読書備忘録

私が読んだ本等の日々の
忘れない為の備忘録です

篠田節子著「ドゥルガーの島」

2023-10-15 | 篠田節子
インドネシアのブラガダンにあるらしい架空の火山島「ネピ島」が舞台。そこに顔立ちと体格はインドネシア人なのにアラビア系と自認しているイスラム教徒が11世紀から住みはじめ、島の反対側のサンゴ礁に囲まれた入江には、イスラム教徒から首狩り族として差別されている部族が住んでいる。そこに、大手ゼネコン勤務だった主人公、賀茂川一正が偶然訪れ、サンゴ礁の側に海のボロブドォールとも呼べる水中遺跡らしきものを見つける。やがて、今は武蔵野情報大学国際交流群国際貢献学科の講師となった一正が、日本の考古学者の静岡海洋大学の藤井准教授や文化人類学者の同大学特任教授人見淳子を誘って現地調査に乗り出す。しかし出発前日には3番目の妻が離婚届を残して家出して3度目の離婚。さらに、現地の部族の風俗習慣と他住民間の対立、インドネシアの遺跡保護の問題、火山の爆発兆候と津波、イスラム過激派と様々な邪魔が現れて、話は展開する。インドネシアのボロブドールをはじめとする仏教遺跡の保護政策の現状やイスラム化する以前の仏教時代、ヒンドゥー教時代のことも詳しく興味有る者には面白い。「海中考古学」「建築史」「遺跡発掘、保存と開発」工学・政治的要素、と「日本人と現地人の軋轢」といった文化人類学的見地からも薀蓄が語れられているが、登場人物の記載に生活感と深みがなく誰にも感情移入出来ずに、また最後まで火山オチの不安が頭によぎり充分楽しめなかった。
2023年8月新潮社刊

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篠田節子著「セカンドチャンス」

2023-01-21 | 篠田節子
長い介護の末、母を見送った51才の大原麻里。1人になって残ったのは高血圧、高脂血症、頭痛・腰痛‥耳鳴り不調だらけの太った身体。
麻里は相模スポーツセンターでスイミングを始める。施設は古くてショボいがそこでいろんな仲間との出会いがあり、マスターズ水泳大会を目指す目標を見つける。
一歩踏み出す勇気さえあれば人間は幾つになっても変われるものだと教えられた。
幼な友達の千尋の応援と言葉が毒舌でありながら愛があって良かったし、
理論を前面に丁寧に教える水泳コーチの岸和田元気が好い。
家族の為、誰かの為から自分ファーストの考えに改め、健康、生き方を見つめ直していく麻里を応援しながら読んだ。
2022年6月講談社刊
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篠田節子著「失われた岬」

2021-12-01 | 篠田節子
北海道の人の入り込めない岬を舞台としたミステリー。「人が人であるというのは、どういうことなのか。」神無き時代の新たな道筋黙示録。以前から松浦美都子が夫婦ぐるみで付き合ってきた、憧れの存在である友人・栂原清花。だが近年、清花夫妻の暮らしぶりが以前とは異なる漂白感を感じさせるようになり、付き合いも拒否されるようになったのち連絡がつかなくなった。清花たちは北海道に転居後、一人娘・愛子に「岬に行く」というメッセージを残し失踪したようだ。彼女の変貌と失踪には肇子という女性が関わっているようだが、その女性の正体も分からない。やがて時は流れ約20年後の2019年、ノーベル文学賞を受賞した日本人作家・一ノ瀬和紀が、その授賞式の前日にストックホルムで失踪してしまった。彼は、「もう一つの世界に入る」という書置きを残していた。担当編集者である駒川書林の相沢礼治は、さまざまな手段で一ノ瀬の足取りを追うなかで、北海道のある岬に辿りつくが・・・。やがて明らかになる、この岬の謎。そこでは特別な薬草が栽培され、ある薬が精製されているようで・・・。岬に引き寄せられる人々の姿を通して人間の欲望の行き着く先を予見する。登場人物=語り手がどんどん変わっていき、物語は近未来に行たり戦時中にも遡る、この国の現実の様相、さりげなく日本周辺国からの軍事的脅威を匂わさせながら、ストーリー展開の中で薬が開発された背景までを解き明かす。「平和共存でも、共存共栄でもない。・・・大切なのは自然の中で分を守るということなのです。共存なんかではない。己を無くし、一本の草木となること、なのです。その静謐な境地こそが、人が人として魂の幸福を得る唯一も道なのです。」(P566)アイヌやニヴフの人々の哲学、戦後ヒロポンが広まった背景など難解ですが575頁の長編を堪能しました。
2021年10月角川書店刊

