読書備忘録

私が読んだ本等の日々の
忘れない為の備忘録です

横山秀夫著「ノースライト」

2019-12-07 | 横山秀夫

一級建築士の青瀬稔は、信濃追分へ車を走らせていた。望まれて設計した新築の家。施主の吉野淘汰一家も、新しい自宅を前に、あんなに喜んでいたはずなのに。Y邸は無人だった。あなた自身が住みたい家を建ててくださいと言われ大手出版社の「平成すまい200選」にも選ばれた自慢の家に、そこに越してきたはずの家族の姿はなく、電話機以外に家具もない。ただ一つ、浅間山を望むように置かれたドイツ人建築家ブルーノ・タウト(「桂離宮をほめて日光東照宮をけなしたドイツ人」)の「タウトの椅子」を除けば・・・。このY邸でいったい何が起きたのか?

「差し込むでもなく、降り注ぐでもなく、どこか遠慮がちに部屋を包み込む柔らかな北からの光。東の窓の聡明さとも南の窓の陽気さとも趣の異なる、悟りをひらいたかのように物静かなノースライト。(P29)南向きの人生と北向きの人生。時折思い出したように挿入される少年時代の記憶や元妻との思い出も建築家としての自恃も、すべてが最後に環となってつながる。南からの光では陰になって見えなかったものも、北からの光によって美しく映える。単純な謎解きを超えた警察も探偵も登場しないミステリーは極上の ひとりの建築士の再生の物語でした。

20192月新潮社刊

 

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横山秀夫著「64 (ロクヨン)」

2013-08-19 | 横山秀夫
警察庁長官による、時効の迫った重要未解決事件「64(ロクヨン)」視察が1週間後に決定した。
たった7日間しかなかった昭和64年に起きたD県警史上最悪の「翔子ちゃん誘拐殺人事件」とは昭和64年1月5日にお年玉をもらってくると言い残して昼過ぎに自宅を出た雨宮翔子は、近くの親類宅に向かう途中、忽然と姿を消した。
身代金2千万円を奪われ、雨宮翔子は無残な死体で発見された。
犯人不詳。昭和64年に起きたD県警史上最悪の誘拐殺害事件だ。
長官慰問を拒む遺族。当時の捜査員など64関係者に敷かれた謎の緘口令。
刑事部と警務部の鉄のカーテン。謎のメモ。長官視察の日に一体何が起きるのか?
D県警に訪れた史上最大の試練! 組織対個人。やがて、刑事部と警務部が全面戦争に突入。
結婚をして、1人娘もいる父親でもあるD県警で刑事から転属されて広報官・三上義信が主人公。
三上の家族に起こったある事件と14年前の未解決誘拐殺害事件を軸にして、物語は緩むことなく次々と展開していく。
広報・三上には己の真を問われる事態だ。全編に渡り緊張感が張り詰め、三上の息遣い、叫びが聞こえてくるかのような迫力で展開される。
警察職員26万人、それぞれに持ち場があります。刑事など一握り。大半は光の当たらない縁の下の仕事です。神の手は持っていない。それでも誇りは持っている。一人ひとりが日々矜持をもって職務を果たさねば、こんなにも巨大な組織が回っていくはずがない。
「持ち場に戻れ。明日のために今日を費やすのは愚かなことだ」「今日は今日のために、明日は明日のためにある」(P299)
捜査ミスの隠ぺいと組織間対抗軋轢、刑事部と刑務部との確執の中、それぞれの多くの登場人部達がキャラクターごとにそれぞれの思い主観と客観の絶妙なバランスで語れる、647ページ密度の濃いストーリーにぐいぐい引っ張られ読まされた。
見事な展開、重厚感溢れる作品で読み答え充分でした。

2012年10月 文藝春秋刊
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横山秀夫著「陰の季節」

2010-05-19 | 横山秀夫
警務課調査官という管理部門の警官を主人公に据えた作品。
2年の約束で天下りポストについた元刑事部長が、いすわるつもりだという。
D県警警務部警務課で人事を担当している二渡が解決を命じられるが、上手く往かない。
二渡が周囲を探るうち、ある未解決事件が浮かび上がってきた…「陰の季節」。
警務部秘書課で「議会対策」にあたる男の話・・・「鞄」他
「地の声」「黒い線」の4つの短編集
「まったく新しい警察小説の誕生」と絶賛され同名TVドラマの原作となった人間ドラマ短編集。
物語のリアル感にグイグイ引き込まれます。
1998年10月文藝春秋刊 文春文庫 


