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【ぼちぼちクライミング&読書】

-クライミング&読書覚書rapunzel別館-

「緑の庭で寝ころんで」宮下奈都

2020年06月16日 16時34分41秒 | 読書(エッセイ&コラム)
「緑の庭で寝ころんで」宮下奈都

宮下奈都さんのエッセイ。
読んでいて、温かい気持ちになる作品だ。
「神さまたちの遊ぶ庭」では、宮下家の子どもたち3人が生き生きと描かれた。
その後が気になって読んだ。(こんなお母さんに育てられたい)

P43
忘れていいものと、忘れてはいけないもの、そこに忘れられないものが入り混じって、それでもぼろぼろ忘れていって。少しずつ、生きやすくなりながら、こぼれるものを掬いながら、ときどきは頭を抱えながら、私たちは生きていくのだ。

P64
がんばって生きていればいるほど、笑顔から遠ざかってしまう。(中略)
よく笑う大人って、がさつで、無神経に見えていた。でもね。ほんとうは、笑ってこその人生なんだよ。

P295
がんばることで初めて、がんばれないことを知ることができる。がんばってもどうにもならないこともあると知るのは、つらいけれども必要なことだ。

P332
やればできるとうのは、半分ほんとうだと思う。やらないよりは、やったほうができる。ただし、ある程度までの話だ。やればできるなら、誰だって何だってできるはずなのだ。

【ネット上の紹介】
ふるさと福井で、北海道の大自然の中で、のびやかに成長する三人の子どもたち。その姿を作家として、母親として見つめ、あたたかく瑞々しい筆致で紡いだ「緑の庭の子どもたち」(月刊情報誌「fu」連載)4年分を完全収録。ほかに、読書日記、自作解説ほか、宮下ワールドの原風景を味わえるエッセイ61編、掌編小説や音楽劇原作など、単行本初収録の創作5編も収載。著者の4年間のあゆみが詰まった宝箱。
1章 緑の庭の子どもたち 2013‐2015
2章 日々のこと
3章 本のことなど
4章 自作について
5章 羊と鋼と本屋大賞
6章 緑の庭の子どもたち 2015‐2017

「病気にならない15の食習慣」日野原重明/天野暁

2019年12月22日 22時06分50秒 | 読書(エッセイ&コラム)
「病気にならない15の食習慣」日野原重明/天野暁

100歳を過ぎて、なぜ日野原重明さんは、そんなに元気なのか?
東京大学食の安全研究センター特任教授で日本未病医学研究センター所長の天野暁(あまのしょう)さんとの共著、食をテーマにした作品。 

P13
朝食は、オレンジジュースにオリーブ油をテーブルスプーン1杯(15cc)注いだものを飲んでいます。そうそう、最近はこれに小ぶりのバナナ1本を加えています。バナナは吸収がよく、すぐに活力源になるからです。

P50
かつて、心臓病や肝臓病などの病気は「成人病」という言葉でくくられていました。それを「生活習慣病」という言葉に変えようという私の提唱が政府に受け入れられたのは1996年、今から15年ほど前のことです。

P52
「人間は親から遺伝子をもらって、50歳まではそれで生きられる。でも50歳を過ぎたら第二の遺伝子をつくらなければならず、それが良き習慣です」

P119
愛飲しているサプリメントがあります。大豆からとった大豆レシチンで、愛飲歴は、かれこれ50年にもなるでしょうか。

P144
①ラーメンやそばなど、麺類の汁は残す
②減塩しょうゆや減塩みそなど、調味料を減塩のものに変える
③煮物やみそ汁などの量を減らす
④佃煮、漬物、塩漬けの魚など、塩分の多い食品は食べる回数を減らす