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篠田節子著「鏡の背面」

2020-08-05 | 篠田節子
長編サスペンス小説。薬物やアルコール依存症患者や性暴力、DV被害者の女性たちが暮らすシェルターで発生した住宅火災。「先生」こと小野尚子が入居者を救い焼死。盛大な「お別れの会」が催された後、警察から衝撃の事実が告げられる。「小野尚子」として死んだ遺体は、DNA検査の結果半田明美という別人のものだった。スタッフ中富優紀は、フリーライター山崎知佳とともに、すべての始まり、「1994年」に何が起こったのかを調べ始め、過去を調べるうちに、かつてその死んだ元女優半田明美を追っていた週刊誌の記者長島剛にたどり着く。一方、疑念渦巻く女の園で指導者を失ったシェルター「新アグネス寮」内では、じわじわと不協和音が・・・。真相を追ってフィリピンへ飛んだり、謎解きの要素もあり面白かった。「策士策に溺れて、自分で自分を洗脳しちまった」(P530)。「あちこちの国の工作員がやってることなんだ。所作から頭の中身まで、設定した人物になりきる。やりすぎると自分の人格までもってかれる」。(P531)「私は人は生き直すことができる、と信じたいです」。読み応えのある作品でした。
2018年7月集英社刊
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篠田節子著「恋愛未満」

2020-06-06 | 篠田節子
男女の微妙な繋がりを描いた5編の短編集。小さな町の市民吹奏楽団の年の離れた男女の恋愛話・・・「アリス ボーイミーツガール1」「説教師 ボーイミーツガール・2」
ロサンゼルスまであと250kなのに定刻になっても来ない列車を待つ駅の待合室で出会った日本人の男性と・・・「六時間四十六分」
専業主婦の美佳は、夫の大介がいまだにかつての友人たちと遊んでいることに不満を募らせていた。特にその中にいる吾妻智子の存在は、美佳の心をよけいに不安にさせていた・・・「マドンナのテーブル」。
円満離婚が成立し、実家に戻った亜希子。ある日、同居中の母親の様子がおかしいことに気づき、病院へ連れて行くと、医者から告げられたのは母の「認知症」だった・・・「夜の森の騎士」。
男女の友情や、歳の差のある男女の関係、母と娘など、いろいろな人間関係の葛藤が描かれて面白い。離婚して実家に帰り毒親の面倒を見る娘の前に現れた騎士との出会いに希望が・・・。繊細な感情を描くのが上手い。
2020年4月光文社刊

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篠田節子著「第4の神話」

2020-05-08 | 篠田節子
小山田真智子は40に手が届く女性ライターだ。女性ベストセラー作家・夏木柚香が急逝した、すべてに恵まれ芸大声楽科を卒業した美貌の人妻で、理解ある夫、素敵な恋人、可愛い子供。だが、「私の作品は、五年しかもたない」という言葉を遺した。彼女の美しい仮面の下に抱いていたのは華やかな姿ばかりが目に付くその裏側には想像を絶する孤独があったのだ。彼女の評伝を書くことになった女性ライターが急逝した美貌の女性流行作家夏木柚香の本当の姿を抉り出す。万智子が取材を重ねるうち、柚香のそれまでの神話が崩れ、新たな神話が出来上がってくる。華やかな女性作家の作り上げられたイメージの底にある本当の姿とはなんだったのかをミステリー風に女の心の闇底に潜む真実に迫る。それは二転三転しやがて四転・・・。出版業界の裏側や能・舞踊などの薀蓄は興味深かった。話の展開に一気に読めました。
1999年12月角川書店刊
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篠田節子著「肖像彫刻家」