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横山秀夫著「動機」

2010-05-14 | 横山秀夫
第53回日本推理作家協会賞受賞作!
署内で一括保管していて三十人分の警察手帳が紛失。
警察内部の調査は監察官が行うが、その一括保管を起案したJ県警本部警務課の貝瀬警視もその署へ出向いて調査を開始する。
期間は記者発表のある明後日までだった。そして、タイムリミット寸前、貝瀬は意外な犯人とその動機を思いつく。・・・「動機」他
女子高生殺しの前科を持つ男が、匿名の殺人依頼電話に・・・社会に出て追い詰められていくさまを描いた・・・「逆転の夏」
公判中の居眠りで失脚する裁判官を描いた・・・「密室の人」、
「ネタ元」など短編4つ。人間観察力と心理描写の行き届いた警察小説。

2000年10月文藝春秋刊 文春文庫 
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横山秀夫著「深追い」

2010-05-11 | 横山秀夫
『組織を生きる。それは、失うことばかりの日常ではないはずだ。』(横山秀夫)
不慮の死を遂げた夫のポケットベルへ、ひたすらメッセージを送信し続ける女。
交通課事故係の秋葉は妖しい匂いに惑い、職務を逸脱してゆく・・・「深追い」他
「又聞き」「引継ぎ」「訳あり」「締め出し」「仕返し」「人ごと」の7つの短編集。
交通課,鑑識係,盗犯係,警務課,生活安全課,次長,遺失物係、地方都市三ツ鐘署に勤務する七人の警察官たちが遭遇した、人生でたった一度の事件。
事故と事件の狭間に揺れる様々な思惑を見事に描ききった警察小説。
『その日、彼らの眼に映る風景は確かに色を変えた。』
世間体を重んじる組織の中の人間の欲望と矜持、骨太な人間ドラマです。
2002年12月実業之日本社刊 新潮文庫
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横山秀夫著「出口のない海」

2009-12-29 | 横山秀夫
「ああ、きれいだな・・・。美しい海、母なる海。だがそれは、二度と陸地を踏むことを許されない出口のない海でもあった。」
旧日本軍の特殊潜航艇、自爆特攻兵器、所謂人間魚雷「回天」で命を絶った元甲子園優勝投手並木浩二の死に至る青春を描いた作品です。
組織と個人をテーマにした作者の初めての戦争物小説。
主人公並木が特攻を志願して仲間の死や自らの死と向かい合い「死の意味」を見つけていかに死んだかをA大学野球部で捕手だった剛原力、
競争部の北、恋人鳴海美奈子を通じて鮮明になる。
クラッシュクの「ボレロ」が聞こえてきそうな涙無しでは読めない感動の物語です。
2004年8月講談社刊
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横山秀夫著「 真 相 」

2009-11-02 | 横山秀夫
小説推理に発表した短編、「真相」他「18番歩-ル」「不眠」
「花輪の海」「他人の家」5編のミステリ-推理集。
10年前の息子を殺した犯人が捕まったことによる
新たな真相が明らかになる・・・「真相」
市長選挙と殺人死体遺棄をからませた・・・「18番歩-ル」等々。
事件の奥に隠された個人対個人の物語を5編収録。
人間の心理・心情を鋭く描いた傑作短編です。

2003年 双葉社 刊 双葉文庫

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横山秀夫著「顔 Face」

2008-12-05 | 横山秀夫
「おおきくなったら、ふけいさんになりたいです。」小学校1年生の時の夢
を実現させた主人公平野瑞穂。
悩み、組織の壁、男社会の人間関係にぶつかりながら成長していく様子を
描きながら特技の似顔絵書きと鑑識眼で難題、事件を解決する。
元、新聞記者の作者が描くミステリー性のある警察小説。
2002年 徳間書店 刊
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横山秀夫著「影踏み」

2008-11-17 | 横山秀夫
十五年前のあの日、男は法を捨てた・・・。
母親と共に道連れで火事に消えた双子の弟啓二。残された兄修一。
三つの魂が絡み合う哀切のハード・サスペンスです。
寝静まった民家に忍び込む窃盗プロの「ノビカベ」こと真壁修一が
主人公の謎説き連作短編小説。
火災で亡くした双子の弟の影が消せない修一は出所した後図書館で2年前の自分
の捕まって収監された事件の記事を読み漁りその夜は、自分の彼女の保母の久子
のアパ-トに転がり込む・・・。心理描写が冴える哀愁の物語。
県警や泥棒仲間やヤクザが絡み、双子の兄弟が持つ特性に注目した著者の
異色のミステリー小説です。
2003年 祥伝社 刊
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横山秀夫著「看守眼」

