読書備忘録

私が読んだ本等の日々の
忘れない為の備忘録です

桐野夏生著「真珠とダイヤモンド」上・下 

2023-09-08 | 桐野夏生
 1986年春。二人の女が福岡の証券会社で出会った。一人は短大卒の小島佳那、もう一人は高卒の伊東水矢子(みやこ)。貧しい家庭に生まれ育った二人は、それぞれ2年後に東京に出ていく夢を温めていた。野心を隠さず、なりふり構わずふるまう同期、望月昭平に見込まれた佳那は、ある出来事を契機に彼と結託し、マネーゲームの渦に身を投じていく。  バブル期の証券会社を舞台に、地方出身の若者達が、野望と上昇志向を持って駆け抜けて行く様は、恩恵を受けなかったけれど、だから被害もなかった同時代を生きていたはず、だがただ自分はそんな社会を傍観していたのか、懐かしく切なく、嫌な不安感情移入して読んでしまった感がある。人間の欲や業をバブル期という特殊な時期を舞台に大儲けして逃げ切れず泡の様に消えて行った。上巻は福岡時代の2年間。下巻では、バブル全盛に、東京本社に栄転が決まった望月と結婚した佳那は、ヤクザの山鼻の愛人・美蘭(みらん)のてほどきで瞬く間に贅沢な暮らしに染まっていく。一方の水矢子は不首尾に終わった受験の余波で、思いがけない流転の生活がスタートする。そして、バブルに陰りが見え始めた頃、思った通リ悲惨な結末という結果が展開される。バブル期を知らない世代は面白いかも知れないが同時代の経験者としては苦い経験。「輝かないダイヤモンドと薄汚れた真珠」のバブル顛末物語でした。2023年2月毎日出版新聞刊
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桐野夏生著「燕は戻ってこない」

2022-10-22 | 桐野夏生
北海道出身非正規労働者29歳の独身の、大石理紀が主人公。子宮・自由・尊厳を赤の他人に差し出し、東京で「代理母」となった彼女の物語。北海道での介護職を辞し、憧れの東京で病院事務の仕事に就くも、非正規雇用ゆえに困窮を極める・リキ。「いい副収入になる」と同僚のテルに卵子提供を勧められ、ためらいながらもアメリカの生殖医療専門クリニック「プランテ」の日本支部に赴くと、国内では認められていない「代理母出産」を持ち掛けられた。リキに代理母を依頼してきたのはある程度裕福な元バレエダンサー草桶基とその妻悠子。不正規雇用の問題や借りた奨学金返済の悩み、不妊治療、代理母など現代的なテーマが書かれている。また北海道や沖縄から出てきた田舎者を徹底的にリアルに描かれている。依頼者の家族・夫婦の浮世離れした無知ぶり、身勝手ぶり、無節操ぶり、傲慢ぶりもリアルに見事に描かれている。代理母を契約してから妊娠、出産に至るリキの心の変化変わり方が面白い。「赤ん坊の力はやたら強大だ、と思うのだ。・・・ただ見ているだけで、ポジティブな気持ちが沸き上がって来るのはどうしてだろう。・・・赤ん坊は、この子を守りたい、この子を育て上げなえればならない、という保護本能とでもいうようなものをかき立て前向きな気持ちにさせる。それはあまりにも、この生き物が無防備で無力だからだ。」(P432)。ラストに彼女がとった行動には女性の本能的な力強さが感じられて痛快だった。
2022年3月集英社刊

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桐野夏生著「砂に埋もれる犬」

2022-06-02 | 桐野夏生
小学校にも通わせてもらえず、日々の食事もままならない生活を送る優真。母親の亜紀は刹那的な欲望しか満たそうとせず、同棲相手の男に媚びるばかりだ。そんな最悪な環境のなか、優真が虐待を受けているのではないかと手を差し伸べるコンビニ店主が現れる。ネグレクトによって家族からの愛を受けぬまま思春期を迎えた少年の魂。児相と警察によって救い出された優真は、やがてコンビニの店主夫妻が里親になってくれて、暴力と飢えからの解放と衣食住を得たが、「まだ友だちができないの?」、「これからは常識を身に着けないと」と優真を諭す里親の言葉や、クラスメイトとの軋轢から、圧倒的な疎外感と敗北感に襲われる。母親という牢獄から脱け出した少年は、結果女たちへの憎悪を加速させた。・・・高度成長後のバブル崩壊後、国民総中流社会から広がる格差社会と貧困と虐待の負の連鎖。後半は破滅に向かっていく少年の心理描写や様子を読む気持ちがイライラ・ザワザワして居心地悪く読み辛かった。あっけない結末に作者の意地悪ささえ感じたが、こんな砂に埋もれる以外に解決の道はないのだろうかと後味の悪い終わり方だった。
2021年10月朝日新聞出版刊
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桐野夏生著「日 没」

