「ただひとり」
街中をひとり急ぐ
私の足音をかき消す不自然な夜闇
存在は消されてしまった
ありきたりな日常
私の目に映る異常
戻ってきてしまった
雨音は涙を連想させる
Youの神経は愚鈍ですか
吐息は歩数と湿度の乗数で増える
上昇する体温が私の生の証
街中をさらに急ぐ
気づいたら
明日は我が子の誕生日だった
気づいたら
今日は我らの結婚記念日だった
気づいたら
すべてが過去の断面であった
今日と明日の狭間であなたは何を思う
ラジオが奏でるサザンオールスターズ
脳内にあふれ出す幾多のメロディー
それぞれイントロから再生してみる
これも過去、すべて過去
そうでしょう
失ったのは未来だったのか、感性だったのか
今をつかもうと必死すぎたゆえに失った明日
ただひとり
リビングでなまぬるい缶ビールをあおる
先のみえない苦しさなんて
今この瞬間のわびしさとくらべれば
クソみたいなものなどという
当たり前のことにさえ気づかず
ただひとり
すべてを失った欲張りな人間がひとり
今日がある、明日がある
今
風が笑う
空は遠い