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「沈黙の町で」奥田英朗

2013年02月22日 21時48分24秒 | 読書(小説/日本)

「沈黙の町で」奥田英朗

いじめ問題を扱った新聞小説。
単行本になったので早速読んでみた。
テーマがいじめなので、重く暗い雰囲気で進行する。
物語は、中学生の転落死から始まる。
自殺か事故か?
いじめが関係するのか?

・・・と言うと正月に読んだ「ソロモンの偽証」(宮部みゆき)を思い出す。
でも、同じ群像劇でも、雰囲気は違う。
「ソロモンの偽証」は、最初からキャラクターを明確にしているので、快調に展開する。
(暗く重い印象は残らない)

中学生、両親、教師、新聞記者、警察・・・様々な登場人物の群像劇。
(このあたり「ソロモンの偽証」と同じ)
でも、造形と構成が違う。
最初、中学生たちも記号のように描かれる。
物語の進行に従って、彼らの「顔」が見えてくる。キャラクターが分かってくる。
技巧がこらされ、それにより真相が見えてくる。
そういう仕組み、趣向になっている。(ベテランのテクニックだ)

キャンプ場のシーン辺りから、がぜん面白くなってくる。
今まで押さえていたものが一気に浮上してくる感じ。
白黒だったのが総天然色になるようなイメージ。
ページをめくる手が止まらない。
後半一気読み、である。
見事な構成力、ベテラン作家の力量をみた。
一部文章を紹介する。

P47
中学生は残酷だ。恐らく人生で一番残酷期にあるだろう。それは自立への課程で噴き出る膿のようなものだ。みながもう大人には泣きつかないことを知り、自分たちの生き残りゲームを始める。

これがこの作品に通底するベース音と思う。さらに上記文章をまとめたのが次のフレーズ。

P487
「中学生の三年間は、人生で一番のサバイバル期だな」

PS
「いじめ」は昔からある。
戦時中、疎開児童を地元の子供がいじめた、と聞く。
今に始まった問題と思わない。
ただ、昔と違うのは、今はネット社会、ということ。
受験と偏差値問題もからむ。
また、「弱いものいじめは恥ずかしい」という感覚も薄れている。
ゲーム世代の「いじめ」である。

【ネット上の紹介】
中学二年生の名倉祐一が部室の屋上から転落し、死亡した。屋上には五人の足跡が残されていた。事故か?自殺か?それとも…。やがて祐一がいじめを受けていたことが明らかになり、同級生二人が逮捕、二人が補導される。閑静な地方都市で起きた一人の中学生の死をめぐり、静かな波紋がひろがっていく。被害者家族や加害者とされる少年とその親、学校、警察などさまざまな視点から描き出される傑作長篇サスペンス。