第58回吉川英治賞受賞警察小説。過払い金マフィア、マルチ商法の親玉、カルト宗教の宗務総長と社会に巣食う悪党が次々と殺害される。警察捜査の内情を知悉する男が周到な準備と計画によって強盗殺人を遂行していく。大阪府警捜査一課の舘野と箕面北署のベテラン部屋長刑事・玉川が、広告代理店の元経営者殺害事件を追うなか、さらに被害者と面識のある男が殺される。二人はそれぞれ士業詐欺とマルチ商法によって莫大な金を荒稼ぎした悪党で、情報屋の標的になっていた。警察は犯行手口の違いから同一犯による可能性はないと判断するが、いずれも初動捜査で手詰まりとなる。犯人像を掴むことができないまま、さらには戦時中に麻薬密売組織に関わり、政治家とも昵懇だった新興宗教の宗務総長が殺害される。警察の動きを攪乱しながら凶行を続ける男の目的はどこにあるのか不明の中、舘野と玉川は、凶悪な知能犯による完全犯罪の捜査を続ける。ターやん玉さんと呼び合う館野と玉川コンビの警察捜査の一歩一歩の内幕を活写しながら、事件にかかわった裏社会を跋扈する男たちを圧倒的な存在感で描き切った。臨場感と飽きさせない速いテンポの展開で読み疲れないのがいい。殺し屋の視点での語りもあり二人の関西弁の軽やかさと共に最後まで読めない展開で面白かった。
2023年10月朝日新聞出版刊