読書備忘録

私が読んだ本等の日々の
忘れない為の備忘録です

柚月裕子著「合理的にあり得ない 上水流涼子の究明2」

2024-05-19 | や・ら・わ行
シリーズ第2弾。上水流エージェンシーの美人探偵・上水流涼子が、頭脳明晰・貴山伸彦を助手に、今回も知略と美貌を武器に、難事件をズバッと解決する。「物理的にあり得ない」「論理的にあり得ない」「立場的にあり得ない」
の3つの連作短編。
レッドリストの動物密輸、親子の秘密、子供の親権、LGBT,友の自殺に責任を感じ壊れてしまった者への救済の物語。
一筋尚に行きそうにない難しい問題を全て都合よく上手く行き過ぎる感があるのが人情溢れる読みやすい展開で直ぐ読めた。

2023年3月講談社刊。
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柚月裕子著「教誨」

2024-04-13 | や・ら・わ行
主人公は吉沢香澄33歳。長く勤めていた会計事務所の退職と他への転職が決まりその合間の休みをどうしようかと思っていた矢先、小学生のころ一度だけ会話をしたことがある
母静江の従姪の死刑囚三原響子の遺骨と遺品を東京拘置所に貰い受けに行くところから始まる。幼女二人を殺害した女性死刑囚が最期に遺した言葉・・・「約束は守ったよ、褒めて」響子は十年前、我が子も含む女児二人を殺めたとされた。香純は、響子の遺骨を
三原家の墓におさめてもらうため、菩提寺がある青森県相野町を単身訪れる。香純は、響子が最期に遺した言葉の真意を探るため、事件を知る関係者と面会を重ねてゆく・・・
2006年の秋田児童連続殺害事件をモデルに書かれた話らしい。「響子が犯人であることは事実だ。だが、事実と真実は違う。・・・なかにこそ響子が起こした事件の真実がある」(P301)祖母と母と娘の負の連鎖、小作人と地主の関係が続くような親戚関係田舎の窮屈さ、男達の無責任さに無性に腹が立った読後感でした。だが何故そんな田舎に帰りたかったのかが理解できなかった。
2022年11月小学館刊

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吉田修一著「永遠と横道世之介」下

2024-02-21 | や・ら・わ行
上巻では2007年の9月から翌2008年の2月までが、そして下巻では引き続き2008年8月までの半年間が描かれます。湘南のカフェ店員に一目惚れ、相手をふり向かせたくてサーフィンを始めた「ドーミー吉祥寺の南」の下宿人谷尻くん。その恋を応援する傍らで、最愛の人「二千花」と過ごした日々を幾度となく反芻する世之介です。春から夏へ。相変わらずのんびりと季節が移ろう中、後輩カメラマンのエバと咲子カップルには新しい命を授かり、世之介は「名付け親」をお願いされる。ところが咲子の容態が一転し・・・。最終章で15年後が書かれています。やがて運命の日がやってくる。大切な人に、今すぐ「好き」と伝えたくなる、心ふるえる結末が。世之介は頼りなくお調子者だけど、そばにいるとホッとする。そんななんでもない一日のような存在、それが横道世之介です。世之介の他人との関わり方がとても魅力的です。だから周囲の人も生き生きと描き出されています。大地震・火事・津波、事件の現実。特別なことではない日常がとても大切ということを改めて感じさせてくれた物語でした。「誰かのことを思える。そんな心の余裕が何よりも贅沢なものに見えたのだ。自分ではなく。誰かのことを思えるということが、どれほど恵まれていて、贅沢なことなのか。」(P234)「人生は一人で使うには長い、その余りを誰かのために使えたら贅沢だ。」
2023年3月毎日新聞社刊

