生活保護制度を題材にした第一作『護られなかった者たちへ』、震災からの復興とその闇ビジネスを描いた第二作『境界線』に続く、「宮城県警シリーズ」の完結編。復興が進む被災地に根ざす人々の間で激しく揺れ動く心情と人間模様を描きながら完全密室トリックの謎に迫るヒューマンミステリー。災害公営住宅への移転に伴い解体作業が進む仮設住宅の一室で見つかった他殺体。発見場所は出入り口がすべて施錠された完全密室、被害者は町役場の仮設住民の担当者だった。宮城県南三陸署の笘篠誠一郎刑事と蓮田将悟刑事は仮設住民と被害者とのトラブルの可能性を想定し、捜査にあたる。そこで浮上し遭遇したのは、蓮田にとって忘れがたい決別した過去に関わる人物であった。蓮田刑事にとってはあの日、流された絆があった・・・。行き所がない立ち退かない仮設住宅の住人、怪しげなボランティアNPO法人の輩、利権絡みの大物県議、同じく地元の建設会社の沢井建設の幼馴染の森見貢、ケアラーになった看護師の大原知歌、一 解体と復興。二 再建と利権。三 公務と私情。四 獲得と喪失。五 援護と庇護。エピローグ。とどんでん返しの犯人、真相を究明していく。事件の動向よりも進まぬ復興の現実と矛盾に心が動かされた。
2024年1月NHK出版刊
