ハマッ子の著者が、思い出深い故郷を舞台にして描いた、ハードボイルド6つの連作集。元刑事が主人公。トラブル何でも金になるなら何でもやる元興業師在日韓国人の金(キム)と、その解決屋の用心棒となったヤクザ以上に凶暴な元マル暴担当刑事流一(ながれはじめ)何やらいわくありげな二人がコンビを組んで、掟なき港町を暴れ回る展開。
持ち込まれるのは表立てないトラブル話ばかり、その結果命を狙われる話など一つ一つの話にスピード感あり、登場人物が脇役も含め個性派ぞろいで楽しめました。レトロ感有の20世紀末のヨコハマと世相が懐かしい。共に別れた女房に思いを馳せるキャラクターがいい。「牙の刻」「街の貌」「女の眼」「凪の港」「光の花」「雨の谺」
2000年3月幻冬舎刊
息子と妻を喪い、警察官の職を追われ、探偵まがいの仕事をしながら荒れた生活を送る鬼束啓一郎。彼がかつて逮捕した男・牛沼が水死体で発見された。その前日、鬼束の携帯電話には、牛沼からの不在着信履歴が残っていた。その電話の用件とは、行方不明になっている娘・「絵里奈」を探してほしいという捜索依頼だったらしい。鬼束は依頼人不在のまま、牛沼の遺品の写真を元に、絵里奈の行方を追うことに・・・。
スリリングで謎が解けずに更に深まる展開。失踪した謎の女を探す事件のスピード感は面白く一気に読めたのだが報酬の当てもなくのめり込んでいく鬼束には納得できなかった。
衝撃の結末も真実を知った徒労感もなんだかしっくりこない終わり方も不満。
2018年9月PHP研究所刊
ストーリーは家具小売業が舞台。沢渡留理は亡き父親から引き継いだ家具の販売会社“沢渡家具”を守ろうと必死だった。そのためには、自分の会社運営の志を異にする異母兄・要次と、愛人兼秘書の福田麻衣子を排除するしかないと、綿密に殺人計画を練り、痴情のもつれを装って二人を殺害。偽装工作は完璧だったはずなのに、翌朝、家政婦から、家に強盗が入り、その強盗に兄が殺されたようだという連絡を受ける。いったい何が・・・。想定外の出来事に混乱しつつ現場に戻った留理は、長身の花房京子という女刑事と出会う。
最初から犯人とその動機も明らかにされており名刑事に問い詰められる度の心理描写を中心に展開される形式。ミステリーとしては犯行もアリバイ作りも杜撰。刑事コロンボの女版の様な花房京子のキャラは人物の生い立ち内面生活感等が不足していて中途半端、感情移入も出来ず不完全燃焼気味の結末。父娘の御家騒動で有名になった〇塚家具を思い出したが経済市場背景だけで人物設定だけを変更したような推理小説でした。
2018年6月光文社刊
激情した結果人を殺め、罪を償い出所したものの服役中に消息を絶った婚約者と息子を探す吉村秀夫が、
伝手となるオジの慈郎を探し出したのも束の間、その叔父は目の前で凶刃に倒れてしまう。
さらに現場から、故郷の街で起きた震災復興資金絡みのNPO法人横領事件の内幕を記すノートと大金の入った鞄が、
コリアタウンに住む在日少年康昊に持ち逃げされる。
そのノートを回収するため歌舞伎町特別分署の不良悪徳刑事天明谷を遣うヤクザの殺人者の一味や、
金の匂いを嗅ぎつけた冷酷な金貸し智勲までもが追いかけ始める。
そんな中、危機を救った秀夫に、少年は金の山分けを主張する。新宿の闇にの、欲と野望が渦巻く展開。
秀夫と康昊の絆が主題なのだが 本来のK・S・Pとは全く別物の物語のようで登場人物の絡みはなくガッカリだがそれなりには楽しめた。
2015年9月祥伝社刊
東京都大田区の路上で発見された女性の全裸遺体。殺人事件として捜査一課強行班が動き始める。被害者は経営コンサルタントの坂上実咲。
その名前は、捜査一課に二年前にも名前があがった痛恨の記憶になった「金融ブローカー殺害事件」を呼び起こした。
被害者の身辺調査を進める中、二年前の事件をきっかけに辞職した捜査一課中本班の元刑事・沢崎の名前が挙がってきた。
美しい女のまわりに蠢く男たち。捜査が難航する中、捜査一課は、強行班・大河内と中本班・庄野樹の二班合同体制をとり捜査にあたることに。
登城人物が多く過去の犯罪との関連もあり複雑だ。 誰が主人公というより群像劇として各刑事の地道な捜査状況・心理状況が中心に展開される。
実際の事件の捜査も多数の刑事の地道な努力で解決に導かれるのだろう。
2015年2月講談社刊
寺沢の相棒・一ノ瀬明子も本部からの左遷組で現在妊娠8カ月の身重。
2人の初仕事は再開発で取り壊し寸前の商店街で見つかった認知症の老婆の保護。老女は代議士と建設会社社長という県有力者兄弟の母で、特養ホームから抜け出した熊田紗千と判明する。
紗千が見つかったのは彼女の親友・北村幸枝がかつて定食屋を営んでいた場所。その床下から死後30年以上経過した白骨死体が掘り出されたことで捜査は急展開する。
寺沢と明子は2人の「サチ」の過去を探っていくうちに殺人犯として収監されている幸枝の娘の冤罪の可能性と、再開発を巡る政財癒着の疑惑問題があらわになる。
出世を断たれた中年刑事とシングルマザーとして生きる覚悟を決めた女性刑事とが保守的で因習的な警察組織に抗していく。
展開にスピード感はないが二つの事件が交錯し、二転三転とした展開の後、後半意外な人間が浮上して楽しめた。
警察ミステリー小説に人間ドラマを加味した秀作。このコンビでの続編が期待できそう?