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吉田修一著「永遠と横道世之介」上 

2024-02-17 | や・ら・わ行
シリーズ第3弾。2009年発表の『横道世之介』では、大学進学のために故郷長崎から上京した彼の1年間が、そして2019年続編の『続・横道世之介』(文庫化に際して『おかえり横道世之介』に改題)では、卒業後にアルバイト暮らしを送っている24歳のころの世之介が描かれました。今回の上巻では2007年9月から2008年2月までの半年間が書かれています。2007年39歳になったカメラマン・横道世之介が暮らすのは、東京郊外に建つ下宿「ドーミー吉祥寺の南」。元芸者の祖母が始めた下宿を切り盛りするあけみちゃん、最古参の元芸人の営業マン礼二さん、書店員の大福さん、大学生の谷尻くんらと「ゆるーっ」と暮らす毎日に、修学旅行に同行して記念写真を撮る仕事で知己を得た武藤先生から唐突に頼まれて引きこもりの息子一歩が入居することになって・・・。また、かつて横領罪で業界を追われた先輩と久方ぶりの再会を果たし、新たに写真の仕事を任されるようになります。下宿仲間たちと繰り広げる、温かくてしょっぱい人間ドラマです。一癖も二癖もある個性豊かな登場人物たちが世之介と触れ合いますが大きく激しく人生の方針転換を求められるというほどの波乱万丈のことは起こりません。新たな人間関係によって、ゆっくり、ほんのわずかにだけ人生が動いていく、そんなどこにでもありそうな展開です。「どんな人生だったらいいのか?」と尋ねられた世之介がこう言います。「俺だったら、こう思いたいかなー。『あー、いっぱい笑った。あー、いっぱい働いた。いっぱいサボって、そんでもって、いっぱい生きたなー』って」(P346)
「この世で一番大切なのはリラックスしていることですよ」
2023年5月毎日新聞社刊


 


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薬丸岳著「刑事弁護人」

2023-10-22 | や・ら・わ行
ホストを殺した女刑事。無実を信じて奔走する若き弁護士・持月凛子。しかし、その証言は全て嘘だった。凶悪事件の犯人に、果たして弁護士は必要なのか。「弁護士の使命と苦悩」を描いたミステリーサスペンス。父親は人権派弁護士であったが、極悪人を弁護することを逆恨みした被害者の身内に殺されてしまったという過去がある刑事弁護に使命感を抱く持月凛子が当番弁護士に指名されたのは、埼玉県警の現役女性警察官・垂水涼香が起こした加納怜治ホスト殺人事件。凛子は同じ事務所の元刑事の変わり者西大輔と弁護に当たるが、加害者に虚偽の供述をされた挙げ句の果て、弁護士解任を通告されてしまう。一方、西は事件の真相に辿りつつあった。経験の浅い女性弁護人、クセモノ感ある元刑事の弁護人、”殺人犯”の現職刑事と、登場人物が魅力的でそのこと自体がミステリーな展開。犯人の女刑事が何かを隠していることは最初から明らかで、それを少しずつ暴いていく展開は面白かった。「相手の言うことが真実だと思えなければ、本当の弁護なんかできやしない。」という西弁護士が影の主役だね。納得できない点も多々あるが重いテーマだが考えさせられた。「罪を犯した者に自分がやってしまったことを深く考えさせ、事件と向き合わせ、二度とこのような過ちを起こさないよう諭せるのは、被疑者や被告人の言葉に必死になって耳を傾けた、最も身近にいる弁護人だけ」(P497)
2022年3月新潮社刊
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柚月裕子著「ミカエルの鼓動」

2023-10-01 | や・ら・わ行
ロボット手術を題材に病院の権力をめぐる争いが絡め医療の在り方、命の意味を問う人間ドラマ。北海道中央大学病院で、手術支援ロボット「ミカエル」を推進する心臓外科医・西條泰巳。そこへ、ドイツ帰りの天才医師・真木一義が現れ、西條の目の前で「ミカエル」を用いない手術を、とてつもない速さで完遂する。あるとき、難病の少年白石航の治療方針をめぐって、二人は対立。「ミカエル」を用いた最先端医療か、従来の術式による開胸手術か。そんな中、西條を慕っていた若手医師が、自らの命を絶った。大学病院の闇を暴こうとするフリーライターの黒沢巧は、「ミカエルは人を救う天使じゃない。偽物だ」と西條に迫るのだった・・・・。二人の医師が衝突しあいながら、患者の命を救うためには何が最善かを考えつつ執刀する手術シーンは、緊迫感と臨場感にあふれています。西條の挫折と再起が書かれているのだが感情移入しにくい主人公で最後まで馴染めなかった。
「普通って何?健康でも手が不自由な人はいる・・・身体が健康でも心が傷ついている人もいる・・・走るのが苦手でも泳ぐのが得意だったり・・・この世の中にはいろんな人がいる。同じ人はいない。みんな違う。人と違うから普通じゃないなんてことはない」(P339)
2021年10月文藝春秋社刊

