ひとりごつ

ラヴ・ピース・フリーダム

中国軍艦の接続水域・領海侵入から

2016-06-17 18:53:37 | メモ
今日から約一週間前、6月9日の0時50分ごろに尖閣諸島の久場島北東の接続水域に中国軍艦(ジャンカイ級フリゲート艦)が入ったのを海自護衛艦「せとぎり」が確認したとのニュースがありました。

中国軍艦は約2時間20分にわたって接続水域を航行したとのこと。

日本側の対応は早く、中国軍艦の接続水域侵入を確認してから25分後の1時15分には外務省アジア大洋州局長が在日中国大使館次席公使に電話で抗議し、さらに約1時間後の2時ごろには駐日中国大使を外務省に呼び出して抗議しました。


それから一週間も経たない6月15日の3時半ごろから午前5時ごろまで、中国軍艦(ドンディアオ級情報収集艦)が鹿児島県口永良部島の付近の日本領海を航行したのを海自航空機が確認しました。

日本は領海侵入から約6時間後の9時35分外務省アジア大洋州局長が在日中国大使館事次席公使に電話で懸念を伝えるにとどまりました。



なぜ日本側の対応は異なったのか、そもそも接続水域とは、領海とは何なのかをこのニュースをきっかけにメモしておこうと思います。


接続水域や領海といった制度は、略して「領海条約」とも呼ばれる1964年に発効した「領海及び接続水域に関する条約」によって初めて規定されました。

現在は領海条約を含めた海洋に関わる4つの条約を統合、発展させる形で1982年に採択され、1994年に発効した国連海洋法条約(UNCLOS)が領海条約に優先されています。

なお、国連海洋法条約の全文は英語原文と日本語約の両方を外務省ウェブサイトにてPDFファイルで閲覧可能です。


領海について国連海洋法条約によると、第2条で沿岸国の主権が及ぶものとされており、第3条で各国が領海基線から12海里を越えない範囲で領海を設定できることになっています。

領海は主権が及ぶ範囲、つまり領域のうちなわけですね。

ちなみに領海は主権が及ぶものの、すべての国の船舶は無害通航権を有し、第18条及び19条に規定される無害通航を行っている船に対して、沿岸国は無害通航権を妨害することはできないこととされています。


続いて接続水域について見てみると、これは国連海洋法条約第33条により規定されていて、沿岸国の領海基線の24海里を超えない範囲を接続水域とし、沿岸国は接続水域において通関上、財政上、出入国管理上、衛生上の法令違反の防止及びその違反の処罰が行えるとされています。

領海とは違って接続水域には主権は限定的に及ぶわけですね。



では国際法的な領海と接続水域に関する知識を整理したところで、中国軍艦の動きと日本の対応について見てみます。


他国軍艦が接続水域を航行したことだけをもって避難することに国際法的な根拠はありません。

しかしながら、中国が尖閣諸島の領有権を主張していることから、日本は6月9日の件に対して政治的な判断で大使を深夜に呼びつけて抗議したものと思われます。


他国軍艦が領海を無害通航することは国際法的には問題ありませんが、仮に沿岸国の安全を害するような情報収集活動に従事していたならばそれは無害通航ではないので、国連海洋法条約第25条により必要な措置をとることができるとなっています。

今回の中国軍艦の領海侵入は日米印の共同訓練に伴うものであることから、軍事安全保障に関わる情報収集活動にあたっていたものと考えられ、これは無害通航ではない可能性が高いものと思われます。

もし接続水域入域に大使を深夜に呼びつけて抗議するのに、仮に領海侵入が無害通航でない証拠があるのに抗議を行わないのだとしたら、シャングリラ対話での日本政府の「法の支配による平和的解決」に矛盾してしまうのではないでしょうか。


南シナ海について法の支配を云々するならば、東シナ海でもその方針を貫く姿勢を見せるほうが国益に繋がると考えるのは甘いでしょうか。

米国が南シナ海での「航行の自由作戦」のブーメランで沈黙せざるをえないといった記事を見かけますが、「法の支配」を言うのなら先の中国軍艦の領海侵入が無害通航でないことが明らかでない限り抗議できないのは当たり前のことと思います。

何にしても国連海洋法条約に米国が批准していないのは皮肉なことですね。