今から20年以上前の話である
小型機の行う主な業務としては航空写真撮影や遊覧などがあるが、他に航空宣伝の仕事などもある。機体に取り付けたスピーカーから大音量でお店の宣伝や選挙の投票呼び掛けなどを流すあれである。
ある年の
正月、某店舗の航空宣伝業務を請け負った172が流すその宣伝の音が遠くで聞こえていた。
私の住んでいるところは大分市でも中心部から離れた田舎なので周りに何もない。人口が少ないので小型機が飛んでくることもほとんどない。高圧線点検のため飛ぶヘリコプターがたまに来るくらいだ。

家でのんびり寝転がってテレビを見ていた私はなんとなくその音がだんだん近づいてくるような気がして表へ出てみた
するとその
172はヘディングを
真っすぐ我が家に向けて飛んできているではないか。急いで家族全員に知らせた。
そして、その172は我が家のまわりをぐるぐる旋回しながら飛んだ。
家族全員が飛び出て手を振ったのが間違いなく見えたと思う。その証拠に上空からエンジンを何度か吹かして応えてくれたのだ。たぶん対地高度は1,000フィート以下。
実は空から飛行機で年始に来てくれたのだった。航空宣伝の業務はここと、ここの上空できっちり何分やってそれからあそこで何分やって、みたいな細かい決めごとはない。
あくまでパイロットがVFR(有視界飛行)で周りを見ながら飛ぶのだ。その当時はそれ程規制も厳しくなかったからできたのだろうと思う。
子供も小さかったからすごく
喜んでいた。いや、子供より私自身のほうがはしゃいでいたかもしれない・・・
そのパイロットは事業用操縦士の資格を持つれっきとしたパイロット。若い頃、新聞奨学制度を受け、配達と営業の仕事をしながら根性で事業用のライセンスを取った苦労人である。
そのパイロット自身、子供の頃飛んできたセスナ機の思い出とオーバーラップさせていたのかもしれない。
帰りぎわ、その翼を大きく左右にバンクさせながら去って行った
その何日か後に会った時、そのパイロットは私に向って無言で
にっこり笑った。
古き良き時代、思い出のひとコマである。