読書備忘録

私が読んだ本等の日々の
忘れない為の備忘録です

高嶋哲夫著「EVイブ」

2024-05-15 | た行
EV=電気自動車。日本と米国、中国を中心とした産業・政治シミュレーション小説。ますます深刻な地球温暖化の前に、欧米では遅くとも2035年までに新車販売は電気のみで動く車に限られるというエンジン車の新車販売が規制される。また中国が2030年をめどに、国内の新車販売をすべて環境対応車に変更するという。このような世界情勢を前にしても、既存産業への配慮と圧力から日本政府は有効な手を打てずにいた。このままでは、日本の自動車関連就業人口534万人のうちの多くが路頭に迷う可能性がある。だが、いったいどうすればいいのか?と経産省の自動車課に籍を置く瀬戸崎啓介は焦りを募らせる。
中国の周・・。ステラのCEOイーロン・M。T自動車などリアル世界のそれらしい人物が登場するのだが登場人物が多すぎて読み進めるのに苦労した。今の日本の官僚の中に主人公のような先見の明の有る熱血漢が居れば頼もしいのだが。「近い将来の日本の産業の在り方」を考えるヒントにはなる小説だった。
2021年9月角川春樹事務所刊

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日明恩(たちもりめぐみ)著「ヒマかっ!Get a Life !」

2024-05-01 | た行
Get a Life=直訳「ちゃんと生きろ」「もっとましな人生を手に入れろ」使う場面によってニュアンスが異なる。「ヒマかっ!」となる時もあれば「人生を取り戻す」という意味になる事もある。「人生を無駄にしないで、ちゃんと生きろ」(P356)
広島から家出して上京した17歳の桧山光希は、ふとした出会いから足場工事会社「須田SAFETY STEP」の見習い社員になることに。そこには、見た目はいかついがナイスガイな先輩たちがいて、光希にとっては新鮮な驚きの世界だった。実は、光希はかつては強い霊感を備えていたが、ある事件がきっかけでその能力を失っていた。だが、先輩の頭島丈が一緒にいるときだけ再び“見える”ことに気づく。かくして、光希と頭島(かしらしま)、さらにはもう一人の先輩である奥隼人を加えた3人による幽霊退治が始まる・・・即席ゴーストバスターズの誕生だ。三人は「幽霊を生きている人間の延長線上にとらえている」ところが面白い。スイッチを消す幽霊が・・・、お客様の家で洋服箪笥が勝手に開くのを解決する話とか、シェアハウスで電子錠やエアコンの室外機が異常に早く壊れる話、ベッドに若い女性が寝てると金縛りにあう部屋の話、レストランの冷蔵庫が勝手に開く話、社長の姪の側にハムスターの霊が出る話など。主人公の働くことになったこんな会社は良いなぁ~「厚意は素直に受け取る。その分、ほかの誰かに同じ、いやそれ以上の厚意を施す。ペイ・フォワードの精神」
ほっこりする小説でした。
2023年9月双葉社刊


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天童荒太著「ジェンダー・クライム」

2024-03-27 | た行
女性軽視、セクハラ、DV、レイプなど扱った警察小説。土手下に裸で後ろ手に縛られたて転がされていた男性の遺体が発見された。捜査を担当したのは八王子南署のベテランの刑事鞍岡警部補と本庁捜査一課の志波倫理吏警部補。暴行の痕が残る体には、メッセージが残されていた。「目には目を」。やがて被害者の身元が特定されなんと男の息子は、3年前に起きた集団レイプ事件の加害者だった。次々現れる容疑者、そして新たな殺人。集団レイプというシンプルな暴力を軸に置きつつ、その卑劣な暴力から周囲に拡大してゆく波紋の数々を精緻に描いて、その操作に取り組んでゆく刑事たちの生きざまと一見バラバラな数々の出来事と謎のすべてが徐々に明らかになり、最後にはすべての謎が回収されてゆく終盤の構図は見事。前半登場人物の多さに読み進めるのが苦痛だったがトリックやミステリーの解明ではなく、むしろもつれにもつれた人間関係図を鮮明にし、それぞれの個の動機と動線を明確にして行く過程が徐々に面白くなった。それぞれの登場する男女の四人の刑事たちの個性も明確で、熱い誠実な生き様も相まって謎めいた若き志波刑事の才能とその熱情の理由も最後には明らかになる展開はある意味で心地よい。29年前に強姦された女性に「あなたは決して悪くないに、重い傷を抱えそれを追い目にさえ感じながら・・・本当に大変だったと思います。そのつらさ、痛みは、わたしには察してあまりあります。よくこらえて生きてこられました。本当によく生きてこられました」(P313)
2024年1月文藝春秋社刊
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高嶋哲夫著「パルウィルス」

