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昨年9月のこと。日本経済新聞の朝刊:文芸欄に,作家の石川好さんが”饒舌な国インド”という論考を書いておられた。(2005/09/18)
数年前体調を崩した同氏。その原因は,なんと血流障害とリウマチがあわせ重なったやっかいな病気であった。いくつかの病院を転々とするが一向に改善の兆しは見えない。
そんなある日,ひょんなきっかけで,インド青年の勧めによってインドの病院に行くことが決まり,延べ四カ月近い病院生活の後,無事,全快したというお話である。
入院に際し,数多くのおしゃべりなインド人に接したことから,「インドの饒舌(じょうぜつ)」を記事にしたわけであるが,何よりも驚かされるのは,インド医学のすごさである。
掛け算の19の国。ゼロの発見の国。数学大国。今や,インドが世界のIT大国であることは,誰も異論を差し挟まないと思うが,医学の分野までインドが台頭しているとは知らなかった。病院の梯子を余儀なくされた日本との差は歴然としている。
そのことだけでもショックなのに,さらに打ちのめされるのは,インドの病院に欧米の患者が年間数千人単位で入院中だということだ。インド医学のレベルが世界的な水準にあるのに加え,医療費が欧米の相場に比べて平均すれば三割以上も安いからだ。
しかも,医学会の人材の厚さは,インド人をして,「アメリカを困らせるのに,あんなテロをやる必要はない。アメリカの医療界で働いているインド系アメリカ人に帰国命令を出せばアメリカの医療システムはパニックに陥るであろう」と言わしめる。
これからの50年から100年。世界人口の3分の1を占める中国とインドは,これまでにない実力を備えて世界に君臨することは間違いないだろう。もちろん,インドにとって,その大きな飛躍の前には,カースト制度と人口爆発問題が立ちはだかる。
しかし,それを差し引いても,インドの潜在成長力は侮れない。IT大国インド。医学大国インド。である。
福沢諭吉の『学問のすすめ』でも第12編に「たとえばインドの国体は,旧ならざるに非ず,その文明の開けたるは西洋紀元の前数千年にありて,理論精密にして玄妙なるは,恐らくは今の西洋の理学に比して恥ずるなきもの多かるべし。(岩波書店版。P112)と評している。
が,その一方で,文明国家としての優位性も,発展のエネルギーを国内の繁栄に特化し満足・安住したことによって,イギリスによる植民地化という大国の凋落を招いたと断じる。
今のインドは,福沢の135年前の宿題を片付けつつあるようだ。しかして,わが国はどうなのだろうか。