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米澤穂信著「栞と嘘の季節」

2023-08-27 | や・ら・わ行
青春ミステリーシリーズ第2弾。猛毒の栞をめぐる、幾重もの嘘。高校で図書委員を務める堀川次郎と松倉詩門。ある放課後、図書室の返却本の中に押し花の栞が挟まっているのに気づく。小さくかわいらしいその花は――猛毒のトリカブトだった。持ち主を捜す中で、ふたりは校舎裏でトリカブトが栽培されているのを発見する。そして、ついに男性教師が中毒で救急搬送されてしまった。誰が教師を殺そうとしたのか。次は誰が狙われるのか・・・。「その栞は自分のものだ」と嘘をついて近づいてきた同学年の女子・瀬野とともに、ふたりは真相を追う。堀川と松倉は、張り紙をして持ち主を探そうとするのだが・・・。栞を作製した女子生徒、それを持っていた生徒、いずれも秘密が多く、最後まで謎は明かされることなく謎のまま。人には知られたくない事実だろうということは想像出来る。また、堀川と松倉もお互いに黙っていることが多く、家族状況や家の場所すらも知らない。だから、彼らは自分たちを友人だとは思っていない不思議な関係の友情だ。まどろこしい展開で最後まで馴染めず如何にか読了。ビターな青春物だが好みではない。
2022年11月集英社刊
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柚月裕子著「月下のサクラ」

2023-05-11 | や・ら・わ行
森口泉の活躍する「朽ちないサクラ」続編。森口泉は25歳で県警の事務職~警察学校~交番勤務~交通課~33歳で刑事へなり、事件現場で収集した情報を解析・プロファイリングをし、解決へと導く機動分析係を志望していたものの、実技試験に失敗する。しかし、係長・黒瀬の強い推薦により、一転無事配属されることになる。鍛えて取得した優れた記憶力を買われたものだったが、特別扱い「スペシャル捜査官」=「スペカン」だとメンバーからは揶揄されてしまう始末。泉は早速当て逃げ事件の捜査を始める。そんな折、署内会計課の金庫から約一億円が盗まれていることが発覚した。メンバー総出で捜査を開始するが、犯行は内部の者である線が濃厚で、やがて殺人事件へと発展してしまう・・・。女刑事の記憶力と上司係長との信頼関係で上部組織に挑む展開。「捜査支援分析センター」の新人としてオンラインで容疑者を尾行する刑事たちと、刻々と変わる監視カメラ映像を追って、追って、追いまくる様子は考えただけで気の遠くなる話です。後半
犯人追い詰めるすぐばれそうな小さな盗聴器だけで女一人臨む無謀さは理解できなかったが一気読みできた面白い作品でした。
2021年5月徳間書店刊

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米澤穂信著「黒牢城」

2023-03-12 | や・ら・わ行
本能寺の変より四年前、天正六年の冬。織田信長に叛旗を翻して有岡城に立て籠った荒木村重の謀反を諌めるために有岡城に乗り込んだ織田方の軍師・黒田官兵衛が、土牢に囚われるところから語られる歴史ミステリ。村重は、城内で起きる難事件に翻弄されて、動揺する部下・人心を落ち着かせるため、土牢の囚人官兵衛に謎を解くよう求める。事件の裏には何が潜むのか。次々に起こる怪奇な事件を官兵衛が助言を与えてそれをヒントに領主の村重が解決する歴史ミステリです。連作で語られる4つの事件が次々に解決してスッキリするのですが、舞台は籠城の中で登場人物ほぼ全員が疑心暗鬼に陥っています。信長軍によって包囲され、明日をも知れぬ運命に囚われた人々の狂気と理性の間でおきた事件だからでしょうか。知られている史実を基に、個々の事件に想像力を駆使した歴史ミステリ。後半明らかになる牢から村重を操っていたことがわかる官兵衛はやっぱり切れ者です。戦国武将の視点ではなく歴史上一向一揆として語られる一向宗宗徒の民の側からの見方や精神性が描かれているのも面白い。信長よりも長く生き茶人として有岡落城から7年後天寿を全うした村重の生き様も面白かった。
2021年6月KADOKAWA刊

