文明のターンテーブルThe Turntable of Civilization

日本の時間、世界の時間。
The time of Japan, the time of the world

池田氏は軍事力を否定する日本を「宦官」にたとえ、伊藤氏は…「防衛問題について日本人は白痴に近い」と論難している

2021年10月04日 10時39分45秒 | 全般

以下は、今日の産経新聞1面に掲載された櫻井よしこさんの定期連載コラムからである。
本論文も彼女が最澄が定義した国宝、至上の国宝である事を証明している。
見出し以外の文中強調は私。
岸田氏公約 改憲猶予なし
4日に首相に選出される自民党の岸田文雄総裁は、総裁選で憲法改正を任期中に目指すとした。
日本を標的とした弾道ミサイルを相手国領域内で阻止する敵基地攻撃能力の保持についても、「抑止力として用意しておくことは考えられるのではないか」と明言した。 
出身派閥である宏池会(岸田派)の非軍事に傾く伝統を思えば、岸田氏の覚悟表明の意味は重い。 
米国がアフガニスタンから撤退し、国際社会の安全保障体制は日本も含んだ諸国連合の形になりつつある。
だが、日本は依然として自衛隊を警察法の枠内に閉じ込め、通常の軍隊としての活動を許さない。
これではわが国はもたない。
岸田氏の公約、憲法改正には一刻の猶予もないのだ。
日本国の切羽詰まった現状への責任は日本国民全員が負うべきものだが、吉田茂元首相を源流とする宏池会の伝統および宏池会所属の政治家群の責任は極めて大きい。 
吉田氏の私的軍事顧問を務めた辰巳榮一元陸軍中将は、吉田氏に再軍備や憲法改正の必要性をたびたび進言した。
警察予備隊が創設され元軍人が採用されたときや、自衛隊法が成立したときは、とりわけ懸命に説得した。
自衛隊が国土防衛の任務を与えられた以上、憲法9条は改正されなければならないという辰巳氏の主張は筋が通っている。 
だが、非軍事にこだわる吉田氏は聞かず、これを「戦力なき軍隊」だと強弁した。
「戦力の不保持」をうたった日本国憲法を念頭に、本来国軍と位置づけるべき自衛隊を、軍から切り離すためのへ理屈を展開したのである。 
杏林大の田久保忠衛名誉教授は、吉田氏はこのとき、日本の防衛力にも憲法改正にも、さらに国家存立の根底にあるべき価値観にも倫理観にもモラトリアムをかけたと指摘する。 
その辰巳氏に昭和39年11月、引退後の吉田氏が助言に耳を貸さなかったことを「深く反省している」と頭を下げた。
が、吉田氏の反省はその後も生かされなかった。 
吉田氏の後に続いた宏池会出身の首相は池田勇人氏だ。
日米安全保障条約を改定し、その先に憲法改正を目指して挫折した岸信介元首相とは異なり、池田氏は経済政策に特化した。
池田氏は37年の欧州訪問で、首相秘書官を務めるなど側近だった伊藤昌哉氏に語っている。
「日本に軍事力があったらなあ。俺の発言はおそらくきょうのそれに10倍したろう」(『池田勇人』伊藤昌哉、時事通信社) 
池田氏は軍事力を否定する日本を「宦官」にたとえ、伊藤氏は民主主義に徹することと軍事力排除を同一視するのは日本特有の価値観だとし、「防衛問題について日本人は白痴に近い」と論難している。
だが、結局、吉田氏も池田氏も軍事力保持の国家的必要性を認識しながら、その国際社会の普遍的原理を国政に反映させることなく終わった。
この二重基準の修正こそ、宏池会代表としての岸田氏の責任である。果たして岸田氏にその自覚はあるか。 
北朝鮮は9月中旬以降、わが国も米国も迎撃できない極超音速ミサイルを含む新型ミサイルを発射し続けている。
中国は台湾と、親台湾路線の日米に断固たる姿勢を見せるべく、台湾海峡に連日、数十機の戦闘機群を飛行させている。 
台湾の国益の多くはわが国のそれと重なる。
4月の日米首脳会談でも6月の先進7力国(G7)首脳会議でも、台湾海峡の平和と安定重視は自由主義陣営の共通の概略として確認された。
中国の脅威に対処することで、紛争に至ることなくこの緊張した状況を乗り切るには、米国との協力を強化し、より強い抑止力を構築することが欠かせない。 
その努力は日本が真っ当な独立国になる道をも切り開くはずだ。
岸田氏に求められることは軍事を忌避する宏池会的思考からの大転換なのである。
大東亜戦争における日本の全てを悪とし、日本否定の思考に沈んで日本の軍事力の構築を忌み嫌う自己否定から始まっているのが宏池会ではないか。
そのような考えから転換するときだ。自らを信じて、米国との軍事協力体制を強めるときだ。 
米国は今、明確に、中国の脅威に米国一国だけでは向き合えないとして、同盟諸国の協力を求めている。
米国の軍事戦略は新しい事態に向けて急速に再編成されつつある。刮目(かつもく)すべきはその海洋圧迫戦略だ。
第1列島線の内側を海兵隊と陸軍が固め、海空軍が遠い外側から中国海軍を攻撃して押し返す戦略だ。
第1列島線を構成する南西諸島は日本国の領土だ。そこで米軍と協力するのは当然である。 
第1列島線上に中距離ミサイルを配備したいとの提案が米軍からなされた場合、岸田氏は「全く否定するものではない」とした。これは評価したい。
しかし、そこに核の持ち込みの可能性が出てくる場合、「核兵器を持たず、作らず、持ち込ませず」という非核三原則は変えられないと岸田氏は否定した。 
中距離ミサイルの配備は無論、核ミサイルの配備も日本防衛に欠かせないはずだ。
北朝鮮も中国も核を保有し、彼らのミサイルがわが国を射程内にとらえている限り、わが国が米軍の核を拒絶するのでは抑止力になり得ない。
吉田、池田両氏の後、宏池会は宮沢喜一、河野洋平、加藤紘一各氏らを輩出した。
彼らは慰安婦問題および教科書問題などで日本の国益を不条理かつ不名誉に損ねたことに加え、憲法改正にも背を向けてきた。
他国に国防を頼ることに疑問を持たないのであろう。 
一連の公約の上に立つ岸田氏は、自身の政治勢力の源泉である宏池会の価値感や安全保障観を改める責務があるといえる。
国力の其盤であるエネルギー安定仕給のための核燃料サイクルおよび原子力発電の維持継続、男系男子による皇位継承の安定確保の公約もある。
国民は一連の公約を忘れてはいない。
その実現には「聞く力」に加えて決断・実行する力こそ必要であろう。

 


最新の画像もっと見る