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日々出版される本の洪水。翻弄されながらも気ままに楽しむ。あんな本。こんな本。
新しい出会いをありがとう。

カッサンドラの悲劇

2006年02月10日 | 読書ノート
ギリシア神話を知っていますか

新潮社

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 「焚き火の火が燃え移り家が焼けた。幸い,近くのセブンイレブンに出かけていたので家族は難を逃れた。」

 娘の夢の話である。

 インフルエンザで1週間のお休みを余儀なくされた彼女。治癒証明をもらって,やっと昨日から保育園に通い始めた。その翌朝に見た夢がこれである。お休みはもういやだという気持に起因する夢なのだろうが,普段,夢の話などしたことがないのに,起きるなり,いきなり語り始めたので少し驚いた。

 「火事の夢か・・・」と思ったところで,トロイヤ物語のカッサンドラの悲劇を思い出した。

 カッサンドラは,トロイヤ王プリアモスの娘。ギリシアの神アポロンに見初められたカッサンドラ。ご褒美に予知能力を授けられるが,アポロンが事に及ぶ前にスタコラサッサと逃げ出してしまう。怒ったアポロン。みんながカッサンドラの予言を信じないようにしてしまう。

 時はトロイヤ戦争真っ盛り。戦況不利なギリシア勢。知将オデュセウスが放つ起死回生の奇計「木馬の謀」。謀とも知らずつかの間の戦勝に酔いしれるトロイヤ勢。木馬をやすやすと城内に引き入れ自ら墓穴を掘る。

 このとき,「燃え盛る城内と阿鼻叫喚を予知し,木馬を引き入れることを強行に反対した」のが他ならぬカッサンドラであった。だが,「木馬は運んではいけない!中にギリシア人が隠れている」と狂気のように城内を駆け巡って危険を訴える彼女の声に耳を傾けるものは誰もいなかった。まさに悲劇である。

 彼女の末路はもっと悲しい。が,ここではそれにはふれるまい。ヘレネとは違う清楚な美を放つカッサンドラ。その控えめな美しさがお気に入りの私としては,その後,彼女が気の毒でならないからである。その悲劇の行く末までを予知してしまう,カッサンドラの気持ちを思うと,こっちまで少々気が重たくなる。

 それにしても,ゼウスと並ぶ好色神アポロン。罪なことをするものである。思いが遂げられないからといってここまでの荷をカッサンドラに負わさなくてもいいではないか!物語の仕掛けとしては極めて秀逸だが,カッサンドラびいきのおいらにはちと許しかねる悪さである。   blog Ranking へ


 


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