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柚月裕子著「チョウセンアサガオの咲く夏」

2023-02-11 | や・ら・わ行
11編の短編ミステリ集。美しい花には毒がある。献身的に母の介護を続ける娘の楽しみとは、代理ミュンヘハウゼン症候群・・・「表題作・チョウセンアサガオの咲く夏」
「佐方貞人」シリーズスピンオフ短編・・佐方検事の米崎地検刑事部の事務官増田陽二の話・・・「ヒーロー」。
瞽女の話が二つ・・・「泣き虫の鈴」「影にそう」。
パラオ・ペリリュー島で・・・ 「サクラ・サクラ」。
どっちがどっち・・・「お薬増やしておきますね」
異母兄弟・・・「初孫」
編集者に渡した原稿は・・・「原稿取り」
ネットで人気、猫顔に整形する・・・「愛しのルナ」
自分より男を選んだ母。それでも母は母・・・「泣く猫」
イヤミやハタ坊も登場・・・「黙れおそ松」。
長編小説の方が好きだが短編も
これはちょっとと思われるものや棘のあるものまでバラエティーに富んだグッと詰まった人間ドラマでした。個人的には瞽女の話が一番良かった。

2022年4月角川書店刊
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柚木麻子著「らんたん」

2022-11-17 | や・ら・わ行
著者の母校恵泉女学園の創立を描いた女性大河小説。「女が手を取り合えば、男はいつか戦争ができなくなる。」明治、大正、昭和。女子学校教育の黎明期。シスターフッドを結んだ河井道と一色ゆり、ふたりの女性が世界を変えた。大正最後の年。かの天璋院篤姫が名付け親だという一色乕児は、渡辺ゆりにプロポーズした。彼女からの受諾の条件は、シスターフッドの契りを結ぶ河井道と3人で暮らす、という前代未聞のものだった。明治から戦後までを生きた教育者・河井道が、一色ゆりとのシスターフッドのもと、理想の学園として恵泉女学園を創設し、女子教育に尽力する姿が描かれている。新渡戸稲造や津田梅子・大山捨松をはじめとして、野口英世・有島武郎・芥川龍之介・徳富蘆花・平塚雷鳥・市川房江・村岡花子・白蓮・白洲次郎など戦前戦後の著名人がたくさん出てきます。女子教育を広げようというべき熱い思いがたくさん詰まっている。先人たちが苦労して道を切り拓いたからこそ今の女子教育・日本があることをしっかりと勉強することができた。長いけど読みこたえがあった。
2021年11月小学館刊

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薬丸岳著「ブレイクニュース」

2022-11-03 | や・ら・わ行
デジタル社会の現代へ警鐘を鳴らす、SNS時代の新な社会派小説。ユーチューブで人気のチャンネル『野依美鈴(のよりみすず)のブレイクニュース』。児童虐待、8050問題、冤罪事件、ヘイトスピーチ、奨学金返済問題、パパ活の実情などを独自に取材し配信。マスコミの真似事と揶揄され、誹謗中傷も多く、中には訴えられてもおかしくない過激でリスキーな動画もある。それでも野依美鈴の魅力的な風貌などとも相まって、番組は視聴回数が1千万回を超えることも少なくない。年齢、経歴も不詳で、自称ジャーナリストを名乗る彼女の正体を探るべく、「週刊現実」記者の真柄新次郎は情報を収集し始める。視聴回数が1千万回を超えて大金を稼ぐ彼女はある目的のため、ひとり立ち上がったのだ。私的メディアを作り上げた彼女の動機は・・・。ネットでの安易な誹謗中傷がどんな事態になるのか、自分自身が誹謗中傷をしなくてもシェアするスクリーンショットを転載しても、相手の社会的評価を下げることで名誉毀損罪や侮辱罪になるとともに、逆に自分自身が被害者にもなり得ることがよく分かる内容。SNS利用は毒にも薬にもなる、顔の見えないということは恐ろしいことだと思いました。ラストは少し端折りすぎでスッキリ感がないのは残念。
2021年6月集英社刊