2022-03-01 | 桐野夏生
ある日突然、エンタメ女性小説家・マッツ夢井のもとに届いた一通の手紙。それは「文化文芸倫理向上委員会」と名乗る政府組織からの召喚状だった。出頭先に向かった彼女は、千葉と茨城の県境の断崖に建つ海辺の療養所へと収容される。読者から寄せられた著作本へのクレームにより「ブンリン」と呼ばれる療養所で、風俗を乱す小説執筆をやめるように「療養」を促される。「社会に適応した小説」を書けと命ずる所長。終わりの見えない軟禁の悪夢。「更生」との孤独な闘いが始まった。・・・・解説によるとラスト15行は雑誌連載時の校了直前に追加したとあるので期待し思っていた結末とは真逆になってしまっているが言論の自由とは何なのか。コンプライアンスがとかSNSでの炎上とか自由が狭まってきている世の中での、作家たちの叫びとも思える物語。統制される恐怖、独裁国家の恐怖、空腹の恐怖、逃げ出せない恐怖などを考えさせられる小説でした。
「その狙いは、政府の言うことを聞く愚民を大量生産することにあるのでしょう」(P185)
2020年9月岩波書店刊

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桐野夏生著「インドラネット」

2022-01-22 | 桐野夏生
美しく聡明なカリスマ性を持つ同級生、野々宮空知がカンボジアで消息を絶った。取り柄のないことにコンプレックスを抱いてきた八目晃は、愛しい友人を追い、東南アジアの混沌に飛び込むが・・・。主人公の八目晃は、平凡な顔、運動神経は鈍く、勉強も得意ではない、何の取り柄もないことに強いコンプレックスを抱いて生きてきた、非正規雇用で給与も安く、ゲームしか夢中になれない無為な生活を送っていた。唯一の誇りは、高校の同級生で、カリスマ性を持つ野々宮空知と、美貌の橙子・藍姉妹と親しく付き合ったこと。大学生になり疎遠になった空知は、アジア旅行に出て帰ってこなかった。同じ時期に姉妹も海外に出た。彼らの消息を知りたいと彼らの父親の通夜に行ったが、姿はなく、逆に橙子の元夫と称する安井、また藍のマネージャーだったという三輪という男たちから旅費と報酬を条件に、3人を探しにカンボジア行きを依頼される。海外旅行も初めてという八目は、旅慣れた旅行者たちから見たらカモのような存在。機内で知り合った女性から紹介された安宿では、30万円の現金を盗まれる。同室の女性のアドバイスでゲストハウスのアルバイトとして働くことになった八目は、まかないを食べる隣のしもた屋の婆さんの流暢な日本語に驚く。彼女はポル・ポト政権時代の虐殺で家族を失い、難民として日本に逃れた経験を持つ親日派だった。彼女の助けを得て、本格的に旧友の消息を探し始めるのだが・・・、やがて明らかになる美貌の三人の凄絶な過去は壮絶。旅の終点のラスト、空知への究極の愛と、強い意志で自分の運命を決めた晃の行動には衝撃を受けた。晃が空知に対して命を捨てるほど執着する根拠が理解できなかった。今のカンボジアの闇、日本と東南アジアとの付き合い方に改めて考えさせられた。2009年、私はバックパックを担ぎバンコクからタイ国鉄で陸路アラニャプラテートへ行き、国境を渡りカンボジアの街ポイペトからタクシーをチャターしてシェムリアップの安宿のゲストハウスに逗留してアンコールワット・トンレサップ湖などを観光した。この小説はそんな懐かしい地名が出て来て当時を思い出させてくれた本になった。「子供たちはどこに行っても繋がって光る、インドラの網に絡まる宝石だ。」(P355)
2021年5月KADOKAWA刊
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桐野夏生著「とめどなく囁く」

