日常(2022.8.10日作)
日日 是 好日
(にちにち これ こうにち)
日常を欠いた時
人生は失われる
今日もまた 何事もなく
何時もの時間 一日が過ぎた
これに勝る 幸せ
幸福はない
日常 日々の生活習慣の失われる時
自身の人生もまた
失われる
日日 是 好日
今日という一日を
精一杯 生きる
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白い霧の夜(完)
青華は両腕を篠田の首に廻し唇を寄せて来た。
篠田はその唇に口づけしたまま、大切な宝物のように青華をベッドに運んだ。
その上から自分の体を重ねた。
篠田には、青華の柔らかい肉体に触れている感覚だけで心が満たされる思いがあった。
青華はそんな篠田の局部へふたたび手を伸ばして来た。
「もう、大丈夫かしら ?」
篠田の眼を見つめて言った。
「いや、ちよっと無理だよ。少し休まなければ」
篠田は弱々しく言った。
かつて、この街で暮らしていた頃には、連日、篠田の下宿で敬子と会っては愛を交わしていた。
たった三月の愛であったが、今の篠田には、あの頃の活力も激しさも失われてしまっていた。体力の衰えと、それに伴う歳月の経過が偲ばれた。
「じゃあ、もう少し休みましょうか。どうせ、今夜は泊まって下さるのでしょう ?」
青華は言った。
「きみは何時でも、誰にでもこんなに優しいの ?」
篠田は青華の細い頬を両手で挟んで聞いた。
「お仕事ですから」
青華は悪びれる様子もなく答えた。
「毎日、こうして夜を過ごしているの ?」
「いいえ、お客様の御希望がある時だけです。たいがいのお客さんは<青い館 >の方で遊んだだけで帰って行きます」
「きみの、この若さと美貌がここでこうして失われてゆくのかと思うと惜しい気がするね」
篠田は言った。
「でも、仕方がないですよ。誰でも歳を取ってゆくんですから」
「僕の体の中へこの若さと美貌を閉じ込めてしまいたい」
篠田は青華の肉体を強く抱きしめ、狂おしさを交えて言った。
「そうして下さったら、わたしはずっと若いままでいられるかしら ?」
青華は微笑みを浮かべて言った。
「いられるよ。あの写真の中のきみの様にね」
篠田は先程から気になっていた、鏡の傍に立て掛けらている写真に視線を向けて言った。
「ああ、あれですか。あれは、わたしじゃないんです」
青華もかなり大きめの、上半身だけを映した女性の写真に眼を向けて言った。
「だって、きみそっくりじゃない」
「ええ、でも、違うんです。あれは母が二十五歳の時の写真なんです。わたしも今、ちょうど二十五歳なんですけど。それで同じように見えるのかも知れません」
「ああ、そう。きみにそっくりだね」
薄い明かりの中で写真の詳細を確かめる事は出来なかったが、雰囲気だけは感じ取る事が出来た。
「そうですか ?」
青華は別段、興味もなさそう軽く言った。
「お母さんは、今も元気なの ?」
篠田は世間話しのように聞いた。
「いいえ。母はあの写真を撮って三年程して亡くなってしまったんです。わたしが六歳の時でした」
「じゃあ、きみは今はお父さんと二人だけ ?」
「いいえ、父はいません」
「お父さんも亡くなったの ?」
「いいえ、もともと、父はいないんです。母は父なし子としてわたしを産んだんです。だから、わたしは父の顔も知らないんです」
「じゃあ、一人なんだ ?」
「はい」
「お祖父ちゃんや、お祖母ちゃんはいるんでしょう」
「お祖父ちゃんやお祖母ちゃんはいたんですけど、もう、亡くなりました。わたしには今たった一人、母の兄がいるだけなんです。でも、その人は港の方で料亭をやっていて、わたしが<香月>の娘の子供だと世間に知られたくないんです。母が父なし子としてわたしを産んだものですから」
篠田は息を呑むのと同時に自分の耳を疑った。
確か、青華は「香月」と言った。
聞き間違えたのだろうか ?
いや、聞き間違えるはずがない !
