ミニマムの台詞で進行する、コンタクト。
Part Ⅰにおいては、ラストの「上出来だ!」のみ。
貴族と恋人、召使い。
3者各々が、束の間の恋を楽しむかのように進んでいき、ラストの「上出来だ!」の瞬間、すべてが理解できる作品。
とてもシンプルながら、次に何が起きるのか?
そんな感覚に引き込まれていくのが、心地よかったりします。
こちらは、現実の中に一時の夢を感じようとしているかのような作品です。
それ以上に召使いがさりげなく演じているパフォーマンスが、鍛え上げられた者でなくはできないと解るのに、時間がかからないのも魅力です。
前回、2007年に観た時は、ピンクのブランコに乗る女を演じていたのはクリスティン・ゼンダーさん。
今回の井上加奈さんも観た感じは外国人的な印象で、いい雰囲気です。
Part I 撮影:下坂敦俊
PartⅡ
前回は、明戸さんで観たいてので、牧野さんの夫ぶりが楽しみでした。
第一印象は、十分に怖い夫でした。
牧野さんの魅力でもある低く美しい声に、大柄でマフィアのボスをも彷彿させる風貌は、まさに適役です。
夫から抑圧されながらも従順なイメージの妻を、坂田さんが時に可愛らしく、時に内なる感情を露にしているのが面白いです。
「春のめざめ」のワンシーンのように、彼女を照らし出すスポットがピンクに変わると、彼女の空想のスイッチがオンになります。
空想の中で解き放たれた彼女は、活き活きとレストランの中を駆け巡ります。
ウェイター長との一時の恋だったり、居合わせた幸福を象徴するかのようなカップルと共に写真に写ったり。
「結婚」という幸福を象徴しているかのような、ラブラブなカップル。
「子供」という幸福を象徴しているかのような、出産間近なカップル。
その中に入り込むことで、彼女もまた幸福とコンタクトをしているようです。
ただし、空想は長くは続かぬもの。
現実には、無口で高圧的な夫の「動くんじゃねえぞ!」の一言が。
とは言え、この夫にしても「その服、似合っているじゃねえか。」と褒めてみたり、「お前、こんな店が好きなのか?」の言葉からは、妻のお薦めの店に足を運んでいる辺り、怖いだけの夫ではないようです。
ピストルを懐に忍ばせている辺り、夫の周囲には心を許せるようなコンタクトは持ていない人間ばかりということかも知れず、妻への最大限の気遣いの裏返しなのかもしれないと、ふと思ったりもしますが、素直に考える方が自然なのでしょうか?
このPartⅡで見逃せないのが、先にも書いた幸福の象徴たる2組のカップル。
夫や妻が演じているバックグラウンドで演じている芝居が、気になること!
特に、何となく鈍臭いイメージの西尾さん演じる真面目男(?)と、大きなおなかを抱えた臨月の須田さん。
特に人夫姿で切れの良いダンスを踊る須田さんに、私は毎回めを奪われています。
余裕のある方は、ぜひご注目を!
