水産業界事件記録

水産業界で発生した事件の報道記録

焼津「カツオ窃盗事件」は“第二幕”へ  「窃盗犯」を処分なしで勤務させ続ける漁協の呆れた隠蔽体質

2022-02-05 20:00:08 | 日記

2022年2月5日 デイリー新潮
焼津「カツオ窃盗事件」は“第二幕”へ 
「窃盗犯」を処分なしで勤務させ続ける漁協の呆れた隠蔽体質
昨年、静岡県焼津漁港で発覚した冷凍カツオの窃盗事件。地元の水産加工会社や運送会社が焼津漁業協同組合の職員と共謀し、窃盗を繰り返してきた事実に社会は衝撃を受けた。だが、驚くべきはその後の話である。このコンプライアンスが重視される社会において、焼津漁協は逮捕者を出しながらも中途半端な調査しか行わず、騒動に蓋をしたがっているのだ。それに同調し、何事もなかったかのように仕事を続ける漁業関係者たち。焼津で取材していると、常識が通用しない“異空間”に迷い込んだような錯覚に陥るのである。
これから始まる“第二の事件”
1月某日午前7時。焼津外港に向かうと、カツオの水揚げが行われていた。クレーンで漁船から港に移された冷凍カツオは、ベルトコンベアを回りながら仕分けされ、パレットに流し込まれていく。そして、トラックに積まれて港外へ。トラックは港内を出る前に、必ず計量場を通らねばならず、そこには監視員が常時立っていた。再発防止のために、焼津漁協が新たに講じた取り組みの一つである。そう、これまではこの計量場を通らずに出ていく手法で、“泥棒たち”は堂々と冷凍カツオを盗んできたのである。
一見、平常に戻ったように見えた焼津漁港だが、昨年10月に着手された窃盗事件の捜査はいまも続いている。むしろ、これから「第二幕」が始まるところなのだ。静岡県警関係者が解説する。
「ようやく『第一ルート』と呼ばれる、焼津市の水産加工会社『カネシンJKS』役員、運送会社『焼津港湾』社員、漁協職員Aらが関わったルートが片付いたところです。彼らは21年2月に約4.5トン(時価100万円)、同年4月に約4トン(時価74万円)の冷凍カツオを盗んだ容疑で逮捕・起訴された。21年8月に約3トン(時価72万円)を盗んだ容疑でも、1月31日に追起訴されました」
静岡県警は鹿児島県枕崎港にも捜査員を派遣
そして、並行していて進められてきた「第二ルート」の捜査が大詰めを迎えつつある。昨年12月末に、県警は第二ルートの関係者先の一斉家宅捜索に入った。
「ガサが入ったのは、神奈川県に本社を置く運送会社『ホクユウ』、焼津市の冷凍倉庫会社『焼津マリンセンター』、そして大手水産会社『マルハニチロ』の完全子会社である『大洋エーアンドエフ』です。もし大手水産会社の関係者が窃盗に関与しているとなると、大変なことになると水産業界も大きな関心を寄せています。年明けから県警は、盗品が運ばれていたとされる鹿児島県枕崎漁港にも捜査員を派遣しています」(同・県警関係者)
このルートでも漁協関係者が手引きしていた可能性が高いと言われている。詳しくは後述するが、この窃盗は漁協職員の協力がない限り成立しないのだ。
第二ルートで、被害を受けた宮城県に本社を置く船会社の焼津支社の所長が、これまでの経緯を明かす。
「4、5年前から、うちの船頭が『なぜか焼津より鹿児島のほうで数字が上がる』とよく口にしていたんです。最初は、そんなことが公正な市場であるわけないだろうと思っていました。ただ、一昨年の6月、船頭が『800はあるはずなのに710しか出ねえ。あと100トンはどこに行ったんだ』と烈火のごとく怒り出した」
あと100トンはどこにいっちまったんだ
遠洋漁業のカツオ漁は遠い場合は、赤道近くまで出向く。1回の航行は40~50日。船いっぱいにカツオを積んだ後、鹿児島県の山川か枕崎、焼津のいずれかの漁港に寄港し、4、5日休んだら再び出航するというサイクルで動いている。マグロと違いカツオは船内で計測できず、漁獲した魚が何トンだったか判明するのは、水揚げ終了時となる。漁協の計量係が計測し、買い主の水産加工会社に引き渡されるのだが、船頭の目分量と100トンもの差があるというのである。
船頭からのクレームを受け、所長らは漁協に抗議したが、担当者は怒って「そんなことを言うなら、もう入ってこなくてもいい。心外だ」と言い放ったという。だが、それでも不信感が拭えなかったため、それから所長は、水揚げする度に現場で見張るようにした。そして、昨年3月に決定的な証拠を掴んだのだった。
「大洋エーアンドエフが競り落とした50トン分のカツオを、ホクユウが焼津市内の冷蔵庫に運送する時のことです。荷を積むスピードが遅いのに気づいた。怪しいことをやっているなと」(所長)
