今度、どこ登ろうかな?

山と山登りについての独り言

・新三郎(小路ヶ岳)、カイト山、天望山

2008年12月22日 | 山登りの記録 2008
平成20年12月20日(土)
新三郎(小路ヶ岳)1,681.5m 、1622㍍峰、カイト山(皆戸山・白板山)1,342.8m、天望山1,470.7m

 先週は南相木の山に登ったが、峰雄山とずみ岩・茶屋ノ平に登った後、もう一山くらいと思って資料を持っていった山が3つある。日の短いこの時期に、いくらなんでも道の無い山にそういくつもハシゴできるとは思わないが…。資料を持っていったのは県境の新三郎と、上野村のカイト山、天望山だった。登り残した山の消化という訳ではないが、2週続けて相木(今回は北相木)に向かう事にした。

 新三郎という名前の山が群馬・長野県境にある。この山については、ぼくは随分以前から気になっていて、登りたい山の一つになっている。それは、以前別のブログにも書いたが、御座山の白岩登山道を登っていた時に、振り返った視線に飛び込んできたのがこの山、上信国境に聳える突骨とした岩峰なのだった。後で名前を調べたら、新三郎(小路ヶ岳)という変な名前が付いていた。新しい二万五千図にも『新三郎』の標記がある。長野県側にある、直接この山が源流ではない新三郎沢から付いた名前であることは間違いない。

 しかし、それ以上にぼくがこの山に惹かれたのは、川崎精雄さんの紀行文「四方原山と諏訪山」の中に、「県境の『つぶら岩』」という名前で登場しているからだ。この『つぶら岩』が果たして本当に『新三郎』なのかは不明だが、そこに書かれている「1681メートルの県境のつぶら岩」に該当するのはこの山しかない。

 ところが、ここに疑問が残る事実がある。『県境』と『標高』という条件からそれを間違いないとすれば、それはそれで良いのだが…。新三郎の近くには、もう一つ同じ様な1,622mの無名岩峰がある。これも相木の集落方面から見れば、同じ様な高さで同じ様な岩峰だから、或いはこの岩峰を指した可能性もある。更に、ここにもう一つ、この『つぶら岩』という名前を考えた時に、こちらでは?と思える岩峰が別にあるという事実なのだった。それは、四方原山から県境に繋がる稜線から派生する1600m程のピークの南側にある巨大な岩だ。「つぶら=丸い」という名前からすれば、新三郎も1622m峰もこの岩の形から対象外になってしまう…それは遠目に見ても、特徴がある頭の丸い大きな岩の集合体なのだった。

 この山(新三郎)には、こんなぼくの色々な疑問や思い入れがあって、登っても尚興味が尽きない山なのだ。すっかり前置きが長くなってしまった。
今回は、その新三郎と隣の1622m無名峰に栂峠から登り、その後に上野村のカイト山と天望山を登ることにした。

 カイト山(皆戸山)は別名白板山とも言う。登山関係ではカイト山という名称が既に一般的だが、地元では皆戸山或いは白板山と呼んでいる。山の南側に大きな石灰岩壁を持つ特徴のある山だ。この山の石灰岩壁の下には幾つもの鍾乳洞があるという。白板(しろいた)は石灰岩壁を指しているのだろう。南牧の『しれいた山』も白い板、つまり上州弁で「しれえいたやま=白板山」のことだろうから、同じ様な命名だ。

 金曜の夜に家を出て、先週と同じコースでぶどう峠を越えた。ぶどう峠は12月24日から冬季通行止めになる。今回2週続けて行ったのも、通行止めになると、しばらくは行けなくなるからというのが本当の理由だった。ぶどう峠道は雪が凍り付き、先週とは違って気を遣う。抜けた長野県側も積雪が残っていた。

 北相木に下り、長者の森分岐を過ぎた初めの集落、木次原の先に栂峠への林道分岐がある。はたしてどこまで行けるかは分からないが、栂峠林道を奥に進む。次第に積雪が多くなるが、路面は比較的フラットで、ずっと奥まで進めた。林道を送電線が横切るところに丁度良さそうな駐車スペースがあったので、そこに車を停めて仮眠することにした。朝になって、まだ先に行けそうだったら更に奥に進む事にした。林道の直ぐ脇に高い高圧鉄塔が立っている。車の中、シュラフの窓から仰向けになると、その高圧鉄塔が星空をバックにシルエットになって覆いかぶさる。そんな事は無いだろうが、もしその鉄塔の部材が落ちてきたら、車の屋根を貫通してイチコロだな…なんて思いながら眠りについた。

