創作 彩音(あやね)との別離

2024年06月21日 16時17分34秒 | 創作欄

「あなたは、不思議な人ね。なぜ、こんなことまで話してしまうのかしら・・・」

神野 彩音(あやね)は、島田  昭(あきら)の瞳を覗きみるような視線を向けたので、昭は気持ちが引けた。

実はその日は、昭にとっては、女性との初めてのデートであったのだ。

2人の出会いは2日前であった。

街の銭湯の出口で、女が雨宿りをしていた。

突然の雷雨で、稲光と続く落雷の耳をつんざくような響きに女が悲鳴を上げる。

「怖い!雷は大嫌い」女が思わず昭の腕にすがりつく。

沈黙したままの昭は傘越しに、女の様子を探るように見た。

「ごめんなさい」女はすがりついた腕を引きながら苦笑した。

昭は、水玉模様のミニスカートの女の白い足に視線を落とした。

彩音は、男の露わな視線に警戒心を覚えた。

だが、相手の男は元彼の清水健介を思い出させたのだ。

「私の未練なのね」彩音は心の底では、自分を裏切った健介を許したいと思っていた。

でも、健介は新しい女と新しい生活を送っていて日々、遠ざかるばかりだった。

「あなたに、明日も会えるかしら?」彩音は初対面の男に誘いをかける。

昭は我が耳を疑う思いがした。

女からの生まれて初めの誘いであったのだ。

「いいですよ」昭は言葉が上ずる思いがする。

25歳の昭に春が訪れたのである。

出会ったのは、東京・御徒町の銭湯の軒下であり、初めてのテートは上野駅に近い音楽喫茶であった。

 

 

 

 

 

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