【ネット上の紹介】
今年、満100歳を迎える著者が自身心がけてきた「食」にまつわる習慣を紹介。東洋医学の専門家が養生医学の立場から「何を食べるか、どう食べるか」といった解説を付け加えた。
“1日3食”の間違い
寝る前に食べても大丈夫
脳を鍛える“かむ”習慣
“楽しい食事”が健康をつくる
“油抜き”ではやせられない
間食には果物を食べましょう
植物油が若さと美肌のもと
食事を残せば病気にならない
コレステロール値は少し高めなほうがいい
外食がちな人は野菜ジュースを
レシチンと葉酸の多い野菜(ブロッコリーやほうれん草)をたっぷりと
肉を食べれば体がサビない
和食の落とし穴“塩分”に注意
ウエストを測るだけで肥満は防げる
効率よくカロリーを消費する

「明日をつくる十歳のきみへ」日野原重明

2019年12月13日 20時41分25秒 | 読書(エッセイ&コラム)
「明日をつくる十歳のきみへ」日野原重明

日野原重明さんをご存じだろうか?
聖路加国際病院の元・院長、と言ったら、「あっ、そうか!」、と分かってもらえるだろう。2017年、105歳で亡くなられた。
本書は、日野原重明さんが103歳の時に、子どもに向けて書かれた本である。
(関係ないけど、もし病気になって入院するなら、聖路加国際病院のようなところに入院したい・・・本書を読む前から「良い評判」が大阪まで伝わっている)
それにしても、普通にすごい人だ。皮肉なしに「立派な人」は、滅多にいない。

**********

1970年3月31日、著者は日本で最初のハイジャック「よど号」に乗り合わせる。
生きて帰れないと覚悟するが、九死に一生を得て、ソウル空港の土を踏んでインスピレーションを感じる。
P49
「これまでの人生は、自分のために生きてきた。これからは、世話になった人への恩返しでなく、出会ったどんな人にも自分のいのちを捧げよう」と。

命とは何か?
P53
「いのちとは、自分に与えられた時間のことである」と。いのちも時間も目に見えませんが、「その人が死ぬまでに使える時間」が「その人のいのち」という考えは、子どもにもわかりやすいと思います。

1995年3月20日、「地下鉄サリン事件」が起きる。
P67
わたしたちのいる聖路加国際病院のもより駅、築地でもたくさんの被害者が出ましたが、聖路加国際病院ではすべての患者を受け入れて治療し、被害者治療の拠点病院となりました。その結果、640人の受け入れ患者のうち、とくに重症だった1人の婦人をのぞいて全員二週間後に退院させることができました。
 なぜ一度に640人もの患者を受け入れることができたかというと、たまたま聖路加国際病院の理事長がわたしの提案を受け入れて、災害時の拠点病院となることができるように改装されていたからです。
 そのために、すべての廊下とロビー、チャペルに酸素のパイプや吸引パイプなどの配管がされていて、いざというときには、チャペルの中でも廊下やロビーでも、患者さんの治療ができるように設計されていました。

【ネット上の紹介】
大切なことは―ゆるしの心を持つこと、おとなになったら自分の時間を人のために使うこと、人を助けるために科学を使うこと、夢が生きがいを与えてくれること…
1 「いのちの授業」でわたしが教えていること(母校での授業が「いのちの授業」のきっかけ
「いのちの授業」はわたしが指揮する校歌ではじまります ほか)
2 時間の使い方を知ってください(自分の時間をだれのために使うか
いのちとは自分が自由に使える時間のこと ほか)
3 目に見えないものの大切さ(大切なものは目に見えないという真理
あらためて、いのちとは何か考えてみよう ほか)
4 科学のよい使い方と悪い使い方(風力発電を知っていますか?
凧あげでも科学は学べます ほか)
5 いくつになっても夢を持とう(なぜ夢を持つことが大切なのか
何歳になっても新しいことをはじめる気持ち ほか)