2008-11-16 | 横山秀夫
いつか刑事になる日を夢見ながら、留置管理係として過ごしまもなく
定年を迎える近藤は、証拠不十分で釈放された容疑者の男の事件の真相を
見抜き執念で追及する。
マスコミを賑わした「死体なき殺人事件」の真相を見破ったのは、
長年培った「看守の勘」だった。・・・ 表題作の他、
小説新潮に発表された「自伝」、
家裁の家事調停委員が13年前の自分の娘の不登校事件の真相を知る「口癖」
県警のHPにクラッカーが侵入してHPを改竄された責任者の犯人探しを扱った
「午前五時の侵入者」等「静かな家」「秘書課の男」
の6つの短編が収められている短編推理小説集。作者の人間観察の目が冴える。
2004年新潮社刊

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横山秀夫著「臨場」

2008-10-24 | 横山秀夫
事件現場の「KEEP OUT 立入禁止」の黄色いテープの中で立ち働く
倉石義男52歳。
『終身険視官』の異名をもつ捜査一課調査官が主人公の事件簿8編。
小気味いいテンポですすむ推理小説です。
視点を鑑識畑の眼力に置き死体の目利きの立場から事件を解決する
ミステリー短編小説。
2004年 光文社刊

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横山秀夫著「第三の時効」

2008-09-16 | 横山秀夫
表題の「第三の時効」他、「沈黙のアリバイ」、「囚人のジレンマ」
「密室の抜け穴」、「ペルソナの微笑」「モノクロームの反転」
以上6編の短編からなる。
第一の時効、殺人の場合は時効15年目。
第二の時効、海外逃亡期間は時効に含めない事。
そして、誰も予想しえなかった第三の時効があった。
よく練られた意外展開のミステリ-警察小説の短編。
謎解きのミステリ-のため多くは書けませんが面白いです。
2003年 集英社刊

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横山秀夫著「震度0 」 

2008-08-09 | 横山秀夫
警務課長の不破義仁が失踪・・・県警の事情に精通し、人望も厚い不破がなぜ姿を消したのか? 
本部長の椎野勝巳をはじめ、敵対するキャリア組の冬木警務部長、準キャリアの堀川警備部長、叩き上げの藤巻刑事部長など、県警幹部の利害と思惑が錯綜する。
ホステス殺し、交通違反のもみ消し、四年前の選挙違反事件
・・・出口が掴めないまま幹部は右方左方情報は交錯し、時間ばかりが経過する。飛び交う情報戦の結末は?
真実はどこに不破の生死は・・・大地震の国の一大事の中で一地方の井の中の大騒ぎ。
神戸の大震災の朝からの2日間の関東のN県警警察本部庁舎と公舎を舞台に 本部長以下警察庁キャリア・地元ノンキャリアの主要幹部6人のドタバタと心理の綾を描いた心理ミステリーサスペンス。
作者の言葉「情報は、時として魔物と化す。この小説の主人公は“情報”かもしれない。」横山秀夫  2005年   朝日新聞社 刊
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横山秀夫著「クライマーズ・ハイ」

2008-06-21 | 横山秀夫
クライマーズ・ハイとは、登山中に興奮状態が極限にまで達し、恐怖感が麻痺すること。
1985年8月12日、運命の日。
群馬県の地方紙北関東新聞のベテラン記者悠木和雅が、航空機事故JAL123便の御巣鷹山墜落事故当時の記憶をたどりながら回想する。
家庭、対息子の関係、社内での人間関係、上下関係、500人以上の犠牲を出した日本航空機史上未曾有をの事故に如何に係わり今の現在が存在するか。
事故当日、谷川岳のロッククライミングに出かける約束が事件の為に果せなかった悠木が一緒に登るはずだった男の遺児の息子と約束を果す。
新聞の締め切りと取材合戦トクダネねらいの日々事件と向かい合う新聞社の
臨場感ある展開に個々の人間ドラマを配置してスリリングで読みごたえ充分感動の小説です。
当時TVで事故の第一報を知った頃のことを思い出しました。
以前NHKでも佐藤浩一主演TVドラマされこのたび映画化されまもなく公開されますが、
悠木が陥った「クライマーズ・ハイ」状態に観客もなれるのか期待しています。
2003年文藝春秋刊
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横山秀夫 著 「ルパンの消息」

2007-12-18 | 横山秀夫
著者がデビュー前に書いた処女作。
FDの中にコンコンと眠り続けていたサントリーミステリー大賞
の佳作になったが刊行されなかった作品らしい。
さすが、エンターテーメント作家一気に読ませてくれました。
時効までの 砂時計がセットされた中で物語が進行する。
一人一人の個性もしっかり描かれ読みながら思わず引き込まれた。
平成2年12月、警視庁にもたらされた一本のタレ込み情報。
15年前に自殺として処理された 女教師の墜落死は、実は殺人事件だった。
しかも、犯人は、教え子の 男子高校生3人だという。
時効まで24時間・・・

2005年5月光文社刊 820円  
☆☆☆ ☆ ☆☆☆☆ ☆ ☆
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