2019-10-02 | 篠田節子

人が生きてきた時間を封じ込める―それが、肖像彫刻。美大卒業後彫刻家になるも食えず挙句の果てに嫁に愛想を尽かされて息子と出て行かれた。40代で夢を追い求めてイタリアに渡り、修行の末8年後帰国するがモノにならず。53歳のバツイチ高山正道が、芸術の道を諦め、姉の薫の伝手で八ヶ岳を望む農村に移り住み「ローマナート タカヤマ」の看板を掲げ銅像職人として再出発する。やがて彼の作った作品には、文字通り魂が宿ってしまう噂が。亡き両親、高名な学者、最愛の恋人・・・周囲の思惑そっちのけで、銅像たちが語り始めた意外なホンネ。作った作品に振り回される主人公の姿は可笑しさいっぱいで、思わず笑えます。日常の生活からいつの間にか人間の心の奥が出現してくる人間の愚かさと愛しさが胸に迫る人生賛歌の人生ドラマでした。

20193月新潮社刊

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篠田節子著「冬の光」

2017-01-17 | 篠田節子

四国のお遍路を終えた帰路、夜のフェリーの船上から冬の海に消えた父。事故か自殺か。企業戦士として家庭人として恵まれた人生、のはずだったが・・・。死の間際、父の胸に去来したのは、20年間、愛し続けた女性のことか、それとも?車に残された日記ともつかぬ父の残したメモをたよりに四国巡礼の足跡を巡った次女の碧が見た冬の光とは・・・。父の回想、元全共闘の闘士同士だった彼女との出会いと別れとフランスでの偶然の再会、東日本大震災のボランティア活動・・・。

ミステリー風に娘が父の足跡をたどる四国巡礼の旅、団塊の世代・父親の家族と人生ドラマなど上手い構成で一気に読むことが出来た。

「人生とは重荷なのかもしれない・・・自分を生かしてきたのは、背骨がきしむほどの荷物だった。それが推進力となって自分を生かしてきた。」(P258)

2015年11月文藝春秋刊

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篠田節子著「竜と流木」

2016-08-28 | 篠田節子
太平洋に浮かぶ美しい島ミクロ・タタに、泉の守り神である愛くるしい両生類「ウアブ」が棲んでいる。
主人公のジョージはその生物に魅入られ東京で語学学校の講師をしながら時折訪れては研究のする日々だったが、
ミクロ・タタで泉から淡水をくみ上げて水道水として島全体に供給する計画が持ち上がり「ウアブ」の絶滅を危惧して
隣りの島のメガロ・タタ島のあるリゾートホテルの池で飼育することなり移したところ、夥しい数の死体となってしまった。
同じ頃、父や同僚たちが真っ黒で俊敏なトカゲのようなものに襲われ、ショック状態に。
口中に細菌を持っているのだ。広がり続ける被害。しかしこれは始まりに過ぎなかった・・・。
絶滅危惧種の保護と危険外来種の問題、生態系破壊の問題など環境問題など考えさせられた。
南の島で老後を優雅に過ごそうとしている日本人にはガッカリの結末。登場人物にあまり感情移入できなかったがたくましく
生きるホテル勤務の日本人女医マユミが興味深いキャラだった。
島に伝わる言い伝えが全てを語っているような展開だった。
2016年5月講談社刊
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篠田節子著「インドクリスタル」

