「あきない世傳金と銀」(12)高田郁
シリーズ最新作、12巻目。
五鈴屋へ女中奉公に上がった時、ヒロインは9歳だった。
そして今、40歳になった。
『出帆篇』とあるとおり、将来への布石となる一歩を踏み出す。
過去、何度も節目となる変革の巻があったが、今回は江戸に出てくる巻に匹敵する内容か、と思う。
P83
「暖簾て、大事やけど厄介で、厄介やけど大事なもんだすな。この頃、とみに思うんだす」
日食
P242
「お日ぃさんをじかに見たら、目ぇを傷めてしまう。店の表に床几を出して、水を張った盥を置いて、水面に目ぃを映して、欠けていく姿を眺めたんだす。短い間なら、そうやって見ても構わへん、と教わりましたのや。予め日食があるんがわかっていたからこその、お祭り騒ぎだした」
(中略)
月の満ち欠けは毎夜のことだが、日が欠け、暫くして戻る、というのを目の当たりにするのは希だ。日食が起きるだろう日時を暦が示し、それが的中するからこそ、ひとは暦を信じ、さらには暦を作らせた幕府に信を置く。
P308
「船乗りは、その日の天候や風向き、満ち潮や引き潮など、充分に気を払い、船出を決める。それでも、出帆した船は、沖に出るまでの間に、予測も出来ぬ波に遭う。その波を作るのは風だそうです」
(中略)
「実はもっとも危ないのは、出帆して沖へ出るまでだと聞きました。五鈴屋と仲間の船は今、沖を目指して進んでいるところだ。如何なる風浪も越えて、大海へ出てください」
【ネット上の紹介】
浅草田原町に「五鈴屋江戸本店」を開いて十年。藍染め浴衣地でその名を江戸中に知られる五鈴屋ではあるが、再び呉服も扱えるようになりたい、というのが主従の願いであった。仲間の協力を得て道筋が見えてきたものの、決して容易くはない。因縁の相手、幕府、そして思いがけない現象。しかし、帆を上げて大海を目指す、という固い決心のもと、幸と奉公人、そして仲間たちは、知恵を絞って様々な困難を乗り越えて行く。源流から始まった商いの流れに乗り、いよいよ出帆の刻を迎えるシリーズ第十二弾!!