音盤工房

活字中毒&ベルボトムガール音楽漂流記

マイルスを斬る!

2009年01月07日 | インポート

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 マイルスをいくら語ったところで1000分の1も語った事にはならない。それは、中山康樹氏の『マイルスを聴け!』(双葉文庫)を読めば、一目瞭然。すでにヴァージョン8まで改稿を重ねたこのマイルス本は、値段も文庫本にしては2400円と高価だ。おそらくマイルス・デイヴィスのファンでない限りは購入しようとも思わないに違いないが、入門篇としてはもっとも最適な一冊だ。中山康樹氏の著作はこれまでにも読ませて頂いているが、この『マイルスを聴け!』は量的な側面も含め、ほぼマイルスの全作品を網羅している評論と思って過言ではあるまい。それも専門的な用語は使わず、比較的馴染み易い表現に徹しているところがいい。レビューを読むのは音楽用語を知らない読者が殆どだ。そこへ専門用語を散々詰め込むと、読者は途端に読むのを諦めてしまう。的確な解説を行ったところで読者にそれが伝わらなければ何にもならない訳だ。中山康樹氏の『マイルスを聴け!』はその辺りを見事にクリアーしているから、こういった解説書の中では極めて良書といえるのではないかと思う。

マイルスを聴け!〈Version8〉 (〔双葉文庫〕) マイルスを聴け!〈Version8〉 (〔双葉文庫〕)
価格:¥ 2,400(税込)
発売日:2008-09

 とはいえ、中山康樹のマイルス評がすべてではないという事は今更ここに記する事でもないので、新春第2弾として「僕が選ぶマイルス・デイヴィス(アルバム篇)」は極めて独断、偏見を見事に貫いていると自覚しながら強引に進めてしまおう。それは、こうだ!

第1位『ラウンド・アバウト・ミッドナイト』

ラウンド・アバウト・ミッドナイト+4 ラウンド・アバウト・ミッドナイト+4
価格:¥ 1,890(税込)
発売日:2005-06-22

第2位『マイルス・デイヴィス・オールスターズ 決定版』

マイルス・デイヴィス・オールスターズ 完全版 マイルス・デイヴィス・オールスターズ 完全版
価格:¥ 3,670(税込)
発売日:2001-06-20

第3位『クッキン』

クッキン クッキン
価格:¥ 1,800(税込)
発売日:2007-09-19

 うーむ、かなり偏った選択なのは承知しているけれど、なぜか50年代にアルバムが集中しているのは単に僕個人の趣向の表れである。第1位の『ラウンド・アバウト・ミッドナイト』はファンの間でも評価が高く、常に上位を占めている。僕も例外なく好きだ。一曲目の「ラウンド・ミッドナイト」でマイルスはもう彼独自の世界観を示している。出だしからもの悲しく咽ぶマイルスのミュートは完璧だ。延々3分近く続くマイルスのソロは、その存在感を決定的なものにしている。最早、マイルスからバトンを受け継ぐ若きコルトレーンはマイルスとの比較材料にしかならず、せっかくのソロの出番も影が薄くなっている。曲自体のテンポやリズムは単調なのに、こうもぐさりと踏み込んでいく鋭利さは一体なんなのだろう。ふたりの天才が同じレコーディング場所に立っていながら明らかに優劣がついているこの現実は、この頃のジャズの現実でもあるのだろう。

 

聴く限りとてもマイルスに遠慮しているとも思えないレッド・ガーランドやポール・チェンバースにしても名手フィリー・ジョー・ジョーンズに至ってもあたかもマイルスの引き立て役に回っているようだ。マイルスの独壇場といえるこの選曲は聴き側の心理を衝く心憎い演出だ。

 そして、第2位の『マイルス・デイヴィス・オールスターズ 決定版』。編集盤の『プレイズ・ブルース&バラッズ』もお気に入りだが、マイルスの持ち味はまさしくブルースとバラッズを得意とするプレイヤーといえるかもしれない。それと、コンボのメンバーの選出の巧さ。この頃のマイルス・バンドで一際異彩を放っているのが、アート・ブレイキーだ。この土俗的でファンキーなドラマーの叩き出すリズムは本物だ。白人や黄色人種ではけっして叩き出せない強烈なサウンド、それは黒人のDNAが放つ民族的かつプリミティヴな音色だ。ドラムがケニー・クラークに変わっているけど、マイルス版「ディアー・オールド・ストックホルム」がいいね。このジャズスタンダードの定番がマイルスによって豪華な肉料理に様変わりしている。

 第3位の『クッキン』はあのマラソンセッションズ4部作の一枚。ありきたりだが、「マイ・ファニー・ヴァレンタイン」がベストトラック。そして番外篇として是非聴きたいのが『ジャック・ジョンソン』。

ジャック・ジョンソン ジャック・ジョンソン
価格:¥ 3,675(税込)
発売日:1999-05-21

 昨年とうとう買いそびれてしまった一枚だが、そろそろ手に入れようかと思っている。音源はこちら↓


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