そこで漁協職員に防犯カメラを見せてもらうと、50トンを運ぶのにはトラック5台で済むはずなのに、もう1台、10トン分を積んで計量しないまま走り去るトラックがはっきりと映っていたのだ。
釈放後、漁協に戻った職員
ともにカメラを見ていた漁協職員も「これはやっているな」と言っていたという。「他人事のような態度だった」と所長は振り返る。「あの時は、まさか漁協職員がこんなにも深く関与しているとは思わなかった」。ちなみに、その場には逮捕された職員のAもいた。それから、所長らは漁協幹部らと一緒に、焼津警察署へ被害相談するために向かった。実はちょうど、その少し前に第一ルートの被害者である船会社も窃盗被害に気づき、水面下で動いていた。時同じくして静岡県警に焼津漁港がらみの二つの窃盗事件が持ち込まれたのだった。
そして、昨年10月、第一ルートの事件から着手され、事件は全国区のニュースとなったのである。当然、漁協は世間に対し平謝りとなった。Aらの逮捕を受けて、すぐさま調査委員会を発足。11月末に報告書を発表した。その際、関係者の処分も発表されたと誰もが思うであろう。だが、所長はにわかには信じがたいことを言うのである。
「逮捕・起訴されたA以外は、今も何食わぬ顔をして漁協に勤務し続けています。Bという職員とCという元職員もともに逮捕されましたが、処分保留で釈放されました。問題はBです。彼はまた漁協に戻って勤務しています」
先の警察関係者によれば、決して嫌疑がなかったわけではないという。
「BとCは取り調べに、窃盗に関与し、報酬を受け取っていたと認めています。不起訴といっても起訴猶予、つまり犯罪の成立は認めたうえで悪質性などを考慮して起訴を見送る判断だったと思われます」
調査報告書でも認められている過去の窃盗
漁協がまとめた調査報告書においても、BとCの関与を認定している。
〈職員Aがセリを担当し、KS社(カネシン)が買い付けをした場合、未計量のパレットを一缶搬出できるよう職員Aが担当の帳面係に指示をして便宜を図った(中略)KS社から報酬を受けた職員Aが、担当の帳面係に対し、直接1~2万円の報酬を渡していた〉
この帳面係こそがBとC。仮に関与の度合いが低かったとしても、世間の常識に照らせば対外的にも、謹慎処分にするなど、なんらかの措置を講じるべきであろう。だが、問題はAやBに限った話ではないのだ。すでに世間に明かされているように、この窃盗は過去数十年にわたって、セリ部門の担当者の間で行われてきた。つまり、過去に遡れば、関与している漁協職員はいまも少なからずいるのである。
調査報告書もそれを認めている。2008年頃から10年頃までのおよそ3年間にわたり、当時の係長(退職済み)の指示を受けて、外港売り場に勤務する職員が、外港冷蔵庫に在籍していた二人の職員と共謀し、未計量のパレットを係長の親族が経営する冷蔵庫に搬送していたと明記している。「頻度は最低2カ月に1回、1回あたりの数量は1~3缶」。親族から報酬を受け取った係長は、売り場に勤務する職員に「1ヶ月に5~10万円程度」、冷蔵庫に勤務する二人の職員には「2ヶ月に2万円程度」、報酬として分配していたと書かれている。退職者を除くと少なくとも二人の現役職員が窃盗に関与し、報酬を得ていたとある。
取材に答えたA
他にも、〈かなり昔から(数十年前から10年前頃まで)、外港の職員が社員旅行での遊興費や年末年始の飲み会の費用の一部に充てるため、魚を加工会社に渡すことにより現金を受け取っていた事案があった〉〈未計量のブライン(冷凍カツオの種類)のパレットを渡し、その見返りとして金券を数回授受した経験があることを供述した者がいた〉。
また、すでに伝えた通り、漁協職員の中には、今、捜査が進められている第二ルートに関与している可能性がある職員もいる。だが、誰一人として処分がないまま、今日に至っているというのだ。
逮捕・起訴されたAもしかりである。保釈されているAを訪ねると、「私の弁護士は、起訴されたら解雇されるだろうと話していたのですが、いまだ漁協からは何の連絡もありません。自宅待機みたいな扱いになっています」と話した。Aは裁判が控えているため取材に協力できないと断ったうえで、こう語った。
「今もセリを担当する部署にいる人たちのほとんどが、窃盗に関わっています。過去にいた人たちも。軽い気持ちでやってしまいましたが、被害を受けた会社には大変申し訳なく思っています」
「内部調査には限界がある」と答えた漁協
漁協はいったいどう考えているのか。取材に応じた焼津漁協の理事はこう答えた。
「再発防止委員会を昨年12月に立ち上げ、今回の事件を反省し、ハード面からソフト面まですべて見直して、システムを構築し直すよう進めているところです」
だが、調査をこれで終わりなのかと問うと、