2023-07-01 | た行
地球温暖化により永久凍土が融解して3万年の眠りから目覚めた最強ウイルスが覚醒。
コロナ禍においてアメリカ疾病予防管理センター(CDC)で顧問として働き、ニューヨークのコロナ対策に尽力した遺伝子工学の研究者カール・バレンタインは、旧知のワクチンなどを研究しているナショナルバイオ社の副社長ニックに仕事を依頼され、極秘にバイオ医薬品企業ナショナルバイオ社のP3ラボを訪れた。感染力のあるウイルスやバクテリアを扱うP3ラボ内で、カールは未知のウイルスを発見する。そのウイルスは死んではいたが、凶暴なエボラウイルスに似たものだった。「もしこのウイルスが活性化したら・・・」。カールの懸念は現実のものとなり、ニックだけでなく多くの者が発症し、次第に感染者が増えていく。ウイルスの出所を巡って,CDC職員のジェニファーと共にアラスカ、ロシアシベリアに調査に出かけるカール・・・そしてウイルスを生物兵器に利用しようとする存在がちらつきはじめた。コロナがようやく収束してきてひと安心ですが、人類の環境破壊での温暖化、永久凍土の氷解などでこの物語のようなことがいつの日かほんとに起こりそうな出来事で怖いと感じた。今まさに知らないところで起きているのかもしれませんね。ロシアの場面など都合よすぎると感じたがスケールの大きな作品でした。
2023年3月角川春樹事務所刊

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大門剛明著「シリウスの反証」

2022-07-10 | た行
冤罪をテーマにした社会派サスペンス小説。弁護士や学者などのスペシャリストで構成された団体「チーム・ゼロ」が冤罪被害者の救済活動に取り組んでいた。そこに無実を訴える一通の手紙が届く。それは平成8年に岐阜県郡上郡で起きた一家四人殺害事件の犯人として、死刑判決を受けた死刑囚・宮原からのものだった。理想に燃える若手弁護士・藤嶋翔太は事件について調べ始め、信頼の置けない科学捜査や心理的なバイアスなど、様々な要素から難攻不落の再審請求に挑む。・・・先入観が働いて事象にバイアスが掛かってしまうこと、先入観なく事実に基づく判断することの難しさを痛感させられた一冊でした。読んでいて何度か自分の思い込みがひっくり返され、そうだったのかと思ってしまう展開で面白く読めました。
2021年10月角川書店刊

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月村了衛著「ビータートラップ」

2022-05-29 | た行
わたしは中国の女スパイ。ベットの上で、二人が裸の時に、「わたしは、中国のハニートラップなんです」と。
ノンキャリア公務員の並木承平は、恋人の中国留学生黄慧琳から告白される。狙われた理由は、上司から預かった中国語の原稿。並木は、慧林が好きなのか?嫌いなのか?悩むが、日本の公安部の山田が接近し、脅す。両国組織を欺くために、ふたりは同棲を始めるが・・・。
 警視庁公安部から地下鉄で追尾され、中国の国家安全部からは拉致される。スパイ天国の日本。農水省の小役人にハニートラップをかけるかとも思う。その上、訓練もされていない、素人の女スパイ。あり得ない展開に結末の着け方にも意外性なく不満。
2021年11月実業之日本社刊