『あとには退くな。不器用でも、力不足でも、組織の中でこき使われるだけのコマでもいい。歯を食いしばり、困難から決して逃げるな。それが、仕事をするということだ。大の大人が、おのれの人生をいきるということだ。』(p306)
『生まれてくる子供のために、少しでもいい世の中にしたいとな。それが先に生まれてきた大人たちの責任だ・・・幸せというのは、たぶんとてもささやかなものなんだ。だから愛おしいし、壊れやすい。』(p363)
2013年1月角川春樹事務所刊
しかも他人の名義のアパート。
彼女は何故死んだのか? 事故・自殺・殺人?
家族や地域の絆を失った“無縁社会”で若者たちが抱える孤独と痛みを描く警察小説です。
「贄の夜会」に登場した、大河内刑事がメインで事件を追います。
ネットカフェ難民やNPO法人を隠れ蓑に生活保護費をピンハネする問題など
後半2転3転する真犯人と真相に最後まで楽しめました。
201年3月文藝春秋刊
凍てつく朝、ランニング途中横浜郊外の高校校庭で女子生徒が全裸死体となって横たわるのを発見した元警官で今は用務員補佐兼柔道部コーチの桜木晃嗣は理事長の村主から真相を追うを懇願される。
独自に真相を探り始めるとこの学校では、教師の学内不倫や生徒の売春を密告する怪文書、用地売却を巡る理事会の軋轢など、黒く濁った諸問題が浮上する……。
死んだ金山佳奈は十年前、家庭内暴力からの避難施設(シェルター)で大量殺人に遭遇していた。
惨劇が遺した精神の傷と事件の関わりあるのか。やがて警察に逮捕された義父への殺人容疑、脅迫、拉致・暴力殺人と続発するトラブル。
多くの謎、ジグソーパズルのピースが嵌めるごとく謎に迫る桜木自身も過去の事件と心の傷を負ったまま悩み続けていた。
登場人物が多くいろんなことを詰め込みすぎたためか複雑すぎて中途半端な感じは残るが面白く引き込まれながら読まされた。
2006年7月祥伝社刊
署長の村井貴里子は都知事の仲立ちで引き合わされたアメリカ人石油王から「盗まれた妻のヴァイオリンを探してほしい」と突飛な依頼を受けた。
特捜部チーフ・沖幹次郎と捜索を開始するが、チャイニーズマフィア・五虎界の朱栄志(チュー・スーチー)が立ちはだかる。
三年前、壮絶な銃撃戦のすえに取り逃がした怨敵だ。再び死闘がはじまる予感 。
なぜ、朱栄志もヴァイオリンの入手に執念を燃やすのか。キャリアである女警察署長村井貴里子と現場に介入する警察上層部キャリア官僚たちとの暗闘。
新宿老舗ヤクザ神竜会やチャイニーズマフィア五虎界(ウーフージェ)の宗偉傑。
朱に妻娘を爆殺された一匹狼デカ円谷が・・・。
主人公、特捜部チーフ・沖幹次郎と村井貴里子との禁断の恋の行き先は。そして人質にとられた、沖の父の運命は。
目まぐるしく変る展開と結末に一気に読まされました。
5作に続く展開に次回作が待ち遠しい。
2012年7月 徳間書店刊
あのときも、こんなふうにして、タンポポの雪が降っていた…。
甘美な恋の思い出と、裏切りの痛みをたどりなおす、グレイハウンドの旅を描いた表題作「タンポポの雪が降ってた」。
せつない過去の思い出と今の兄弟の姿と交錯しながら、兄弟の熱い絆を描いた『不良の樹』。
個人的にはミステリー風な1枚の写真から父親の過去をたどる「歳月」がよかった。
他に「海を撃つ日」「世界は冬に終る」「ジンバラン・カフェ」「大空と大地」。
誰もが胸にいだく、せつない想い出の数々。変わらないと思っていた幸せの脆さ。
ふとした感傷が、時をへだてて突きつける人生の哀しみ。再会と、ほろ苦い別れ。
日常を抜けだした先で見た夢の終わりなど、時の悼み、どこか哀愁のある切ない思いが、自分の過去と照らし合わせて
読まされた作品群でした。
2001年2月角川書店 角川文庫
そしてとに角やる気がない、金のためなら悪い事もする。7年前に娘が行方不明になった社長からは、偽の情報で一芝居打ち報奨金をむしりとった。
その少女の遺留品が発見された。これはまた金づるになるかと、まったく期待せずに捜査を再開した都筑だが、数日後、情報をもたらした探偵・梅崎の死体が発見される。
梅崎はいったい何を掴んでいたのか? 都筑は足取りを追うのだが・・・。
もともと、自分の利益のためにしか行動しなかったのが、段々と感傷や恐怖などの感情に流されない、精神的肉体的に強靭ないい奴へと変身してゆく過程が面白った。
犯行の犯人が二転三転してのこった展開や県警内の人間関係軋轢、DV男から逃げる母娘などが絡み、
危なかしい主人公を応援しつつ行方不明の少女の謎解きに惹きつけられ一気に読めました。
『たとえほんの僅かでも希望があったら、諦めないってことよ。時には希望を持ち続けているほうが辛くても、私なら絶対諦めない。』(P371)
2011年9月双葉社刊