2019-12-24 | 桐野夏生

40代の再婚主婦が主人公のサスペンス小説。41歳塩崎早樹は、相模湾を望む超高級分譲地「母衣山庭園住宅」の瀟洒な邸宅で、72歳で31歳の年の離れた資産家の夫克典と暮らす。前妻を突然の病気で、前夫を海難事故で、互いに配偶者を亡くした者同士の再婚生活には、悔恨と愛情が入り混じる。そんなある日、早樹の携帯が鳴った。もう縁遠くなったはずの、前夫の母親からだった。一番近くにいるのに誰よりも遠い存在だった8年前、海釣りに出たまま、二度と帰らなかった元夫。最近元夫にそっくりの男の姿が目撃される。そして、無言電話・・・・

「元夫はいきているのか、死んでいるのか。生きているとしたら、なぜ失踪したのか?」という謎を縦糸に早樹の心模様や人間関係、周りの人物描写、かなり面倒くさい早樹の性格が始終不穏さが漂う雰囲気で展開されます。

読み終わってふっとこの小説のテーマは何だったんだろうと思ったが謎を追っかけて最後まで読まされてしまった。

20193月幻冬舎刊

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桐野夏生著「路上のⅩ」

2019-03-25 | 桐野夏生

親が夜逃げし親戚の家で肩身の狭い思いをして暮らす女子高生16歳の真由。内緒で渋谷のラーメン屋でバイトの中でそこのチーフにレイプされる。そこからネットカフェで似たような境遇の女子高生リオナと出会い・・・。貧困女性、困窮女性、子ども達。幸せな日常を断ち切られ、親に棄てられた女子高生たち。ネグレクト、虐待、DV、レイプ、JKビジネス。かけがえのない魂をいためながらも、真由・リオナ・ミトの三人の少女は酷薄な大人たちの世界をしなやかに踏み越えていく。好きでそんなふうに生きているわけではないのに、社会の目は冷たく、ただモノのように扱われる彼女たち。そんな環境の中で彼女たちは学び、一日一日をやり過ごしている。最悪な現実と格闘する女子高生たちの肉声を描いた物語。

転落の予想が容易に予想出来、行動が危かしくて読み進めるのが辛かった。弱いものを喰い物にする大人・男たち、裏切り、警察や児童相談所も当てにならない現実に読後感もスッキリしなかったが読みごたえはあった。両親の失踪理由は意外だった。

20182月朝日新聞出版刊

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桐野夏生著「ロンリネス」

2018-11-05 | 桐野夏生

2013年の「ハピネス」の続編。(https://blog.goo.ne.jp/sky7dddd/c/ffbb51010d863a9dc498eb2ff156f110

東京湾岸のタワマン「ベイイーストタワー(BET)」に暮らす岩見有紗は、夫俊平と娘花奈のの3人家族。夫単身赴任中の浮気トラブルを乗り越えたかに見えたが再びぎくしゃくしている。そんななか、同じマンションに住む高梨と急接近し、ママ友でW不倫中の美雨ママ洋子に相談をするうちに、有紗は高梨に強く惹かれていることに気づく。本当の恋を知らなかった。嫌いではないが、夫とはぎくしゃくしている。出会った男は、夫とは対照的だった。5人のママ友、有紗の不倫相手である高梨の妻、どの女性も心に二面性を持ち奥に毒を潜ませていて怖い。家があって夫もいて子供もいる、けれど孤独を感じる女達の「ロンリネス」。優柔不断な不倫話は感情移入もし難かったが嫌悪感と苛立ちのうちに読み終えていた。20166月光文社刊