「悩む人」橋秀実

2019年11月22日 20時27分22秒 | 読書(エッセイ&コラム)
「悩む人」高橋秀実

読売新聞に連載された「悩みの相談」回答をまとめた単行本。
回答集でありながら、半分はエッセイを兼ねている。

P5
『源氏物語』には「悩む」「悩み」「悩める」「悩まし」「悩ましげ」などの言葉がおびただしく出てくる。

P9
『源氏物語』でも、鼻がデカく醜悪で歌のセンスもなかった末摘花を描く章には「悩む」という言葉が出てこない。末摘花は悩まず、悩まない彼女はいつの間にか消えていく。(中略)
光源氏は女性たちの「悩み」にこまめに答えている。答えることで物語は展開していくわけで象徴的なのは彼が紫の上を見舞う次のシーンだ。
 「かく、悩ましくてなむ」(以下、省略)

『悩む力』(姜尚中)について
P106-108
本文は「生きることの意味」「人生の意味」「死ぬことの意味」「愛することの意味」を考えて悩んで何が悪いのでしょうか、という具合に話が展開していく。(中略)私からすると「その意味に意味があるのか」と思ってしまう。(中略)姜さんが悩んだという「いきる」は、もともと「いき(息)」に由来する。こうして笑って息を吐き出すことで、その意味も感じ取れるというのが私の表面上の解釈である。

P139
おそらく悪口は二酸化炭素のようなもので、吐き出さないと人間は生きていけないのです。(中略)私はそれこそ二酸化炭素を吸収する植物のように、自分の栄養分にしました。
 そう、悪口はこやしだと思って下さい。こやしは臭いかもしれませんが、こやしがなければ美しい花も咲きません。

【感想】
以前、同著者の「定年入門」を読んで面白かったので、本書も読んでみた。
本書も、けっこう評判になっていて人気のようだ。(先日読んだ「人生のほんとう」(池田晶子)より面白く感じた)
ただ、悩みの相談・回答集としては、「家族の悩みにおこたえしましょう」(信田さよ子)に及ばない。私の知ってる限りでは、信田さよ子さんの回答集がベスト、と思う。
【リンク】

【蛇足】
悩みの9割くらいまで、お金で解決できる、と思う。
お金で解決できないものほど根が深い。
「能力」についての悩みも、ある程度お金で解決できるが、そこそこの段階に達すると、あとは「才能」や「運」の問題なってくる。
お金での解決が最も困難なのが、「人間関係」「性格」の悩み、と思う。
だから、悩みの相談もその手のものが多い。
相手があって、自分の意のままにならない、と。
あるいは、自分を変えようとするが変えられない、とか。
それにどう回答するかが、腕の見せどころかと思う。
(解決しなくても、質問者や読み手を納得、あるいは感心させたら良いのだ)

【ネット上の紹介】
読売新聞「人生案内」掲載!ヒデミネさんの回答が心のヒダにやさしく語りかけます。考えるヒント満載、新時代の哲学入門。
まえがき―なやましげにこそ見ゆれ
時のわれめ
「友達」は裏切る
人間じゃないもの
しようがないじゃん
機嫌を知るべし
結婚という最高学府
人柄より顔
無名の「有名人」
哲学を拝む
「らし」「かも」の呪い
道徳は不景気
貧乏神の正体
有意義な誤差
なつかしく、なまめかしく
おやじはニーチェ
思い上がってビッグバン
身勝手な「死」
さかしき女
悩みの「てにをは」

「人生のほんとう」池田晶子

2019年10月26日 14時56分46秒 | 読書(エッセイ&コラム)
「人生のほんとう」池田晶子

池田晶子さんは、2007年癌で死去された哲学者。(享年46才)
専門用語を使わないで、哲学を語るのが人気だったようだ。

P21
無としての死は、存在しないからです。無が存在したら、無ではないですよね。

P31
ウイルスは情報しか持っていない。細胞を持たない遺伝情報だけのものを、生きていると呼ぶべきかどうか、実は生物学者もわからない。

P38
人間の幸福というようなことは、この地上の生活のあれこれには決してないのであって、最終的にはある種の絶対肯定のような感覚のことを言うのだろうと、私は思います。

【感想】
ある種の人にとって「ハマる文章」かと思う。
私はちょっと、浮き世離れした感覚に違和感を感じた。
それが哲学?