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日月恵著「濁り水 Fire’Out」

2022-04-13 | た行
豪傑消防士Fire’Out大山雄大の活躍するシリーズ第4弾。葛飾区の上平井出張所に異動になった大山雄大。所属するのは、消火活動のエキスパートである特別消火中隊のみというガチな職場と意欲に満ち溢れた所員たちに、正直、引き気味だ。折しも、観測史上二番目の暴風雨が関東に接近。大山は冠水した駐車場で車の下に入り込んでいた老女の救助に駆けつけるが・・・。消防の仕事は火災だけでなく災害時の救助も大事な仕事。台風被災地域で起きる事件に立ち向ったが今回は火ではなく水。水没したクーラーの室外機からの出火、アンダーパスに立ち往生する車の救助、暴風に吹き飛ばされそうなブルーシート、災害救助の現実。被災者に付込む詐欺師たち。ミステリー風にお仕事・青春社会派ドラマが楽しめる小説でした。
2021年11月双葉社刊
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天童荒太著「迷子のままで」

2021-01-17 | た行
中編2つ。児童虐待の話、親の子への理不尽と子どもの無力さにやりきれなくなる。親の後悔の念。そんな筈じゃ無かった。生き方が不器用なだけ?・・・表題作「迷子のままで」。
3・11の震災被害と放射線の被ばくに怯えながら除染作業に従事する作業員の話。・・・「いまから帰ります」。危険を承知の上で声をあげる事も出来ずに生活の為に今日も働く。人間の無力さがこたえる。津波で失われたはずの生徒手帳。行方不明のまま永い時を経た少年の伝言。数千キロ先の故国ベトナムを目指す男が遺した言葉。そこからはそれぞれ強いメッセージが発信されている。「騙されるということ自体がすでに一つの悪である・・・造作なくだまされるほど批判力を失い、思考力を失い、信念を失い、家畜的な盲従に自己の一切をゆだねるようになってしまっていた国民全体の文化的無気力、無自覚、無反省、無責任などが悪の本体なのである。『だまされていた』といって平気でいられる国民なら、おそらく今後も何度でもだまされるだろう。(伊丹万作)」(P133)。やられっ放しで判断力を失う前にやるべきことがある。僕たちは迷子のままではいられない。という主張が心に響く。除染作業を扱った作品、短いながらも読み応えがある2作品でした。2020年5月新潮社刊
 
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天童荒太著「巡礼の家」

2020-08-15 | た行
著者が故郷・道後温泉を舞台に描いた、現代社会への「希望の灯火」。
「お遍路さん」を迎える場所として道後温泉にある架空の宿・巡礼者の宿「さぎのや」。
 行く場所も帰る場所も失った15歳の少女雛歩は、この宿の美人女将からこう声をかけられる。「あなたには、帰る場所がありますか」こころの傷ついた人たちを癒す「さぎのや」の人たちの、優しく不思議な世界観。女将や地元の人々との交流を通じて、少女は、自らの生き方と幸せを見つける再生の物語。さぎやの普通「巡礼者って言葉があるけど、命って巡るんだ、人の想いも巡る・・・いいことって、きっと巡っていくんだろうな・・・」(P163)「いつも急いでいて、きりきりしていて、頑張っている。けど、その姿が痛々しい・・・ただ自分たちの暮らしや理想を追うのに精一杯って感じでとても助け合う雰囲気じゃない。だから巡って行かない、人々の想いも、いいことも、滞って、巡らない・・・それがさぎやの外の世界の普通なんだ。」(P164)28章の友人は遺書を残したのに遺書を残さずに友人と自殺した15歳の娘の心情がどうしても理解できず悩み巡礼の旅に出た夫婦の話がいい。
2019年10月文藝春秋社刊
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高村薫著「我らが少女A」

