山田和樹さん
指揮者山田和樹さんのベルリンフィルデビューの模様が、15日午前2時からNHKBSと4Kで生中継され、録画を観た。
2月のこのブログで紹介したが、テレビ朝日の『題名のない音楽会』で、山田さんは18歳以下で編成する「未来オーケストラ」を指導して、大きな成功を収めた。
わたしは、世界的に活躍しているこの指揮者が、子供たちと真剣に向き合って心を通じ合い、オーケストラを成長させ、完成させていく姿勢に感動を覚えた。
その山田さんが「未来オーケストラ」とは対極にあるベルリンフィルとどう向き合うのか、興味をもってこの番組を観た。
ベルリンフィルに日本人がデビューするのは、2011年の佐渡裕さん以来とのことである。その時の密着取材をテレビで観たが、佐渡さんの姿から指揮者の孤独と苦悩をひしひしと感じた。
山田さんはどうだったのだろうか。しかし、ベルリンフィルの本拠地、フィルハーモニーホールの満員の聴衆の前に登場した46歳の指揮者は颯爽としていた。
曲目は、レスピーギの交響詩「ローマの噴水」、ベルリン・フィルのフルート奏者エマニュエル・パユをソリストに迎えた武満徹の「ウォーター・ドリーミング」、そしてサン=サーンスの「交響曲第3番 オルガン付」の3曲が演奏された。
わたしは初めて聴く曲ばかりであったが、いずれの演奏にも自然に引き込まれていった。「ローマの噴水」では、五つの噴水の表情が詩情豊かに表現されていた。「ウォーター・ドリーミング」は、細やかなフルートの音色とオーケストラの響きが相和して、幻想的な雰囲気を感じた。「交響曲3番」は、ピアニッシモの繊細な響きから、フォルテッシモの力強いリズムのフィナーレまで、山田さんの指揮棒が見事に誘導していた。
時々かわす指揮者と演奏者のアイコンタクトから、山田さんが演奏者たちとしっかり心を交わしていることがうかがわれた。
デビュー指揮者には珍しいことらしいが、聴衆はスタンディングオベーションで演奏を讃え、オーケストラが引き揚げた後も少なからぬ聴衆が拍手を続けて山田さんを呼び出していた。
ネット上の評判はいずれも絶賛であった。地元紙を含め、各紙の記事も演奏の成功を讃えていたようだ。
ベルリンフィルの前芸術監督ラトルは「ベルリンフィルの指揮は、『猛獣を檻から放つ作業』で、指揮する方に迷いが生ずると、彼らが備えている高い音楽性に従って意図していない方向に持っていかれる。そんな中で自分の音楽を作るのは至難の業だ」と述べているそうだが、山田さんは見事に猛獣を飼いならしたと言えよう。
「未来オーケストラ」を指揮していた山田さんが、ベルリンフィルの指揮台に立つ山田さんと重なり、聴き終わったわたしは思わず「ブラボー!」と叫んでいた。
STOP WAR!