【ネット上の紹介】
大事なことを正しく考えれば惑わされない、迷わない。常識・社会・年齢・宗教・魂・存在をめぐる明晰で感動的な6つの講義。
1 常識―生死について
2 社会―その虚構を見抜く
3 年齢―その味わい方
4 宗教―人生の意味
5 魂―自己性の謎
6 存在―人生とは何か

「見上げた空の色」宇江佐真理

2019年08月31日 19時33分46秒 | 読書(エッセイ&コラム)
「見上げた空の色」宇江佐真理

2015年11月に、乳癌で亡くなられた宇江佐真理さんのエッセイ。

P146
人は五十を過ぎたら無闇にがんばるべきはないと思う。
(そうなんだよなぁ・・・でも、つい足掻いてしまうのも人情)

P357
近藤さんの著書によれば、原発事故で国が避難の目安にした年間の被爆線量は20ミリシーベルトだそうだ。
 ところが胸部CT検査の被ばく線量は1回10ミリシーベルトにもなる。
(聞くところによると、放射能と放射線は違うそうだ。放射線は身体に留まらず、突き抜けるから・・・神経質になる必要はない、と。専門家の方に確認してみて)

乳癌レポートより
P370
諦めて、覚悟していながら、心の底は寂しくてならないのだ。死ぬこと怖くないけれど、ただ訳もなく寂しい。この寂しさを埋める術を私は知らない。じっと堪えるしかないようだ。

【ネット上の紹介】
江戸の魅力、創作の秘密から闘病記まで 髪結い伊三次捕物余話シリーズなどで人気の時代小説作家によるエッセイ集第二弾。函館在住の主婦でもある筆者の日々のあれこれ。
第1章 まだ書いている
第2章 住めば都
第3章 人生、用事
第4章 見上げた空の色
第5章 今帰仁村の雷桜
第6章 わが心の師匠

「神さまたちの遊ぶ庭」宮下奈都

2019年08月30日 08時08分30秒 | 読書(エッセイ&コラム)
「神さまたちの遊ぶ庭」宮下奈都

本書を読むのは3回目。
毎回思わぬ発見があり、読むと幸せな気分になる。
だから、また読み返したくなる。
「山村留学」のため、一家5人で北海道に移り住んだときの1年間の記録。
場所はトムラウシの麓。

P39
 むすめも新小学四年生として今年の目標を述べた。
「みんなと仲よくなりたいです」
 一学年が百人近くいる前の小学校で言ったらちょっと嘘くさかったかもしれないが、ここでなら現実味がある。小学生は全員で十人だ。もしかしたら、ほんとうにみんなと仲よくなれるかもしれない。

P59
山を下りて町まで出ると、一軒だけ本屋さんがある。文房具屋さんと酒屋さんも兼ねた、小さな本屋さんだ。雑誌が主で、背の低い文庫の棚がひとつ。単行本は、一冊しか置いてなかった。本屋大賞をとった本だ。いつかこの本屋さんに私の本が置いてあったらうれしいだろうなあとしみじみと妄想する。しみじみと無理だと思う。(その後、トムラウシで書いていた小説「羊と鋼の森」が本屋大賞を受賞し、この本屋・相馬商店に置いてもらう夢がかなう・・・これはすごいことだ。しみじみ思う)

トムラウシの学校の先生の話
P166
「この学校の子は、友達のつくり方がわからないんです。ここにいると、みんなはじめから友達だから」

【初回読んだときの感想】

【再読したときの感想】


「怖い橋の物語」中野京子

2019年06月03日 20時06分11秒 | 読書(エッセイ&コラム)
「怖い橋の物語」中野京子

2014年に「中野京子が語る橋をめぐる物語」として出版された作品の文庫版。
それだけだったら買わないんだけど、そのときは30話しか載っていなかった。
今回は55話、ということで買いなおした。