2015-12-17 | 篠田節子
主人公は人工水晶開発の為、マザークリスタルの買い付けを行う山峡ドルジェ社長・藤岡。
もう一人の主役は、インドの先住民の「生き神」信仰の稚児(処女神)だったロサ。
藤岡は、惑星探査機用の人工水晶の核となるマザークリスタルを求め、インドの寒村に赴く。
その宿泊先で使用人兼売春婦として働いていた謎めいた少女ロサとの出会い彼女をその境遇から救い出す。
インドで商業倫理や契約概念のない部族相手のビジネスに悪戦苦闘しながら直面するのは、貧富の格差、男尊女卑、中央と地方の隔たり、
資本と搾取の構造―まさに世界の縮図というべき過酷な現実だった。やがて採掘に関わる人々に次々と災いが起こり始める。
果たしてこれは現地民の言う通り、森の神の祟りなのか・・・。
生き神として役立たずになったロサの過酷な運命「自爆テロ」の道具なるくだりなど、その後藤岡に助け出されてからNGO職員となって驚くほどの能力を発揮するなど藤岡のビジネスの節々で重要な役割をになって運命が交差する展開が面白かった。
おまた余り知られていないインドの混沌の現実が面白かった。読み終わっても余韻が残るストーリーで堪能できた。
「犠牲を払わずに最悪の事態を避けることは不可能です。比較と確率の問題、賭けでした。」(P539)
2014年12月角川書店刊
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篠田節子著「長女たち」

2015-03-08 | 篠田節子
親の変容と介護に振り回される女たちの苦悩と、失われない希望を描く。親と娘の関係を扱った3つの連作中編集。
親が老いたときに頼りされるのはもはや嫁でも長男でもない。無責任な次女、他人事の兄弟、追いつめられた長女の行く末は?
痴呆が始まった母のせいで恋人とも別れ、仕事も辞めた長女の直美は・・・「家守娘」

医師でありながら父を孤独死させた悔恨から中々抜け出せない頼子は外国の僻地治療のために行くのだが・・・「ミッション」
ボランティアのために?と思ったのだが、医学の進歩と本当の幸せな「死」とは何なのか、ミステリー仕立てのような趣で、死生感・人生感考えさせられるところがいっぱいの一番気に入った物語でした。

糖尿病の母に腎臓を差し出すべきか悩む慧子。長女は「分身」であり、長男は「愛する存在」と考える母に娘の慧子が出した結論。
歪んだ母娘の関係であるけれど、なぜか身近に感じる怖さ。・・・ 「ファーストレディー」

2014年2月新潮社刊
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篠田節子著「ミストレス」

2014-12-21 | 篠田節子
表題作含む5つの中短編が収録。
睡魔と闘いながら聴いたクラシュックコンサートの最中、舞台上に現れた「いるはずのない女」 。粛な悲しみをたたえのだろうかて演奏する姿に男は魅了されてその面影を追い続ける・・・「ミストレス」
同性の女がもっとも嫌う女に、男はなぜ引きつけられる・・・「やまね」
新婚旅行で出かけたタイのプーケットで思いがけない再会。それは現実なのか? それとも幻なのか・・・「ライフガード」
TV局の取材で出かけたのだがいつのまにか従軍記者気取りで紛争地長居した男が十二年ぶりに帰国。
面やつれした妻は以前と変わらぬ態度で出迎えてくれた・・・「宮木」
アルコール依存症治療のために参加した農作業の会。そこで彼が出会った"中年天使"の正体は意外なことだった・・・「紅い蕎麦の実」
慣れた世界があるとき反転する、男が女性に翻弄される不思議、 男女の性と心理の不可思議を生々しく、
幻想的に描き出した、愛のさまざまな形を描いた短編集。
何度か行ったことがあるプーケットの風景が懐かしかった。

