「先生と私」佐藤優
7月に、「十五歳の夏」を読んだ。→「十五の夏」佐藤優(上・下)
本作品は、その姉妹編、前段階に相当する。
1960年から1975年の少年時代が描かれる。
P164-165
「佐藤君は、パリサイ派についてどう思うか」
「聖書に出てくるパリサイ派ですか」
「そうだ」
「律法を遵守するけれど、神の意志に忠実でない偽善者のことですね」
「結果として、パリサイ派は偽善者になってしまう。しかし、本人たちは律法を忠実に守っている。神の意志に最も忠実な者と信じている。マルクス主義者にはパリサイ派が多すぎる。佐藤君が見せてくれたこの本も、パリサイ派の文書だ。著者たちはマルクス主義の文献に通暁している。確かにそれなりの論理整合性もある。しかし、人間の心を打たない。(後略)」
【おまけ】
佐藤優さんの母は沖縄・久米島出身。
あの沖縄戦を生き抜いた方だ。
とてつもない幸運の持ち主と思う。
【ネット上の紹介】
誕生から高校入学までの15年間、両親・伯父・副塾長・牧師…多大な影響を与えた先生たち。知の“巨星”の思想と行動の原点を描いた自伝ノンフィクション。
僕の両親
あさま山荘
山田義塾
哲学と神様
スカウト
数学の先生
革命
進路相談
高校受験
春休み
塩狩峠
稚内
帯広
立席特急券
父の背中
「手のひらの音符」藤岡陽子
デザイナーの水樹は、40歳半ばにしてリストラ対象となる。
勤めている会社が復職業界から撤退するから、と。
いったいどうしたものか?
そんなある日、世話になった恩師の入院の知らせが入る。
物語は、現在と過去をカットバックしながら進行する。
それにつれ、人物造形が深まり物語の奥行きが増してくる。
家族問題の様々な問題が描かれる。
発達障害、貧困、離婚、いじめ、ギャンブル依存と重いテーマ目白押し。
最後まで目を離せない展開だ。
P86
人と人との繋がりは、出逢いの一点はいつも明確なのに別れの一点はたいてい曖昧で、後から思えば伝えたいことはたくさんあったのに最後にどんな言葉を交わしたのか、思い出せない。
【おまけ】
京都が舞台なので親しみがもてる。
東向日と西向日の間に西国街道がある。
競輪場、向日神社もある。
そのあたりが舞台となっている。
【ネット上の紹介】
デザイナーの水樹は、自社が服飾業から撤退することを知らされる。45歳独身、何より愛してきた仕事なのに…。途方に暮れる水樹のもとに中高の同級生・憲吾から、恩師の入院を知らせる電話が。お見舞いへと帰省する最中、懐かしい記憶が甦る。幼馴染の三兄弟、とりわけ、思い合っていた信也のこと。“あの頃”が、水樹に新たな力を与えてくれる―。人生に迷うすべての人に贈る物語!
「水曜日の凱歌」乃南アサ
表紙を見て分かるように、戦後間もない頃が舞台。
昭和20年8月15日(水曜)から昭和21年4月3日(水曜)まで。
鈴子は14歳。
上の兄は死に、もうひとりの兄は出征して行方不明。
妹は東京大空襲ではぐれてしまい見つからない。
母と二人で生きていかねばならない。
いったいどうなるのか?
しかし母には意外な才能があった。
当時珍しく女学校を出ていて、英語が出来たのである。
進駐軍相手の特殊慰安施設で通訳として採用される。(つまりRAA)
鈴子は母とともに各地を転々とする。
進駐軍がやってくる…鈴子は安全の為、男の子の格好をさせられる
P204
「うちはね、今はおばさまと、この子の二人家族なの。戦争が終わってから、こっちに越してきて、やっと落ち着いてきたところ。ああ、それから、こういう格好をしてはいるけれど、本当はね、すうちゃんは鈴子ちゃんっていう名前。女の子なのよ」
そのときの三人の顔といったらなかった。口をぽかんと開けて、あまりにも驚いた顔をしているから、鈴子の方が思わず笑い出しそうになったくらいだ。
「けれど、今は何かと物騒でしょう?これからアメリカ軍の兵隊さんたちもたくさんやってくるから、本人はものすごく嫌がったんだけど、おばさまがバリカンで、髪を刈ってしまったのね。だから、からかわないでやってね」
教育現場での教師同士の対立…当時「一億総懺悔」という言葉が流行った
P219
「生徒たちにまで、この戦争の責任をおわせようとなさるんですか?」
「それは――」
「こんな小さな子たちに、一体何の責任があると仰るんです」
「だから――」
「責任なら、きちんと負うべき人が他にいるんじゃありませんの。(後略)」
【感想】
これは、私の好みと言うか、ど真ん中。
ぜひ続編を書いて、大河作品にしてほしい。
ヒロインの鈴子もそうだけど、勝子ちゃんのその後も気になる。
ミドリさん、モトさんは、戦後をどう生きたのだろう?
