ハルビン (新潮クレスト・ブックス) 単行本(ソフトカバー) – 2024/4/25
韓国で33万部超のベストセラーとなった話題作
1909年10月26日、ハルビン駅で元韓国統監の伊藤博文を銃撃した30歳の青年・安重根は、大地主の家に生まれ、抗日義兵部隊で活動しながら、戦闘中に捕虜となった日本軍捕虜を解放したこともあった。
1909年10月26日、ハルビン駅で元韓国統監の伊藤博文を銃撃した30歳の青年・安重根は、大地主の家に生まれ、抗日義兵部隊で活動しながら、戦闘中に捕虜となった日本軍捕虜を解放したこともあった。
彼はどんな怒りを抱えてハルビンへと向かったのか。
韓国で33万部超のベストセラーとなった歴史小説。
出版社より
![帯表](https://m.media-amazon.com/images/S/aplus-media-library-service-media/6c93fdcf-42a8-41c2-bf7e-7b8bf367b088.__CR0,0,970,600_PT0_SX970_V1___.jpg)
![帯裏](https://m.media-amazon.com/images/S/aplus-media-library-service-media/61a7910f-eee2-4c12-b0f2-59e9bb7dcc4a.__CR0,0,970,600_PT0_SX970_V1___.jpg)
この言葉は死刑囚安重根が獄吏に頼まれて墨書した言葉だという。
大日本帝国の保護国となっていた韓国の誇り高き青年が、自らの命を賭して時代に抗った気骨を感じさせる。
韓国統監を辞して枢密院議長に就いていた伊藤博文がハルビンで安重根に暗殺されたことは、誰もが日本史で学ぶが、事件の詳細な経緯や安重根の人物像は日本ではほとんど知られていない。
本書は、歴史小説の形式を取りつつ、伊藤と安重根のそれぞれの立場から事件の経緯を複眼的に描いたものであり、植民地支配を強めていく日本を体現する存在としての伊藤に対し、安重根が殺意を抱いてそれを実行に移していく過程が緊迫した筆致で描かれている。
本書の後半では、事件後の捜査と裁判の経過が詳細に記載されている。
安重根は、後の治安維持法時代のような過酷な拷問を受けることもなく、政治犯として丁重に遇されたようだ。
大日本帝国の保護国となっていた韓国の誇り高き青年が、自らの命を賭して時代に抗った気骨を感じさせる。
韓国統監を辞して枢密院議長に就いていた伊藤博文がハルビンで安重根に暗殺されたことは、誰もが日本史で学ぶが、事件の詳細な経緯や安重根の人物像は日本ではほとんど知られていない。
本書は、歴史小説の形式を取りつつ、伊藤と安重根のそれぞれの立場から事件の経緯を複眼的に描いたものであり、植民地支配を強めていく日本を体現する存在としての伊藤に対し、安重根が殺意を抱いてそれを実行に移していく過程が緊迫した筆致で描かれている。
本書の後半では、事件後の捜査と裁判の経過が詳細に記載されている。
安重根は、後の治安維持法時代のような過酷な拷問を受けることもなく、政治犯として丁重に遇されたようだ。
旅順での裁判は各国の注視の下で行われ、日本政府としては開明的な印象を与えようとしたのであろう。
公判で検察側は安重根の犯行を無知と誤解によるものと描こうとしたが、安重根は死刑を覚悟して「東洋平和」をめざす自らの主張を堂々と展開した。
なお、蓮池薫氏の訳文は原文の叙情的香りを十分伝えている。
安重根が死刑囚となった後の、哀愁に満ちた晩秋の故郷の描写を引用する。
「黄海道の山村に冬の訪れを知らせるのは、風に落ち葉が追われる音と夜の暗闇へ響く砧の音だった。張り詰めた冷たい空気のなか、音は遠くまで聞こえていく。落ち葉は乾燥した音でざわつき、砧の音はこの家からあの家へとリレーのように引き継がれていく。村の端までいって止まった砧の音は、どの家からか再び響き始め、隣家に引き継がれ、村中へと広がっていった。犬たちも合わせるかのように吠えた。大きな犬は低く、小さな犬は高く鋭く、鳴き声を上げた。」
(追記)
安重根はカトリック信徒であり、本書では安重根の行為を阻止しようとするウィリアム神父との対話が描かれるが、死刑囚となった後の神父との面会では反省を迫る神父に安重根がどのような告解をしたのかがあえて記されていない。
著者の後記では、1993年に韓国カトリック教会が安重根の行為を「義挙」として名誉回復したことが記されているが、戦争とはいえ殺人を教会が正当としてしまう政治性に疑問を感じる。
公判で検察側は安重根の犯行を無知と誤解によるものと描こうとしたが、安重根は死刑を覚悟して「東洋平和」をめざす自らの主張を堂々と展開した。
なお、蓮池薫氏の訳文は原文の叙情的香りを十分伝えている。
安重根が死刑囚となった後の、哀愁に満ちた晩秋の故郷の描写を引用する。
「黄海道の山村に冬の訪れを知らせるのは、風に落ち葉が追われる音と夜の暗闇へ響く砧の音だった。張り詰めた冷たい空気のなか、音は遠くまで聞こえていく。落ち葉は乾燥した音でざわつき、砧の音はこの家からあの家へとリレーのように引き継がれていく。村の端までいって止まった砧の音は、どの家からか再び響き始め、隣家に引き継がれ、村中へと広がっていった。犬たちも合わせるかのように吠えた。大きな犬は低く、小さな犬は高く鋭く、鳴き声を上げた。」
(追記)
