この国に根深く残る「家父長制」をテーマにしたサスペンス小説。郊外の住宅地に住む50代の専業主婦、新井妙子。ある日、隣の家で殺人事件が起きる。被害者の隣人が著名な大学教授だったこと、一人息子がいたことを、妙子は事件を通じて初めて知る。平穏そうに見えた隣家で何が起きていたのか・・・事件はやがて、妙子自身の家庭の闇をあぶり出していく。妙子は結婚以来、自己中心主義、男尊女卑の見本ともいうべき夫の篤史から精神的苦痛を与えられ続けたため、「『自分』がすり減っていく」のを自覚しながら、何もできない不甲斐ない存在。読んでいていらいらさせられます。「周囲から無視され、命令に従うだけの存在に人を貶めた方針をかえさせること。もし間違いに気づき、それを認めて方針を変えるなら・・・」(P338)燐家で殺されたのは「正社員を削減して派遣社員ばかりにすることで経済は活性化する」と主張する政府の御用経済学者(大学教授)・正木芳光。犯人は動機と目的はと加賀美刑事の視点で犯人を目撃したかもという妙子の家の問題と心の変化模様で展開していきます。サブテーマのレイシスト、ヘイト意識、外国人の人権遵守など難しさを再認識させられました。
2025年1月講談社刊