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漢詩を楽しもう

tiandaoの自由訳漢詩

ティェンタオの自由訳漢詩 白居易118ー123

2010年12月06日 | Weblog
 白居易ー118
    大林寺桃花          大林寺の桃花

  人間四月芳菲尽   人間(じんかん)  四月  芳菲(ほうひ)尽き
  山寺桃花始盛開   山寺(さんじ)の桃花(とうか)  始めて盛んに開く
  長恨春帰無覓処   長(つね)に恨む  春帰って覓(もと)むる処(ところ)無きを
  不知転入此中来   知らず  転じて此の中に入り来たらんとは

  ⊂訳⊃
          世間では   四月に花が散ってしまうが

          山の寺では  いまが桃の花ざかりである

          春が去って  探してもないのを恨んでいたが

          場所を変え  この寺に来ているとは知らなかった


 ⊂ものがたり⊃ 草堂の落成式のあと、白居易は同行者十七人と香炉峰に登り、山頂にあった大林寺を訪れています。山上に、いまを盛りと桃の花が咲いているのをみて、桃の花は下界からこんなところに移ってきていたのかと、自然の妙に驚いてみせます。一行はその夜、大林寺に宿泊しました。

 白居易ー119
   薔薇正開春酒初熟     薔薇正に開き 春酒初めて熟す
   因招劉十九・張大      因って劉十九・張大夫・崔二十
   夫・崔二十四同飲      四を招きて同じく飲む

  甕頭竹葉経春熟   甕頭(おうとう)の竹葉(ちくよう)   春を経て熟し
  階底薔薇入夏開   階底(かいてい)の薔薇(しょうび)  夏に入りて開く
  似火浅深紅圧架   火に似て浅深(せんしん)   紅(こう)   架(か)を圧し
  如餳気味緑粘台   餳(あめ)の如き気味(きみ)  緑(りょく)  台に粘(ねん)す
  試将詩句相招去   試みに  詩句を将(もっ)て相(あい)招去(しょうきょ)せば
  儻有風情或可来   儻(も)し風情(ふぜい)有らば  或いは来たる可し
  明日早花応更好   明日  早花(そうか)  応(まさ)に更に好(よ)かるべき
  心期同酔卯時杯   心に期す  同じく卯時(ぼうじ)の杯(はい)に酔わんことを

  ⊂訳⊃
          甕のなかの竹葉酒  春を越して熟し
          階のしたの薔薇は  夏になって咲く
          花は火のように紅  濃淡が棚を満たし
          酒は飴のような緑  風味が台に粘りつく
          試みに詩を作って  招待すれば
          風流を解する人が  来てくれるやも知れぬ
          明日の早朝は  もっとよい花が咲くはずだ
          一緒に酔える朝酒を  心から期待している


 ⊂ものがたり⊃ 白居易は草堂で酒を飲みたいので、友人に詩を送って誘いをかけます。頷聯の対句の薔薇と新酒の描写が濃厚で、人の心を誘います。劉十九・張大夫・崔二十四は地もとの友人でしょう。経歴は不明の人々ですが、三人とも排行で呼ぶ親しさです。「張大夫」は張大の衍字(余計な字)とされており、「大」は排行一ということです。

 白居易ー120
   小院酒醒         小院にて酒醒む

  酒醒閑独歩     酒醒めて閑(しず)かに独歩す
  小院夜深涼     小院(しょういん)  夜深くして涼し
  一領新秋簟     一領(いちりょう)  新秋の簟(てん)
  三間明月廊     三間(さんげん)  明月の廊(ろう)
  未收残盞杓     未だ收めず 残盞杓(ざんさんしゃく)
  初換熟衣裳     初めて換う  熟衣裳(じゅくいしょう)
  好是幽眠処     好し是れ幽眠(ゆうみん)の処(ところ)
  松陰六尺牀     松陰(しょういん)  六尺の牀(しょう)