篠田は口の中が渇いて舌がもつれ、言葉を口にする事も出来なくなっていた。
ようやくの思いで篠田は聞いた。
「きみのお母さんの名前は・・・?」
声がかすれていた。
「敬子って言いました。御存知ですか ?」
脳髄が飛散するような衝撃を受けた。
部屋中が真っ赤に染まり、ぐるぐる廻った。
体中が騒めき立ち、自分という存在が飛散してしまいそうな感覚の中にいた。
篠田はじりじりと青華の裸体から自分の体を遠ざけた。
「きみのお母さんは結婚は・・・・?」
息がつまる思いの中で聞いた。
「しました。でも、うまくゆかなかったんです。一年も経たないうちに別れてしまったんです」
「なぜ・・・お母さんは別れてしまったの ?」
「母の結婚相手はこの街でも有名な資産家の長男だっんですけど、その時、母には好きな人がいたんです。でも、母の父はその人が貧しい学生だったものですから、結婚を許さなかったんです。無理矢理引き裂いてしまったんです。それでも、その時にはもう、母のお腹の中にはわたしがいたんです。それで祖父や祖母が気付いた時には、七カ月が過ぎていて堕す事が出来なかったんです。母は結局、わたしを産んだんですけど、祖父や祖母はその事を世間に知られる事を怖れて親戚の子供の無い人の所にわたしを預けてしまっんです。母はそれから一年もしないうちに結婚をさせられたんですけど、愛し合った人との間に出来た子供のわたしを諦める事が出来なくて、婚家を飛び出したんです。それで、わたしを引き取り、「香月」と縁を切ったんです。母はそれからいろいろ苦労をしました。その無理が祟って二十八歳の若さで亡くなってしまったんです」
篠田の全身は硬直していた。
「どうなさったんですか ? 顔の色が真っ青ですよ。具合でも悪いんですか。ほら、汗がこんなに」
青華は篠田の異様な様子に驚き、体を寄せて来た。
「駄目だ ! 傍へ来るな ! あっちへ行け ! あっちへ行け !」
篠田は狂乱状態で叫んでいた。
完
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takeziisan様
有難う御座います
古い写真から
お子様の姿でしょうか いい写真です
他人事ながら その姿の幼さにふと 郷愁を誘われ
思わず涙ぐみました
われわれにも こういう時代があった・・・・・
過ぎ去った時はことごとく あっとう間の出来事だったような気がします
それにしても人生 歳を取る という事は寂しいものです
獲たものの総てが失われてゆく
三角乗り 当時は何処も似たような状況でした
まるでわが家の事を書かれているかのような思いです
それも懐かしい記憶です
わたくし共の方では自転車通学というのはなかったですね
ほぼ一キロぐらいの道で途中に大きな田圃の広がる場所があり
冬などをそこを通り過ぎるのにみんな肩をすくめて歩いていました
十年前の記事 待ちに待ってました ! 雨
こちらの今年の心境でした
似たような状況があったんだなあ というのが感想です
リシマキア ボジョレー
ワインかと思いました
おやつはサツマイモ いい絵ですね 懐かしい風景です
畑の写真 趣味農業の雰囲気がよく出ていました
収穫物の写真 宝石 宝ものような輝きを放って見えます
どうぞ これからもお体に気を付けて せいぜい農作業に励んで下さいませ
次の宝もの写真 楽しみにしております
方言は相変わらずいいですね
「ごす」「よごす」とは言ってました
ゴシナイヤ オッチャ 優しい響きです
今回も楽しませて戴きました
有難う御座いました
桂蓮様
有難う御座います
今回 新作がなく 過去の作品を拝見しました
英語 合わせ読みですので 常に新鮮です
使い切る 記憶の片付け
いずれにしても人生には無駄が多いようです
でも その無駄が反面 人生を豊かなものにしている面も
ないとは言えないのではないでしょうか
キチキチ カチカチの人生もまた つまらないと思います
禅はその点 無駄を排除して本質だけを取り入れる
その禅にしても 何ものにも捉われない自由さを本質としますので
キチキチ カチカチの世界とはまた 違った世界だと思います
人生の無駄も遠く生き 過去を振り返る時 懐かしいものに
なるのではないでしょうか
拾っては捨て 捨てては拾う それが人生だと思いますが
時には 整理の時間も必要ですよね 自分を見つめる
生きて来た人生を見つめる
今 わたくしがこのブログを利用させて戴いているのも
自身の人生の整理の為です ですから それこそ禅の世界ではないですが
何ものにも捉われないわたくし自身の真実をここに書き記して置きたい
と思っています
多分 お読も戴く方々には詰まらない 独り善がりの文章にしか
思えないと思いますが 自身の心の裡はぶれないようにと心掛けています
桂蓮様のブログへの記述も拝見したわたくしの感想にしかすぎませんので
余りお気になさらずに 気軽にお読み戴ければと思っています
冒頭の二つの写真 心が洗われます
有難う御座いました