P72
そもそも現代でさえ、先進国で猿が身近に生息しているのは日本だけ、と言われる。この利口な動物がいかに我々になじみ深いかは、多くの昔話が証している。だが他の、とりわけヨーロッパ先進国にとって、猿は未開のアフリカと結びつき、一般には悪徳や狡さといった否定的なイメージで捉えられている(だからこそダーウィンの進化論は、彼の地で激しい抵抗にあい、日本では容易に受け入れられたのだ)。(そう言えば、嵯峨野・岩田山山頂モンキーパークに登ったら外人だらけだ・・・猿が珍しかったのか?)

P167
(前略)橋のたもとの道祖神は橋それ自体を守る神ではない。そうではなくて、その橋を渡り来たる邪悪なるものを監視し、食い止め、はね返すための結界として置かれている。

【参考リンク】

【ネット上の紹介】
橋は二つの異なる世界―日常と非日常、此岸と彼岸を結ぶものであり、出会いと別れの場、ドラマの生まれる舞台でもある。奇妙な橋、歴史的に大きな意味を持った橋、空想の橋、折れた橋、血なまぐさい橋、絵画に描かれた橋…そんな橋たちをめぐる、とっておきの物語を五十五話収録。
奇(悪魔の橋
犬の飛び込み橋 ほか)
驚(人間、渡るべからず
水面下の橋 ほか)
史(アントワネットは渡れない
ロンドン橋、落ちた ほか)
情(愛妾の城と橋
ゴッホの橋 ほか)

「なるべく働きたくない人のためのお金の話」大原扁理

2018年12月18日 20時29分29秒 | 読書(エッセイ&コラム)


「なるべく働きたくない人のためのお金の話」大原扁理

趣味を仕事にするとしんどいが、
仕事が趣味だという方は幸いだ。
高度経済成長を支えたモーレツ社員は団塊の世代。
よくも悪しくも現在の日本を形作った。
過剰に働き、必要以上に貯めるのは、日本人の体質なのだろうか?
それとも明治以降の傾向なのだろうか?

著者は、「必要以上に働かない」と決める。
それはそれで、大変な決意だと思う。
週休5日で、2日だけ働き、必要以上に買わない、使わない。
意外とそれで生きていける。
収入が少ないと、税金も少ないし、保険代も安くなる。

文章を読むと、けっこうまっとうな人物だと分かる。
変人かと思ったら、そうじゃなかった。
我々の方が、働き過ぎでおかしいのかも、と思ってしまう。
もちろん、一部の過剰に働く方々と、それに引っ張られて働く人のおかげで、
日本経済が成り立っているのかも知れないが。
しかし、それを一度全員で「やーめたっ」って降りるとどうなんだろう?
案外、なんとかなるかも…?

海外に行くと2か月の休暇でクライミングをしているドイツ人に出会う。
うらやましく思う。
日本人はどこで間違ってしまったのだろう?

【ネット上の紹介】
弱い私たちの、生存戦略。将来に不安や心配を感じている人へ、もっと楽に生きられる思考法。
序章 隠居生活のアウトライン
第1章 まずはつらい場所から抜け出す
第2章 落ち着いた生活をつくりあげる
第3章 手にしたお金で、自分はどう生きたいのか?
第4章 お金に対する見方・考え方の変化
第5章 お金と話す、お金と遊ぶ
対談 鶴見済×大原扁理―豊かさって何だろう?


