発行人日記

図書出版 のぶ工房の発行人の日々です。
本をつくる話、映画や博物館、美術館やコンサートの話など。

人間の証明

2012年02月06日 | 映画
「人間の証明」DVD。

 読んでから観るか、観てから読むか。懐かしの角川映画です。

 ママ~♪といっても、もちろんパスタの話ではなく(大舞家の息子が、ママ~なんて言うもんじゃありません!!てのもあった)1970年代の日本に生きていた人々なら、ボヘミアン・ラプソディーよりも先に、ジョー山中の歌が脳内再生されるはずである。

 ハレルヤ! と叫んで、口笛吹いて、本当にスキップするように日本へと旅立った青年が、なぜ殺されなければならなかったのか。
 美しい人妻が、なぜ雨の夜に突然姿を消したのか。
 群馬の山奥の温泉地でなぜ老婆が殺されたのか。
 西条八十の詩が、謎をとく鍵となる。
 大物政治家の妻であり高名なファッションデザイナーである八杉恭子(岡田茉莉子)にも、彼女を執拗に追う棟居刑事(松田優作)にも、戦後の辛い記憶があった。

 これもまた終わらない戦争の話である。
 70年代半ばにして終わっていない戦争の続きである。

「あの頃は誰も行きてくのに精一杯だったから」

 栄光を得た人間が、過去の自分を知る者を殺す。相手は、まったくの懐かしさで会いに来ていて、お金をゆするなどの気持ちは露ほどもない。そんなことはわかっている。だけど殺す。「砂の器」なら、年老いた善良な元警察官しかも恩人。「人間の証明」では、20年ぶりに母に会いに来た実の息子を、である。

  松田優作、ハナ肇、ジョー山中、鶴田浩二、三船敏郎、笵文雀、長門裕之、北林谷栄、峯岸徹、伴淳三郎、鈴木ヒロミツ、E.H.エリック、と、35年も経つものだから、すでに向こうの世界に行かれた出演者が多い。
 当然だが、生きている人たちも若い。岩城滉一がドラ息子な若造の役をしている。地井武男刑事が若い。だが、大滝秀治は昔からおじいさんである。
 
 岡田茉莉子のゴーヂャスマダムぶりにも注目である。
 昭和のニホヒも味わい深い。
 刑事さんたちは、細身のスリーピースにぶっとい衿のジャケットとシャツにぶっといネクタイ。黄色い公衆電話。OLの制服がミニスカート。
 でかいテレビカメラ。喫煙率高っ。ハナ肇刑事のタバコ、チェリーだし。
 ステキな古いパトカー。
 で、松田優作はニューヨークに。
 カーチェイスが地味っ!!  今の映画と違って、ほかの車を何十台も巻き込んだりしない。でも、そのほうが却ってリアルだわね。
 崖っぷちでの犯人の追い詰め方が、その後の2時間サスペンスドラマに踏襲されていったんじゃないかと。
 そして、映画の最後の最後で、なぜ日本から来た刑事が最後まで自分に心を開かなかったか。自分のことを憎んでさえいるように思えたのはなぜか、その疑問を抱えたまま、ニューヨーク市警の老刑事にも落とし前がつくときがくる。

 うーん、名作である。

 竹野内豊テレビ版「人間の証明」は、最終回だけ見た。
 魂の救済といった感じで、竹野内=棟居刑事が松坂慶子=八杉恭子から自供を引き出す長い場面も良かった。
コメント
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