ロシア西部に民間機が墜落。遺体10名を回収した連邦捜査委が、DNA鑑定により民間軍事会社ワグネルの創始者プリゴジン氏の死亡を確認……と、ここまでは本日時点の日本における報道。
これに米国の観測筋やマスコミの取材を引用して、ロシア政権や治安機関が『暗殺に関与か❔』といった流れで報じたニュースが(本邦では)大部分と思う。
一方で、ロシア国内での(特にSNSを通じての)伝えられかたは どうであったか。
もちろん、ごく少数の反政府系メディアを除き「政権による暗殺」なんて可能性にはまったく触れられてない。墜落直後の(最初の航空管理当局の発表を踏まえた)第一報は、きわめて淡々と、以下のごとく"事務報告"然としたものだった━━。
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8月23日夜、エンブラエル・レガシー機がトヴェリ地方のクジェンキノ村近くで墜落した。民間軍事会社ワグネルの創設者ワグナー・エフゲニー・プリゴジンと司令官ドミトリー・ウトキンが乗っていたと思われる。 死者は計10人。遺体はジェット機の墜落現場で発見された。提出書類によれば、ビジネス飛行機はモスクワからサンクトペテルブルクまで飛行する予定だった。
ロシア連邦捜査委員会は、連邦刑法 航空輸送規則の違反容疑に基づき捜査を開始。乗員全員の遺体と死亡が確認された。邦航空輸送庁は、乗客の中にエフゲニー・プリゴジンも含まれていることを認めた。
墜落直後、プリゴジン所有の2番機がモスクワ上空を旋回しているという情報が流れた。フライト情報センターによると機は奇妙な航路を描き、どこへ向かうべきか迷ったようにジグザグに飛行したという。
21時頃、2番機はモスクワのオスタフィエヴォ空港に着陸したとの報告が入った。トヴェリ地域で墜落した『機番RA-02795』の後続だった『機番RA-02748』が民間空港に着陸したのだ。直後の聴取で迷走飛行したパイロットは、当初サンクトペテルブルクに向かっていたため、単に余分な燃料を投棄していた、と説明しているという。
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日本における初報↓ と比べると、ずいぶん伝えかたに「温度差」がある。まるで読み手が一般大衆ではなく、航空管制する側の役人であるか(?)のよう。
まあ、これは航空機の墜落報道に限らず、ロシアにおける事故報道全般に言えることだ。路上の自動車事故でも、たとえば「州道〇〇号で昨夜3時頃、ラーダ〇〇とマツダ〇〇が衝突、ラーダの運転手と同乗者が死亡。州道は午前5時まで閉鎖された。地元警察が事故原因を捜査中である」といった具合。誰が死んだか、ではなく、どのメーカーの何と言う車種グレード同士が ぶつかったのか。誰か重大な危険運転で現行犯逮捕されたり、セレブや政治家が死傷したのでない限り、運転/同乗してた当事者たちの素性(年齢だとか移動目的、夫婦親子など互いの関係)は一切、情報として報道されないんだな。
日本人の感性で言や、それ「事故報道」ぢゃない。ただの「道路交通情報」だ💧
かくのごとく、常に国民に「社会の営みを管理する"お役人側"の気持ちになれ。公共心で生きろ❕」と諭(さと)し、間接的に洗脳するのがロシア流のニュース報道なんである。その空気感、ソ連時代からちっとも変ってない。
でだ。
この48時間(おそらくは)ロシア政権サイドがSNSを介し、国内向けに拡散させまくってる『墜落の一番、有力と思われる原因』がある。
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それは『ワグネルの内部抗争』。
ベラルーシに引き下がって「ロシア現政府の戦争遂行」にイチャモンを付けるのを止(や)める。そんな(プリゴジンの乱の)幕引きにゃ納得してない、一部の「強硬派=ロシア内戦🔥を企むテロ戦術派」の不満が今も昂(たかぶ)ってる。彼ら一派の中核をなす50人ほどの"将校クラス"どもが、目下の指揮中枢メンバーを「爆破工作」によって葬りさってしまった。
ベラルーシに引き下がって「ロシア現政府の戦争遂行」にイチャモンを付けるのを止(や)める。そんな(プリゴジンの乱の)幕引きにゃ納得してない、一部の「強硬派=ロシア内戦🔥を企むテロ戦術派」の不満が今も昂(たかぶ)ってる。彼ら一派の中核をなす50人ほどの"将校クラス"どもが、目下の指揮中枢メンバーを「爆破工作」によって葬りさってしまった。
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この論説には、ロシアで著名な軍事評論家の唱えてる「2カ月以内に、500名ほどのワグネル"叛乱分子"がベラルーシの潜伏拠点から離反。ふたたびロシア領内への潜入を企むだろう」との主張ももっともらしく引用され、さも「それこそが墜落の真相❕❕」である雰囲気づくりに一役も二役も買わせている。
よく、イスラム急進主義集団にありがちだった「主導権争いによる内輪モメ」がワグネル内部でも募って、ついに「反主流派」の暴走を招いた。ロシア内乱に踏み込みかけたプリゴジン氏の、言わば「身から出た錆(サビ)」で彼は殺されたのだ。それさえなきゃ、国家の英傑たる人物が お気の毒に━━。
というのが、プーチン政権の「ロシア市民に当面、想わせときたい一番の」プリゴジンの死因……なんであるらしい。実際、そう想って納得する"愛国"市民が(この数日で)確実に醸成されてるのを、彼らのコメントやシェア行動ぶりにも感じる。もちろん、完全に心は反プーチンで(対ウクライナでも)反戦主義な"危険"市民を除けば、の話だが。
最後に余談だが、今ひとつ日本人がイメージできてない『ワグネルの真実』をば補足しとく。
みなさん、今さらだけど『ワグネル』ってロシア語……ぶっちゃけ何だと 思っておられる❔❔
ずばり⚡ロシア人が耳にして、瞬時に想い浮かべるのは「リヒャルト・ワーグナー」。誰あろう、偉大なるドイツの作曲家、その彼の「苗字」だ。
富豪であり血気盛んな野戦ヲタクだったプリゴジン氏は、アメリカ不朽の戦争映画『地獄の黙示録』に出てくるカーツ大佐【演:マーロン・ブランド】のカリスマ度に心酔。容姿が似ることもあり、しばしば自らをカーツ大佐に準(なぞら)えてたんだな。
そしてシニア世代なら ご存じの通り、『地獄の黙示録』と言ったらワーグナー(ワグネル)なのだ。ワーグナー作曲の金字塔『ワルキューレの騎行』ほど、野戦に向かう歩兵魂を熱く揺さぶる「突撃BGM」は無かろう。
プリゴジン氏はこれを現実にリアルで、具体的には中央アフリカの原野を血に染めたくて、自らの創設した民間軍事会社に『ワーグナー』と名付けた。それまでのロシア市民には「国外のクラシック音楽家の苗字」でしかなかった言葉が、以降たちどころにロシア現代社会に広まった…。
それが『ワグネル』という"社名"に込められた情念の核心だ。
プリゴジン氏は、どこかでカーツ大佐のように「密かに暗殺されるのを待ってた」ろうか。本当に亡き氏の野望や功績を追悼する気があるなら、上掲『地獄の黙示録』のワルキューレ奇襲シーンだけは絶対に❕ 押さえとくよう薦めたい。
=了=
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