「大河の一滴」五木寛之

2018年10月21日 19時30分42秒 | 読書(エッセイ&コラム)


「大河の一滴」五木寛之

引き揚げ体験を次のように書かれている。
(引き揚げについて)あまり積極的に書かれないので、貴重な資料だ。

P40
敗戦の引き揚げの極限状態のなかで、子供たちにとって大人はおそろしい存在だった。子供たちに同情して朝鮮人や旧ソ連兵がくれた餅や、黒パンや、芋などを、大人たちにいきなり強い力で奪いとられることがしばしばあったからだ。「飢えた大人ほど怖いものはない」と、当時の子供たちは骨身にしみて思い知ったのである。

P49
南北をへだてる三十八度線の境界を十三の私は、妹を背負い、弟の手を引いて走りに走った。弟が力つきて倒れれば、迷わずに置いて走りつづけるつもりだった。

P86
最初は七人の家族がいて、いま生き残っている家族は、ぼくと妹の二人だけになりました。

P261
いじめの問題を、子供は本来、残酷だからとか、いじめによって淘汰されていくんだとか言う人がいるけれど、そうではない。あれは大人の社会の反映です。大人の社会が、元気な人間、明るい人間しか認めないという立場をとるから、そうでない人間を子供たちは攻撃するのではないか。



「昭和二十年夏、子供たちが見た戦争」では、五木寛之さんは次のように話されている。
P310-311
引き揚げてきて内地に上陸すると、女の人たちは「婦人調査部」というところで身体検査をうけなければなりませんでした。レイプされて性病にかかっていないか、妊娠してしないかなどを調べるんです。
敗戦後の混乱の中で暴行を受け、妊娠してしまった人は――これを「不法妊娠」と言ったんですが――トラックで福岡の郊外にある施設に連れて行かれ、堕胎手術を受けさせられたそうです。
当時その仕事にたずさわった日赤の婦長さんという人に話を聞いたことがあります。麻酔なしの手術だったそうですが、泣き声をあげる人は1人もいなかったとおっしゃっていました。それを聞いて、何ともいえない気持ちになりましたね。
当時、人工中絶手術は法律で認められていませんでした。医師法違反に問われる危険を承知で、引き揚げ者のために献身的に働いた医師たちがいたんです。

P312
引き揚げのことを題材に作品を書くことを僕はしてこなかったんですが、おそらくこれからもしないと思います。

【ネット上の紹介】
どんなに前向きに生きようとも、誰しもふとした折に、心が萎えることがある。だが本来、人間の一生とは、苦しみと絶望の連続である。そう“覚悟”するところからすべては開けるのだ―。究極のマイナス思考から出発したブッダや親鸞の教え、平壌で敗戦を迎えた自身の経験からたどりついた究極の人生論。不安と混迷の時代を予言した恐るべき名著が、今あざやかに蘇る。“心の内戦”に疲れたすべての現代人へ贈る、強く生き抜くためのメッセージ。
人はみな大河の一滴(なぜかふと心が萎える日に
人生は苦しみと絶望の連続である ほか)
滄浪の水が濁るとき(「善キ者ハ逝ク」という短い言葉
屈原の怒りと漁師の歌声 ほか)
反常識のすすめ(内なる声を聴くということ
科学は常に両刃の剣である ほか)
ラジオ深夜一夜物語(私たちは“心の内戦”の時代に生きている
自分を憎む者は他人を憎む ほか)
応仁の乱からのメッセージ(“インナー・ウォー”の時代に
命の重さが実感されなくなった ほか)


谷川俊太郎と佐野洋子

2018年09月11日 19時36分17秒 | 読書(エッセイ&コラム)

朝日新聞で、谷川俊太郎さんへのインタビュー記事が連載されている。
ずっと気にしていた。
谷川俊太郎さんの3番目の奥さんが佐野洋子さんだから。
彼はどう語るのだろうか、と。

(佐野洋子さんは)散文作家だったけど魂は散文に収まりきらないものがあった。言葉を信用していなくて詩のことを「スープのうわずみ」と言ってましたね。

佐野さんとの関係を通じて老いとか男女の問題とか全部絡んで、新しい深い経験をしたことは確かですね。

(谷川俊太郎さんは)デタッチメント(他人に対して距離を置くこと)の人。佐野さんはそういうところが気に障ったんだと思う。しょっちゅう、けんかしていました。彼女はけんかが好きだった。けんかした後の仲直りが好きだったんだと思う。




「西遊妖猿伝」(11)~(16)諸星大二郎

2018年09月06日 19時55分59秒 | 読書(エッセイ&コラム)


「西遊妖猿伝」(11)~(16)諸星大二郎

16巻目で第2部『河西回廊篇』が終了する。


財産分けをしてちょうだいな

ロバとラクダが喧嘩を始めたぞ!

