放浪編 その六
あんまり難しい本を読みたくない。というよりは、エッチな本を読みたい。谷崎でも読もうかと立ち寄った書店には、大した品揃えはなく、仕方なく他をあたっていると、三島由紀夫「音楽」が目に付く。
所謂「妹萌え」というもの持ち合わせていないのだが、これはこれで、よろしいかもしれないと読んでみました。
以下、例によってネタバレ。
この甘い禁断の喜びが忘れがたく、麗子は「音楽」を聞けなくなってしまったのです。つまりは、イケないってことです。(「イケない」であって、「ぬれない」というわけじゃないのか? まぁどうでもいいことだが…………)
で、彼女を精神分析を進めていくうちに、医者はもっと恐ろしい事実に突き当たります。実は、兄の悪戯だけではなく、彼女たちは実際に交わっていたのです。
で、まぁ、そんなこんなで、いろいろありつつ、最終的には麗子は兄と対峙し、不感症が治ってハッピーエンドです。
三島由紀夫らしく、非常に緻密な構成に仕上がっております。
それはいつも通りなのですが、驚くのは、この小説が昭和40年に出ているということ。
今でこそ、安直に使われる精神分析という道具ですが、こんな早い段階で本格的に使っている作家がいたとは。
専門家から見ると、「ププッ」という箇所があるのかもしれませんが、素人からすると、精神科医の治療態度なんかは、リアルに感じられました。(患者からは必ず金をもらう、という決まりは、河合隼雄を言ってたなぁ)
何度か出てくる言葉「性の世界では、万人向きの幸福というものはない」は、もちろん、男色(バイ?)の三島由紀夫も痛烈に感じていたことでしょうし、もしかしたら、それで精神科医のお世話になったことがあるのかなぁ~?
そういえば、「春の雪」が公開されたはずだが、うちの近くの映画館では、あっさり打ち切られたなぁ。
駄目だったのか?
他の三島作品の感想です。
三島由紀夫「愛の渇き」輪廻転生の話は盛り込まれないだろうなぁ(盛り込むと、恋愛映画がぼやけちゃうだろうし)
あんまり難しい本を読みたくない。というよりは、エッチな本を読みたい。谷崎でも読もうかと立ち寄った書店には、大した品揃えはなく、仕方なく他をあたっていると、三島由紀夫「音楽」が目に付く。
少女期の兄との近親相姦により、美しい〝愛〟のオルガスムスを昧わった麗子は、兄の肉体への憧憬を心に育み、許婚者をも、恋人をも愛することができない。麗子の強烈な自我は、彼女の不感症を癒すべく、懇切な治療を続ける精神分析医の汐見医師をさえ気まぐれに翻弄し、治療は困難をきわめる 三島由紀夫「音楽」背表紙 新潮文庫 |
以下、例によってネタバレ。
麗子は兄とは、実に仲の好い兄妹であり、彼女は兄を熱狂的に愛していた。兄のあとにはどこへでもついて歩き、兄が喧嘩が強いとか、美男子だとかいう評判をきくと、子供心にもうれしくてならなかった。小学校三年生のころ、ある晩、兄の寝床へもぐり込んで寝ていたとき(両親がそれを禁じていたので、なおさらそれは甘い魅惑であった)、兄の指が彼女の小さな桃いろの貝殻に触れて、その貝殻が、海の遠い潮鳴りを伝えてくることを教えてくれた。 「いいかい、麗ちゃん、じっと目をつよっていろ。いいこと、教えてあげるから。誰にも言っちゃいけないよ」 兄はそう言いながら、そろそろと指をのばし、片手で小さい麗子の肩をしっかりと抱きしめながら、麗子がまだ味わったこともない、しびれるような、怖ろしい、甘い感覚へと連れて行ってくれたのだった。 三島由紀夫「音楽」63~64頁 新潮文庫 |
で、彼女を精神分析を進めていくうちに、医者はもっと恐ろしい事実に突き当たります。実は、兄の悪戯だけではなく、彼女たちは実際に交わっていたのです。
会話が間のびしていながら、妙に殺気立ってきているのを麗子は感じていたが、兄のうしろに隠れるようにぢっているうちに、この「じゃ見てろ」という言葉と同時に、酔った兄が身をひねって、いきなり腕をのばして来たのにおどろかされた。避ける暇もなく、麗子は固く抱きしめられると、永い、息のとまりそうな接吻をされた。それは世にも恥かしい怖ろしい接吻だったが、麗子は瞬間その言語道断の甘さに目がくらんだ。(中略) 兄の手が自分の胸もとをひろげるのを麗子は夢うつつに感じ、兄の歯が乳房を軽く噛むのを感じた。「もっとよ。もっとよ」と叫んでいる女の声が遠くきこえた。酔った兄の体は燃える石炭のように、倒れた麗子の体の上に積まれた。 三島由紀夫「音楽」182~183頁 新潮文庫 |
で、まぁ、そんなこんなで、いろいろありつつ、最終的には麗子は兄と対峙し、不感症が治ってハッピーエンドです。
三島由紀夫らしく、非常に緻密な構成に仕上がっております。
それはいつも通りなのですが、驚くのは、この小説が昭和40年に出ているということ。
今でこそ、安直に使われる精神分析という道具ですが、こんな早い段階で本格的に使っている作家がいたとは。
専門家から見ると、「ププッ」という箇所があるのかもしれませんが、素人からすると、精神科医の治療態度なんかは、リアルに感じられました。(患者からは必ず金をもらう、という決まりは、河合隼雄を言ってたなぁ)
何度か出てくる言葉「性の世界では、万人向きの幸福というものはない」は、もちろん、男色(バイ?)の三島由紀夫も痛烈に感じていたことでしょうし、もしかしたら、それで精神科医のお世話になったことがあるのかなぁ~?
そういえば、「春の雪」が公開されたはずだが、うちの近くの映画館では、あっさり打ち切られたなぁ。
駄目だったのか?
他の三島作品の感想です。
三島由紀夫「愛の渇き」輪廻転生の話は盛り込まれないだろうなぁ(盛り込むと、恋愛映画がぼやけちゃうだろうし)
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