 アラームは朝が遅いから7時としたが、鳴る前に目覚めた。車の周囲はすっかり葉を落とした落葉松の林で、快晴の空、寝る前に心配した高圧鉄塔が、まるでレトロな巨大ロボットの様に黒々と立っていた。時折、その高圧線から発する風切り音が、まるでロボットが発する機械音の様だ。
この高圧線は、御座山の肩を越え、先週登った峰雄山とずみ岩の間を通って、御陵山の下を横切り、奥秩父の瑞牆山と信州峠の間を抜けている。

 車の外に出て林道の状態を確認すると、まだ車で充分行けそうだった。車で、更に林道を上って行くと、100㍍くらい先に『栂峠』を指す看板があり、そこから歩道が上に向かっていた。そこで車を停めて道脇に寄せ、朝食のホットケーキを食べてから支度をし、7時25分に出発した。もう一つある『西群馬幹線103→』の看板は、この上に見える赤白だんだらの鉄塔への道を指している様だ。

 落葉松の明るい上りを行くと、直ぐに鉄塔巡視路と分岐して、栂峠へは東にやや巻き気味に登っていく。黒々とした新三郎は直ぐそこに見えている。間もなく、新三郎側に突きだした岩場に出た。小さな祠が、コメツガの巨木の根元にあり、そこからは御座山が目の前に大きく見える。懐かしい赤火岳も文字通り?朝陽に赤く見えた。眺めは良いが、その景色の前を横切る何本もの高圧線がうるさい。佐久の幽濫「御座山」も、すっかりこの張り巡らされた電線で台無し。

 祠から北に斜上して、朝陽を浴びる落葉松の森を抜けると平坦で明るい栂峠だった。7時54分栂峠着。北相木村で立てた栂峠の標識の傍らには、頭の一部が欠けたお地蔵さんが雪の中に佇んでいた。落葉松の森の樹床はミヤコザサだったが、今はその上をうっすらと雪が覆っていた。栂峠の名前に反して、長野県側は落葉松、群馬県側はナラとブナの自然林で、ツガは見あたらない。ここで群馬県方面から延びている林道が交差する。十国峠や佐久穂町の新三郎沢を上ってくる林道が県境で合流し、ここに延びていた。

 歩きやすい林道を進んでいたら、方角を間違えて新三郎はいつの間にか後ろになっている。栂峠から群馬県側に派生する尾根の小山に登ってしまった。行く手の右側に見えているハズの八ヶ岳が、いつの間にか後ろに見えていることに気づいた。おやっ、と思った時には、もう小山の頂上でヤレヤレ…。静かな雪の森の中を苦笑いしながら軌道修正。

 栂峠から新三郎までは、シャクナゲの岩混じりの稜線を進む。シャクナゲ薮がうるさい所は雪も深く、なかなか雪山気分を楽しませる上りだ。群馬県側の樹間から上野村の山々が見おろせ、左手に一際高く両神山がシルエットになっていた。痩せたギャップを慎重に越え、薮が囲む狭い岩の上が新三郎の頂上だった。8時35分新三郎着。西に岩棚がせり出し、その下は切れた崖になっている。そこに立つと、目の前には大きな御座山と真っ白に並んだ八ヶ岳が素晴らしい展望だ。四方原山の稜線の上には、ずらりと白い北アルプスもくっきり見えていたし、八ヶ岳の左手には南アルプスの北岳辺りまでが御座山の肩に見えている。

 新三郎の頂上は突き出した岩の上だが、その下に三角点標石がある。突き出した岩に生えている赤松に『新三郎1682』と刻まれた木製の山名板が、何故か赤い靴ひもでくくりつけられていた。三角点傍の低木には、MHCの名板もあった。

 9時18分に新三郎を後に下る。下る途中で西に岩場を進んだら、車を停めてきた鉄塔付近を見下ろせる眺めが良い岩頭があった。林道付近の鉄塔から上に繋がる赤白だんだらの鉄塔も良く見えるが、それは栂峠から西に派生する尾根に立っていた。その赤白鉄塔の西に、ぼくがもうひとつ『つぶら岩?』かもしれないと思った1622m岩峰が見事な尖峰で見えていた。ここを次に登るために、栂峠から長野県側の西に派生した稜線に向かうことにした。もうひとつ、疑問に思っている、丸い大きな岩がある四方原山続きの稜線も、その岩峰からなら良く見えるだろう。

 9時53分に栂峠を通過し、西に派生する尾根へ向かう。間もなくミヤコザサの尾根に林道が現れ、それを辿って赤白鉄塔に10時5分に着いた。ここから下に管理用の巡視路が下っているから、帰りはこれを下ることにする。稜線を更に西に進むと、やや薮がうるさくなるが、ケモノ道(シカの糞が一杯)がある。間もなく、1622m峰の下に出た。