な…なんて性格の悪いロバだ

この続きは『西域編』へ
【あとがき】
西域を舞台にして沙悟浄や火焔山や牛魔王の登場する物語をいずれはやりたいと思います。

【参考】
潮出版社の希望コミックスは、これにて完結。
この続きはモーニングKCで①から⑥まで出ている。


「先生と私」佐藤優

2018年08月12日 20時57分36秒 | 読書(エッセイ&コラム)


「先生と私」佐藤優

7月に、「十五歳の夏」を読んだ。→「十五の夏」佐藤優(上・下)
本作品は、その姉妹編、前段階に相当する。
1960年から1975年の少年時代が描かれる。

P164-165
「佐藤君は、パリサイ派についてどう思うか」
「聖書に出てくるパリサイ派ですか」
「そうだ」
「律法を遵守するけれど、神の意志に忠実でない偽善者のことですね」
「結果として、パリサイ派は偽善者になってしまう。しかし、本人たちは律法を忠実に守っている。神の意志に最も忠実な者と信じている。マルクス主義者にはパリサイ派が多すぎる。佐藤君が見せてくれたこの本も、パリサイ派の文書だ。著者たちはマルクス主義の文献に通暁している。確かにそれなりの論理整合性もある。しかし、人間の心を打たない。(後略)」

【おまけ】
佐藤優さんの母は沖縄・久米島出身。
あの沖縄戦を生き抜いた方だ。
とてつもない幸運の持ち主と思う。

【ネット上の紹介】
誕生から高校入学までの15年間、両親・伯父・副塾長・牧師…多大な影響を与えた先生たち。知の“巨星”の思想と行動の原点を描いた自伝ノンフィクション。
僕の両親
あさま山荘
山田義塾
哲学と神様
スカウト
数学の先生
革命
進路相談
高校受験
春休み
塩狩峠
稚内
帯広
立席特急券
父の背中


「イソップ寓話の世界」中務哲郎

2018年07月20日 20時21分35秒 | 読書(エッセイ&コラム)

ちくま新書<br> イソップ寓話の世界 
「イソップ寓話の世界」中務哲郎

P119
ごましお頭の男が、若い娘と年たけた婆さんと、二人の愛人をもっていた。婆さんは、自分より若い男と語らうのが恥ずかしくて、男が通ってくるたびに、髪の毛の黒いのを抜き続けた。若い方は、年寄りを愛人にしていることをごまかそうとして、白髪を抜いた。こうして、両方から代わる代わる毛を抜かれた男は、禿になってしまった。(子供用「イソップ童話」には、この話は掲載されない、と思う。「愛人」「禿」「男が通う」など、モラルコードやポリティカルコレクトネスに抵触するワードが、短い中に満載で教育上不適切と思われるから)

P89
共同体を襲う災いやそこにある一切の罪穢れを担わせ、全員で境界の外に追い出し、あるいは殺害することによって集団が浄められたとする。このようなスケープゴートの儀礼の全世界からの例については、フレイザー『金枝篇』の記述に詳しいが、これは未開社会や古代社会に限られた現象ではないし、制度化された儀礼としてのみ現れるものでもない。疫病や大地震のような不時の災厄に際して、人間はどれほどのスケープゴートを作り出してきたことであろう。