2020-08-10 | た行
合田雄一郎を主人公とする警察小説シリーズ。痛恨の未解決事件。12年前のクリスマスの早朝、元高校の美術教員を退職した画家が、毎朝写生に行く公園で死んでいた。そこから話が始まり、その先生に絵を習っていた当時中学生だった少女上田朱美(少女A)が、12年後に元俳優志望の風俗嬢として同棲していたつまらない男に、つまらない理由で殺される。そして、その犯人の男が警察で、彼女は12年前の老女の死亡した現場から絵具を1つ持ってきたと語ったことを語る。そこから過去の未解決事件を捜査する特命班が動き出す。そして、12年前の人間模様を再度調べ始める。合田雄一郎は、12年前の捜査本部の責任者で、今は12年前の現場に近い多磨駅近くの警察大学の教授。ことの顛末は多摩駅の若い駅員小野雄太の視線を通して語られる。殺された教師の孫娘で、朱美の同級生の真弓、同じく同級生の浅井、浅井の親、真弓の親。朱美の親。少女Aの死をきっかけに、当時の記憶が呼び覚まされ、深く掘り下げられていく。殺された美術教師は何を考えていたのか、当時の同級生らは何を見ていたのか、少女Aはどのような人間だったのか、そして、誰が殺したのか。関係者それぞれの些細な日常を描きながら、そこに潜む諦めや寄る辺なさといったものが、著者独特のユーモラスで絶妙な比喩表現をもって語られ人びとの記憶の片々が織りなす物語になっている。各個人の緻密な心理描写、ゲーマーやSNSのネット世界と精神に障害の浅井の描写がある意味鬱陶しいがそれぞれの動き出す時間が世界の姿を変えていくちょっと変わった謎解きミステリー。
2019年7月毎日新聞出版刊
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高野史緒著「大天使はミモザの香り」

2020-02-05 | た行

オーケストラ・ミステリー。厳重に二重に警備されたパーティー会場、特殊電子錠つきのケースから時価2億のヴァイオリンの名器“ミモザ”が消えた。アマチュア・オーケストラのパトロンのマダム、実直なヴァイオリン職人、イケメンコーディネーター、持ち主のヨーロッパ貴族、その才媛の美人秘書、保険金目当ての持ち主のヨーロッパ貴族、その才媛の美人秘書、・・・。誰もが怪しく犯行が不可能でないのだ。42歳独身彼氏なし、ヴァイオリン歴30年のベテランながら、自他ともに認める、いまひとつ華がない演奏者・・・音羽光子。クラシック知らずの高校一年生だが、ヴァイオリンに関しては無自覚に天才的、突然アマチュア・オーケストラにスカウトされた・・・小林拓人。このコンビがこのトリックを解こうとするのだが・・・・。

微笑しく読みながらクラシックの薀蓄と謎解きを楽しめた音楽ミステリーでした。

201911月講談社刊

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高嶋哲夫著「沖縄コンフィデンシャル レキオスの生きる道」

2020-01-11 | た行

沖縄コンフィデンシャルシリーズ第4作。レキオスとはポルトガルダ語で「琉球の人」。米軍普天間基地移設問題に揺れる辺野古で水死体が発見された。東京の建設会社社員だと判明し、一気に全国から注目を集める事件に発展。さらに、沖縄県警捜査一課の反町らが事故か自殺か殺しかの捜査をすすめる中、県知事が急逝する事態に。事件を追うごとに、反町は沖縄の“真の闇”に近づき、日本政府をも転覆させるほどの戦後最大のタブーに迫ることになる。

・・・沖縄の裏事情が物語の展開に従って明らかになるのだが。事件の意外性はなかったが辺野古移設の真の目的が解ったような物語だった。「沖縄経済界と本土の経済界、というより土建会社の思惑が一致した。辺野古の海を埋め立てる。砂利を使ってね。砂利利権よ。その間に辺野古周辺の土地は買い占められていた。買い占めたもののリストには、本土の政治家の名前もずいぶん挙がっている。・・・沖縄の政治経済は利権で固まっている。」(P234