 
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吉田修一著「ミス・サンシャイン」

2022-09-08 | や・ら・わ行
主人公は大学院生の岡田一心、ゼミの担当教授から紹介された昭和の大女優、和楽京子の倉庫整理のアルバイトに出掛ける。伝説の映画女優「和楽京子」こと、石田鈴さんの家に週に1、2度通って、荷物整理をするのだ。鈴さんは一心と同じ長崎出身で、かつてはハリウッドでも活躍していた銀幕のスターだった。一心は最近知り合った桃ちゃんに思いを寄せながら、鈴さんが今までどのように生きてきたか知る度に鈴さんにも惹かれてせつない恋に溺れていく。いまは静かに暮らしている鈴さんとの交流によって、大切なものに触れていく。「大女優」の一生が語られ、そこに一心の生き様、恋愛、人生がシンクロしていく展開です。黄金期の映画女優たちへの憧れのようなオマージュ、失われたもの、決して取り戻すことができないものへの哀悼を感じながら読みました。たんたんと展開される物語を読み進むうち被爆者でもある鈴さんの哀しみが深く伝わり、著者の原爆や故郷への思いも感じました。
「こんないい女優をちゃんと使いこなせなくなった映画が悪いのよ。」(P144)
「いい映画の脚本にはさ、誰かの失敗した人生が書かれてあったのよ。必死に生きて、失敗した人の人生」「人ってね、失敗した人から何かを学ぶのよ。決して成功した人からじゃない。試しに世の成功した人たちに聞いてみればいいわ。あんたたちはどちらで人生を学びましたかって。何かを得た人の言葉と、何かを失った人の言葉だったら、どっちを信じますかって。きっとみんな、何かを失った人から人生を学んだって答えるはずよ」(P172)
「恋心というのは嫌われたくないと思う気持ちであると。そして愛するというのは嫌われてもいいと思う気持ちじゃないだろうかと。」(P238)
2022年1月文藝春秋社刊

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柚月裕子著「検事の信義」

2022-08-18 | や・ら・わ行
検事佐方シリーズ。孤高の検事の気概と執念を描いた、心ふるわす4つの連作ミステリー。任官4年目の検事・佐方貞人は、亡くなった実業家の書斎から高級腕時計を盗んだ罪で起訴された男の裁判を担当していた。被告人は実業家の非嫡出子で腕時計は形見に貰ったと主張、それを裏付ける証拠も出てきて、佐方は異例の無罪論告をせざるを得なくなってしまう。なぜ被告人は決定的な証拠について黙っていたのか、佐方が調べ辿り着いた驚愕の真相・・・「裁きを望む」。他に佐方貞人という人物がどのように生まれ、育ったのか、なぜ信義にこだわるのかきめ細かく描かれている、「恨みを刻む」広島北署の日岡巡査や暴力団が登場する・・・「正義をただす」。認知症の実母を殺めた介護殺人を扱った・・・「信義を守る」。『人には感情があります。怒り、悲しみ、恨み、慈しみ。それらが、事件を引き起こす。事件を起こした人間の根底にあるものがわからなければ、真の意味で事件を裁いたことにはならない・・・なぜ、事件が起きたかを突き止め、罪をまっとうに裁かせるそれが私の信義です。』(P215)。人生・人間を考えさせてくれる人間ドラマともいえるミステリーでした。
2019年4月角川書店刊


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吉田修一著「国宝(下)花道篇」

2022-06-13 | や・ら・わ行
歌舞伎界の女形主人公の、立花喜久雄のその後。理不尽ないじめや、あることないことを書き立ておるマスコミにも耐え、どこか陰のある雰囲気が美しい容姿と相まって、まさに完熟の域に達した、喜久雄30代半ばから、還暦を迎え、遂に頂点に登りつめ国宝となるまで。かつて眩しいほど前を歩いていた先輩女形の末路や、主人公の人生を囲む登場人物一人一人の生き様や行末がどうなるかと気になる展開に引き込まれます。上手くなりたいとの一心で、全力で技を磨き、道を究めようとするあまり、一人究極の世界に突き進む喜久雄。主人公が求めていた世界にたどり着いたとき、その完璧な芸の世界を超えてしまったとき・・・。舞台、映画、テレビと芸能界の転換期を駆け抜け、数多の歓喜と絶望を享受しながら、その頂点に登りつめた先に、何があるのか興味は尽きなく次の展開が楽しみで、波乱万丈の人生に歌舞伎の世界にけっして詳しくないが一気読み出来ました。しかし、主人公にあまり面白味や感情移入は出来ず、むしろ脇役の徳次の個性や生き方に興味がわいた。
2019年9月朝日新聞出版刊  

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