安重根はカトリック信徒であり、本書では安重根の行為を阻止しようとするウィリアム神父との対話が描かれるが、死刑囚となった後の神父との面会では反省を迫る神父に安重根がどのような告解をしたのかがあえて記されていない。
著者の後記では、1993年に韓国カトリック教会が安重根の行為を「義挙」として名誉回復したことが記されているが、戦争とはいえ殺人を教会が正当としてしまう政治性に疑問を感じる。
蓮池薫氏が翻訳した「ハルビン」を読み終えました。
1909年(明治42年)10月26日、ハルビン市、ハルビン駅で起きた「伊藤博文暗殺事件」が、暗殺者、安重根の視点を中心に供えて、そこに伊藤博文、日本(帝国)政府、大韓帝国、安重根の家族、安重根が洗礼を受けたカトリック側からなど多くの視点を小気味よく交錯させながら、密に再構築されています。
今、自分が立脚している場所、歴史の片隅に生きている時間軸を把握した上で、私自身の中に多くの思いと反省、怨念と怒りを表出せしめるまるで「カトリック」に対する<踏み絵>のような小説だと感じ取りました。
その小説作法について言えば、安重根が共犯者、禹徳淳を伴いハルビン駅に向かうシークェンスは優れたサスペンス小説のように生き生きと躍動しています。事件は歴史的な事実ですので、読者はどういう結果を齎すか既に理解しているわけですから、それでも尚そのトピックの熱量に圧倒される思いがします。
巻末に「作者の言葉」が置かれていて、その内容に呼応させていただければ、この小説は、比較的裕福な境遇で育ち、カトリック信仰を受け、思ったよりも老成しているように思える若き<猟師>、安重根の行動を追った”アドレッセンス”の発露の物語だったことになります。(山口二矢による「浅沼稲次郎刺殺事件」を描いた沢木耕太郎の「テロルの決算」を頭の片隅に置いた読書になりましたが、かなり異なっていました。)人が何かをしてほしいと祈る時、神が何かをしてくれたことなど一切なく、苦難の中にありながら祈ることも忘れてひたすら耐え忍んでいる時、稀に神様が力を授けてくれることがあります。そう、本当に稀に。思えば、神の助力によって、この暗殺事件は完遂したのではなかったのか?勿論、私にはよくわかりません。
敢えて話を変えてしまいますが、中国外務省によるとプーチン大統領が5/16、17に訪中し北京と「ハルビン」を訪れ、彼が地元大学生と懇談するというニュースを知りました。世界を取り巻く力学の中で全てが保障された中露首脳会談。ー中略ー(笑)。
一つのアドレッセンスの発露が世界を変えようとする時、<法>は限りなく無力であり、<信仰>など何の役にも立たないことはそれこそ自明の理だと私には思えます。
□「ハルビン “Harbin”」(キム・フン 新潮社) 2024/5/15。
1909年(明治42年)10月26日、ハルビン市、ハルビン駅で起きた「伊藤博文暗殺事件」が、暗殺者、安重根の視点を中心に供えて、そこに伊藤博文、日本(帝国)政府、大韓帝国、安重根の家族、安重根が洗礼を受けたカトリック側からなど多くの視点を小気味よく交錯させながら、密に再構築されています。
今、自分が立脚している場所、歴史の片隅に生きている時間軸を把握した上で、私自身の中に多くの思いと反省、怨念と怒りを表出せしめるまるで「カトリック」に対する<踏み絵>のような小説だと感じ取りました。
その小説作法について言えば、安重根が共犯者、禹徳淳を伴いハルビン駅に向かうシークェンスは優れたサスペンス小説のように生き生きと躍動しています。事件は歴史的な事実ですので、読者はどういう結果を齎すか既に理解しているわけですから、それでも尚そのトピックの熱量に圧倒される思いがします。
巻末に「作者の言葉」が置かれていて、その内容に呼応させていただければ、この小説は、比較的裕福な境遇で育ち、カトリック信仰を受け、思ったよりも老成しているように思える若き<猟師>、安重根の行動を追った”アドレッセンス”の発露の物語だったことになります。(山口二矢による「浅沼稲次郎刺殺事件」を描いた沢木耕太郎の「テロルの決算」を頭の片隅に置いた読書になりましたが、かなり異なっていました。)人が何かをしてほしいと祈る時、神が何かをしてくれたことなど一切なく、苦難の中にありながら祈ることも忘れてひたすら耐え忍んでいる時、稀に神様が力を授けてくれることがあります。そう、本当に稀に。思えば、神の助力によって、この暗殺事件は完遂したのではなかったのか?勿論、私にはよくわかりません。
敢えて話を変えてしまいますが、中国外務省によるとプーチン大統領が5/16、17に訪中し北京と「ハルビン」を訪れ、彼が地元大学生と懇談するというニュースを知りました。世界を取り巻く力学の中で全てが保障された中露首脳会談。ー中略ー(笑)。
一つのアドレッセンスの発露が世界を変えようとする時、<法>は限りなく無力であり、<信仰>など何の役にも立たないことはそれこそ自明の理だと私には思えます。
□「ハルビン “Harbin”」(キム・フン 新潮社) 2024/5/15。
表紙の写真からもこの本が伊藤博文の暗殺に関わる内容であることは容易に想像がつきます。主人公安重根の短い生涯が史実に基づきストーリー化されているので非常に読みやすかったです。歴史を学ぶのに韓国の立場からの視点で描かれているので説得力があります。(暗殺を)決して正当化する意図はなく、一人の若者が強大な国家にひとり立ち向かった軌跡を残したかったのだろうと思います。捉え方は人それぞれです。
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