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桐野夏生著「夜の谷を行く」

2017-11-28 | 桐野夏生

連合赤軍事件にかかわった一人の女の死と再生の物語。連合赤軍の「あさま山荘」事件から四十年余。その直前、山岳地帯で行なわれた「総括」と称する内部メンバー同士での批判により、12名がリンチで死亡した。主人公の西田啓子は「総括」から逃げ出してきた一人だった。親戚からはつまはじきにされ、両親は早くに亡くなり、いまはスポーツジムに通いながら、一人で細々と暮している。かろうじて妹の和子と、その娘・佳絵と交流はあるが、佳絵には過去を告げていない。そんな中、元連合赤軍のメンバー・熊谷千代治から突然連絡がくる。時を同じくして、元連合赤軍最高幹部の永田洋子死刑囚が死亡したとニュースが流れる。過去と決別したはずだった啓子だが、佳絵の結婚を機に逮捕されたことを告げ、関係がぎくしゃくし始める。さらには、結婚式をする予定のサイパンに、過去に起こした罪で逮捕される可能性があり、行けないことが発覚する。過去の恋人・久間伸郎や、連合赤軍について調べているライター・古市洋造から連絡があり、敬子は過去と直面せずにはいられなくなる。やがてダンダン明かされる「山岳ベース」で起こった出来事。当時言われた「総括」とは何だったのか。集った女たちが夢見たものとは・・・。最終章のクライマックスに感動。あの時代に生きた一人として感慨深い思いで読んだ。

2017年3月文藝春秋刊

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桐野夏生著「猿の見る夢」

2017-07-02 | 桐野夏生

 還暦、定年、老後・・・終わらない“男”の姿を、現代社会を通して描いた人間ドラマ。薄井正明は六十歳を手前にした元大手銀行員の出向者。現在は一部上場した企業OLIVEで財務担当取締役、ひとまわり下の愛人美優樹もいて、余裕のある一見優雅な暮らしの中、社内ではささやかな野心もあり、長男夫婦と都内に二世帯住宅を建てる計画をたてている。性的な自信もまだ維持している。薄井はほどほどに恵まれている自覚していて、その恵みを一滴もこぼすことなく老後を迎えられると信じている。そこに長峰という夢で宣託をするという占い女が現れ、会社と家庭の両方の雲行きが怪しくなって・・・。

見ざる聞かざる言ざるの三猿に実はもう一つの猿が居てという『四猿・・・礼なきことは見ない、聞かない、言わない。おのれを律する孔子の教えで「せ猿」姦淫に対する欲望の戒め。」(P378)が面白い。

取りついた相手に取り入り巧妙なマインドコントロールの上にペット持参で家の中に住み着く、最後まで謎の長峰がユニークなキャラでひところワイドショーを賑わせた占い師のようで不気味だった。

2016年8月講談社刊

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桐野夏生著「抱く女」

2016-10-05 | 桐野夏生

1972年、吉祥寺、ジャズ喫茶、学生運動、恋愛。「抱かれる女から抱く女へ」とスローガンが叫ばれ、連合赤軍事件が起き、不穏な風が吹き荒れる70年代。二十歳の女子大生・三浦直子は、社会に傷つき反発しながらも、ウーマンリブや学生運動にはちょっと違うと違和感を覚えていた。必死に自分の居場所を求めて彷徨う直子は、やがて初めての恋愛に狂おしくのめり込んでいく。揺れ動く時代に切実に生きる主人公直子。しかし、実に愚かで浅薄で救いようのない女、彼女の関わる友人・知人も男女を問わず、愚かで浅薄で、無頼を気取っては時代や社会に流され飲み込まれてる感じで最後まで全く共感できなかった。70年当時東京はあんな学生ばかりだったんだろうか。全共闘・中核派・革マル派・社青同解放派・ノンポリたち・雀荘に入りびたり、同棲してるやつなどが居たが。少なくとも同時代を生きた自分の回りにはアルバイトに明け暮れる奴らは居たがごく一部の連中だった。作者はこの物語で何を語りかったのだろうと最後まで判らなかった。

2015年6月新潮社刊


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桐野夏生著「バラカ」

2016-08-11 | 桐野夏生
2011年震災と津波のため福島原発4基がすべて爆発した! 警戒区域で発見された一人の少女「バラカ」。
ありえたかもしれない日本の近未来を、世界で蠢く男と女、その愛と憎悪そして勇気の物語。40代で子供欲しさにドバイの赤ん坊市場を訪れた沙羅と優子、酒と暴力に溺れる日系ブラジル人パウロ・サトウ、絶大な人気を誇る破戒的教団のルイス・マモル・ヨシザキ牧師、フクシマの観光地化を目論む若者集団、悪魔的な権力を思うままにふるう謎の葬儀屋川島、そして放射能警戒区域での犬猫保護ボランティアに志願した老人が見つけた、「ばらか」としか言葉を発さない一人の少女・・・人間達の欲望は増殖し、話しは加速する。
バラカのその後を震災から8年後そして40代になったバラカを中心にそれぞれの生き様を描かれる。政治の迷走混乱、放射能の垂れ流し原発の処理に苦慮する日本、風評、賠償問題、健康問題何ら解決の道筋は示されない。
放射能汚染の脅威が迫る東京ではなく開催は大阪五輪・・・。そして日本は滅びに向かうのか・・・。
彼女がその後の世界を変えていく存在だったとは。
なんかめちゃくちゃ震災をテーマの物語で期待したが期待外れでした。
2016年2月集英社刊
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桐野夏生著「夜また夜の深い夜」