【感想】2
「凍える牙」を読んだのが1997年頃と思う。
まさか、これほど進化を続けるとは思わなかった。
嬉しい驚きである。
【参考…特殊慰安施設協会・RAAの売春婦募集について】「昭和史 戦後篇」(半藤一利)より
P20
特殊慰安施設協会(RAA)がつくられ、すぐ「慰安婦募集」です。いいですか、終戦の3日後ですよ。
「営業に必要なる婦女子は、芸妓・公私娼妓・女給・酌婦・常習密売淫犯らを優先的に之を充足するものとす」
そういうプロの人たちを中心に集めたいということです。内務省の橋下政美警保局長が18日、各府県の長官(当時は県知事を長官と言いました)に、占領軍のためのサービスガールを集めたいと指示を与え、その命を受けた警察署長は八方手を尽くして、「国家のために売春を斡旋してくれ」と頼み回ったというんです。およそ売春を取り締まらなきゃいけない立場の警察が「売春をやってくれ」と頼み回ったなど日本ではじめてのケースだと思います。
(中略)
「池田さんの『いくら必要か』という質問に野本さんが『一億円ぐらい』と答えると、池田さんは『一億円で純潔が守れるなら安い』といわれた」これはあくまで「良家の子女」の純潔です。ちなみに池田さんというのは、当時の大蔵省主税局長でのちの首相、池田勇人です。(「昭和史 戦後篇」半藤一利)
【ネット上の紹介】
昭和二十年八月十五日、男たちは戦争に敗れた。今度は女たちの戦が始まる! 敗戦国日本は、男を戦地に駆り出す代わりに、女たちを進駐軍に〈防波堤〉として差し出した――。十四歳の鈴子は、RAA(特殊慰安施設協会)の誕生に立ち会う運命となり、自分の母親を含む、さまざまな階層の女たちの変化と赤裸々な魂を見つめていく……。国家、女と男、アメリカ、自由、そして現在までを問う現代史秘譚刊行。

P20
You are what you eat.
「人はその人が食べる物なのだ」(つまり、食べ物の好みで性格が分かる、と。それは言えてるかもね)
You can't take it with you.
(あの世には持って行けない)itは財産を示している
I'm working on it.
「今やっています、一生懸命やっている最中です」
これはその陰に「もうすこし待ってください、せかさないでくださいね」といったメッセージを隠せるので、たいへん便利な表現でもあります。
fall in love=恋の中に落ちる
では、逆は?
【ネット上の紹介】
本書は、文法用語をできるだけ使わない説明と、話し言葉を中心にした例文と、自然なやり取りの会話例とで、会話力を伸ばすために書かれた「語学」でなく「話学」の文法の本です。
基本文法用語のイメージを広げる(現在形を会話に活かす
命令でない命令形を使おう
代名詞のマジックを知ろう
疑問文で会話を元気にする)
基本単語のイメージを広げる(ONはこう使う
INはこう使う
YESとNOがまちがいなく言えるために)
立ち読みする
「雨の日はお化けがいるから」諸星大二郎
諸星大二郎劇場、第1集。
日常から前衛作品まで様々な短篇が収録されている。
レベルが高い。
本作品で、日本漫画家協会賞コミック部門大賞受賞。
ここにはお化けなんていないわよ、だって神社だもの
ゆっくりゆっくりやってくるけど、絶対に誰も逃げられないもの
【ネット上の紹介】
不思議で奇怪な新作、満載。怪異な世界と通じる祭り。日常に潜む不気味な出来事。今、最も身近な怪獣の物語。意志を持ってしまった影……鬼才・諸星大二郎が描く、コミックス初収録の奇怪譚、満載。あなたはきっとまだ見ぬ不思議に遭遇する。
「 臨床真理」柚月裕子
第7回『このミステリーがすごい!』大賞受賞。
ヒロインは臨床心理士・佐久間美帆。
自分の担当する患者の青年が「共感覚」の持ち主で、感情や言葉を色で認識するという。
彼は真実を語っているのか?
二人は、知的障害者施設で起こった少女の自殺の真相を追う。
失語症患者がパソコンをなかなか使わない理由のひとつに、漢字よりもひらがなのほうが判別しにくいということがある。漢字ならば文字を見ただけでイメージが頭のなかに浮かびやすいが、ひらがなは単純な作りの文字を、ひとつひとつ読んでいかないと意味がわからない。
【感想】
共感覚と言うと、「天空の犬」のシリーズ、南ア署山岳救助犬ハンドラーの夏実を思い出す。
(私の好みは、樋口明雄作品だけど)
また、病院を舞台にして精神科医、臨床心理士が登場する作品としては、「症例A」を思い出す。
(これも、私の好みは、多島斗志之作品だけど)
それでも、「 臨床真理」は、どちらよりも、先に発表されている。
そういう意味で、先鞭で価値がある、と思う。
【ネット上の紹介】
「新人作家とは思えぬ筆力」「醜悪なテーマを正統派のサスペンスに仕立て上げた腕前は見事」と、茶木則雄、吉野仁両氏がそろって大絶賛! 応募総数が過去最高を記録し、大激戦となった第7回『このミステリーがすごい!』大賞の大賞受賞作がついに文庫化です。 新進気鋭の臨床心理士・佐久間美帆と、神から与えられたとも言われる「共感覚」を持つ青年・藤木司が、声の色で感情を読み取る力を使い、知的障害者施設で起こった少女の自殺の真相を追う!