「そこは微妙なところでして……。確かに不十分ではないかという声は届いています。しかし、内部調査には限界があるのです。当然、処分については考えています。監督していた上司なども含めて、年度内にはと考えています」
と、はぐらかすように言うのであった。一方で、「水産加工会社の損失補填や相場維持を目的として、水産加工会社にカツオを提供していた職員もおり、すべてに悪意があったとは認定できない」とも言う。
実はこのケースは関しては調査報告書においても、全20ページ中4ページを割いて説明されている。だが、これはただの言い逃れのような話で、結局のところ、漁協職員が船会社に黙ってカツオを抜いて水産加工会社に渡していたことには何ら変わらず、やられたほうからすれば同じ窃盗なのだ。
「水揚げが止まってしまう」
この点を突っ込むと、「確かにそういう指摘も頂戴しています」と認める。ただ、それ以上については「捜査機関に委ねるしかない。証拠がないし、我々の手では無理。職員たちの話を信用したいという気持ちもある」と、匙を投げるようなことを言うのであった。
さらに、中日新聞の報道によると、1月28日、漁協は第2回再発防止委員会を開き、漁協職員たちに「過去に不正行為をしていない」「これからも不正行為を行わない」旨の誓約書を提出させることを決めた。不正行為に関与したと内部調査で話している職員たちには「関与した不正行為はすべて組合に申告した」「今後、不正行為をしない」という内容の誓約書を求めるという。
これを聞いた前出の所長はこう憤る。
「ウソをつき通した者はこれで逃げ切れるし、正直に告白したものは『よく言ったね』で済まそうとしているわけです。私たちの気持ちを考えてください。これからも、泥棒と一緒に仕事をしろと言われているようなものです。事件化する前の昨年9月、突然、焼津に水揚げしている船会社に1000万円の解決金を払うと言ってきたことがあった。水揚げ量に応じて分配するとかで、一方的に書面が送られてきたのですが、その時から隠蔽しようとする態度が見え見えでした」
所長は、調査報告書の報告会があった際、漁協幹部に対し徹底した調査を求めた。すると、顧問弁護士はこう脅すようなことを言ってきたという。
「そんなことをしたら、水揚げが止まってしまいますよ」
子供たちにどう説明する? 
実は、こうした考えを持つ漁業関係者が焼津では少なくない。例えば、第一ルートに関与した運送会社は、いまも漁港内を走り回っている。「焼津漁港内の運送会社はこの一社しかないから、ペナルティを与えたるとみんなが困ってしまう」(運送会社関係者)。ある水産加工会社幹部は、過去に窃盗に関与したことがあるかと記者が問うと、肯定も否定もせず、「過去ではなく、二度とこのようなことが起きないように前を向いていくことが大事だ」と答えた。
ある漁業関係者が打ち明ける。
「実は被害者側にもこれ以上、この問題を追及する必要がないと考えている船会社がいる。明らかに窃盗被害を受けているというのに被害届を出そうとしないのです。漁協は協同組合ですから、船会社の人間も入っています。狭い地域の中には血縁者も多い。そういうしがらみの中で、なあなあに済まそうという空気もある」
焼津漁港で窃盗疑惑が持ち上がったのは今回が初めてではない。10年前、前述した当時の係長が主導で行っていた窃盗について、漁協に内部告発があった。だが、当時、漁協は適当な聞き取り調査だけで済ませて問題化しなかった。今回の事件を受けても、警察頼みで自浄作用を働かせようとしない漁協は、同じ過ちを繰り返そうとしていると言える。
所長はこう訴える。
「焼津はオレたちだけの街じゃない。これからこの街を背負っていく子供たちもいる。こんな体たらくで、私たちはこれから子供たちに対して、泥棒をしてはいけないって当たり前のことを教えていけると思いますか」
そして、「これはだたの盗みじゃないんです」と言葉を継いだ。
「表に出ているのは氷山の一角で、何十年も続けられてきた悪質な犯罪なんです。被害総額は億単位。過去に背を向けて、この街の再生なんてあるわけがない。でも、こんな当たり前のことを訴えようとも、なぜかいまこの街ではこっちが白い目で見られるんです。ほとぼりが冷めたら、泥棒たちはまたコソコソ動き出すに違いありません。水揚げが止まる? だったら止めたらいい。一度止めて、また一から新しい漁港を作り上げればいいんです」
果たして、焼津漁港の闇はどこまで捜査機関によって明らかにされるのか。そして、焼津漁港は過去と決別できるのか。今後を注目していきたい。
デイリー新潮編集部


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