20197月集英社文庫刊

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高杉良著「めぐみ園の夏」

2019-10-13 | た行

著者の自伝的長編小説。昭和25年(1950)夏、小学校6年生の高杉さんは、家庭の事情で孤児施設「めぐみ園」に預けられ、そこで育った。日本がまだ貧しく、食うことに必死だった時代。11歳の杉田亮平は、姉、弘子、弟、修二、妹、百枝、の4人兄弟ですが、両親の離婚で、父母から見放され、叔母早苗により、孤児たちが暮らす施設「「めぐみ園」に強制的に入園させられることになります。厳しい食糧事情、粗暴な上級生、理不尽な園長夫妻、園長の息子のいじめ、幼い弟妹。主人公の少年・亮平は、持前の機転と正義感で、自らの道を切り拓いていく姿に感動を覚えます。昭和25年の夏から、翌年の12月までの約1年半、激動期の出来事です。

「めぐみ園がなければ、作家になっていなかったかもしれない」(著者)

亮平自身の才覚、処世術、対応力で次第に周りの人を味方に引き入れていく様子にはとても子供とは思えない賢さに感心しました。

20175月新潮社刊

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大門剛明著「両刀の斧」

2019-07-05 | た行

名古屋を舞台にした警察ミステリー。捜査一課の刑事・柴崎佐千夫の娘曜子が刺殺体で見つかった。懸命な捜査にもかかわらず、事件は迷宮入りとなった。15年後のある日、彌冨署の後輩刑事の川澄成克は、自殺した警察官の遺書が見つかったことから事態は急変し、手がかりすらなかった犯人の身元が明らかになる。だが逮捕目前に迫った時、犯人と目される男が殺された。元刑事による復讐殺人に世間は騒然。本当に殺したのは柴崎なのか。

後半23転の展開に読まされます。ラブリュス(ラビリンス・迷宮)を切り開こうとする刃があなた自身や大切な人を傷つけることもある。・・・これは解いてはいけない迷宮だったのか。「迷宮を説くことが正義だと思い込んでいる。・・・ですが、解ける事件をあえて解かないことも正義なんです。」(P240

事件の裏に隠された、慟哭の真実に涙。20192月中公文庫

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日明恩著「ゆえに、警官は見護(みつめ)る」

2019-05-11 | た行

警官シリーズ第四弾。明け方の港区芝浦のマンション前で焼死体が発見された。重ねられたタイヤに立たせた人体を燃やすという残忍な手口は世間の耳目を集める。だが検視の結果、燃焼時には既に死亡していたこと、遺体は長時間冷凍されたものだったことが判明する。一方、新宿署の留置管理課に異動となった武本は、深夜の歌舞伎町での喧嘩で逮捕、勾留された柏木という男の静かな佇まいが気になっていた。そんな中、西新宿のビル前で同様の手口の殺人放火事件が発生。武本は、新宿署の捜査本部に応援にきた警視庁刑事総務課刑事企画第一係の潮崎警視と再会し潮崎と武本は、それぞれの立場から犯人を追う。無口で無骨な刑事・武本と、名家出身でおしゃべりな潮崎。その潮崎のお目付け役で捜査第二課第一知能犯特別捜査第二係宇佐美巡査部長と警視庁捜査一課第二強行犯捜査強行犯捜査第三係に所属する女性刑事正木星里花巡査が絡む展開。

今回の犯罪の背景に東日本大震災の地震被害で液状化の被害にあった埼玉県久喜市での悲劇を取り上げていて福島原発や津波被害の影であまり注目されていない地区の存在を知った。不器用だけれど、とてもまっすぐなキャラクターになんともいえない魅力を感じ、それに輪をかけたような潮崎・宇佐美・正木のコンビの活躍に緊迫感と人情味の溢れる展開で面白かった。それにしても至る処監視カメラの溢れる日本、警察の地道で且つ分析と追及する力はある意味怖い。

201811月双葉社刊

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