40代の再婚主婦が主人公のサスペンス小説。41歳の塩崎早樹は、相模湾を望む超高級分譲地「母衣山庭園住宅」の瀟洒な邸宅で、72歳で31歳の年の離れた資産家の夫克典と暮らす。前妻を突然の病気で、前夫を海難事故で、互いに配偶者を亡くした者同士の再婚生活には、悔恨と愛情が入り混じる。そんなある日、早樹の携帯が鳴った。もう縁遠くなったはずの、前夫の母親からだった。一番近くにいるのに誰よりも遠い存在だった。8年前、海釣りに出たまま、二度と帰らなかった元夫。最近元夫にそっくりの男の姿が目撃される。そして、無言電話・・・・
「元夫はいきているのか、死んでいるのか。生きているとしたら、なぜ失踪したのか?」という謎を縦糸に早樹の心模様や人間関係、周りの人物描写、かなり面倒くさい早樹の性格が始終不穏さが漂う雰囲気で展開されます。
読み終わってふっとこの小説のテーマは何だったんだろうと思ったが謎を追っかけて最後まで読まされてしまった。
2019年3月幻冬舎刊
親が夜逃げし親戚の家で肩身の狭い思いをして暮らす女子高生16歳の真由。内緒で渋谷のラーメン屋でバイトの中でそこのチーフにレイプされる。そこからネットカフェで似たような境遇の女子高生リオナと出会い・・・。貧困女性、困窮女性、子ども達。幸せな日常を断ち切られ、親に棄てられた女子高生たち。ネグレクト、虐待、DV、レイプ、JKビジネス。かけがえのない魂をいためながらも、真由・リオナ・ミトの三人の少女は酷薄な大人たちの世界をしなやかに踏み越えていく。好きでそんなふうに生きているわけではないのに、社会の目は冷たく、ただモノのように扱われる彼女たち。そんな環境の中で彼女たちは学び、一日一日をやり過ごしている。最悪な現実と格闘する女子高生たちの肉声を描いた物語。
転落の予想が容易に予想出来、行動が危かしくて読み進めるのが辛かった。弱いものを喰い物にする大人・男たち、裏切り、警察や児童相談所も当てにならない現実に読後感もスッキリしなかったが読みごたえはあった。両親の失踪理由は意外だった。
2018年2月朝日新聞出版刊
2013年の「ハピネス」の続編。(https://blog.goo.ne.jp/sky7dddd/c/ffbb51010d863a9dc498eb2ff156f110)
東京湾岸のタワマン「ベイイーストタワー(BET)」に暮らす岩見有紗は、夫俊平と娘花奈のの3人家族。夫単身赴任中の浮気トラブルを乗り越えたかに見えたが再びぎくしゃくしている。そんななか、同じマンションに住む高梨と急接近し、ママ友でW不倫中の美雨ママ洋子に相談をするうちに、有紗は高梨に強く惹かれていることに気づく。本当の恋を知らなかった。嫌いではないが、夫とはぎくしゃくしている。出会った男は、夫とは対照的だった。5人のママ友、有紗の不倫相手である高梨の妻、どの女性も心に二面性を持ち奥に毒を潜ませていて怖い。家があって夫もいて子供もいる、けれど孤独を感じる女達の「ロンリネス」。優柔不断な不倫話は感情移入もし難かったが嫌悪感と苛立ちのうちに読み終えていた。2016年6月光文社刊
連合赤軍事件にかかわった一人の女の死と再生の物語。連合赤軍の「あさま山荘」事件から四十年余。その直前、山岳地帯で行なわれた「総括」と称する内部メンバー同士での批判により、12名がリンチで死亡した。主人公の西田啓子は「総括」から逃げ出してきた一人だった。親戚からはつまはじきにされ、両親は早くに亡くなり、いまはスポーツジムに通いながら、一人で細々と暮している。かろうじて妹の和子と、その娘・佳絵と交流はあるが、佳絵には過去を告げていない。そんな中、元連合赤軍のメンバー・熊谷千代治から突然連絡がくる。時を同じくして、元連合赤軍最高幹部の永田洋子死刑囚が死亡したとニュースが流れる。過去と決別したはずだった啓子だが、佳絵の結婚を機に逮捕されたことを告げ、関係がぎくしゃくし始める。さらには、結婚式をする予定のサイパンに、過去に起こした罪で逮捕される可能性があり、行けないことが発覚する。過去の恋人・久間伸郎や、連合赤軍について調べているライター・古市洋造から連絡があり、敬子は過去と直面せずにはいられなくなる。やがてダンダン明かされる「山岳ベース」で起こった出来事。当時言われた「総括」とは何だったのか。集った女たちが夢見たものとは・・・。最終章のクライマックスに感動。あの時代に生きた一人として感慨深い思いで読んだ。
2017年3月文藝春秋刊
還暦、定年、老後・・・終わらない“男”の姿を、現代社会を通して描いた人間ドラマ。薄井正明は六十歳を手前にした元大手銀行員の出向者。現在は一部上場した企業OLIVEで財務担当取締役、ひとまわり下の愛人美優樹もいて、余裕のある一見優雅な暮らしの中、社内ではささやかな野心もあり、長男夫婦と都内に二世帯住宅を建てる計画をたてている。性的な自信もまだ維持している。薄井はほどほどに恵まれている自覚していて、その恵みを一滴もこぼすことなく老後を迎えられると信じている。そこに長峰という夢で宣託をするという占い女が現れ、会社と家庭の両方の雲行きが怪しくなって・・・。
見ざる聞かざる言ざるの三猿に実はもう一つの猿が居てという『四猿・・・礼なきことは見ない、聞かない、言わない。おのれを律する孔子の教えで「せ猿」姦淫に対する欲望の戒め。」(P378)が面白い。