2013年8月光文社刊

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篠田節子著「ブラック・ボックス」

2014-05-15 | 篠田節子
テーマは「食の安全」。
会社の不祥事で故郷に逃げ帰ってきた元広告塔・加藤栄実(サラダ工場のパートタイマー)
どん詰まりの地元農業に反旗を翻した野菜生産者・三浦剛(野菜生産者)
玉の輿結婚にやぶれ離婚してUターンしてきて今は栄養士の仕事に情熱を傾ける市川聖子(学校給食の栄養士)
真夜中のサラダ工場で、最先端のハイテク農場で、閉塞感漂う給食現場で、元高校の同級生の彼らは食に安全のために一緒に戦うことに。
食い詰めて就職した地元のサラダ工場で、栄実は外国人従業員たちが次々に体調不良に見舞われるのを見る。
やがて彼女自身も体調不良の兆しが・・・。その頃、最先端技術を誇るはずの剛のハイテク農場でも、想定外のトラブルが頻発する。
複雑な生態系下で迷走するハイテクノロジー。
過酷な労働環境の所為なのか、それとも・・・栄美は不審を抱き原因を追究しだす・・・。サラダ工場の労働環境と食の安全とは何か。
ハイテク工場で工業製品のように生産される野菜、児童に多発するアレルギー。工場で、農場で、学校で、同時多発的に起きる諸種の問題・・・それが複雑に絡み合ったひとつの問題であることが次第に見えてくる。
栄美がひどいと感じた外国従業員の労働環境は、彼女らにとっては必要なのであり。
農家の剛にとってもハイテク農場で作物を管理することに違和感を覚えているが、通常の農業では食べてはいけない現実がある。
まさにブラックボックスである製造工程には不安であるが経営者でもあるが故に内部告発はできない。
外国人労働者、遺伝子組み換え作物、食物汚染、食品添加物など
問題を次から次に提起しながら、サスペンスのように読む者に問いかける小説です。
因果関係は不明だがアレルギー、発癌物質の原因がと考えると今まで何の気なしに食べていた食品の生産地や原材料・成分に
関心がいかざる得ないと考えさせられた小説でした。


2013年1月朝日新聞出版刊
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篠田節子著「廃院のミカエル」

2012-02-07 | 篠田節子
異国の地ギリシア・アルバニア国境の小さな村を舞台にくり広げるホラーサスペンス。
商社現地社員の美貴は、ギリシャで口にしたクリーム状の蜂蜜にビジネスチャンスを見出し、通訳の綾子や偶然知り合った壁画修復士の吉園とともに産地の村を目指した。だが途中、廃院となった修道院に迷い込んでしまう。
そこにはかつて多く居た修道士たちは死に絶えたという。 独居室の壁に描かれた大天使ミカエルの絵。
無人のはずの聖堂に響く祈りの声等・・・・。
なんとか逃げだし街に戻った後も綾子の異様なふるまい、相次ぐ村人の死、積み重なる家畜の死骸など次々と奇妙な事件が起きる。この村に蔓延する死は、聖なる祈りを破って現れた悪魔の仕業なのか?かつて廃院に何が起こったのか?
ギリシャ正教的悪魔や天使や廃院修道院やイコンは、なじみのない日本人には解りにくいので怖さも余り感じなかった。
途中動物病理学者が出てくるあたりから結末も予想でき、いかにも自信ありげな無心論者の主人公の女美貴や
病的な綾子にも感情移入できず不完全燃焼気味の読後感でした。
「私には神も仏もない。だから悪魔もない。信仰にも道徳にも縁がない。ということは悪魔もとりつきようがないはず。」(P284)


2010年11月集英社刊
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篠田節子著「はぐれ猿は熱帯雨林の夢を見るか」

2011-09-27 | 篠田節子
高性能の猿型ロボットにつきまとわれる女性の恐怖とドタバタをコミカルに描いた表題作他3編収録。
駿河湾で揚がった巨大ウナギを食べた人間が食中毒にかかった。原因は、レアメタルのパラジウム。どういうわけか、ウナギの体内にパラジウムが残留していたのだ。非鉄金属を扱う会社の社員・斎原は、そのウナギが日本の資源確保の切り札になると確信し、パラジウムウナギの生息地を追って・・・太平洋の海底にレアアース。レアメタルが体内に濃縮されたウナギの目が不気味・・・『深海のEEL』。
マンションを建設しようとしたら人骨が大量に出てきて困った地主、そして蘇生した縄文時代の寄生虫が・・・、生肉による食中毒事件を思い出した・・・『豚と人骨』。
63年がかりでトンネルを掘削する男の悲喜・・・『エデン』。
最新の科学技術に著者の想像力が加味されて生み出された現在進行形ともいえるSF3編の短編集。科学技術発展の先に人類の幸福は可能?いや警鐘か?テンポよく進む展開にいろいろ考えさせられた。
私的には人生・幸福について考えさせられた「エデン」がよかった。
「故郷は家族だ。すなわち家族のいるところはどこでも故郷だ。」(P299)

2011年7月 文藝春秋刊
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