“走る凶器”はねられた女子高生即死 ドラレコ映像に度重なる赤信号通過も判決は……

2020年05月16日 12時30分01秒 | 事件・事故

大型トラックを運転中に赤信号を無視し、横断歩道を自転車で渡っていた女子高生をはねて死亡させた男に対する裁判員裁判が平成29年12月、大阪地裁で行われた。争点は男が赤信号を認識していたか否か。検察側は、故意に赤信号を無視したとして、自動車運転処罰法違反(危険運転致死)罪で起訴。トラックに取り付けられたドライブレコーダーの映像から、男が前を見て運転していた(信号を見ていた)ことを立証し、事故を起こすまで約35分間で計5回の“信号無視”を繰り返していたことも指摘した。しかし、判決は「(信号)見落としの可能性がある」と判断し、罰則の軽い同法違反の過失致死罪を適用した。検察側の証拠のどこに穴があったのか。

 走る凶器と化したトラック

 事故は同年2月2日午後7時5分ごろ、大阪市西淀川区大和田の府道交差点で発生した。現場は信号機のある片側2車線の交差点で、青信号にしたがって自転車で横断歩道を渡っていた同市内の高校1年の女子生徒=当時(16)=が、赤信号を無視して交差点に進入してきた大型トラックにはねられた。

 トラックの総重量は23トンで、当時のスピードは時速57キロ。“走る凶器”となった大型トラックにはねられた女子高生は即死した。

 大阪府警は、自動車運転処罰法違反(過失傷害)容疑でトラックを運転していた男(44)を現行犯逮捕。大阪地検は、より重い罰則が問える危険運転致死罪で起訴した。男が赤信号であることを認識していながら故意に無視したと判断したからだ。

 ただ、危険運転致死罪を適用するのは簡単ではない。12月4日の初公判で、男は「赤信号を認識していながら無視してはいません」と故意の信号無視を否認。検察側は、赤信号を無視したのは「故意」と立証する必要があり、居眠りや脇見などで「見落とし」た可能性を排除しなくてはならない。

 検察側が「間違いなく認識していた」と主張する支えとなったのは、トラックにあったドライブレコーダーの存在だった。

 スピード上げて現場に進入

 トラックには進行方向と運転席を写した2つのドライブレコーダーがあり、法廷で映像が流された。

 このうちトラックから前方を写していた映像からは、次のことが明らかとなった。

 《現場の西(現場の手前)約100メートルに信号機のある交差点があり、トラックは、この交差点を信号が赤になった直後に通過。とほぼ同時に約100メートル先の現場の信号も赤に変わった》

 《トラックと現場までの距離は98メートル。見通しは良く、時間にして約6秒の間があった。ブレーキをかければ止まることはできたのだが、トラックは止まるどころか、車線変更し、数キロほどスピードを上げていた》

 このようなことから、検察側は「前方を見ていれば必ず信号機が見える状況だった」と主張した。

 そして2つ目の映像。トラックの車内を写したものだ。映像には運転席の男の顔が写っていた。男は手前の交差点から現場に至るまでの間、車線変更のために一瞬右側に視線を向けた以外は、前方に視線を向け続けていた。

 2つの映像を総合すると、「前を見ていれば赤信号を簡単に認識できる状況で、男は脇見せずに前を向いて運転していた」となり、検察側の「赤信号であることを認識していた」との主張につながる。

 ギリギリなら赤信号突破?

 男は当日、大阪市住之江区にある勤務先を出発し、約35分後に事故を起こしていた。この約35分間の運転の映像も全て裁判員らの前で流され、その間法廷は静寂に包まれた。

 それによると、現場にたどり着くまでのルート上には交差点が43カ所あり、そのうち赤信号だったのは18カ所。男は14カ所で停車したが、4カ所は信号が赤に変わった直後の交差点を通過していた。現場も含めると約35分間に5カ所の交差点で“信号無視”。20年近くトラックの運転手をしていたという男だが、粗い運転との印象は否めない。

 赤信号で止まった14カ所は、前の車がすでに停車していたか、交差点の相当手前で信号が赤に変わっていてすでに歩行者が道路を横断するなどしていた。こうした状況から、検察側は「(男は)赤信号に変わった直後であれば、事故を起こさずに交差点を通過できると考えていた」とした上で、「現場も一気に通過できると思い込んだ」と指摘した。

 「ボーッとしていた」

 検察側の指摘に対し、男は被告人質問で、事故について「ボーッと考え事をしてしまっていたのか、(信号を)見落としてしまった。事故を起こすまで全く信号を見ていなかった」と繰り返し、故意による信号無視を否認し続けた。

 現場以外の赤信号通過についても「全て見落としていたかもしれないし、黄色だと思って通過した場所もあるかもしれない」と、いずれも故意ではないとした。

 ドライブレコーダーの映像は男の“危険運転ぶり”を裏付けているようだったが、弁護側は逆に、男が現場の信号を認識していなかった証拠になると訴えた。

 なぜか。

 現場に到着するまでの映像では、男は交差点の相当手前で赤信号になった場合は止まっていた。この点をとらえて弁護側は、男について、止まるべき場合は止まる人物と分析。現場の信号が赤になってから事故が起きるまでは6秒間もあったため、「現場に到着するまでの運転状況を踏まえると、赤信号を認識していれば止まるべき状況」と述べ、男には信号の見落としなどの止まれなかった事情があったことを訴えた。そして「『一気に通過しようとした』との検察側の主張は不自然だ」と反論した。

 12月15日の判決公判。西野吾一裁判長は、検察側が予備的訴因として追加していた過失致死罪を適用し、男に禁錮2年6月を言い渡した。検察側は危険運転致死罪の場合は懲役8年を求刑(過失致死罪の場合は禁錮3年6月)しており、求めた結果からはほど遠い判決となった。

 西野裁判長は判決理由で、弁護側の主張通り「現場にたどり着くまでの走行状況を踏まえると、『一気に通過しようとした』との主張は唐突で不自然」と指摘。「(男が)赤信号を認識していた可能性は高いが、それが間違いないとまでは判断できない」として、「故意だった」との検察側の訴えを退けて「過失」と認定した。

 ただ、西野裁判長は「信号の見落としは、車線変更など危険で必要性の乏しい運転が原因。過失は相当大きい」と指弾した。

 一人で育てた母の涙

 命を奪われた女子生徒はまだ高校1年。母親が女手一つで育て、女子生徒は高校に入学してから母親に「子供優先で育ててくれてありがとう。高校生になったし、ママのやりたいことをやってください」と手紙を送っていた。

 法廷で意見陳述した母親は「娘は何度も何度も『悲しませてごめんね』と言っていると思う」と涙。娘は中学の卒業文集で「辛いときこそ笑顔。笑っていると幸せがくる」とつづっていたといい、「娘が残してくれた言葉を支えに生きていきたいが、負の感情が芽生えてしまう。私は人をうらやんだり、憎んだりして生きているのか(と自問自答している)。心から笑っていたい」と述べた。

 

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