取りついた相手に取り入り巧妙なマインドコントロールの上にペット持参で家の中に住み着く、最後まで謎の長峰がユニークなキャラでひところワイドショーを賑わせた占い師のようで不気味だった。
2016年8月講談社刊
1972年、吉祥寺、ジャズ喫茶、学生運動、恋愛。「抱かれる女から抱く女へ」とスローガンが叫ばれ、連合赤軍事件が起き、不穏な風が吹き荒れる70年代。二十歳の女子大生・三浦直子は、社会に傷つき反発しながらも、ウーマンリブや学生運動にはちょっと違うと違和感を覚えていた。必死に自分の居場所を求めて彷徨う直子は、やがて初めての恋愛に狂おしくのめり込んでいく。揺れ動く時代に切実に生きる主人公直子。しかし、実に愚かで浅薄で救いようのない女、彼女の関わる友人・知人も男女を問わず、愚かで浅薄で、無頼を気取っては時代や社会に流され飲み込まれてる感じで最後まで全く共感できなかった。70年当時東京はあんな学生ばかりだったんだろうか。全共闘・中核派・革マル派・社青同解放派・ノンポリたち・雀荘に入りびたり、同棲してるやつなどが居たが。少なくとも同時代を生きた自分の回りにはアルバイトに明け暮れる奴らは居たがごく一部の連中だった。作者はこの物語で何を語りかったのだろうと最後まで判らなかった。
2015年6月新潮社刊
ありえたかもしれない日本の近未来を、世界で蠢く男と女、その愛と憎悪そして勇気の物語。40代で子供欲しさにドバイの赤ん坊市場を訪れた沙羅と優子、酒と暴力に溺れる日系ブラジル人パウロ・サトウ、絶大な人気を誇る破戒的教団のルイス・マモル・ヨシザキ牧師、フクシマの観光地化を目論む若者集団、悪魔的な権力を思うままにふるう謎の葬儀屋川島、そして放射能警戒区域での犬猫保護ボランティアに志願した老人が見つけた、「ばらか」としか言葉を発さない一人の少女・・・人間達の欲望は増殖し、話しは加速する。
バラカのその後を震災から8年後そして40代になったバラカを中心にそれぞれの生き様を描かれる。政治の迷走混乱、放射能の垂れ流し原発の処理に苦慮する日本、風評、賠償問題、健康問題何ら解決の道筋は示されない。
放射能汚染の脅威が迫る東京ではなく開催は大阪五輪・・・。そして日本は滅びに向かうのか・・・。
彼女がその後の世界を変えていく存在だったとは。
なんかめちゃくちゃ震災をテーマの物語で期待したが期待外れでした。
2016年2月集英社刊
都市を転々とする小学校までしか出ていない少女。
母は罪を犯し日本から逃げだしたらしい。4年前からナポリのスラムに住み着いた。
国籍もIDもなくもちろんパスポートもない。父親の名前も自分のルーツもわからない。
ある日、母と口論し外に飛び出すと「MANGA CAFÉ」と書かれたチラシを手にする日本人の男に呼び止められ、
誘われままそのカフェで漫画を読む楽しみを覚え夢中になる。
舞子は家にあった雑誌で「七海」という女性に親近感を抱き手紙を書き始める。
七海宛の手紙を通じて舞子の暮らしぶりや思いが語られる形式で物語が展開される。
やがて家出した舞子はエリスとアナという地下に住む女性と出会いサバイバル生活に入っていく。
エリスもアナも興味あるキャラで可哀想な舞子の生末と相まってはるか異国に住む可憐な少女の物語にぐいぐい引き込まれた。
後半何故逃げているのかがわかり彼女たちのその後のサバイバルを通じて難民問題や貧困格差、
アイデンティティ・宗教問題などいろいろ考えさせられた。
2014年10月 幻冬舎刊
何かに囚われた奴隷的な状況であることのみが共通する、七つ短編集。
村の長老との結婚を拒絶する女は舌を抜かれてしまう。それがこの村の掟。
そして30番目のあらたな結婚の相手として、ある少女が選ばれた・・・「雀」。
突然原理主義者らしき兵士に襲われ、泥に囲まれた島に拉致されてしまった女子高生たち97名・・・「泥」。
アイドルを目指す「夢の奴隷」である少女。彼女の「神様」の意外な姿・・・「神様男」。
管理所に収容された人々は「山羊の群れ」と呼ばれ、理不尽で過酷な労働に従事せられていた。
そして時には動物を殺すより躊躇なく殺される。死と隣り合わせの時刻の番人・鐘突き番にさせられた少年は・・・「山羊の目は空を青く映すか」。
他「REAL」「ただセックスがしたいだけ」「告白」。
短編だから物足りない気もするがどれも独特の過酷で残酷な世界。
読後感はけっして良くないが次々と読みたくなる毒盛りの物語。「雀」は日本の弥生式古代。
「泥」はアフリカのポコハラムの蛮行を思い出した。
2015年1月文藝春秋刊
衝動にかられ夫自慢の愛車で家出、「初恋の男が長崎にいるらしい」という理由で、長崎に向かって高速道を走り始める。
朋美は1200キロの旅に出たのだ。
「奪われた愛車と女の連絡先の入ったゴルフバックばかり心配する夫を尻目に、朋美は自由を謳歌するのだったが・・・。
痛快な展開の雲行きに同情して助けた女に車を持ち逃げされ、まだらボケの老人と知り合ったあたりからどうしょうもないと思っていた息子たちが少しまともになり、夫ですら反省するあたりからありきたりの結末に落ち着いて意外性のないガッカリの展開でした。
2013年10月毎日新聞社刊