 ここからは木の根と岩混じりの急峻な上りで、雪もあるから慎重に登っていく。北側に少し回り込んで、最後は木づかみで登るが、かなり高度感もあって気が抜けない。登り着いた山頂は松やシャクナゲが茂る薮で何も無かった。1622m峰に10時25分着。薮越しに新三郎が大きく立派(天丸山辺りから見た帳付山に似ている)。

 西に少し進んだ先が絶壁になっていて、そこから例の岩が手に取るように見えた。ここから見下ろすと、四方原山から栂峠方面に延びる林道を南に下っていくと、その岩のあるピークに出られそうだった。こうして見ても、その岩は相当な大きさで、付近に生えている木で目算したところ高さは50㍍くらいはありそうだ。巨大な頭の丸い大岩が、どんと山の上に乗っかっているというイメージ。(正面からここを見られるのは、御座山白岩登山口の加和志沢開墾地付近だ。ここからだと、同じ様な指先形の岩が4つばかり並んで見えている)しかし、そこまで行けそうな事が分かったから、これは収穫だった。いつかその岩に登ってみよう(名前も確かめてみたい…な)。この岩と1622m峰の間には、他にもまだ幾つかの岩峰が見られた。

 10時52分に1622m峰を慎重に下る。はるか下に生える木々が小さく見え、かなりの高度感だが、3点支持で確実に下る。赤白鉄塔まで引き返し、管理用巡視路を下って栂峠への道に合流し(登り始めて直ぐにあった分岐)、11時27分に車に戻った。栂峠林道を下ってぶどう峠への道に降りる。栂峠林道から見る新三郎は、なかなか立派な山だ。

 さて、次はカイト山と天望山だが、一旦ぶどう峠を下って上野村に降りてから十国峠に向かう矢弓沢(やきゅうさわ)林道を上り返す。ヘアピン上りの急な道から、のしかかるようなカイト山が現れた。白い石灰岩壁をぐるりと張り巡らし、白板山という別名も頷ける。カイト山に突き上げる、南にくい込んだ急な沢付近の道路を、ザックを担いだ4,5人の一団が歩いている。手にスコップ等を持っているから、普通のハイカーじゃなさそうだ?

 カイト山の登山口が分からなくて、しばらく先まで行ってまた引き返した。どのみち、道なんか無い山だから、稜線に上がれそうな路肩付近のスペースに車を停めて12時58分に歩き出す。ちょっと遅くなってしまったが、直ぐに登れてしまうから何とかなるか…。下草のない雑木山の斜面を登って行くと、しっかりした道を横切る。多分これは旧十石峠街道だろう、天保十一年十月と彫られた文字が読める石仏があった。その道を横切って、更に上に向かう。しばらく登って稜線に出た。落葉松と雑木が茂る稜線は特に目印もないが、行く手のカイト山に向かうだけ。

 カイト山に近づくと岩混じりになり、次第に急になって薮岩稜に出た。痩せた岩稜は細長く続くが、そこを一登りで狭くて遮ることもない岩の上が山頂だった。カイト山13時28分着。

 薮があるとはいえ、幅は2㍍くらいしかない岩稜の上は結構な高度感。しかし、四周はまさに遮ることもない360度の展望台で、これ程の眺めがある山は西上州でも少ないだろう。見下ろす北面岩壁は雪が残る。上野村の全ての山、県境の山々、立岩・荒船・毛無岩方面の南牧の山の上に真っ白な浅間山が大きい。妙義・榛名の向こうには上越の白い山並みに、日光白根や皇海山・男体山まで見える。上武国境の山々と両神山はぎざぎざの稜線を見せていた。飽きない眺めだ。

 早速湯を沸かし、カップラーメンを作った。岩壁の下の方から、反響するような人の話し声が聞こえる。初めは何だろう?といぶかったが…どうも、この山の石灰岩壁の下にある鍾乳洞の中で話をしている人の声ではないか、と思った。とすれば、さっき林道を歩いていた一団に違いない。

 14時28分にカイト山を降りる。この時期、もうこの時間になると夕方の雰囲気だが、今日の最後の山である天望山にも登りたい。14時48分に林道に降りて、車で天望山登山口の『水の戸』へ向かう。矢弓沢林道からR299号に出て、しばらく十国峠方面に進んだ所に『水の戸』の広場がある。ここには『水の戸』と彫られた石碑が建つ。水の戸とは、つまり分水の事のようだ。15時9分に、やや陽が傾いてきた水の戸広場を後に落葉松の尾根を上に向かう。

 しんとした落葉松の林は寂寥感が漂い、そこを歩く気分は北原白秋か?ぐねぐねと付いている林道を無視して、尾根を忠実に上り15時31分に三等三角点がある落葉松林の中の天望山山頂に着いた。

