭よりカロリーが低いなど燃料としての評価が低い、③RDFは安全に管理しないと発酵・発熱したり、爆発する恐れがあるため保管費用が嵩む。たとえば静岡県御殿場市は操業直後からトラブル続き、御殿場市がメーカー・商社を相手どって民事訴訟を起こすという騒ぎに発展した。高コストから焼却を選択する自治体もあり、長崎市は県からRDF導入の打診を受けたが拒否し、焼却炉の建設計画を進めている。
 取材のチームリーダーである三木陽介記者は「RDFの大半は財政基盤の弱い地方にあり、自治体側の負担は1年で総額200億円に達しているにもかかわらず、補助金などを餌に建設を推進した国はこの間、事業の成否について何の総括もしていない。行政判断が正しかったかどうかを検証し、既設の施設をどうすべきかについて解決策を示す責任がある」と総括している。
 
◆広域化の穴埋め
もともとRDF開発は旧厚生省の所管ではなく、70年代の終り、折からの石油ショックを背景に「未利用資源(つまりごみ)の活用」を唱える旧通産省のプロジェクト(スターダスト80)のひとつとして進められてきた。
 その時点で旧厚生省はこの動きを冷ややかに見ていたのである。結局のところRDFの実証プラントは2年間動いただけで失敗に終った。挫折の原因はコストのかけすぎと、生ごみを除外せざるを得なかったことである。過疎の農村部ならともかく、人口の多い都市部での実用化にはほど遠い、という評価であった。
 一方、1997年になって旧厚生省はダイオキシン対策の切り札に「ごみ処理広域化計画」を打ち出し、全国の焼却施設を大型連続炉にシフトする壮大な計画を進めた。同時に展開したのが溶融炉の普及である。70年代に各メーカーが競って開発した灰溶融炉はエネルギーコストが嵩むことと、事故・トラブルが絶えないため、普及は大幅に遅れた。 そこで旧厚生省はダイオキシン対策と同時に「処分場の延命」を広域化のテーマに組み込み、そのピッチを速めるため、国庫補助金の優遇という餌を用意したのである。その結果、全国の自治体は一斉に「無理を承知の広域化計画」に乗り出し、国庫補助欲しさに走り出した。その結果、以前はせいぜい数ヶ所で動いているに過ぎなかった灰溶融炉は現在全国で116ヶ所(環境省の最新資料・05年度)と激増中である。
 ここで問題は地域の事情、独自のポリシー等から、広域化の輪に入れない(あるいは入らない)自治体が出てきたことである。しかし最初の広域化計画では、島嶼や公害指定地域を除き、100トン未満の焼却施設には国庫補助は出さないという舛添要一顔負けの阿漕な方針をとっていた。その結果立ち往生した自治体に対し、旧厚生省は「RDF施設をつくるなら補助金を支出する」方針を打ち出したのである。かつて冷ややかに見ていたRDFを普及させることで穴が開きそうな広域化計画の隙間を埋めようとしたのである。姑息、ご都合主義とはまさにこれをいう。しかも100トン条項は数年後に撤回している。

◆分母の検証を!
それ以降、現在までに全国各地で大型焼却プラントが建つことになったが、21世紀に入るや溶融炉(ガス化溶融炉79、灰溶融炉116)が各地で致命的な事故を起こし、さらに04年以降は維持管理費の高騰が自治体を直撃しつつある。とりわけ灰溶融炉のエネルギー源である電気、ガス、灯油などの値上がりと新日鉄系のシャフト炉に使うコークスの高騰がとび抜けて大きくなった。そこに事故・トラブルにともなう修繕費を加えたらとてつもない金額となる。当然のことながらプラント事故に伴う周辺環境の汚染も見逃すことはできない。何しろ大気中に揮散した重金属類を規制する法制度がないお国柄である。
 さすがに各地のオンブズマンを含めた住民有志がその異常さに気づき、維持管理費を中心にまず財政分析を開始し出した。すでに瑕疵担保期間が切れた自治体や組合もボツボツ出始めている。国による環境政策の破綻だ。
 RDF問題もその一部というか、分数の分母と分子の関係のようなものである。しかし分母の部分(環境プラント全体のリスク、コスト問題)はあまりにも対象が巨大で、その全貌は容易につかめない。
 これに対し分子格のRDFは資料も悲惨な実績もコストを含めすでに材料は出揃っている。毎日が書くように、RDFという欠陥施設を普及させたことの罪は許し難いし、「その行政判断が正しかったかどうかを検証し、既設の施設をどうすべきかについて解決策を示す責任がある」(記事の結論部分)こともそのとおりだ。
 しかし我々普通の市民(とも言い切れないが)にしてみれば、追及してほしいのは「分母」そのものの複雑な構造である。
 これまで新聞はダイオキシン対策、処分場の延命という国のいい分に正面切って検証、もしくは批判してこなかった。その政策を実現するための最先端技術(必ずしもそうとはいい切れないが)についてもおおむね肯定の立場をとってきた。
しかしRDFというわかりやすい「破綻の構図」を捉えて一面トップを飾る、というのはいささかイージーすぎはしないか。
 読売は論外として朝日でさえおかしくなっている今日状況の中で、毎日に文字通りの「社会の木鐸」を期待するほかはないのである。

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