2016-06-15 | 桐野夏生
舞台はイタリアのナポリ。主人公は舞子と名乗っているが本名も知らず、整形を繰り返す母親とアジアやヨーロッパの
都市を転々とする小学校までしか出ていない少女。
母は罪を犯し日本から逃げだしたらしい。4年前からナポリのスラムに住み着いた。
国籍もIDもなくもちろんパスポートもない。父親の名前も自分のルーツもわからない。
ある日、母と口論し外に飛び出すと「MANGA CAFÉ」と書かれたチラシを手にする日本人の男に呼び止められ、
誘われままそのカフェで漫画を読む楽しみを覚え夢中になる。
舞子は家にあった雑誌で「七海」という女性に親近感を抱き手紙を書き始める。
七海宛の手紙を通じて舞子の暮らしぶりや思いが語られる形式で物語が展開される。
やがて家出した舞子はエリスとアナという地下に住む女性と出会いサバイバル生活に入っていく。
エリスもアナも興味あるキャラで可哀想な舞子の生末と相まってはるか異国に住む可憐な少女の物語にぐいぐい引き込まれた。
後半何故逃げているのかがわかり彼女たちのその後のサバイバルを通じて難民問題や貧困格差、
アイデンティティ・宗教問題などいろいろ考えさせられた。
2014年10月 幻冬舎刊
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桐野夏生著「奴隷小説」

2015-05-23 | 桐野夏生
時代や場所にかかわらず、人間社会に時折現出する、さまざまな抑圧と奴隷状態。
何かに囚われた奴隷的な状況であることのみが共通する、七つ短編集。
村の長老との結婚を拒絶する女は舌を抜かれてしまう。それがこの村の掟。
そして30番目のあらたな結婚の相手として、ある少女が選ばれた・・・「雀」。
突然原理主義者らしき兵士に襲われ、泥に囲まれた島に拉致されてしまった女子高生たち97名・・・「泥」。
アイドルを目指す「夢の奴隷」である少女。彼女の「神様」の意外な姿・・・「神様男」。
管理所に収容された人々は「山羊の群れ」と呼ばれ、理不尽で過酷な労働に従事せられていた。
そして時には動物を殺すより躊躇なく殺される。死と隣り合わせの時刻の番人・鐘突き番にさせられた少年は・・・「山羊の目は空を青く映すか」。
他「REAL」「ただセックスがしたいだけ」「告白」。
短編だから物足りない気もするがどれも独特の過酷で残酷な世界。
読後感はけっして良くないが次々と読みたくなる毒盛りの物語。「雀」は日本の弥生式古代。
「泥」はアフリカのポコハラムの蛮行を思い出した。

2015年1月文藝春秋刊
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桐野夏生著「だから荒野」

2014-12-02 | 桐野夏生
「家族」という荒野を生きる孤独と希望を描いた物語。傲慢な夫や息子たちに軽んじられながら、家庭をささえてきた主婦・朋美は46歳の誕生日、堪忍袋の緒が切れてついに反旗をひるがえす。
衝動にかられ夫自慢の愛車で家出、「初恋の男が長崎にいるらしい」という理由で、長崎に向かって高速道を走り始める。
朋美は1200キロの旅に出たのだ。
「奪われた愛車と女の連絡先の入ったゴルフバックばかり心配する夫を尻目に、朋美は自由を謳歌するのだったが・・・。
痛快な展開の雲行きに同情して助けた女に車を持ち逃げされ、まだらボケの老人と知り合ったあたりからどうしょうもないと思っていた息子たちが少しまともになり、夫ですら反省するあたりからありきたりの結末に落ち着いて意外性のないガッカリの展開でした。

2013年10月毎日新聞社刊
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