米沢の容貌はハンフリー・ボガートに似ていた。
妻の信恵が愛称のボギーと呼ぶと、米沢は満更でもない笑みを浮かべていた。
トレンチコートの襟を立てる姿は、ボギーを意識したのである。
妻とは映画「カサブランカ」を観に行く。
それが妻と観た唯一つの映画であった。
彼はボギーのようにヘビースモーカーであり、また酒豪でもあった。
1957年に食道癌を宣告され、妻と共に闘病するものの57歳でなくなったボギーを意識して、「俺も長くは生きないな」と言っていた。
「私を一人で置いて、逝ってしまうの」信恵は寂しい笑みを浮かべた。
「それも、定めだな」米沢は自らの死を予感していたのだろう。
「俺がもし、死んだら三島さんだけに連絡してくれ、それ以外は連絡しなくていいから・・・」
米沢は競輪にのめり込んでから、孤独感を一層強めていた。
これまでの、人との絆を自ら断ったのである。
まるで、自分の運に賭けて、全ての運を使い果たすような生き方となっていた。
三島に会いに行ったのは入院の10日前であった。
入院中の米沢に一度も徹は会いに行っていない。
「誰にも会いたくないと言っています」米沢の自宅に電話をすると、信恵は涙声になっていた。
余命、半年と医師から既に告げられていたのだ。
徹自身、死に向かっている友人の米沢の姿を見たくなかった。
血を見るのが苦手な徹は献血も苦手で一度もしていなかった。
一方、米沢は献血には常に協力的であった。
「渋谷の日赤献血センターには、女優のローレン・バコールに似た看護婦がいるんだ」と米沢はニッコリ笑った。
ボギーの4度目の妻である。
実は徹もローレン・バコールが好きなタイプであったのだ。
妻の信恵が愛称のボギーと呼ぶと、米沢は満更でもない笑みを浮かべていた。
トレンチコートの襟を立てる姿は、ボギーを意識したのである。
妻とは映画「カサブランカ」を観に行く。
それが妻と観た唯一つの映画であった。
彼はボギーのようにヘビースモーカーであり、また酒豪でもあった。
1957年に食道癌を宣告され、妻と共に闘病するものの57歳でなくなったボギーを意識して、「俺も長くは生きないな」と言っていた。
「私を一人で置いて、逝ってしまうの」信恵は寂しい笑みを浮かべた。
「それも、定めだな」米沢は自らの死を予感していたのだろう。
「俺がもし、死んだら三島さんだけに連絡してくれ、それ以外は連絡しなくていいから・・・」
米沢は競輪にのめり込んでから、孤独感を一層強めていた。
これまでの、人との絆を自ら断ったのである。
まるで、自分の運に賭けて、全ての運を使い果たすような生き方となっていた。
三島に会いに行ったのは入院の10日前であった。
入院中の米沢に一度も徹は会いに行っていない。
「誰にも会いたくないと言っています」米沢の自宅に電話をすると、信恵は涙声になっていた。
余命、半年と医師から既に告げられていたのだ。
徹自身、死に向かっている友人の米沢の姿を見たくなかった。
血を見るのが苦手な徹は献血も苦手で一度もしていなかった。
一方、米沢は献血には常に協力的であった。
「渋谷の日赤献血センターには、女優のローレン・バコールに似た看護婦がいるんだ」と米沢はニッコリ笑った。
ボギーの4度目の妻である。
実は徹もローレン・バコールが好きなタイプであったのだ。