 木々を透かして鹿岳が見えている。すぐ向こうの小山を鹿の一団が警戒音を発して逃げていった。その後は一層静寂になる。群馬県内で最近良く見る塩ビ製の小さな山名板が一つ、ブナの木に木ねじで留めてあった。ヒトケのない山に付けて回っているようだ。夕日に赤く山頂が染まってくる。15時40分に天望山を下り、15時57分に水の戸広場に降りて本日の山は終了した。予定していた全ての山に登れたので満足。

 十石峠まで上って、そこにある灯台みたいな展望台から、青く沈んでいく山々の景色を眺めて一日の山の余韻を楽しんだ。

 帰りは、ちょうどぼくと入れ違いにお客が誰も居なくなった『しおじの湯』を独占してすっかり満足だった。お客さんが少ないこの時期は、温泉も午後6時で終了のようだ。アクセス道路が凍結する季節となり、観光客も居なくなった上野村は休息の季節を迎えたのか…。

 一日の楽しい山登りの充実感が一杯で、湯ノ沢トンネルを抜け帰路についた。

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5 コメント

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この時期にずいぶんいっぱい登られますね (ノラ)
2008-12-22 21:53:10
あさぎまだらさん こんばんは。土曜日はいい天気で暖かかったですね。山へ行った帰りの電車の中が暑くてまいりました。
ところで記事の中にある川崎精雄さんの本は「雪山,藪山」でしょうか?私は読んだことないので教えてください。
それにしても,朝からいっぱい登られますね。この時期のチェーン登山はすごいなです。
四方原山も懐かしいです。私の知らない岩峰が次から次へと出てきます。興味は尽きません。
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暑かったですね… (あさぎまだら)
2008-12-22 23:44:34
ノラさんこんばんは。
今日は飲み会だったので、今帰りました。

土曜は暑かったです。というのは、ぼくはどっちかというと薄着なんですが、この日は冬ハイキングモードの支度をしていました。ですから、汗をかいてしょうがありませんでした。

『山を見る日』だったと思います。実は、『雪山・薮山』と『山を見る日』の2冊とも人に貸したままになっていて現在確認できません。
川崎さんは先頃101歳で亡くなられたようです(合掌)が、ぼくが一番好きな作家?(本業は銀行員だった)です。何よりも、ヒトケの無い薮山や、無名峰に立ち向かっていく(若い頃はかなり先鋭です)、坦々として高潔な人柄と文体は他の追従を許さないと思います。非常に温和ながら、自己に厳しいストイックな方だったと伺っています。
ぼくにとって、山登りの原点は川崎さんの様な登山ですか…。敬愛し、尊敬している先人ですね。
年齢がいってからの紀行文集、『静かなる山正・続』共著は、かつてぼくの山のバイブルでもありました。

日の長い時期は、ロングトレイルが基本ですが、晩秋から冬場はショートコースのハシゴが多いです。自分に馴染んでいるスタイルなので…。
西上州は、近頃とかく日の目を見ていますが、隣接する県境や相木・佐久の山は静かです。思いがけない岩峰も沢山隠れて?いて興味は尽きません。まだまだ楽しめそうです。
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本は入手しました (ノラ)
2008-12-27 09:51:22
あさぎまだらさん おはようございます。急に寒くなりましたね。教えていただいた本は古本で入手できました。まだ,「山を見る日」をパラパラとめくってそれらしい文章を読んだだけですが,「四方原山と諏訪山」の中につづら岩というのが出てきます。ありがとうございました。
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寒いですね (あさぎまだら)
2008-12-27 10:56:34
ノラさんこんにちは。
山はお休みですか?
寒さも本格的で、いよいよ冬本番と言った感じです。周囲の山は全て雪化粧しています。昨日は、こちらでも風花(というより雪でした)が吹雪のように舞いました。本当に寒いです。

『山を見る日』はどちらかというと、しみじみと山を辿る紀行文が多いです。読み物としては『雪山・薮山』の方がわくわくして面白いですが、ぼくの今の年齢からすると、『山を…』の方が共感できますね。どうでしょうか?『静かなる山』も共著ながら、今の薮山・静かな山ブーム?の先駆けかと思います。こちらは現在入手が難しいかもしれません…。

あしたは山に行こうと思っています。今年最後の山ですね。
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つづら岩 (あさぎまだら)
2008-12-27 11:11:28
ノラさん申し訳ありません。
ご指摘のとおり、『つづら岩』ですね。
どう間違えたのか。ずっと『つぶら岩』だと勘違いしていました。

『つづら』といえば『葛籠』のことか?或いは九十折れの『つづら』のことか…?どっちにしても、現在そう呼ばれている岩峰はあの付近には無いので、やはり疑問はそのままです。

ご指摘
ありがとうございました。
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