<広島8人殺傷>社長に複数刺し傷 凶器や私物押収
毎日新聞 3月16日(土)2時31分配信
広島県江田島市のカキ養殖水産会社「川口水産」で8人が殺傷された事件で、刃物による刺し傷が確認されたのは、死亡した社長の川口信行さん(55)だけだったことが、県警への取材で分かった。他の7人はスコップなどで殴打された傷で、川口さんは腹などに複数の刺し傷があり、頭には殴られた痕もあった。殺人容疑などで逮捕された中国人技能実習生の陳双喜(ちん・そうき)容疑者(30)=治療のため釈放=は「社長に恨みがあった」などと供述しているといい、従業員も巻き込んだ動機などを調べる。
事件現場の様子など
県警は14日の実況見分で、スコップや包丁、熊手、殻から身を取り出す刃物「カキ打ち」など凶器の可能性がある6品目を押収した。15日の現場検証では、陳容疑者の自室などからノートや市販薬など45品目も押収。メモ類は中国語で書かれているという。
また、直後に作業場近くを車で通り掛かった女性(52)が毎日新聞の取材に、当時の状況を証言した。死亡した橋下(はしした)政子さん(68)が路上に倒れていたため車を止めると、陳容疑者と目が合った。陳容疑者は笑いながら車にスコップを振り下ろし、右後部の窓に傷が付いた。前方にいた女性従業員が「110番して!」と叫び、急いで女性を乗せてアクセルを踏み、桟橋まで逃げた。女性は「『何で休んだのか』と社長が聞いたら刺した。とにかく助けて」と訴えた。バックミラーには、倒れている橋下さんにスコップを振り下ろす陳容疑者の姿が映っていたという。
陳容疑者を「川口水産」にあっせんした日中友好経済協同組合(同市)の代表理事の男性によると、陳容疑者は中国・大連出身で実家は農家。実習期間は今年5月までだった。今月6日、「現金を母国の家に送りたい」と申し出があり、組合関係者が銀行に付き添い40万~50万円を送金した。毎月1回、組合の通訳が面会して悩みを聞くが、前週に会ったという通訳の女性(32)は「いつも明るく元気だった」と話した。
技能実習生仲間によると、陳容疑者は中国の実家に時々電話をし、一人息子をとてもかわいがっていた。「『寮で1人で泣いこともある』と聞いた」。現場近くの水産業者の男性(60)は「川口水産に他に中国人はおらず、思い詰める原因になったのだろうか」と話した。【黄在龍、石川裕士、椋田佳代】
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