ノンキャリア公務員の並木承平は、恋人の中国留学生黄慧琳から告白される。狙われた理由は、上司から預かった中国語の原稿。並木は、慧林が好きなのか?嫌いなのか?悩むが、日本の公安部の山田が接近し、脅す。両国組織を欺くために、ふたりは同棲を始めるが・・・。
警視庁公安部から地下鉄で追尾され、中国の国家安全部からは拉致される。スパイ天国の日本。農水省の小役人にハニートラップをかけるかとも思う。その上、訓練もされていない、素人の女スパイ。あり得ない展開に結末の着け方にも意外性なく不満。
「お遍路さん」を迎える場所として道後温泉にある架空の宿・巡礼者の宿「さぎのや」。
行く場所も帰る場所も失った15歳の少女雛歩は、この宿の美人女将からこう声をかけられる。「あなたには、帰る場所がありますか」こころの傷ついた人たちを癒す「さぎのや」の人たちの、優しく不思議な世界観。女将や地元の人々との交流を通じて、少女は、自らの生き方と幸せを見つける再生の物語。さぎやの普通「巡礼者って言葉があるけど、命って巡るんだ、人の想いも巡る・・・いいことって、きっと巡っていくんだろうな・・・」(P163)「いつも急いでいて、きりきりしていて、頑張っている。けど、その姿が痛々しい・・・ただ自分たちの暮らしや理想を追うのに精一杯って感じでとても助け合う雰囲気じゃない。だから巡って行かない、人々の想いも、いいことも、滞って、巡らない・・・それがさぎやの外の世界の普通なんだ。」(P164)28章の友人は遺書を残したのに遺書を残さずに友人と自殺した15歳の娘の心情がどうしても理解できず悩み巡礼の旅に出た夫婦の話がいい。
オーケストラ・ミステリー。厳重に二重に警備されたパーティー会場、特殊電子錠つきのケースから時価2億のヴァイオリンの名器“ミモザ”が消えた。アマチュア・オーケストラのパトロンのマダム、実直なヴァイオリン職人、イケメンコーディネーター、持ち主のヨーロッパ貴族、その才媛の美人秘書、保険金目当ての持ち主のヨーロッパ貴族、その才媛の美人秘書、・・・。誰もが怪しく犯行が不可能でないのだ。42歳独身彼氏なし、ヴァイオリン歴30年のベテランながら、自他ともに認める、いまひとつ華がない演奏者・・・音羽光子。クラシック知らずの高校一年生だが、ヴァイオリンに関しては無自覚に天才的、突然アマチュア・オーケストラにスカウトされた・・・小林拓人。このコンビがこのトリックを解こうとするのだが・・・・。
微笑しく読みながらクラシックの薀蓄と謎解きを楽しめた音楽ミステリーでした。
2019年11月講談社刊
沖縄コンフィデンシャルシリーズ第4作。レキオスとはポルトガルダ語で「琉球の人」。米軍普天間基地移設問題に揺れる辺野古で水死体が発見された。東京の建設会社社員だと判明し、一気に全国から注目を集める事件に発展。さらに、沖縄県警捜査一課の反町らが事故か自殺か殺しかの捜査をすすめる中、県知事が急逝する事態に。事件を追うごとに、反町は沖縄の“真の闇”に近づき、日本政府をも転覆させるほどの戦後最大のタブーに迫ることになる。
・・・沖縄の裏事情が物語の展開に従って明らかになるのだが。事件の意外性はなかったが辺野古移設の真の目的が解ったような物語だった。「沖縄経済界と本土の経済界、というより土建会社の思惑が一致した。辺野古の海を埋め立てる。砂利を使ってね。砂利利権よ。その間に辺野古周辺の土地は買い占められていた。買い占めたもののリストには、本土の政治家の名前もずいぶん挙がっている。・・・沖縄の政治経済は利権で固まっている。」(P234)
2019年7月集英社文庫刊
著者の自伝的長編小説。昭和25年(1950)夏、小学校6年生の高杉さんは、家庭の事情で孤児施設「めぐみ園」に預けられ、そこで育った。日本がまだ貧しく、食うことに必死だった時代。11歳の杉田亮平は、姉、弘子、弟、修二、妹、百枝、の4人兄弟ですが、両親の離婚で、父母から見放され、叔母早苗により、孤児たちが暮らす施設「「めぐみ園」に強制的に入園させられることになります。厳しい食糧事情、粗暴な上級生、理不尽な園長夫妻、園長の息子のいじめ、幼い弟妹。主人公の少年・亮平は、持前の機転と正義感で、自らの道を切り拓いていく姿に感動を覚えます。昭和25年の夏から、翌年の12月までの約1年半、激動期の出来事です。
「めぐみ園がなければ、作家になっていなかったかもしれない」(著者)
亮平自身の才覚、処世術、対応力で次第に周りの人を味方に引き入れていく様子にはとても子供とは思えない賢さに感心しました。
2017年5月新潮社刊
名古屋を舞台にした警察ミステリー。捜査一課の刑事・柴崎佐千夫の娘曜子が刺殺体で見つかった。懸命な捜査にもかかわらず、事件は迷宮入りとなった。15年後のある日、彌冨署の後輩刑事の川澄成克は、自殺した警察官の遺書が見つかったことから事態は急変し、手がかりすらなかった犯人の身元が明らかになる。だが逮捕目前に迫った時、犯人と目される男が殺された。元刑事による復讐殺人に世間は騒然。本当に殺したのは柴崎なのか。
後半2転3転の展開に読まされます。ラブリュス(ラビリンス・迷宮)を切り開こうとする刃があなた自身や大切な人を傷つけることもある。・・・これは解いてはいけない迷宮だったのか。「迷宮を説くことが正義だと思い込んでいる。・・・ですが、解ける事件をあえて解かないことも正義なんです。」(P240)
事件の裏に隠された、慟哭の真実に涙。2019年2月中公文庫