【ネット上の紹介】
イソップの動物寓話は、子ども向けの人生訓話としてなじみ深いものである。けれども、ほぼ同時代のソクラテスやアリストパネス、ヘロドトスなどによってすでに真剣な考察の対象とされたように、そこには読み手の立場によって多様な解釈を許容する、奥行きをもった世界が展開されている。では、イソップとは誰なのか。それはいかなる経緯によって成立し、流布されていったのだろうか。先行文明としてのメソポタミアやエジプトをも視野に入れながら、イソップ寓話をとりまく謎に迫る。
第1章 イソップ寓話とは
第2章 寓話の起源
第3章 イソップの生涯
第4章 寓話の歴史の三区分
第5章 イソップ以前―ギリシアの場合
第6章 ギリシア作家とイソップ寓話
第7章 イソップ以前―日本の場合


「「絶筆」で人間を読む」中野京子

2018年06月27日 20時11分10秒 | 読書(エッセイ&コラム)


「「絶筆」で人間を読む」中野京子

「画家は最後に何を描いたか」という副題がついている。
代表作と晩年の作品を比較している。
また、通して読むと、西洋絵画の歴史としても楽しめる趣向だ。

P83
『フランダースの犬』のネロ少年が、死ぬ前に一度でいいから見たいと切望した絵こそ、ルーベンスの宗教画『キリスト昇架』だった。

『キリスト昇架』(1610年 - 1611年)聖母マリア大聖堂(アントウェルペン)

P200
一見、北国の雪景色を描いた風俗画にしか見えない画面に、ロバに乗った聖母マリアと綱を引くヨセフがさりげなく挿入されているのだ。
Pieter Bruegel the Elder - The Numbering at Bethlehem - Google Art Project.jpg

P240
パリから50キロほど南に、広大なフォンテーヌブローの森が拡がっている。(中略)
この森の北西端に隣接するのがバルビゾン村だ。
『箕をふるう人』ジャン=フランソワ・ミレー
パリにコレラが流行し、一家はルソーの勧めでバルビゾン村へ一時避難。やがてそこがすっかり気に入り、以降、死ぬまで定住することになる。

【ネット上の紹介】
ルネサンス、バロック、印象派…もう、そんな西洋絵画の解説は聞き飽きた。知りたいのは「画家は、何を描いてきたか」、そして「最後に何を描いたか」。彼らにとって、絵を描くことは目的だったのか、それとも手段だったのか―。ボッティチェリ、ルーベンスからゴヤ、ゴッホまで、15人の画家「絶筆」の謎に迫る。
第1部 画家と神―宗教・神話を描く(ボッティチェリ『誹謗』―官能を呼び起こせし者は、消し去り方も知る
ラファエロ『キリストの変容』―バロックを先取りして向かった先
ティツィアーノ『ピエタ』―「幸せな画家」は老衰を知らず
エル・グレコ『ラオコーン』―新しすぎた「あのギリシャ人」
ルーベンス『無題』―「画家の王」が到達した世界)
第2部 画家と王―宮廷を描く(ベラスケス『青いドレスのマルガリータ』―運命を映し出すリアリズム
ヴァン・ダイク『ウィレム二世とメアリ・ヘンリエッタ』―実物よりも美しく
ゴヤ『俺はまだ学ぶぞ』―俗欲を求め、心の闇を見る
ダヴィッド『ヴィーナスに武器を解かれた軍神マルス』―英雄なくして絵は描けず
ヴィジェ=ルブラン『婦人の肖像』―天寿を全うした「アントワネットの画家」)
第3部 画家と民―市民社会を描く(ブリューゲル『処刑台の上のかささぎ』―描かれたもの以上の真実
フェルメール『ヴァージナルの前に座る女』―その画家、最後までミステリアス
ホガース『ホガース家の六人の使用人』―諷刺画家の心根はあたたかい
ミレー『鳥の巣狩り』―農民の現実を描いた革新者
ゴッホ『カラスのむれとぶ麦畑』―誰にも見えない世界を描く)