そう、空想が一際膨らむにつれ、空想と現実の区別がつかなくなる時が訪れます。
その果てに待っている現実は、・・・。
ぜひ、確かめてみてください。
前回は坂田さんと団さんで観ているのですが、今回は坂田さんのみ。
楽までに、もう一度団さんが戻ってくれると嬉しいのですが。
Part II 撮影:下坂敦俊
PartⅢ
都会の中の孤独。
マイケル・ワイリー。
他人からは成功を手にしているにも関わらず、他人とのコンタクトがなく、唯一の友は何も語らない透明な存在の猫だけ。
薬を手に取ったり、カーテンを纏める総飾りを首に巻いたりして、孤独からの脱出を唯一の救いと捉えている男。
唯一のコンタクトは、彼の階下に住むミネッティという女性。
彼への苦情を留守電に入れている女性。
意識を失ったワイリーの前に現れてものは、相互の関わりさえも解らぬダンススペースに集う男女。
唯一声を掛けてくれるのはバーテンダーの男だけ。
ここでも、ワイリーはダンスに加われず、孤独に。
逃げるかのように戻る場所は、彼の無機質な部屋。
ただし、部屋に戻る前に彼の目に留まるイエローのドレスをまとった女性。
一際目立つ女性に何かを見いだしたワイリーが彼女とダンスを踊れるまでの過程を、加藤敬二さんが切なげに演じていきます。
ワイリーの希望とも思える存在のイエローを、高倉さんが美しいダンスで演じています。
前回、坂田さんと酒井はなさんで観て、それぞれの素晴らしいダンサーが見せる姿に感動をした記憶がありますが、高倉さんもまた素晴らしいです。
ワイリーがイエローとコンタクトを取るに至るまでを、ピンボールに例えた演出も面白いです。
他のダンサー、これはワイリーがコンタクトを持てなかった周囲の人間を表しているかのようです。
彼らに弾き飛ばされ、翻弄されているようすを、うまく表現していると思います。
最終的手にイエローとのダンスをまとめ、自分の部屋で意識を取り戻すワイリーを待っていたのは、イエローのガウンをまとった階下の女性。
唯一、自身が自らコンタクトを持てた最初の女性かも知れない彼女。
ラスト、二人きりのワルツのステップが、孤独を振り切り、生きることを取り戻した彼の未来を象徴しているかのようでした。
薬を手にしたり、無美に掛けたロープが落ちてしまったり、死を選ぶこともできないワイリーですが、私には病んでいる心とわ裏腹に、生きることを望む彼の本心かなと思えてなりません。
今回、ウォーミングアップで接することができた俳優の皆さが表現するダンスを観て、改めてあの短い時間に様々なことを集約しているのだと思えてきました。
改めて貴重な時間を体験できたことに、感謝します。
今週からバーテンダーも牧野さんが演じられていますが、本来の魅力的な低い声を、トーンをあげて演じています。
トーンの違いで年齢的なイメージが出たり、ちょっとなよっとしたイメージを出していて、とても面白いです。
Part III 撮影:下坂敦俊
PartⅠからⅢまで、音楽は聞き覚えのある曲ばかりです。
その中でダンスを中心に構成されたオムニバスの3作品ですが、コンタクトというテーマのもの普段は気にも留めないようなテーマを取り上げ、考えられた構成は素晴らしいですね。
さらにそれを演じ上げる皆さんの力が加わることにより、「また観たい!」と思わせてくれる作品たと思います。
Part1からⅢまで、共通するものが一つ。
口元に指を立てた、キューピット。
PartⅠが始まる前、正にPartⅠの世界を描いたフラゴナールの絵に描かれたキューピットそのものです。
キューピットが何を意味するものかが、気になります。
それぞれのシーン、彼らが思い描いているのは彼らにしか解らない「想い」の世界。
決して我々が踏み込むことなく、そっと見守ってあげてというメッセージでしょうか?
自由劇場 | 2011年2月4日 | |
PART I | SWINGING | |
ブランコに乗る女 | 井上佳奈 | |
貴族 | 花島佑介 | |
召使い | 徳永義満 | |
PART II | DID YOU MOVE? | |
妻 | 坂田加奈子 | |
夫 | 牧野公昭 | |
ウェイター長 | 金久 烈 | |
澤村明仁 | ||
大塚 俊 | ||
徳永義満 | ||
西尾健治 | ||
新庄真一 | ||
花島佑介 | ||
須田綾乃 | ||
田村 圭 | ||
駅田郁美 | ||
相馬杏奈 | ||
PART III | CONTACT | |
マイケル・ワイリー | 加藤敬二 | |
バーテンダー | 牧野公昭 | |
黄色いドレスの女 | 高倉恵美 | |
澤村明仁 | ||
大塚 俊 | ||
朱 涛 | ||
徳永義満 | ||
西尾健治 | ||
新庄真一 | ||
花島佑介 | ||
須田綾乃 | ||
井上佳奈 | ||
相馬杏奈 | ||
田村 圭 | ||
杏奈 | ||
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