精神科医・葛西幸太郎は、市長選の候補者に対する殺人未遂および放火の実行犯・犬崎理志の精神鑑定を担当していた。犯行を淡々と語る犬崎に、葛西はある違和感を抱く。精神状態が安定しすぎている犬崎の中に、本来の自我を麻痺させ、代わりに彼の精神を支配している「何か」が存在するのではないか。葛西が疑いを深める中、全国各地で不可解な動機による傷害・殺人事件が起こりはじめる・・・。メンタルを安定させる機械「エモコン」(エモションコントローラー)によるマインドコントロールの恐怖や、未知の精神的寄生ウイルスという考え方、設定は面白い。無差別殺人、個人テロなど精神的な不安定さを感じさせる現代の世相も織り込みながら、「夢の国のために」と事件を繰り返す別人格に乗っ取られたような犯罪者たちとこころの問題との関連の結末は解らないままあやふやのまま終わるのは消化不良気味の読了感でした。
2024年9月角川春樹事務所刊