  ⊂訳⊃
          酔いから醒めて  ひとり閑かに散歩する
          夜も深まり  涼しい風が庭に流れる
          秋になって  寂しく垂れている簟(すのこ)一枚
          明るい月が 間口三間の部屋を照らす
          片づけないまま  杯や柄杓は散らかり
          明日はそろそろ  秋の衣裳に着かえるころだ
          今宵の熟睡によい場所は
          松の木蔭   六尺の寝床


 ⊂ものがたり⊃ 白居易は夏から秋にかけて、新築した草堂でしばしば酒宴をひらいたようです。前の詩の「卯時の杯」というのは、卯の時(午前六時ころ)に飲む酒のことで、朝酒を誘う詩です。
 夜の酒宴も盛んにひらきますが、酔いがさめて夜の前庭をひとりで歩くと、言い知れぬ虚しさがこみあげてきます。結びの「松陰 六尺の牀」というのは、おのれひとりの孤独の場所という意味でしょう。

 白居易ー121
   酔中対紅葉          酔中 紅葉に対す

  臨風杪秋樹     風に臨む  杪秋(びょうしゅう)の樹(き)
  対酒長年人     酒に対す  長年(ちょうねん)の人
  酔貌如霜葉     酔貌(すいぼう)は  霜葉(そうよう)の如し
  雖紅不是春     紅(くれない)なりと雖も  是れ春ならず

  ⊂訳⊃
          風に向かって立つ  晩秋の樹

          酒に向かって座す  老年の者

          酔った顔は   霜枯れの葉のようで

          紅くはあるが  春ではない


 ⊂ものがたり⊃ この詩も酒にまつわる歌ですが、起承の二句は白居易が自分の姿を観照するものでしょう。「杪秋」は楚辞に用例があり、晩秋の意味です。白居易は配所の欝屈を紛らすように酒を飲みます。酔って顔は赤くなりますが、そこには春の瑞々しさはなく、霜枯れの紅葉のようだと自嘲するのです。

 白居易ー122
   問劉十九           劉十九に問う

  緑蟻新醅酒     緑蟻(りょくぎ)   新醅(しんばい)の酒
  紅泥小火炉     紅泥(こうでい)  小火炉(しょうかろ)
  晩来天欲雪     晩来(ばんらい)  天  雪ふらんと欲す
  能飲一杯無     能(よ)く一杯を飲むや無(いな)や

  ⊂訳⊃
          出来たての酒は  ぶつぶつ泡立ち

          火鉢の練炭は   まっ赤に燃えている

          日暮れには  雪も降り出す気配となり

          さあ熱燗で  一杯やろう


 ⊂ものがたり⊃ 詩題の「劉十九」は酒飲み仲間のひとりです。冬の午後、二人は出来立ての酒を囲んでおり、「緑蟻」は醸した酒の泡立つようすを蟻の群れに例えたものです。日暮れになると雪も降り出しそうな気配となり、火鉢の練炭もまっ赤に燃えており、酒も熱くなったようです。即興の詩と思われますが、いい詩と思います。

 白居易ー123
    夜雪             夜雪

  已訝衾枕冷     已に衾枕(きんちん)の冷ややかなるを訝(いぶか)り
  復見窓戸明     復(ま)た窓戸(そうこ)の明らかなるを見る
  夜深知雪重     夜深くして  雪の重きを知り
  時聞折竹声     時に聞く   折竹(せつちく)の声

  ⊂訳⊃
          夜具がひんやりするので  不思議に思い

          見まわすと  窓や戸口が明るくなっている

          真夜中に   雪が降り積もったようだ

          ときどき   竹の折れる音がする


 ⊂ものがたり⊃ 元和十二年も歳末の冬となりました。江州で迎える三度目の冬です。寒さで夜中にふと目覚めると、窓や戸口が雪明りで明るくなっています。雪の重みで竹の折れる音が聞こえ、江南では珍しい大雪のようです。寝床のなかで、耳を澄ませている白居易の孤独な姿が浮かんできます。 

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