読書備忘録

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柴田よしき著 「いつか響く足音」

2010-07-04 | 柴田よしき
ばらばらのようで、つながっている。これって、なんだか家族みたい。
郊外のニュータウンに建てられた団地。かつては夢の町、今では世界の端っこみたいな、この団地。
かつては誰もが憧れた、けれど今や、すっかり古びてしまった東京の外れにある巨大団地。物語はそこに暮らす人々の「現在」と「過去」を、5人の視点で描いていく。
誰かと関わり、繋がることの心強さが、なんかちょっとイイ感じの連作小説集。
父親のもとに身を寄せた旧友を頼り、借金取りから逃れるため団地にやって来た鈴木絵理。
絵里の友人で、キャバクラに勤めている、川西朱美。
十年前に夫を亡くし、息子一家とも疎遠になり、大量の惣菜を作っては朱美や団地の住人たちに配り歩いている塚田里子。
三度結婚し、二度夫と死に別れ、現在はひとり暮らしをしている宮前静子。
団地内に居ついた野良猫の写真ばかり撮っている米山克也。
そして団地が憧れだった頃から何十年も昔から、ここに住み続けている仲島。
他人に干渉しすぎてはいけない、期待しすぎてもいけない。
必要以上に踏み込まないように、心を許しすぎないように、気をつけるのは近所付き合いの基本中の基本。
でも、時にはその一線を踏み越えてしまいたくなる寂しさがこみ上げてくることがある時もある。
借金だらけのキャバ嬢も、息子に見捨てられた老女も、猫を追うカメラマンも、皆どこかに帰りたい場所があるが、もう戻れないと、今は分かってはいるけど。
でも、ここだって案外、あったかい。血の繋がらない「家族」があってもいいのでは、
格差社会、高齢化社会、おひとり様の老後の共に生きる意味を問う。
安らぎを感じる小説です。
「ぼんやりとした不安の中に生きていく・・・心の底から楽しめる気ままではないことを・・・心の底から楽しいと思うためには、安心していなければ駄目なのだ。
安心せずに何をしていても、どこで暮らして暮らしていても、本当の楽しさを得ることはできない。」(222P)

2009年11月新潮社刊

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